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バレたらおしまい!? ~新選組女中は元姫様~  作者:
文久三(1863)年 三月、壬生浪士組結成~
12/12

筆頭局長




「……おい、女中」


「はい、何でしょう……って、芹沢局長」


庭先でボーッとしていた時だった。昼に背後から話しかけられたかと思ったら、珍しく、いつも八木邸に入り浸っている筆頭局長・芹沢鴨が居た。横に数人の、恐らく芹沢と同じく、水戸出身と見られる者達が付いている。指先がピクリと動いた。


「お前、年は幾つだ」


「はあ、十三ですが……」


鈴がそう答えると、芹沢は、ザッと踵を返した。


「付いて来い」


「分かりました」


(私、なんかしちゃった……?)


そう思いながら、黙って芹沢に付いて行った。






連れて来られたのは、八木邸_____もっと言うと、その子供部屋だった。取り巻き数人は別室で待つように言われ、二人で中に入る。

室内には、鈴と同じくらいの少年が居た。


「芹沢はん、その子誰?」


「コイツは浪士組の女中だ」


意外にも、彼は芹沢と打ち解けている様子だった。強面で酔っては手が付けられないと言う芹沢だが、案外素面は子供好きなのだろうか。


「へえ、わてと同じくらいやのに、奉公なんてえらいどすなぁ」


今度はこっちを見て、彼がそう言った。


「いえ、そんな……えぇっと、鈴です。改めて、これからよろしくお願いします」


「八木為三郎、此処の八木源之丞の次男どす」


「そんで俺が、筆頭局長の芹沢鴨だ。子供同士、仲良くやろうぜ」


後ろから芹沢が、肩を組んできた。衝撃を覚悟したものの、優しい感触に瞠目する。


「せや言うて、芹沢はんは子供とちゃうやん」


「細けぇことは気にすんなよ」


そんな掛け合いを見ていたら、徐に芹沢が立ち上がった。


「んじゃ、仲良くしろよ」


それだけ言うと、パタン、と襖を閉めて行った。


「えっと……為三郎さんでしたっけ……」


「おん、別にそんな畏まらんでもええで」


「そう。よろしく、為三郎くん」


「よろしくー」


(会話が続かない!!!)


微妙な沈黙が気まず過ぎる。目を白黒させる鈴に、為三郎が笑い掛けた。


「びっくりしたやろ?芹沢はん」


瞬きの後、その意味を理解する。


「そうだね。酔っ払ったとこしか見た事無かったし……」


「いつも絵描いたりして遊んでくれるんよ。……妹ともな」


僅かに目を伏せ、そう言った。確か、八木家の末娘は病で伏せっていた筈だ。


「そうなんだ」


「せや。おかんもおとんも、迷惑迷惑言うてもな、喜んどるんよ」


遊び盛りに遊べない辛さを鈴は知らない。周りにはいつも、沢山人が居た。思わず為三郎と一緒に、顔を俯けてしまった。


「あ……今、源之丞さんとお雅さんは居る?」


鈴は、何となく暗くなってしまった雰囲気を振り払う様に、そう訊ねた。


「え?確かどっちも居った気ぃするけど……どうしたん?」


「挨拶しようと思って。まだしてなかったからさ」


お前も一応挨拶しとけ、と、壬生浪士組副長になった土方にも言われていた。


「真面目やなぁ。ほな、付いて来ぃ」




「あぁ、アンタが女中はん。殊勝な心がけやわぁ」


「為三郎の一つ下やろ?しっかりしとるなぁ」


この八木邸の主・八木源之丞と、その奥方のお雅は、朗らかな人だった。


「えーっ、為三郎くん、私より上なの?」


「どう言う意味や、それ」


べしっ、と軽く頭を叩かれる。確かに自分でも失礼な物言いだったと思うが、どうにも年上には見えない。


「ほんとの事よー」


「なんやてぇ!?」


傍の八木夫妻が快活に笑い、鈴と為三郎も、堪えきれず吹き出す。


こんなに心の底から笑ったのは、いつ振りだろうか。


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