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バレたらおしまい!? ~新選組女中は元姫様~  作者:
文久三(1863)年 二月、浪士組~
7/13

気になる人達




(……ん?)


浪士組で女中を始めて、10日程経ったある日。

最近、屯所で掃除をしている時とか、洗濯をしている時だとかに、視線を感じることがあるのだ。今は庭の掃き掃除をしていて、中庭の方から人の気配を感じる。


(誰ですか、とか、訊けないもんなあ)


組の中で話せる人と言えば、沖田ぐらいだろう。

やはり、怪しまれているからだろうか。そんな鈴が気配に気が付いて声を掛けるなんて、疑惑に拍車がかかるだけだ。気付いた途端、バッサリいかれてしまうかもしれない。

しかしこうも連日監視されていると気になるので、くるりと振り返り、中庭の方が見える位置で掃除を続ける。


(彼処に見えるのは…三人?)


顔の半分くらいしか見えないが、知らない顔だ。誰なんだろうか。


(もう大丈夫でしょ!)


普通に視界に入ったから、と言う感じに装えば、いける気がする。そう勇気を出して、鈴は口を開いた。


「…あの、どうかされたのですか」


三人の方を見て言うと、彼らの肩がはね上がった。気付かれていないと思ってたのだろうか。


「え、えーと…そそその、小腹が空いてな、何かねぇかなって」


「そ、そうそう!」


「確かお茶菓子が彼方に…」


「いや茶菓子は駄目だろ!」


小柄な男に駄目出しされてしまった。江戸では茶菓子をよくつまみ食いしていたが、本当は駄目らしい。来客が無かったからジジイも目を瞑ってくれていたのかもしれない。


「私はよく分からないので、沖田さんに何かあるか訊いてきます」


沖田は監視のためか、毎日様子を見に来る。最近は来ない日もあるのだが、その時にでも訊いてみようかと思ったのだが。


「それも駄目!!」


今度はかなりがっしりした男に止められる。じゃあどうしたら良いんだ。まだ此処に来て日も浅いし、勝手に米を握って良いのか。厳格な土方とか言う男に睨まれそうだ。


「お前、剣をやってんのか」


「え?」


黙っていたもう一人に、そう訊ねられた。別に剣はしていないが。


「左手にマメがある。竹刀を握る時のじゃねぇのか」


「あぁ、これはですね」


別に剣術ではない。一応武家の娘として、薙刀を習っていたからである。鈴は勉強は嫌いだったが、薙刀の稽古だけは好きだった。


「これは…」


そこまで言って、鈴はハッとした。これ、言ったらまずいのでは、と。

女が武芸を嗜む等、庶民としてはあり得ない事で、武家の娘だと勘繰られてしまう。調べられて出身が分かれば、あの家に送り返されてしまうのではないか。

それは非常に良くない。今帰っても、もう其処に鈴の居場所は無いし、途中で斬られてしまうかもしれない。それはまずい、と鈴は口をつぐむ。

すると、その様子を見た先程の男が、「顔色が悪ぃぞ。大丈夫か」と言った。


「あ、だ、大丈夫です」


そうは言ったものの、まだ三人の顔には疑問の色が見える。どうしたものか、と思案していると、丁度良いところに、沖田が来た。


「どうしたんですか、皆さんお揃いで」


いつも通りの間延びした笑顔だったが、三人の方を見ると、一瞬鬼の表情をひらめかせた。三人は、にわかに震え上がる。

それを見て、鈴は一人納得した。やはりこの三人は、鈴を見ていたのだろう。おそらく、他の人の命令で。


「私がさっき、髪紐を落としてしまったらしくて。それをお三方が拾って下さったのです」


「そう、ならいいや。お掃除頑張ってね」


「はい」


沖田の姿が見えなくなると、三人は安心したように肩を下ろした。


「悪ぃな嬢ちゃん、助かったよ」


「あぁ、あのままだと俺達、沖田君か土方に相当怒られてたぜ」


「本当ありがとな。俺、藤堂平助って言うんだ」


小柄の男は藤堂と言うらしい。がっしりとした体型の男は原田左之助、もう一人は永倉新八と名乗った。


「鈴です。この前から、此処で女中として働かせて頂いています」


「おお、お鈴ちゃんか。な、結構顔とか褒められるだろ?」


「馬鹿、左之、こんだけ神々しい面なら、皆直視出来ねぇだろ」


一人が馬鹿と言うと三人は、「お前も人の事言えねぇだろ」とか、「自分の名前の漢字も書けねぇくせに」とか言って、取っ組み合いを始めた。


(面白い人達だなぁ…)


そう思いながら鈴は、笑みを溢した。世間では荒くれ者と言われる浪士達が、蓋を開けば、ただのお調子者だなんて。

そんな鈴を見て、なぜか三人は目を輝かせている。一体どうしたのだろう、と鈴が目を向けると、三人が同時に口を開いた。


「「「か、…かわいい!!」」」


「え?」


思いもよらない言葉に、鈴は目を丸くするが、三人は口々に鈴を褒めちぎる。


「いやぁ、美しい顔だとは思っていたが、笑うと年相応に愛らしいなあ!」


「な!花が開いたみてぇだ!」


「もういっぺんやって!」


「え、わ、私はまだお掃除終わってませんのでっ」


「あ、逃げた」


「照れてるのも可愛い!」


「お鈴ちゃーん!!」


いよいよ鬱陶しいくらいになってきた。しかし、鈴もこういう者は嫌いではない。振り返って、口を開こうとした瞬間、思わず半歩後ろに下がった。


「げ…土方!」


()たぁなんだ、()たぁ」


目付きの悪い奴が来た。何度か話した事はあるが、鈴は土方が苦手である。

関わりたくない鈴は、離れた場所を掃除し始める。

憐れみの目を向けつつ、そのまま三人が叱られるのをぼーっと見ているのであった。



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