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男「あぁ……死にたい」女「あぁ……殺したい」男「え?」女「え?」

作者: イツロウ

 このページを開いて頂き、誠にありがとうございます。

 これは、私が見よう見まねで書いてみた、セリフ(と擬音)のみの、簡素な形式の物語です。

 ハッピーエンドで後腐れないすっきりした話だと思います。

 皆様の暇つぶしのお手伝いが出来れば幸いです。

男「あぁ……自殺したい」


同僚「何言ってるんだよ、滅多なこと言うんじゃないぞ」


男「だってさぁ……今日もたくさん上司に叱られたし……。仕事も上手くいかないし。」


同僚「そんなのよくあることだろ? 俺だってよく注意されてるよ……あ、店員さん、生1つ追加で。」


店員さん<カシコマリマシター


男「お前はいいよな、脳天気で。」


同僚「脳天気とは何だ。……お前は深く考え過ぎなんだよ。明日も仕事なんだから嫌なことは忘れようぜ。ほら、飲んで飲んで。」


男「おう……」ゴクゴク プハー

男「俺にばっかり飲ませるなよ。」


同僚「すまんすまん。でも家で嫁が待ってるし、今日は酒あんまり飲めないんだ。」


男「今日“も”だろ……。」

男「結婚して何年だっけ?」


同僚「えーと……もう6年は経つな。」


男「子供は2人だったっけか。」


同僚「そうそう。よく覚えてたな、写真見るか?」チラ


男「お前いつもその写真持ち歩いてるのか……」


同僚「もう可愛くて仕方ないんだ。お前には分からないだろうなぁ……。」


男「……」イライラ

男「……帰る。」


同僚「悪い、怒らせるつもりは……」


男「嫁さんが待ってるんだろ? 今日はもうお開きにしよう。」


同僚「ほんとにすまん。……お前にもいつか、いい人があらわれるって。」


男「だといいんだけどな……。今日は俺が持つよ。」

男(結局、飲んでたの俺だけだったからなぁ……。)ヒグチ一枚


店員さん<5000エン オアズカリシマス……


同僚「すまん、じゃあまた明日な。」


男「おう。」


店員さん<アリガトウゴザイマシター


◆帰りの電車


男(あぁ、独身がこんなに辛いとは思わなかった。)

男(こんな事になるなら、婚活パーティー(笑)なんて馬鹿にしないで真面目にやっておくんだった。)

男(今や同期の中で独身は俺一人だけ……肩身が狭い……。)

男(ま、そのおかげで趣味のフィギュアにたっぷり金をつぎ込めるんだけどな。)

男「……はぁ。」

男(……でも恋愛してぇ……。)


アナウンス<ツギ、終点デェス。


男(ま、フィギュアだらけの社宅に女なんて呼べるわけ無いし、40近くでこれじゃ恋愛なんてできるわけないか……)

男(会社で何か出会いイベントの1つや2つくらい準備してくれないかなぁ。)

男(こんな人生もうやだぁ……。)


アナウンス<マモナク終点デェス……オニモツ、オワスレモノノナイヨウ……


男(……明日も忙しいのに軽く欝ってたら駄目だな。)

男(早く帰ってKOS-MOS Ver.4(PVC塗装済み完成品)のパンツでも眺めて英気を養うか……。)


男「うぅ……」ガクリ


男(……この年で心の安らぎを得る場所が美少女フィギュアのデルタゾーンだとは……)

男(情けなさ過ぎる……。)


男「あぁ……死にたい」


??「あぁ……殺したい」


男「え?」ビクッ


女「え?」ビクッ


男(うっわ驚いた。聞き間違いじゃないよな……)

男(車両に女の子はこの娘だけだし……さっき物騒な事を言ったのはこの娘か?)ジロジロ


女「……。」


男(この制服は高校生か? でも高校生がどうしてこんな夜遅くに……塾かな)シゲシゲ


女「……何ですか?」


男「いや、さっき殺したいとか何とか言わなかったか?」


女「!?」ドキリ

女「……何も喋ってないです。」シドロモドロ


男(なんだこのわかりやすい反応は……。)


アナウンス<終点、終点デェス、ゴリヨウイタダキマコトニアリガトウ……


女「それでは私はこれで。」スタスタ


男「おい待てよ。」

男(ちょ、歩くのはえぇ……)アセアセ

男「確かにこの耳で聞いたぞ、殺したいって。」


女「言ってません。空耳じゃないですか?」スタスタ


男「確かに聞いた。」


女「しつこいですね。だったらなんですか?」


男「やっぱり言ったんだな。」


女「……あなただって死にたいとか何とか言ってたじゃないですか。いきなり近くで言われて驚きました。」


男「それは別にいいだろ。でも殺したいって……普通じゃないぞ?」


女「私は普通じゃないんです。……もうついて来ないで下さい。」スッ


自動改札機<ピンヨーン ゴリヨウ アリガトウゴザイマシタ


男「なんだよそれ……」スッ


自動改札機<ビーッ 係員ニオシラセクダサイ


男「なんだよこれ……ちょっとそこで待ってろ!!」スッ


自動改札機<ビーッ 係員ニオシラセクダサイ


男「あれ? もう一回……」スッ

男(おい頑張れよ、俺の痛suica(蒼星石)!!)


自動改札機<ビーッ 係員ニオシラセクダサイ


女「……」ジトー


男「クソ……。」


女「……」スタスタ


男(行ってしまった……)


駅員さん「どうかされましたか?」


男「あの、suicaが……多分チャージ不足かと思うのですが……」


駅員さん「すみません、こちらにお渡しいただけますか、うわキモ……」


男「……」


駅員さん「……失礼しました。こちらでお支払いお願いします。」


男「はい……。」

男(何だったんだあの娘は……)サイフサイフ

男(人を殺したいだなんて、色々辛い事情があるんだろうな。)コゼニコゼニ

男(それに比べれば俺はましな方か。)ピッタリシハライ


駅員さん「はい、結構です。ご利用ありがとうございました。」


男「ご迷惑おかけしました。すみません。」

男(ま、早く帰ってKOS-MOSペロるか。)


駅員さん(キメェ……。)


◆翌日 オフィス


男「リストラ!?」


部長「2週間くらい前に人事から通達があったのを忘れててな。悪い悪い。」


男「わ、悪いじゃすみませんよ!!」ドン

男「なんで自分がリストラされなくちゃならないんですか!?」


部長「不景気で業績も落ちてるし、使えない社員はどんどん切るそうだ。」

部長「どこの会社でもやってる、別に珍しいことじゃないだろう、ん?」


男「そんな……」


部長「それに君は独身だろう? 身も軽いし貯金もある、次の職もすぐ見つかるさ。」


男(俺が独身だからなのか……?)

男(俺が仕事ができない男だからか……?)

男(なんだよ……クソッ!!)ブチッ


男「ふ……」


部長「ふ……?」


男「ふざけるなああァァァ!!」ガシャーン


部長「うわ!? 花瓶が!!」オチツキタマエ


社員♀「きゃあ!!」ヒステリック


同僚「おい男、落ち着け!! そのヤバそうな灰皿元の場所に戻せ!!」


男「ウオアアァァァ!!」ブンッブンッ


部長「男君、落ち着きなさい!!」シャガミガード


同僚「みんな、男を取り押さえてくれ!!」


社員♂「おー」ガシッ


男「離せよ!! 離せよおおおォォォ!!」ジタバタ


同僚「(おい男、このままだと懲戒解雇処分になっちまうぞ、頭冷やせ……)」ヒソヒソ


男「……」ガクリ


部長「やっと落ち着いたか……。」

部長「リストラされてショックなのは十分わかっているつもりだ。」

部長「……今回のことは不問にするから、残りの2週間、いつも通り頑張って働いてくれ。」


男「……はい。」ションボリ


同僚「男……」


◆昼休み 人気のない休憩室


リストラ……

男(この年で無職になったらどうしようもないじゃないか……)

男(特に技能もないし)

男(学歴も……あんまり良くないし……。)

男(これはいよいよ本気で自殺するしか……)


同僚「よ、朝はすごかったな。」

同僚「あのまま止めなかったら、今頃警察署でカツ丼食わされてたかもしれないぞ?」


男「このランチパックよりカツ丼の方が美味そうだ。」ハハハ


同僚「確かにそうだな。」ハハハ


男(マジで冗談にならないな……。)

男(同僚が止めてくれなかったら俺は……)


男「……止めてくれてありがとな。」


同僚「温厚なお前があんなにキレるなんて、驚いたよ。」


男「もう歳だし、切れやすくなってるんだろうな……はぁ。」

男「ところでそれ、手作り弁当か? おにぎり小さすぎやしないか。」


同僚「ふふ」ニヤニヤ


男「なんだ気持ち悪い。」


同僚「今日は娘が手伝ってくれたんだ。このおにぎりは全部娘が握ったのさ。」


男「へぇ……」


男(おかずも多いし美味そうだ……。)

男(同僚はこんなのを毎日食べてるのか。)


同僚「一個食べてみるか?」サシダシ


男「いただくよ。」ヒョイ

男(幸せのお裾分けか……)パク

しょっぱい……モグモグ

男「……」ウルウル


男「うぅ……」ポロポロ


同僚「!!」

同僚「すまん、もしかして不味かったか?」


男「ちげーよ。」


同僚「じゃあ何で泣いて……」


男「泣いてねーよ!!」ダッシュ


同僚「おい、まだお前の昼飯残ってるぞ!!」


男「全部お前にやる!!」


同僚「困ったなぁ……。」


男「……」ストップ

男「……やっぱりランチパックだけ返してくれ。」


同僚「……。」


◆帰りの電車


男(明日会社休もうかな。)

男(有給もたまってるし、残りの2週間で全部消化しちまうか……なんてな。)

男(どうせ辞めるんだし、サビ残の分もダメ元で請求してみようか……なんてな。)


??「こ……したい」ボソリ


男「?」


男(あ、昨日の娘だ。)


女「殺したい……」ボソリ


男(また言ってるな。)


乗客イ「何あの子……危ないんじゃない?」ヒソヒソ

乗客ロ「ほら、きっと頭が……やぁねぇ。同伴者はいないのかしら」ヒソヒソ


男(流石に周りに怪しまれてるし……注意しとくか。)スック


男「おい、昨日の。また口から物騒な言葉が漏れてるぞ。」


女「!!」ビクリ

女「……またあなたですか……。」


男「またとは何だ。せっかく目立つのを覚悟で注意してやったんだ。感謝しろ。」


女「余計なお世話です。……もしかしてストーカーじゃないでしょうね。」


男「俺が女子高生のケツ追っかけるような変態ストーカーに見えるか?」


女「そ、そこまでは言ってません……。」ドンビキ


男「……。」


女「でも、見たところ独身で、しかもオタクですよね。間違われても仕方ないですよ。」


男「独身はともかく……俺はオタクなんかじゃ……」オロオロ


女「何言ってるんですか。気持ち悪いsuicaを使ってたじゃないですか。しかもそんな生気のない顔して……。明らかにオタクじゃないですか。」


男「……。」


女「まぁ、私の妄言を止めてくれたのには感謝します。」


アナウンス<マモナク終点デェス……オニモツ、オワスレモノノナイヨウ……


男「ちょっと待て、メンヘラ装ってるんじゃなかったのか?」


女「メンヘラ?」


男「いや、注目されたいからわざとあんなことを言ってるんだと思ったんだが、違うの

か?」


女「……。」


男「“殺したい”なんて妄言……重症じゃないか……。」


女「……あなたには関係ないです。」


アナウンス<終点、終点デェス、ゴリヨウイタダキマコトニアリガトウ……


女「とにかく、注意してくれてありがとうございました。」スタスタ


男「あ、また……!!」


男(今日は逃さねぇ、問い詰めてやる。)ダッシュ


女「ちょっと、もう関わらないで下さい!!」スッ


自動改札機<ピンヨーン ゴリヨウ アリガトウゴザイマシタ


男「そうは行くか!! 詳しい話を聞かせろ!!」


男(あれ、もしかして今の俺ってストーカーじゃねぇの?)スッ


自動改札機<ピンヨーン ゴリヨウ アリガトウゴザイマシタ


グワシ


男(やばい、鞄が改札機に挟まって……!!)


ビタン


男「……いたた。」

男「なんで今日に限って鞄が……。」


駅員さん「だ、大丈夫ですか?」


男「大丈夫です。すみません……。」

男(また、見失ったか。)キョロキョロ

男(こんな所で尻餅つくとは……ケツいてぇ……。)サスリサスリ

男(ちょっとベンチに座って休むか……。)トボトボ


ヨッコラショット


男(女子高生追い掛けた挙げ句情けなく尻餅でこける。)

男(おまけにケツをさすりながら一人ベンチで痛みに耐える……)


男「……ああもう死にたい。」


女「情けないですね。」


男(なんだ……? ってさっきの女子高生か……)

男「……逃げたんじゃなかったのか。」


女「ええ、そのつもりでしたけど、あなたを見てると哀れな気持ちになって……おしり痛いんですか?」


男「おかげさまでな。」


女「隣座っていいですか?」ストン


男「……もう座ってるじゃねえか。」

男(急にどうしたんだコイツ……)


女「また言ってましたよね、『死にたい』って。」


男「……。」


女「辛いことでもあったんですか?」


男(こんなメンヘラに話す義理はないが……)

男(誰かに話すと気が紛れるって聞いたことがあるし……)

男(ちょっとくらいなら話してもいいか……)


男「……リストラ。会社を首になったんだ。」


女「……へぇ、案外普通ですね。何の捻りもない悩みでつまらないです。」


男「つまらなくて悪いな、まぁ聞けよ。」

男「お前の言ったとおり、俺は独身でオタクだ。恋愛経験なんて無いし、これからできる気もしねぇ。仕事も上手くいってないし、少し血圧も高めだ。」


女「……。」


男「毎日がつらい。辛すぎるんだ……。もう俺の人生詰んでるんだよ。」


男(こんな女子高生には、俺のつらさは分からないだろうな。)


女「……贅沢な悩みですね。」フン


男「なっ……!?」


女「そんなくだらない理由で死にたいんですか?」


男「くだらないとは何だ!! 俺は本気で……」


女「……だったら私が殺してあげます。」スチャリ


男(コンバットナイフ!? やっぱりメンヘラの構ってちゃんか!?)


男「待て待て待て!!」


女「待ちません。」ジリジリ


男「危ないから早くしまえって!!」


女「しまいません。」ジリジリ


男(ヤベェ、目が本気だ……。)


男「よ、よく考えろ。」

男「こんな場所で俺を殺したらすぐに警察に掴まっちまうぞ?」

男「どうせ殺すんだったらもっと人気のない場所のほうがいいんじゃないか?」


女「……それもそうですね。」スチャリ


男(ふぅ……危なかった……。)

男(死ぬかと思った……今時の若者怖すぎだろ……。)


女「では、人気のない場所に行きましょう。」


男「誰がついて行くかよ!!」ガバッ


女「きゃっ!?」ビクリ


男(両手を押さえた!! 流石に男の力には敵わないみたいだな。)


女「むぐぐ……」


男「へっへー、いいザマだぜ。」

男「駅員さーん!! この女子高生ナイフ持ってまーす!!」


女「……いいんですか?」

女「……悲鳴上げますよ?」


男「……」ビクリ


男(夜中に女子高生を羽交い絞め……)

男(これじゃどう見ても俺が犯罪者じゃないか……。)


駅員さん「どうかしましたか……ってさっきのおっさん……痴漢か!?」


女「(早く手を離して下さい)」ヒソヒソ


男「……。」


女「なんでもありません。私の櫛をナイフと間違えたみたいで……そうですよね?」


男「あ、あぁ。櫛だったのか、はは……。見間違いでしたごめんなさい。」

男(ほんとに櫛だ……)


駅員さん「全く……今後は気をつけてください。」プンスカ


男「はーい。」ペコリ

男「……にしても、ただの櫛だったとは……マジでビビったぞ。」


女「何言ってるんですか。本物は鞄の中です。」


男「え?」


女「この櫛はいざというときのために持ち歩いてるんです。」

女「役に立ってよかったです……危うく銃刀法違反でしょっぴかれる所でした。」


男「そうかそうか……。」


男(本気でこいつ危ないな……)

男(もう関わるのはよそう……)


女「さて、どこであなたを殺すか相談しましょうか。」


男「もう付き合ってられん。じゃあな。」


女「あ、ちょっと待って……」


男「誰が待つか。」スタコラサッサ


女「……。」


◆男宅


男「ふぅ、えらい目にあった。」


男(今日はもうフィギュアをペロる気力も湧かないな……。)

男(寝るか。)ヌギヌギ


男「……あれ? 俺のケータイ……。」ゴソゴソ

男「無い……。」


男(しかも、よりにもよって仕事用のケータイか。)

男(どっかに落としたかな……?)

男(取り敢えず誰か拾ってくれてるかもしれないし、固定電話から掛けてみるか。)


ピポパ

……プルルルルル……


??「気付くのが遅かったですね。」


男「あー、拾ってくれてありが……」


??「駅から東に徒歩で10分程ですか……大体の場所はわかりました。」


男「……お前、ナイフ女か?」


女「ナイフ女ってひどくありませんか、ネーミングセンス的に。」


男「いいから、携帯返してくれ。」


女「それが人にモノを頼む態度ですか?」


男「……」


女「呼び止めて渡そうと思ったのに、それを無視して帰ったのはあなたですよ。」


男(あの時か……。)

男(でも、普通内ポケットからケータイが落ちるか?)


男「なぁ、俺は携帯落とした記憶がないんだが……どこで拾ったんだ?」


女「それは、羽交い締めにされたときに内ポケットからこっそりと。」


男「抜き取ったのか。」


女「はい。」


男「なんでそんな事を……」


女「……後で証拠になると思って……。」


男「証拠だぁ?」


女「襲われた後、犯人の身元が確実にわかるかと思って、咄嗟に取ったんです。」


男「別に俺は襲うつもりなんて……」

男「というか抜き取られたの気付かなかったぞ。実はお前、こういうの慣れてるんじゃないか?」


女「……。」シーン


男「バカ、冗談だ。」


女「……。」シーン


男「おい、何黙って……」


女「……ありますよ。」



女「男の人に襲われたこと、ありますよ。」



男(あぁ……地雷踏んじゃった。)


男「悪かったな。さっきのは聞かなかったことに……。」


女「だからずっと探してるんです。」

女「私を襲った犯人。」

女「見つけたら即刺し殺すつもりです。」


男「そういうのは警察に任せるのが一番だぞ?」


女「5年待ちました。でも進展がないどころか、調査すらしてくれてないんです。」


男「もし見つけたとして、返り討ちにあったらどうするんだ。」

男(なんで俺がこんな奴の心配を……。)


女「警察は役に立ちません。だからもう自分でやるしかないんです。」

女「襲われた時の服装で、そして襲われた場所で待っていればいつかはきっと……」


男(……ん?)


男「5年ってお前、今何歳なんだ?」

男「少なくとも高校生じゃないよな……」


女「22です……。」


男「ブフォッ!!」


女「!?」


男(22なのに制服似合いすぎだろ……全く気付かなかった……。)

男(……。)


女「止めようとしたって無駄ですから。」


男(じゃあ最初から俺に話すなよな……。)

男「あー、もう分かったから。別に止めやしねぇよ。」

男「とにかく、その携帯だけ返してくれ。仕事で必要だからな。」


女「わかりました。」

女「明日の朝、一緒に座ってた駅前のベンチに来て下さい。その時に渡します。」


男「おう。じゃあまたな。」


女「はい、おやすみなさい。」


ブツッ ツーツーツー


男(あぁ、嫌な事聞いちまった……。)

男(そういえば名前聞いてなかったな。)

男(……ま、明日ケータイ返してもらえばそれっきりだし、別にいいか。)


男「……。」


男(女の子と話したの久し振りだったかもしれないな。)


男「……。」モヤモヤ


男(何考えてるんだ俺は。)

男(もう寝よう。)


◆翌朝 駅前


男(昨日は嫌になるほど快眠だった。)

リストラされたってのに……

男(案外俺って図太い性格してるのかもな……。)


男(お、ベンチに女子高生……約束通り待ってたんだな。)

男(ケータイ返してもらうか。)


男「よう、俺のケータイ……」


女「!!」ダッ


男「おい!! どこ行くんだ!?」

男(いきなり構内に走りだしたぞ……)

男(俺に気付いた様子はなかったし)

男(取り敢えず追いかけるか。)


女「……」ダッシュ


アナウンス<ドア シマリマス カケコミハ ゴエンリョクダサイ


女「くっ」ダダダッ


ドア<プシュー


女「あうっ」ビタン


男(乗るつもりだったのか……?)


男「いきなり走りだして……どうしたんだ?」


女「は、は、犯人が……あの時の……殺してやる……。」


男「まさか……!!」

男「犯人を見つけたのか!?」


女「……」コクリ


男(普段ここから電車に乗ってるってことは……)

男(こいつの作戦もあながち間違っていないってことか……。)


女「はいこれ、携帯です。ちゃんと充電しておきました。」サシダシ


男「おう……。」ウケトリ


女「それでは私はこれで……」スタスタ


男「追うのか?」


女「当然です。」

女「今日一日かけてでも、北方面で犯人を探します。」


男「北方面って、それだけじゃ見つかるわけ無いだろ。」


女「じゃあ他にどうしろっていうんです!?」


男「それは……警察にだな……。」


女「警察は頼りにならないって、昨日電話で言いましたよね!?」


めんどくせぇポリポリ

男「まぁ落ち着いて話せ。ほら、ベンチまで戻るぞ。」


女「……。」


◆駅前 ベンチ


男「で、犯人ってのはどんな奴なんだ。」


女「それは、身長170くらいの男で、歳は30代前半くらいで……」

女「それと……えーと……。」


男「それだけか? 顔は覚えてるんだよな?」


女「もちろん……です。」


男「見間違いじゃないんだな?」


女「そう言われると……自信がないです。」


これだから……

男「ちょっと頭冷やせ。違う奴刺したら大変だろう。」


女「はい……。」


男「分かったならいいんだ。」


男(……ってなんで俺は説教垂れてるんだ。)

男(……。)

男「でも、もしかしたらそいつが犯人の可能性もある。」

男「つーことで、俺も北方面について行ってやるよ。」


女「え?」


男(こいつがいつどこで人を刺すかわからんからな……)

男(まだ興奮してるみたいだし、今日一日は見張っておくか。)


女「お仕事、あるんじゃないですか?」


男「どうせ首になるんだし、いいのいいの。」


女「ですけど……。」


男「それにほら」


アナウンス<ドアシマリマス


男「もう朝礼に間に合わない。」


◆北方面 駅前ビル 午前


男「まだ昼前なのに結構人がいるんだな。」

男(昼間に男一人で出かけるとなると……どこに行くか全く想像できないな。)


女「さすがにこれじゃ……探しようがないですね。」


男「お、諦めてくれたか。」


女「まさか、絶対に見つけてやります。」


男「おい、今日もナイフ持ってるのか?」


女「もちろんです。そうでないと殺せないじゃないですか。」


男「……こっちによこせ。」


女「……イヤです。」


男「いいか? 犯人を見つけたとしても」

男(見つからないだろうけど)

男「ちゃんと警察に突き出して、裁いてもらうんだ。」

男「犯人を殺したら、お前は犯人以上の罪を被ることになるんだぞ?」


女「そんなのは百も承知です。」


男「……殺しても意味ないぞ。ただ虚しいだけだ……。」


女「意味はあります!! ……あなたに何が分かるんですか!?」


男(やっぱゲームのセリフじゃ駄目か……)

男(結構自信あったんだけどなぁ)


女「……」ギロリ


男(そこまでして犯人を殺したいのか……)

男(よほどひどい事をされたんだろうな。)


男「……。」


男(……そもそも別にこいつがどうなろうと構わないし……)

男(……いいか。)

男「そうか、覚悟できてるならいいんじゃないか。」


女「わかってもらえたようで嬉しいです。」


男「じゃ、そこらへん歩いて探してみるか。」


女「そうですね。」


◆ファストフード店内 昼時


男「見つからないな。」


女「……ですね。」


男「犯人の顔知らないから、俺が見つけられるわけもないんだけどな。」


女「……似顔絵描きましょうか?」


男「そうしてくれ。」


女「少し待っていて下さい。このチラシの裏に描きますから。」

女「……」カキカキ

女「できました。」ジャジャーン


男「へぇ、上手いもんだ。」

男(……なんか、いかにもな顔だな……。)

男(……そこらへんのアニメに出しても恥ずかしくないキャラデザだ……。)シゲシゲ


女「こう見えて絵はうまいんです。」エヘン


男「確かに、よく特徴捉えてると思うぞ。」


携帯<ピピルピルピルピピルピー


男(電話……同僚からか……。)

男「すまん、ちょっと電話してくる。」


女「どうぞ。」


◆ファストフード店内 トイレ


男「よう。今日は行けそうにないわ。」


同僚「やっぱりな。俺もあんな通知受けたら働く気無くすよ。」

同僚「で、今どこなんだ?」


男「えーと、テキトーにブラブラしてる。」


同僚「そうか、」

同僚「絶対に落ち込んでると思って、今日は早めに出て、お前が乗る駅で待ってたんだよ。」

同僚「結局、待ちぼうけ食らっちまったわけだ。」


男「すまんすまん。……言ってくれれば駅までは行ったのに。」


同僚「いや、メールしたぞ? 見てなかったのか?」


男(そういや、昨晩はあの女が持ってたんだったな……。)

男「あ、メールチェック忘れてたわー。」


同僚「日課忘れるくらいショックだったんだな。」


男「気ぃ使わなくていいぞ。これからしばらく体を休めるつもりだ。」


同僚「力になれることがあったらいつでも言ってくれよな。」


男「おう、じゃあな。」


同僚「じゃあな。」


ブツッ ツーツーツー


男「……戻るか。」


◆ファストフード店内


男「次はどこに行くつもりだ?」


女「男が一人で行きそうな場所……思いつかないですか?」


男「俺のは参考にならないと思うぞ。」


女「私よりかは犯人の思考に近いと思いますけど。」

女「例えばでいいので言ってみてください。」


男(例えば……か。)

男「……映画館とか、ゲームショップとか……」

男(あれ、ここ数年これ以外の店に入った記憶が無い……)

男(服はスーツで統一だし……買い物もほとんど通販で済ませてるからなぁ……。)


女「そ、それだけですか!?」


男「そんな目で見るな……」

男(あぁ死にたい。)


女「仕方ありませんね、まず映画館をあたってみましょう。」


男「絶対見つからないと思うぞ。」


男「やっぱり最初の駅前で待ち伏せしたほうが……」


女「駅前で刺したら目立つから駄目だって」

女「そう言ったのはあなたですよ?」

女「その点、薄暗い映画館なら目立ちません。」


男(やっぱり刺すつもりなんだな。)


女「さぁ、行きましょう。」


男「はいはい。」


◆映画館内 チケット売り場


女「で、何を見るんです?」


男「え、映画見るつもりなのか?」


男「ここいらで見張ってりゃいいじゃねぇか。」


女「映画館に来て映画を見ないなんて、逆に怪しまれるじゃありませんか。」


男「怪しまれたって構わないだろ……。」

男(何考えてるかわからん……。これがジェネレーションギャップというやつか。)


女「とにかく、男が一人で観てそうな映画にしましょう。」


男「じゃあ……この『トランスモーファー』って奴かな。」


女「……」イライラ


男(駄目なのね……。)

男(でも他のは明らかに男一人で見るような映画じゃないぞ。)

男「これはどうだ? 『プリキュアオールスタ……」


女「それ以上は口にしないでください」ドンビキ


男(死にたい……。)

男「……お前はどれがいいんだ?」


女「あれにしましょう。あの自然ドキュメンタリー映画。」

女「あれなら男一人でみても不自然じゃありません。」


男「そうか?」


女「そうなんです。」


男(もうどうでもいいや。)


受付さん「次の方どうぞー」


男「すみません、大人2……」


女「大人1人ぃ、高校生1人でお願いしまぁす。」ブリッコ


男「は?」


女「(何も喋らないでください……)」ヒソヒソ


受付さん「……はい、座席はどのあたりがよろしいですか?」スッ


女「えぇーとぉ……」キャピキャピ


男(……年齢どころか声までサバ読んでやがる……。)


女「後ろのほうがぁ、いいと思うんですけどぉ……」キャピキャピ


男(怖ぇ……。)


◆映画館内 上映室


男「ほら高校生、ドリンク買ってきてやったぞ。」


女「……。」


男「ウーロン茶頼むなんて健康志向なんだな、高校生。」


女「まだ言いますか……。」


男「だってよ……たかだか200円の差額のためにあそこまでするか?」


女「おかげでドリンク代一本分が浮きました。」


男「案外節約家なんだな。」


女「ほら、もう始まりますよ。」


映画<極寒の大地……ここに住んでいる生き物がいます……

映画<……これがペンギンの群れです……ここ南極大陸では……


男(ペンギンかわええなぁ。)

男(ペンギン飼いてぇ……。)


女「(可愛いですね。)」ヒソヒソ


男「(ああ、かわいいな)」ヒソヒソ


女「……。」


-90分後-


女「おわりましたね。」


男「ああ。」


男(90分ペンギン尽くし……)

男(なんだか洗脳された気分だ。)

男「じゃあ、出るか。」


女「あっ」


男「どした?」


女「犯人探すの忘れてました。」


男(一応、探してるつもりだったのか……。)


女「……でも、よくよく考えると男一人でこの映画を観るのはありえないですね。」


男「だから最初からそう言ってるだろ。」


女「言いました?」


男「……。」イライラ

男(結局あの映画見たかっただけじゃないのか?)

……それにしても


女「残りのウーロン茶飲むまで待って下さい。」

女「すぐに飲みますから。」ゴクゴク


男(よく見るとこいつかわいいな。)

男「……」

男(ペンギンには劣るけどな。)


女「さて、ここは諦めて次の場所に行きましょう。」スック


男「そうだな。」スタスタ

男(……俺も20ちょっとで結婚してれば)

男(今頃子供は高校生か……。)

男(って何考えてんだ。こいつは22だろうが……。)


女「またそうやってジロジロ見て……なんですか?」


男「いや、こうしてるとデートみたいだと思ってな。はは。」


女「……!!」


客い「やだ、なにあれ。親子でデートですって。」ホホホ

客ろ「仲がいいのねぇ。娘さん真っ赤になって可愛いわぁ。」ホホホ


女「!!」

女「……」カーッ

女「……ちょっとこっちに来て下さい。」グワシ


男「なんだなんだ?」


女「いいからこっちに。」グイグイ


男(どこに行くつもりだ……?)


スタスタ


男(ん? ここはトイレじゃないか……。)


女「この中に入って下さい。」


男「おい、流石に女子トイレには入らんぞ。マジで人生終わる。」

男「死にたいとは言ったが、社会的に死にたくは……」


女「入れ……」


ドン


男「うわ!?」


……カチャリ(個室の鍵を閉める音)


男「いてて……なにも個室に押し込まなくてもいいじゃないか……。」


女「……」スチャリ


男(昨日のコンバットナイフ……!!)


ヒタリ


男「!?」


女「またあんなふざけたこと言うと……殺しますよ。」


男「すまん、何か悪いこと言ったか?」


女「言いました。」

女「おかげで大恥かきました……。」

女「もう二度と言わないって約束して下さい。」ギラリ


男「……。」

男(殺す殺すって……)


男(よし、ちょっとからかってやるか。)

男「殺してみろよ。もうすぐ無職になるし、女子高生に刺されて死ねるなら本望だ。」


男(あぁ、また女子高生って言っちまった……。)

男(いい加減間違えすぎだろ、俺。)


女「え……それは……」オロオロ


男(お、動揺してるぞ……)

男「どうした? 早く殺せよ。」


女「……」シーン


男(もうだんまりか。)

男(そろそろやめてやるかな……。)


女「殺せるわけ……ないじゃないですか……。」ウルウル


男「え?」


女「もうあなたとは会いたくありません。」


男「お……おい」


女「話しかけないで下さい!!」ダッ


男「あれ……?」

男(なんださっきのは……。)

男「……。」


男「わけがわからん……。」


◆翌日 社内


男(昨日はあのままメイトに寄って帰ったけど)

男(追いかけたほうが良かったか……?)


男(今日の朝の電車にはいなかったし)

男(多分、犯人探し止めたんだろうな。)


同僚「今日は来てるんだな。」


男「おう、しばらく休むって言ったけど、あまりにやることがなくて……」

男「結局このありさまさ。」


同僚「なるほど。……で、昨日はゆっくり休めたのか」


男「まぁな。」


同僚「……」ニヤニヤ


男「……なんだ?」


同僚「実際どうだったんだよ……」


男「だから何がだよ。」


同僚「とぼけるなって、……見てたんだぜ?」

同僚「……お前が女子高生と一緒に映画館に入ってくの。」


男「み、み、……見てた?」


同僚「バッチリな。……商談先で偶然見つけたんだ。」ニヤニヤ

同僚「……しかし、さすがに女子高生はヤバイんじゃないか?」


男(こいつ……どこで見てたんだ……。)

男「あ、あれは……」

男「女子高生のコスプレしてただけで……ホントは22歳だそうだ。」


同僚「え、あ……そうなのか……。」

同僚「なんか、いろいろレベル高いな……。」

同僚「どもかくおめでとうと言っといてやろう。」


男「バカ、そんなんじゃねーよ……。」


同僚「そういやあの娘、どっかで見たことあるんだよなぁ。」


男「ホントか? 知り合いなのか?」


同僚「いや、そういう意味じゃなくて……制服のことだ。」

同僚「このあたりにあんなデザインの制服の高校あったっけか?」


男(あの制服の感じは、そこら辺のショップで売ってるような安っぽいもんじゃなかった。)

男(間違いなく学校指定服だ。)

男(それに、あいつが昔着てたって言ってたし……。)

男「この周辺の高校で間違い無いと思う。」


同僚「そうか……。」


男「そういえば、最近の学校は私服可に変更したり、制服のデザイン変えるらしいぞ。」


同僚「じゃあ昔の制服ってことか……レアな物持ってるんだな……。」

同僚「ますますレベル高いな。」

同僚「っていうか、何でそんなに制服に詳しいんだよ、この変態め。」


男「はいはい、俺は変態ですよ。」

男(話題が逸れてよかった……。)

男(実は俺もあの制服には見覚えがある……)

男(今度あいつにあったら詳しく聞いてみるか。)

男(会えたら……な。)


◆帰りの電車


男「会えちゃったよ……」


女「またあなたですか。」

女「もう話しかけないで下さい。」プイ


男(まだ制服着てるのか……。)

男「犯人探し続けるつもりなのか。」


女「見つけるまで続けます。」


男(話すなって言っておいて)

男(普通に話してるじゃないか……。)

男「なぁ、ちょっと聞きたいことがあるんだが……」


女「……」


男「これで最後にするから、頼む。」


女「本当にこれで最後ですよ。」


ふぅ……

男「お前の制服のことなんだけど、それってどこの高校の制服なんだ?」


女「そんな事聞いてどうするんですか。」


男(ほんと、どうするんだろうな。)


女「……〇〇区の□□高校です。」

女「私の代から私服もオーケーになったので、今はもうこの制服は誰も着てないと思います。」


男「そうか。」

男(俺の予想もあながち間違ってなかったな……)

男(〇〇区か……同僚もあの辺に住んでたな。)

男「ん……?」


女「聞きたいのはそれだけ……ですか?」


男「ちょっと待っててくれ。」ゴソゴソ


女「あ、電車内は携帯禁止ですよ。」


男「はいはい。」

男(まさかとは思うが……)


ピポパ


男(確認だ……飽くまでこれは確認だ……。)


プルルルルル


同僚「よー、お前から掛けてくるなんて珍しいな。」


男「おい、同僚。昨日何時の電車に乗ったんだ?」


同僚「いきなりなんだよ。」


男「いいから。」


同僚「行きと帰りどっちだ?」


男「行きだ。」


同僚「朝は確か……お前を待つリミットを7時までって決めてたから……」

同僚「……多分、6時台で一番遅い電車だな。」


男「!?」


男(俺とあいつが乗ったのは7時台で一番の電車だ……)

男(じゃぁ……あの時あいつが追いかけていた犯人ってまさか……)


男「……」ワナワナ


男(そんな訳は……だってあいつは5年前にはもう結婚して……)


同僚「おーい、時間がどうかしt……」ブツッ


男「!!」


女「通話禁止ですよ?」


男「あぁ……そうだな。」


女「気をつけてください。次は折りますよ。」テワタシ


男「……。」ウケトリ


男(……こいつにも一応確認してみるか。)

男(……一応、な。)


ポチポチ


男(同僚の写メ……あったかな……)

男(……あった。)


男「お前、コイツに見覚えあるか?」チラ


女「なんですか、いきなり……」

女「……!!」


女「あなた、私の事件のこと調べたんですね……。」


男「まさかコイツが……?」

男(マジかよ……こんな身近に犯人が……)


女「……もう関わらないでください!!」

女「全部私一人でやります。」


男「……俺はこいつのことを知ってる。今から呼び出すことだってできる。」


女「そんなのは必要ないです。」


アナウンス<終点、終点デェス、ゴリヨウイタダキマコトニアリガトウ……


男「やっぱり女の子一人じゃ危険だろ。」


女「……」スタスタ


男「俺からも警察に言ってやるからさ。」スタスタ


女「警察に任せてしまったら……犯人を殺せなくなるじゃないですか……。」


男(こいつ、この期に及んでまだナイフで刺すつもりなのか……)イライラ

男「は、……刺す度胸もないのによく言うな。」


女「……刺せます。」


男「無理だろ。昨日だってナイフちらつかせるだけで、俺に刃さえ向けなかったじゃないか。」


女「あの時は……でも今は違います!!」スチャリ


男「なら刺してみろよ。ここで。」


女「……」ジリジリ



男「刺してみろ!!」



女「……」ビクッ


ズプ


女「あ……」


男「う……」


女「あ……あ……。」


男「」


バタリ


乗客イ「キャーッ!! 人殺しよ!!」

乗客ロ「あいつだ!! あの女が刺したんだ!!」

乗客ハ「近付くな、まだナイフを持ってるぞ!!」


女「あの……私……ちがう……っ」


男「」


女「くっ」ダッシュ


乗客ニ「逃げたぞ!!」

乗客ホ「いいから、先に救急車呼べー!!」


◆暗い路地


女「はぁ……はぁ……」

女(なんであんな事を……)

女(あの人は……別に悪い人じゃなかったのに……)

女(いい人だったのに……)


女「うわっ」ズルッ


ドテ


女(足がもつれて……最近走ってないから……。)

女「う……」

女(なんで逃げたんだろ……)

女(あの人のこと、助けないといけないのに……)

女(私が悪かったのに……)


女「うぅ……ぐす……」ポロポロ


??「お嬢ちゃーん、こんな暗い場所でなんで泣いてるのかなぁ」

??「もしかして、誘ってるのかなぁ ウェヒヒ」


女「!!」

女(あの時の……5年前の犯人!!?)


女「なんで……」

女(何でこんな時に会っちゃうの?)


犯人「その制服……そそるなぁ……」ヒタリヒタリ


女(殺さないと……)


女(殺してやる!!)キッ


女「……」ゴソゴソ

女(ナイフ……あの時落とした!?)


犯人「何を探してるのかなぁ……」

犯人「もしかして、これかなぁ?」ブラブラ


女「それは私の……!!」


犯人「こんなの持ってちゃ危ないよ?」ポイ


ナイフが……

女(どうしよう、どうすれば……)


女(そうだ、警察にでんわ……)スチャ


犯人「はいだめー。通報はNGですよぉ……フッヒヒ」バキン


女「いやぁ……」


犯人「ゆっくり遊びましょうねぇ……グヒ」


女(もう駄目……)

女(誰か助けて……)


犯人「ウェヒ」


◆駅構内


乗客イ「女子高生に刺されるなんて……一体何やらかしたんだい?」


男「別に何もやってませんよ……。」


乗客ロ「ま、刺さったのが腕でよかったな。」

乗客ハ「もうすぐ救急車が来るから、それまで我慢してろよ。」


男「どうもすみません。」

男(マジで刺された……)

男(でも腕でよかった……)

男(痛いよママン……。)


女「キャーッ!!」


男「!!」


男(あれはあいつの声だ……。)

男(さっき追いかけていった駅員さんに掴まったか……?)

それとも……

男「……」


男「くそっ!!」ガバッ


乗客ニ「ちょっと、どこに行くんだ!?」


男「すぐ戻ります!!」

男(面倒かけさせやがる……。)


◆暗い路地


女「やめっ 離して!!」


ジタバタ


犯人「大声出さないでくれるかなぁ?」


ガバッ


女「んー!!」


犯人「さて、どうしようかなぁ……」


女(このままだと本当にやばい……)

女(同じ奴に2回も襲われるなんて……)

女(悔しい……)


男「おーい、どこだ!?」

男「返事しろ!!」


女(あれは……あの人の声!!)

女(何とかして知らせないと……)


女(そうだ、このゴミバケツを蹴って……)テイッ


ガガタン


犯人「!!」


男「!!」

男「見つけた……ってお前!! 何してんだ!?」


犯人「見て分からないのかなぁ」

犯人「フフフフフ」ペロリ


女「」ゾワゾワ


男(こいつ……目がイッてる……。)

男(リアルキチガイ初めて見た……。)

男「いて……。」


男(今頃になって刺された所が……)

男(熱い……。)グッタリ


犯人「うわぁ、血が出てるじゃないですかぁ。」テクテク

犯人「大丈夫ですかぁ」ドゲシ


男「うぐっ……」

男(こいつ、怪我したところを……)


犯人「よかったねぇ、お客さんが来てくれたよ。」


女「……」


犯人「これからやること、楽しんでくれるといいねぇ……グヒヒ。」


??「ふんっ!!」


ボカ


犯人「あう?」ヨロヨロ


ドサリ


??「危なかった、大丈夫か?」


男「ど、同僚!?」

男「なんでこんな所に……」


同僚「いきなり電話切れたからさぁ、心配になってこっちまで来たんだ。」

同僚「そしてら救急車のサイレンが聞こえて、」

同僚「お前が血流しながら駅から飛び出たの見て、慌てて追いかけたんだ。」


男「そうか……。」

男「それはともかく、お前、この娘に言うことがあるんじゃないのか?」


同僚「この娘? あぁ、お前が一緒にいたのはこの娘だったのか。」


男「とぼけるつもりか?」

男「5年前にこの娘を襲ったのは……お前だろ!!」


女「あのー」シドロモドロ


男「おい、間違っても刺し殺すなよ、ちゃんと警察に言って……」


女「こ、この人は犯人じゃないです。」


男「あれ、でもあの時はコイツの写メを見て……」


女「犯人だなんて一言も言ってませんよ。」

女「それに犯人の似顔絵なら前描いてみせたじゃないですか。」


犯人「……。」グッタリ


こいつ……

男(確かに、あいつが描いてた似顔絵にそっくりだ)

男(じゃあ同僚は……?)


同僚「あー、もしかしてあの時の?」


女「はい、あの時はお世話になりました……。」


男「?」


同僚「昔、この娘を助けたことがあったんだ。」

同僚「……そうか!! だから、あの制服にも見覚えがあったのか。」


男「ホントか?」


同僚「記事にもなっただろ。犯人は逃走した後で見つからず仕舞いだったけど。」

同僚「男にも前に話したことがあったろ、覚えてないか?」


男(そーいや昔自慢してたような気も……)


同僚「いやー、同じ女の子を助けるなんて偶然すぎるな。」


女「2回も助けてもらって……ありがとうございます。」


男(なんだ俺の早とちりか)

男(同僚を疑うなんて……どうかしてたな。)


女「それに男さんも……ありがとうございます。」


同僚「怪我までして女を守るなんて、なかなか勇ましいじゃないか。なぁ?」


男「ああ……そうだ……な」

男(目の前が暗くなって……貧血か……?)


ガクリ


同僚「あれ? 男?」


女「男さん……?」


同僚「あ、マジでヤバそう……誰か救急車よんでくれー。」


ニジリヨリ


女(今ならこのナイフでコイツを殺せる……)スチャリ


犯人「……」グッタリ


でも……チラ

女「……」


男「……」


女「ふぅ……。」ポイッ

女(殺したって意味が無い、虚しいだけ……ですか。)

女(5年間の決意がたった2日で消されてしまうなんて)

女(しかもこんな独身のおっさんに……)


女「フフッ……」


同僚「?」


女「……警察も呼んだほうがいいですか?」


同僚「そうだな。」

同僚「……取り敢えずこいつらを広い道に引っ張り出そう。」ヨイショ

同僚「こんな事があって早々悪いが手伝ってくれ。」


女「わかりました。」


◆病院 個室病棟 2週間後


女「ようやく抜糸も終わりましたね。」


男「合計で17針……切れ味良すぎだろ……。」


女「それは、毎日念を込めて研いでましたから……。」


うわぁ……

男(腕で済んでほんとによかった。)

男「にしても、すげー縫い目だ……」


女「ごめんなさい。」


男「いや、そういう意味で言ったんじゃないんだ。」

男(意外とカッコ良いな……。)

男(これはこれでいいかも……。)


女「あと、もう歳だし傷は消えないだろうって、お医者さんが言ってました。」


男「なるほど……。」


コンコン


同僚「元気そうだな。」


男「まだ昼だぞ、仕事は?」


同僚「まぁ、気にするなって。」

同僚「それより見てみろ、まだニュースでお前のことやってるぞ、ヒーローさん。」


男「ヒーローって……助けたのはお前じゃないか。」


同僚「でも、最初に駆けつけたのはお前だろ?」

同僚「俺はお前の後をついていっただけさ。」


男「……じゃあそういうことにしておくか。」


同僚「いいネタになったな。」

同僚「これだけ世間で話題になれば、企業も引く手あまたじゃないか?」


男(ちょっとは有利になるといいな……。)


同僚「……それじゃ俺は戻るわ。」


男「おう、仕事がんばれよ。」


同僚「そっちも……頑張れよ。」


女「……はい」


男「?」


同僚「じゃあなー。」バタン


男「……名誉の負傷か。」

男「はぁ……」

男「ついでにモテればいいんだけどなぁ」


女「……」モジモジ


女「私じゃ駄目でしょうか?」


男「なんか言ったか?」


女「な、何でもないです。」スック

女「それじゃお大事に……。」スタスタ


男「2週間も毎日来てくれてありがとな。」

男(明日はもう退院だ)

男(こいつには散々振り回されたが)

男(いい経験になったかな……。)


女「……また」


男「ん?」


女「また明日、駅前で待ってます。」ニコッ


男「……」ドキ


男「……また」


女「はい?」


男「また制服着てきてくれるか?」


女「……はい?」


おわり



 ここまで読んで下さりありがとうございました。

 興味を持たれた方は、是非他の作品も読んで見てください。

 きっと時間つぶしのお手伝いができると思います。

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― 新着の感想 ―
[一言] 返信サンキューな。 本物だと仮定してくれてサンキューな。 長門のような話し方、驚いたが嬉しかったぜ。 前の返信で真面目な奴だと思っていたんだが、ノリもいいんだな。お前と友達になりたいと思った…
[一言] よっ、久しぶりだな。俺だ。キョンだ。 この小説に感想を書いたとき以来だから5年ぶりだな。パスワード忘れちまったから、別アカウントだが、正真正銘同一人物だ。 最近投稿してないようだが、元気して…
[良い点] 他の方の感想にもあるように、軽快に話が進んでいくのがとても読みやすくていいと思いました。 作者さんならではの独特な表現や、作者さんが意識していらっしゃる?擬音など単純明快で個人的に好きです…
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