なっちゃんと朝ごはん
気づけば彼と出会っていて、気づけば彼と一緒に学校を卒業して、気づけば彼と一緒に住み込みのアルバイトを始めていた。気づくのが遅いけど、それはとてもいいことだと思う。
だってそれだけ当たり前に、彼が俺の生活の中に溶け込んでいるのだから。
ああ、ひとつ誤解しないで欲しいのは、別に俺は彼に友愛以外は持っていない。ほら、あれだ。巷で噂になっている男と男があーでこーで、なんてものはない。今のところ。
まあ、今のところどころか永遠にそんなもんはこないだろうけどさ。
なぜかと言うと、それは、俺が彼の名前を呼ぶと、ものすっごくいやな顔を一日に一回はされるからさ。
とても理不尽だけど。
「おっはよう、なっちゃん!」
「……………オハヨウゴザイマス」
彼が、なっちゃん。僕の大切な友人。一緒にアルバイトしてる仲間。
さっきまでの彼っていうのも、もちろん、なっちゃんのこと。
なっちゃんは何でもできる。料理に裁縫に勉強、運動。唯一できないのは愛想笑いくらいなものだ。
今日はなっちゃんと、一緒に朝ごはんを食べる約束だった。
住み込みのアルバイトは、それはそれは予想外に重労働で、仕事をしては寝てー、また起きて仕事をしてーと、そんな感じで続けていたせいで、ここ何日かはお互いの顔を見る暇さえなかった。
だから、もうちょっと、俺にむけるその「面倒なのがきやがった」っていう顔を和らげてはくれまいか。
そんな思いでなっちゃんを見つめると、更に顔が険しくなった。
ちょっと寂しい。
一緒の朝ごはん。ようやく取り付けた約束。楽しみにしていたのは、俺だけだったのかな。
「お前、面倒くさい」
「え、突然何!ひどいよ!ていうか、なっちゃん顔怖い!」
「面倒だし、そのうえ朝ごはん一緒に食べようとかわざわざ仕事終わりの疲れた俺の部屋まで言いにきたくせに当の本人は1時間遅刻してくるとかお前何なの本当」
「えへ☆」
楽しみだったから寝るのが遅くなったんだよ!仕方がないじゃん!
ほら、あれだよ!修学旅行前の眠れなくて興奮するあの感覚!あれとまさに合致!
そんなわけで俺は寝坊した。おおそうか。だから、なっちゃん怖い顔なのね!
「その含み笑い気持ち悪い」
「なっちゃんひどい!」
「もういいから、味噌汁温めなおして。ご飯よそって。フライパンの中の卵盛り付けろ。冷蔵庫から梅干出して。ぼさっとすんな、動け」
「はーい!」
今日は、なっちゃんと朝ごはんです。
なっちゃんとの朝ごはんは楽しみで、俺はいっつも寝坊してしまいます。
それでも。なっちゃんは、俺の起きる時間を見計らって、ご飯を作って待ってくれています。
なっちゃんが大嫌いで、俺が大好きな、スクランブルエッグを作って。