茶屋
「 ふぅ… 」
長旅だった。思わず、息を吐いてしまう。やっとゆっくり座れるので、一息でも二息でも吐かせてほしい。
此処は茶屋で、とりあえず座って休ませてもらっている。
あの後、なんとか畦道を下り切った鈴は、とりあえず広い道に出たものの、土地勘は無し、かといって満身創痍でこれから歩く気力も無く。
どこか駕籠を手配してくれる場所を探していたのだが、慣れぬ道ですっかり困り果てていたとき、親切な若者が道案内をしてくれたのである。
現在地までしっかり教えてくれて、気遣いのできる男だったな、と思い返す。
目的地は近江で、母は其処で父と出会ったそうだから、なんとか匿ってもらえないだろうか、ということだ。
(にしても…此処は本当に近江か?)
若者に案内してもらった先で駕籠を頼み、近江まで乗せて行ってもらった。
近江の方の出身は従者にも多かったため、言葉には耳馴染みがある。しかし、この茶屋にいる人々の言葉はもう少し特徴的で、違和感がある。
かなり似ているが若干違う…此処はまさか近江ではない?
「 あの、 」
「 はあい? なんどす? 」
茶を運びに来た娘に、思いきって訊ねる。
「 こ、此処って…どこですか? 」
「 そりゃあんさん、京の… 」
そこから先は、あまり聞き取れなかった。聞こうとしていなかったのかもしれない。
怪訝な顔で茶を置き、向こうへ行ってしまう彼女。
(畜生、ぼったくられた)
あの野郎、行き先は近江と言ったはずだが、京の方まで来てしまった。最悪だ。今私が最も居てはならない場所じゃないか。
「 お客はん、どうしはりました? 」
「 …あ。すみません、注文…お団子3つ 」
「 はい。待っといて下さいね 」
金はまだあるが…どうしようか、もう今日は移動できなさそうだ。
そもそも、近江で母を探しても、見つけられるだろうか?というか捨てられたのに、今更匿ってだなんて、虫の良い話ではないか?
ともかく今日は、どこか宿を見つけなくては。
「 …はい、団子3つ。おまちどおさま 」
「 ありがとう 」
甘味が疲れた体に沁みる。六日くらい、まともに布団で寝ていなかったからだろう。
このままできれば、すぐに眠ってしまいたいところだ。
しかし、現実はそう上手くはいかない。
「 いたっ。あ、すみません! 」
旅籠を探して見知らぬ町を歩いていたところ、見るからに性根の腐った輩に肩がぶつかってしまった。
「 ってーな!…っておい、お嬢ちゃん、中々器量良しやないか 」
すぐに立ち去ろうとするも、手首を引っ張られてしまった。
「 ご、ごめんなさい…急いでるので… 」
「 そんなこと言わずに、一杯付き合ってーや 」
(急いでるって言ってるのに!)
周りに助けを求めようと見回すが、面倒事を避けるように、皆私達から目を逸らす。進んで面倒なことに首を突っ込むヤツなんていないだろう。このままでは日が暮れてしまう。そう、困り果てていたところだった。
不意に、後ろから声が降ってきた。




