前川邸にて
沖田は帰路を辿りながら、先程道案内をした少女について考えていた。
(年は十を過ぎたぐらいか?顔の割には背が高かったが…)
悶々と思案しながら歩いていると、少しして前川邸の門が見えてきた。明かりが点いていて、耳を澄ますと、男達の騒ぐ声も聴こえる。「 ただいま帰りました 」と小さく言うと、少し先にある部屋の前に、一人の男が立っていた。
「 総司、遅ぇぞ 」
「 すみません、土方さん。少し道案内をしてまして 」
「 道案内? 」
言い訳をすると、道案内と言う言葉に眉を跳ねたこの男は、土方歳三。沖田とは同門の剣術家であり、道場主の近藤勇らと浪士組に参加した一人だ。
「 ええ。変な子でした 」
「 娘? 」
「 違います、子供ですよ。女子なのは合ってますけど 」
「 貴方と一緒にしないで下さい 」とわざとらしく溜息を吐くと、また眉が吊り上がっていく。相変わらず、気の短い男だ。
「 で、何が可笑しいんだ? 」
「 そうですねえ…服はぼろぼろだったのに、髪は妙に艶があった事…とか? 」
「 偶々だろ 」
「 でもその子、訳があって故郷を追われたそうなんですけど、ほら 」
押し付けられた小判を見せると、土方はいつもは怖い目をまん丸にした。
「 なんでこんなのもってんだ! 」
「 貰ったんですよ。実は江戸からの道中でも案内をしたんですけど、その分も、と 」
「 …とても庶民には思えねぇな。餞別にしては、多すぎる 」
「 まさかどっかの良家の餓鬼なんじゃねぇのか?」と言う土方に、沖田は反論する。
「 お公家様や名主の娘さんにしては、鍛えてる感じだったんです 」
そう言うも、少し考えて沖田は「でも確かに、肌は白かったですね 」と言った。
「 無茶苦茶じゃねぇか 」
「 知りませんよ…まあ、あの分じゃまだ京に居るみたいですから、また会えますよ 」
呑気な沖田に土方は白い目を向けるも、沖田は知らんぷりをして、すぐそこの部屋に入っていった。
____お鈴はこの後、あの軽率な行動によって後々面倒な事になるが。
本人は知る由も無い。