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第1話 1on1

 南カリフォルニアの乾燥した昼の風が、かつて片田舎だった廃墟群の中を通っている。その奥にはカーキの塗装を施した旧式の「ヴァイザー」が、停止状態でシートを被せて保管してある。

 俺は胸部装甲に備えられた取手を頼りに首元まで登り、シートを退かしながら背中と首の間にあるコックピットに乗り込む。慣れた手つきで起動シーケンスを進め、少しの振動をともなって原動機が動き出す。


「FLINT LOCK M3 SYSTEM ALL GLEEN.」


 音声アナウンスと同じ文言が真っ暗なモニターに表示され、徐々に鮮明さを増しながら外界が映し出されていく。カメラ、簡易レーダー、収音マイク、全て感度良好。

 通信機をONにして準備完了を伝える。


「いつでもいけるよ、アキト」


 通信機特有の低い音質で、彼の返答が来る。


「よし、1分後に試合開始の合図を出す。空が見える場所で待機しておけ」


 起立コマンドをレバーで入力し、頭部カメラから提供される視点が4mほどの高さまで上がる。フットペダルで機体を歩かせ、殺風景な倉庫を出る。視界内に特段高い建物は無く、コンクリート造の廃墟とガソリンスタンド跡だけだった。


「制限時間5分、この町から出たら失格だぞ」


「わかってるよ」


 通信機はミュートのまま、へらず口を叩いてみる。

 空を見上げると青空に黄色の信号弾が撃ち上がって試合開始を告げる。それを確認した俺たちは動き出す。4mの鉄の巨人を、レバーとペダルとボタン入力の組み合わせで肉体の延長のように自在に操縦する。廃墟と化した町を疾走し、登攀し、跳躍する。コンマ1秒でも早く相手を見つけて先制攻撃を仕掛けること、そのためにモーターをフル回転させ、脚部サスペンションに負荷をかけて動き回っていた。


「やはり高所から見下ろして探すべきか」


 高所からの索敵は都市型フィールドの教科書的な戦法、そして最大のトラップでもある。大抵の場合高所へ先に到着した者が隠密状態でノロマを待ち構え、やっと到着したところで奇襲を仕掛けるのが鉄板だ。そして、対戦相手のラルフはトラップと頭脳戦という言葉がよく似合う男だ。


「けどこのままじゃラチが明かねえ、トラップ上等で仕掛けるか」


 壁蹴りとワイヤーを駆使して素早くビルの屋上へ登る。周囲を見渡しても貯水タンクと屋内へ繋がる入り口、落下防止のフェンスしか見当たらない。簡易レーダーに感無し、だが収音マイクに微かな反応がある。ヤツは間違いなくここにいる。とはいえ不用意に探し回るのは危険、物陰を覗いた時に背中からズドン! とやられる可能性もゼロではない。俺はスピーカーを使って挑発を行い、ラルフから仕掛けてくるのを待つことにした。


「どうした?いるのはわかってんだ、サッサと撃てよ!慎重なヤツだなァ……いや、腰抜けか?」


 反応は無い、なら力づくで引きずり出してやる。

 機体の背中から特製の実体型重ブレード「マスターキー」を取り出す。扱いづらいが、威力も重量も既製品の倍以上ある代物を振りかぶり、最大パワーで地面をぶっ叩く。屋上全体に亀裂が広がり、地面が崩れて瓦礫とともにビル4階へ落下する。その落下物の中に、やはりヤツはいた。ラルフの駆るヴァイザーだ。こちらと同じフリントロックM3、カスタムの方向性の違いから彼の機体は俺より少し細身に見える。

 着地した俺は姿勢修正も後回しでラルフに突撃する。


「ここなら俺の間合いだぜぇぇえ!!」


 ラルフはハンドガンの二丁流を応射するが、その程度の反撃は予測済みだ。カメラなどの弱点部位はアームやブレードの刀身でガードしている。10mmの弾幕を耐えながら接近し、マスターキーで一撃を狙う。彼はそれをギリギリで回避し、隙を見て関節部に鋭い射撃を撃ち込む。さらにワイヤー移動の勢いを利用して、すれ違いざまに飛び蹴りを繰り出し、俺は体勢を崩された上に距離を取られてしまった。


「いいぜ、このまま弾切れるまで追いかけっこしてやる!」


 ラルフはハンドガンでは効果が無いことを悟ったのか、高威力だが近距離では取り回しの悪いライフルを構えた。


 俺はさっきのリプレイのように、また突撃する。ラルフの射撃が肩の装甲板をフッ飛ばすが、その程度で怯む俺じゃない。二射目、三射目は外れ、記憶が確かなら、あのライフルの装弾数は残り一発。


「終わりだァ!ラルフッ!」


 その一発は外れた。確実に外れたはずだった。だが時間差でヴァイザーの左膝関節が破断し、次の瞬間俺の機体は無力に地面を舐めていた。ヤツは跳弾で死角から関節を撃ち抜いたのだ。

 試合終了を告げる赤色の信号弾が空へ上がっていく、今に炸裂するだろう。そして俺の敗北が……


「いや、まだだぁぁァア!!!」


 まだ信号弾は炸裂していない! あと1秒の猶予がある。俺は移動用のワイヤーを左腕から伸ばし、ラルフの機体に命中させる。そして全速力で巻き取り、マスターキーをヤツの機体に叩きつけた。

 横向きのコックピットに、通信機からアキトの声が響く。


「試合終了だ。勝者は……ラルフ」


 ラルフ機の左腕が装甲を歪ませながら、マスターキーを防いでいた。

処女作です。どうか暖かく見守ってください。

少しメタい執筆側の話ですが、「ヴァイザー」という人型機械の名前については、そこまで深く考えていません。できるならガン○ムSEEDのOSの頭文字を取ってガ○ダムみたいなカッコいいネーミングと理由付けを与えてやりたかったのですが、筆者のクソザコ英語力ではなんともできませんでした。いつか思いついたら後付けでやると思います。


ブックマークはしたかったらどうぞ。感想などお気軽にお寄せください、筆者が全部読んで次の執筆への糧にします。

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