プロローグ
「チャックのあるヒロインはいかがですか?」のスピンオフです。
―――…落ちる。……落ちる。………っ!?落ちてるっ……!?
◇◇◇
その日、私は叔父が経営する遊園地に来ていた。
叔父には“最近流行っていないので、モニターをしてくれ”と言われたが、最近どころか私の知る限りで、この遊園地が流行っていたことなどない。
来るのは、すぐに帰る冷やかしか、他に遊ぶ場所がない幼い子供くらいのものである。
…もう、すべてがダメでしょ……この遊園地。
叔父には悪いが、それがモニターをした私の、偽らざる本音だ。
そもそも、この遊園地の改善しないで良いところを探す方が難しい。
趣味が悪いとしか言いようのないショッキングピンクのアヤシイ観覧車。
何故か馬ではなくロバを使用している上、馬車がトマトなメリーゴーランド。
上がりも下がりもしないというか、むしろ、地面と平行に走っている気がするジェットコースター。
声を大にして言いたい。
誰が来るんだ、こんなところ。
強いて、改善点を挙げるなら……経営者かな?
この遊園地は、経営者である叔父の趣味が多大に反映されている。
彼を辞めさせる以外、流行らせる方法はないだろう。
ようやく、期間限定だというお化け屋敷――もはや、ただの迷路だ――から出られた。
気はいいが、センスが壊滅的に悪い叔父を心の中で呪いつつ、私はジェットコースターに足を向ける。
やっと、最後か…。
せっかくの休みなのだから早く帰りたい。
家に帰ったら、掃除をして、買い物に行って……。
そんなことを考えながら、ジェットコースターに乗り込んだ私が感じたのは。
………絶対に感じないはずの浮遊感だった。
―――そして、話は冒頭に戻る。
◇◇◇
落ちてるっ!?
なぜか私の視界には、さっきまであったはずのジェットコースターも遊園地もない。
あるのはメルヘンを通り越して気持ち悪いピンクの綿菓子雲と何かキラキラした建物だけだ。
……ヤバイ。ものすごく、ヤバイ。
このままでは地面に衝突し、二十六歳という若い身空であの世と“こんにちは”してしまう。
私は来るであろう衝撃に備え、目を閉じた。
◇◇◇
『ガサッ』
仕事の息抜きに庭園を歩いていると、近くの植え込みに何かが落ちる音がした。
何かと思い近寄ってみると、そこには傷付いた鳥がいる。
「これは…珍しい。カナリアですね」
私が拾い上げると、気を失っているようだが、微かに息をしていた。
カナリアイエローとも呼ばれる鮮やかな黄色の体色からすると、野生種ではなく飼育種のようだ。
どこからか逃げ出して来たんでしょうか?
しかし、誰かに飼われていたとすれば、風切り羽があるのはおかしい。
「……ともかく、手当てをしなくては」
どこから来たのであろうと、傷付いた鳥を放っておくわけにもいかない。
この状態では、私の使える治癒魔法では心もとないですね。
早く、アレン殿にでも…いえ、専門家に診せた方が良いでしょう。
一人、治癒魔法が異様に得意な者に心当たりがあったが、さすがにアレはないだろうと頭を振った。
短めにまとめるつもりです。
今回の主な担当は、雨柚です。
団長が出てくるときは吉遊も書きます。