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トモダチ

〈納豆の一粒行く方探したり 涙次〉



【ⅰ】


カンテラだ。俺が語り部となつたのは、この物語始まつてから初の事だつたな。讀者諸兄姉、宜しく頼んます。

まづ*「バンカラ」の事を思ひ出して貰はう。「叛・斬魔屋」つてのが奴のウリだつたな。永田はそれと同時に、SF界の「叛・世界」つて壯大な概念を持ち出してゐる。「バンカラ」退治は一味にとつてエポックメイキングな出來事だつた。これを通じて涙坐が一味に合流したし、結局長持ちしなかつた(欠員がゐる。** 金尾、*** 遷姫と****「シュー・シャイン」だ)とは云へ、新体制を敷いて事に当たつたのは、記憶に新しい。



* 前シリーズ第193・194話參照。

** 當該シリーズ第115話參照。

*** 當該シリーズ第93話參照。

**** 當該シリーズ第173話參照。



【ⅱ】


魔界に「ドクター・フック」つて云ふ男がゐる。正確には「ゐた」。「叛・世界」についていつも考察してゐる、魔界きつての思想家であり、メカニックでもある。メカニックとしての彼は「バンカラ」を生み出した。「バンカラ」のボディが鋼鉄製だつた事を憶えてるかい?「叛・世界」についての思索のついでだつたんだ實は、「叛・斬魔屋」は。奴、ドクター・フックは常に變はらず孤軍奮闘してゐる。この日本、逆さまに轉覆させるにはだうしたらいゝかと、いつも思ひを巡らせてゐる-



【ⅲ】


まづ奴は、「叛・高市」と「叛・トランプ」つて云ふキャラクターを想定した。何でも現狀に叛するものなら、執り上げてみやうつて魂胆だ。だが、そいつらでは日本人に却つて倖福を齎してしまふつて事が分かつた。中國人民との文化交流が圖れるし、世界的な右傾化のプロセスに叛した政治が可能になるぢやないか。尠なくとも「叛・世界」的不利益には結び付かない。では經濟界。現狀のアンチを行く、と云ふシミュレイトではいづれにせよ日本人は富む。一般庶民はね。かう考へると、「叛・世界」など想定しなくても、裏を返せば、世界民衆の中の日本人逹は、今の儘で全く不倖せ極まりないと云ふ事が分かる。ドクター・フックは莫迦らしくなつたのか、「叛・世界」の研究は已めてしまつた。



※※※※


〈徒らに春を夢見る事なかれ冬-冬の儘嚴然たりき 平手みき〉



【ⅳ】


それを受けて、ルシフェルは聲明を發表した。「まことに殘念だが、研究を放擲した罪でドクター・フックは処刑する」-フック「わたくしめの首で宜しければ、幾らでも差し上げる處存でありました」。ドクター・フックはルシフェルの良き(?)相談役だつたのだ。彼ほど一本筋の通つた【魔】を、俺は知らない。ルシフェルにしても、それは悲しい出來事だつたに違ひない。然しドクター・フックは処刑された。魔界も右傾化? そんな思想などハナから【魔】逹は持ち合はせてゐない。單なる見せしめだ。



【ⅴ】


じろさん・テオは兎も角として、ルシフェルと俺にはトップ同士の暗黙の了解と云ふものがあつた。互ひに本当に傷付いてゐる時には手出ししない事。俺はドクター・フックを失つたばかりのルシフェルには干渉しない事にした。だが-



【ⅵ】


流石の惡辣なルシフェル、俺のその隙を狙つてゐたらしい。大勢の手勢を連れて、人間界に攻め入つて來たのだ。卑怯と云つたつて始まらない。相手は【魔】だ。俺は莫迦げた役柄を押し付けられたやうな氣がした。さう、「むかつ腹が立つた」のだ。じろさん・テオに雜魚どもの始末を頼むと、俺はルシフェルとの一騎討ちを目論み、奴に接近した。だが奴はかう云ふぢやないか、「ドクター・フックの弔ひ合戰だ!」と。考へてみれば、ドクター・フックが「叛・世界」を目指してゐた頃、ルシフェルはその「叛・世界」と「叛・斬魔屋」とを、恐らく無意識的に混同してゐたに違ひない。



【ⅶ】


今度ばかりは負けといてやるか、ドクター・フックの顔に免じて- 俺はそんな事を思ひ、思つた自分を叱つた。一つ甘い顔を見せればルシフェルは増長するに決まつてゐる。だが俺の目には、だうしてもドクター・フックの無念さがちらついて離れない。と、ルシフェルは龍巻きを起こし、カンテラ一燈齋事務所を壊滅させやうとして來た。中には* 臨月の悦美と君繪がゐるんだ、放つては置けない。俺は無我夢中でその龍巻きの「芯」を断ち斬つた。「しええええええいつ!!」



* 當該シリーズ第167話參照。



【ⅷ】


と同時に、俺には守るべき世界、と云ふものが嚴然と、冷酷な事に、存在する、と云ふ自らの基本理念に俺は立ち戻つた。ドクター・フックが轉覆しやうとしてゐたものだ。「バンカラ」がその一端から崩さうとしてゐたものだ。奴らは敵なのだ。心を通はせ合つてはいけない者らなのだ。そのタブーと共に、俺は今日も生かされてゐる。自然の摂理にだ。だが、俺は云ひたかつた。「さらばだ、ドクター・フック」。それは友情に似て非なるものだつたらう。ルシフェルは俺の剣を避け、逃げた。俺が本当に俺の刀で斬りたかつたのは、ドクター・フックだつたのだ。



【ⅸ】


カネは「魔界壊滅プロジェクト」から下りた。俺は何となく、ドクター・フックも俺逹一味の稼ぎになつてさぞかし不倖だつたらう、と勝手な想像を巡らせた。その不倖こそ、奴の研究對象だつたものなのだ。云ひ替へれば、他人の不倖に向き合ふ事ほど、己れを不倖にしてしまふ事はない。それが唯一無二の、この世界に添付すべき但し書きなのだ。お仕舞ひ。



※※※※


〈冬鯖の脂のなきは何故なのと 涙次〉


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