小話⑥:「友達何人できるかな~神殿編~」
割り込み投稿です。
今回の小話はレイ視点だけ拍手に載せていました。
レイのだけだと前回の陛下と差があり過ぎるので、とりあえず大神官様とくっつけてみましたが、読みにくかったら教えてください。
【 副神官長編 】
「初めまして、鳥のお嬢さん。俺はレイナルドだ。神殿で副神官長を務めている。
お嬢さんの話はアレンから聞いてるよ。……コレが迷惑掛けたみたいで、すまないな」
―――アレンさんの幼馴染は、びっくりするほどマトモな人でした。…飼ってるペット以外は。
◇◇◇
はぁ、朝から疲れた。
あのバカが。
“この世の終わり”みたいな顔をしているから何かと思えば……ただの悪夢ってどういうことだ。
―――ああ、レイ…。私はとても恐ろしい夢を見てしまったのです。
―――………………。
朝から人に陰気臭い顔を晒しといてソレか。
お前はガキか、いい歳こいて。
―――女神様が、女神様が…あんな悪魔と結婚してしまうとは!!
―――……さっさと仕事しろ。
まあ、女神サマが結婚したのは事実だ。…あれから、三年も経っているが。
現実逃避もいい加減にして欲しい。
「…………はぁ」
相変わらずな幼馴染を思い出して溜め息を吐くと、放し飼いにしているペットが近付いて来た。
周りの人間は噛まないように躾けているし、コイツがいると警備にもなる。たまに、不審者を見つけて来ることもある優秀な奴だ。
「ん?……タマ、何銜えてんだ?」
また、飼い猫が妙な物を拾ってきたらしい。
この間は誰かの頭蓋骨を銜えていた。…アレ、どこにあったんだろうな。とりあえず供養しておいたが……。
「……バウ」
タマが口を開いたため、銜えていたモノが落ちた。
生き物のようだが、血が付いていないので牙を立ててはいないのだろう。
よしよし、躾けの成果だな。
それにしても、このタマの唾液塗れな生き物は何なのか。
黄色い……鳥?
「……ま、まさか、ライオンに襲われるとは……。異世界恐るべし…」
鳥がしゃべった。
「あ、こんにちは。……えーと、神殿の方ですか?」
鳥がしゃべった。
「………………。もしかして、アレンが言っていた奴か?」
少し前、アレンが“神の御使いです”とか何とか言っていたような気がする。聞き流していたのであまりよく覚えていないが。
確か、異世界から来て宰相殿の邸に滞在してるんだったか?
「……?アレンさんのお知り合いですか?」
「ああ、不本意ながら」
しまった、本音が漏れた。
「……ええっと…?」
少々戸惑ったように見上げてくる鳥は、べとべとするのか動きにくそうにしている。
とりあえず自己紹介が終わったら、洗ってやるか。タマの所為だしな。
ペットの粗相は飼い主の責任だろう。…後で躾け直しだ。
横目でタマを見ると、びくっと反応する。でかい図体をして情けない。
「……ガ、ガウ…」
項垂れる姿に愛嬌はあるが、動物の躾けは上下関係をきっちり教え込むことだ。猫でも犬でも容赦はしない。
しかし、今は先にすることがある。
「さて、俺のペットが失礼した。
………初めまして、鳥のお嬢さん」
―――噂通りなら、さっさと宰相殿に返さないと文句を言われそうだな。
◆◆◆
【 大神官編 】
「私はマーリンと申します。
あなたのお名前を伺ってもよろしいですか、カナリアのお嬢さん?」
―――神殿の庭で素敵なお爺さんに会いました。…え、誰ですか?
◇◇◇
飛べるようになってから、よく神殿に遊びに来るようになった。大抵の場合は、アレンさんやレイナルドさんと話をしたり、神殿で生活する子供達と遊んだり、この世界の歌を教わったりしている。
ただ、今日はちょっと別だった。
「おや、スズメ殿」
神殿内をぶらぶら――ふらふら?――飛んでいるとロイスさんに会った。暇そうにしていた所為か声を掛けられたので、そのまま彼と世間話をする。
ロイスさんは神殿の人の中でもおしゃべり好きな方で、話をすることも多い。…彼が私に話し掛けてくるのは動物好きだから、という訳ではないだろう。……ない、はずだ。
「もう庭には行かれましたか?」
「はい、よく子供達と遊ぶので……」
玩具にされているとも言う。
「いえ、そこではなく……南側の庭です」
「南側?」
「ええ。行ったことがないなら、行ってみると良いと思いますよ」
南側か……。どんなところだろ?
興味をそそられたので行ってみることにした。
ロイスさんに教えてくれたお礼を言って飛び去ると、後ろからぼそりと呟く声が聞こえる。
「あそこって小鳥が多いから、スズメ殿もきっと気に入るよねぇ」
……どういう意味ですか、ロイスさん。
え、もしかしなくても鳥扱いされてる?
◇◇◇
目的地に来た。そう、目的地には来たのだが……。
「ま、迷った……っ」
ロイスさんに過ごしやすそうな庭――意訳――だと聞いて、意気揚々と来たものの迷ってしまった。…広過ぎるのが悪いと思う。
どうしよう……。
まあ、最悪迷ったままでも、ロイスさんは私がここに向かったことを知っているので大事にはならないだろう。私が邸に帰らなければ、誰かしらが探しに来てくれるはずだ。
しかし、ギルバートさんに神殿で迷ったことがバレたらしばらく外出禁止になるかもしれない。正直、それは避けたい。
「う~、あ~……どうしよう…」
動き回ってさらに迷うと困るので、ぐるぐると同じところを飛び回る。…あ、なんか目が回ってきた。
「おや?」
闇雲に飛んでもダメだよね…。はあ、どうしよ~。
打開策が見つからない。
「どうしよ~、どうしよ~。……うーん、ここは潔く怒られるべき?でもな~」
「カナリアのお嬢さん」
悩みに悩んでいるといきなり声を掛けられた。…え、いつの間に人が!?
「え、ええっと、私のことですか?」
私に声を掛けてきた男性は六十歳くらいのお爺さんだ。顔に刻まれた皺が年齢を感じさせるものの、昔はさぞかしモテただろうなと思える顔立ちをしている。…この世界には美形しかいないのか。
「ええ。お嫌でしたか?」
呼び方が、ということだろう。
「いえ、そんなことないです。でも……あの、なんでカナリアだって分かったんですか?」
見ただけで分かるものなんだろうか。もしかして、この人は鳥好きなのか。
「ああ、それはアレンから聞いていたからですよ。可愛らしいカナリアのお嬢さんがいらっしゃると」
「アレンさんのお知り合いですか?」
「ええ、あの子のことは昔からよく知っています」
何だか高そうな神官服を着ていることといい、アレンさんを“あの子”と呼んでいることといい、このお爺さんは結構位の高い人なのかもしれない。
まあ、そんなことは置いておいて。
やった、怒られないですむ……っ!
この人に道を教えてもらおう。
「あの、いきなりで申し訳ないんですけど…神殿への帰り方を教えてもらえませんか?……実は迷っちゃって」
不躾ながらも道を尋ねると、お爺さんは少し驚いたような顔をした。
そしてその後、なぜかくすりと笑う。
「?……えっと…あの?」
「いえ、純粋に“道”を尋ねられたのは久しぶりだと思いまして」
「???」
「いえいえ、何でもありませんよ。
あなたさえ宜しければ、道案内だけでなくこの庭をご案内したいのですが、いかがですか?」
「え、良いんですか?」
「もちろん。お嬢さんのような可愛らしい方とお話しできる機会はそうありませんからね」
「……あ、ありがとうございます…」
うっかりお爺さんにときめいてしまった。…若い頃だけじゃなくて今もモテるんじゃないだろうか。
「えっと、…………あ」
名前を呼ぼうとして、聞いていなかったことに気付く。
つい小さく声を上げてしまった。
「おや、すみません。私としたことが、自己紹介がまだでしたね。
私はマーリンと申します。あなたのお名前を伺ってもよろしいですか、カナリアのお嬢さん?」
その後、マーリンさんに庭を案内してもらってから神殿へ戻った。
―――彼が神殿のトップである大神官だと知るのは、道案内のお礼を言いに行った日のこと。
◆◆◆
~後日譚~
仕事で神殿に書類を届けに来ると二人…いや、一人と一匹を見かけた。
久しぶりだったので、思わず声を掛ける。
「レイナルドさん、タマちゃん!」
「ん?……ああ、スズメ殿か、久しぶりだな」
神殿の庭を歩いていた――散歩中かもしれない――レイナルドさんは、振り向いてそう返した。
私が忙しなくパタパタと飛んでいると、すっと手を差し出す。…乗っても良いってことですか?
「お久しぶりです!」
ずっと飛んでいると疲れるので、ちょっと失礼して彼の手の上に乗った。
“ありがとうございます”と頭を下げると、“気にするな”と言いつつ、鳥のお辞儀が面白かったのか軽く笑う。…もしかしたら、手に乗ったときの“お邪魔します”に対して笑ったのかもしれないが。
「タマちゃんのお散歩ですか?」
そう言って、タマちゃんの方に目を向けると吠えられた。といっても、威嚇するようなものではない。おそらく本人――本獣?からすると挨拶のようなものだろう。
「ガウ!」
タマちゃんはライオンで“これぞ百獣の王!”といった見た目をしているのに、ビックリするくらいレイナルドさんに懐いている。…レイナルドさんに“大きい猫”扱いされても仕方ないくらい。というか、彼といると私にも“大きい猫”に見えるから不思議だ。
「ああ、警備も兼ねてな。スズメ殿は仕事か?」
「はい。クレメンテさんに書類を届けに来た帰りです」
クレメンテさんは神殿の神官長の一人で……スゴイ人だ。…初めて会ったときは幽霊かと思った。それなりに親しくなった今でも、夜中には会いたくない。
「そうか。……この後用事はあるか?」
えっと……王宮は終わったし、街の方も終わり、神殿はこれで最後……かな?
「いえ、今日はこれで終わりです。何かご用事ですか?」
「大神官様が“たまにはお茶でも”と言っていたのを思い出してな。
良ければ行ってやってくれ。今の時間帯なら庭にいらっしゃるだろう」
大神官のマーリンさんはよくお茶に誘ってくれる。偉い人なのに私のような一介の鳥とお茶をしてても良いのかと思うが、私と話すことを“楽しい”と言ってくれているので、あまり気にしないことにしている。私自身も、あのちょっとおちゃめなお爺ちゃんと話すのは楽しい。
……初めて会ったときは大神官様だって知らなかったけど…。
立場を知ったときは、さすがに“様”付けで呼ぶべきだろうと思ったが、彼から“さん”付けが良いと言われたのでそのままにしている。“何でしたら、気軽にマーくんとお呼びください”とも言われたが、それは断った。…私にはちょっとハードルが高い。そう呼べるのは陛下くらいだろう。
「はい、そうしますね。……レイナルドさんも行きますか?」
「いや、俺はいい。コイツの散歩がまだ途中だからな」
チラリとタマちゃんの方を見る。
彼はお利口さんなのでちゃんとお座りしていた。話が終わるのを待っているのかもしれない。
「そうですか、分かりました。……じゃあ、私はもう行きますね」
もう少し話をしたい気もするが、ずっと立ち止まらせてしまっては申し訳ない。
ただの散歩ではなく“警備も兼ねて”と言っていたし、早めに話を切り上げた方が良いだろう。
「ああ。……木にぶつかったりしないよう、気をつけろよ」
うっ……。
どうやら、さっき木にぶつかりそうになっていたのを見られていたようだ。…鳥目なんですよ、仕方ないんですー。
「ははっ」
不満そうな様子に気付いたのか笑われる。バカにされている風ではないが、危なっかしい子供を見るような感じなので非常にビミョーだ。…私、もう26歳です。
「じゃあ、またな」
「バウ」
「はい!また今度!!」
一人と一匹の送り出す言葉にそう返して、私は手の上から飛び立った。
◇◇◇
「マーリンさん!!」
「おや、スズメ殿。お久しぶりですね」
庭に着くと、レイナルドさんが言っていた通りマーリンさんがいた。私が名前を呼ぶと柔らかく微笑み掛けてくれる。
「そうですね。……えーと…」
続けようとして言葉に詰まった。
彼とお茶をしにきたものの、何と言えば良いんだろうか。
“レイナルドさんから聞きました”とか。…これじゃあ何のことか分からない。
“私とお茶したかったんですよね”とか。…何様だ。
“お茶しませんか?”とか。…え、ナンパ?
「ちょうどお茶を飲もうと思っていたところなのですが、付き合って頂けませんか?」
私が言葉を探していると、何を悩んでいるか見当がついたのかマーリンさんはクスッと笑って、先に言ってくれた。
何で分かったんだろう。…私はそんなに分かりやすいのか。
「ふふ、レイナルドから聞いたのでしょう?
少しの間でも、年寄りの話に付き合って頂けると嬉しいですね」
「はい、喜んで!」
こうして、おちゃめな大神官様と共に私の午後は楽しく過ぎていく。




