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バレたらおしまい!? ~新選組女中は元姫様~  作者:
文久三(1863)年 二月、浪士組~
5/13

京の都




「おぉぉ……」


思わず感嘆の声が漏れ、周りが振り返る。しかし、不審な者を見る目ではなく、田舎者を見るような生温かい目線である。


鈴は未だ何も決まっていないものの、取り敢えずは宿から出てみる事にした。昨日は疲れてぐったりだったのでわからなかったが、天子様のお膝元と言うだけあり、江戸よりもお上品な雰囲気がある。


(伏見城とか、近くにあるのかな)


生憎、座学にはあまり熱が入らず、一応この辺の地理は習った記憶はあっても自信がない。


その辺の寺で匿ってもらう?それとも茶屋か何処かで奉公させてもらう?


(……いや、どこもそんなに甘くないか)


どこの寺だろうと、金食い虫にタダ飯を食わせられるような財力は無さそうだ。特にこの情勢だし、何処にも金は無い。こんな役立たず、雇う店なんて無いだろうし。

本当に八方塞がりである。

溜息が出そうになるが、心の中で押し留める。弱音を吐くと、江戸に帰りたくなってしまう。

心なしか、空気が冷たい。春なのに、天気まで私を虐めるのかと、宛もなく、ぷらぷらとそこら辺を歩く。どうせ別の所に泊まるし、荷物もないので、迷子になろうが関係無い。

半ば自暴自棄になっていた所だった。


「あ!お鈴ちゃんじゃない?」


二刀を差した総髪の青年と、若干目付きの悪い、しかし女には好かれそうな顔した男が、こちらを見ていた。


「総司殿、昨日振りですね」


「あぁ、こんな早く会えるとはね。今日は何かあるの?」


「いえ。宛もなく歩いていました。どうせ縁のある者は居ないでしょうから、何処か働き口を探していたのですが」


「そうなんだ」


どうやら沖田は怪訝に思っている様子だ。鈴も沖田の立場なら、相当怪しむ。それこそ、子供の振りして浪士組に近付く間者か何かではないかと。


「総司殿、何処か、伝手はありませぬか」


「申し訳無いけど、僕達も此処に来たばかりだし……」


そこまで言うと沖田は、隣の男をチラリと見る。男はその視線に気が付くと、舌打ちせんばかりの顔で、小さく頷く。それを確認した沖田は、わざとらしく続けた。


「…あ!そうだ!!」


「何かあるのですか?」


「うん、そうだお鈴ちゃん、浪士組で女中をしない?」


「じょ、女中……?」


つまり、炊事・洗濯・掃除など、浪士組の家事全般を受け持つと言う事である。しかし、鈴は家事の経験は少ない。藩邸では、鈴に付いていた数人の侍女が交代でしていたからだ。

けれど、全く分からないと言う訳でもない。幼い頃から好奇心旺盛だった鈴は、家事なんかもやりたがった。仲の良い侍女はたまに簡単な事をやらせてくれていたし、ジジイも、私が幾度言っても辞めないので、早々に諦め、見るだけなら許してくれた。無論、見るだけな訳がないのだが。


おそらく、沖田達は鈴の監視の為に浪士組に誘ったのだろう。小娘一人、怪しい素振りを見せたらすぐ斬ってしまえばいい。鈴も、黙ってやられる気は無いが。


「分かりました。そのお話、有り難くお受け致します」


こうして鈴は、浪士組に雇われる事になったのだった。

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