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第十三話

 半月に及ぶ波乱の航海を無事に終え新たなる都市エステリアへと辿り着いたソウタ達一行は、乗ってきた船の傍らでポカンと口を半開きにしてそびえ立つ天樹を見上げていた。夜明けと共に水平線の彼方に捉えた小さな天樹の姿は陸に近づくにつれて徐々にその大きさを増していき、夕刻港に到着する頃には雲に届く程の圧倒的な威容を示すまでに変貌を遂げていた。聖域の大樹と比べれば小ぶりだがそれでも異常な大きさである事に変わりはない。天樹の葉は聖域のものとは違い星空を切り取ったようなものではなく、普通の植物と同じような緑色の葉を付けていた。

 「アホ面下げていつまで突っ立ってやがる」

 ぶっきらぼうな渋い声にソウタが振り返るとそこには貨物船の船長ゼーマンと船乗り見習いのナウタが立っていた。ソウタは二人に向き直り微笑みかける。

 「まだ乗船のお代を払ってませんから、待っていたんですよ」

 「あぁ……そういえばそんな事も言ったな……いらねえよ」

 ソウタは驚きのあまりキョトンと目を丸くした。その反応にゼーマンは不服そうに目を細める。

 「……何驚いてやがる……お前らがいたからここまで辿り着けたんだ、命の恩人から金なんぞ取れるか」

 「それは……ありがたいですけど、よろしいんですか?」

 ソウタの問いにゼーマンはフンと鼻を鳴らし不満を露わにする。

 「良いも悪いもねえ、そもそも本来ならこっちから謝礼を払わなきゃならん程の事をお前らはしたんだ。それを受け取らねえってんならこれくらい黙って飲み込め……ったく……」

 眼光鋭く口も悪いがゼーマンなりの誠意として、ソウタはありがたく頂戴する事とした。

 「わかりました、ありがとうございます」

 「……礼を言うのはこっちだ、世話になった」

 スッと差し出されたゼーマンの手にソウタは笑顔で応え大きなその手と固く握手を交わした。手が離れるとソウタはゼーマンの少し後ろに立っていたナウタへと視線を送る。

 「ナウタも、元気でね……もう無茶したら駄目だよ」

 「わっ……わかってる……あの時は助けてくれて、ありがとう」

 お礼を言ってなかった、と少し気恥ずかしそうに俯くナウタともソウタは優しく微笑み固く握手を交わした。手を離すとソウタは突然そうだ、と何かを思い立ちミルドの持つ袋を漁り始めた。

 「ナウタこれ、よかったら船の皆で食べて」

 そう言ってソウタが差し出したのはあの酸味の爆弾……もとい、黄色い果実のシロップ漬けであった。

 「いいの?」

 「うん、かさばる荷物はなるべく減らしたいし……食べる時は皆一緒にね?」

 ソウタは人差し指を口元に添えて少し意地悪に笑った。ナウタもその意図を理解し笑顔で頷いた。そんなソウタとナウタのやり取りを隣で黙って眺めながら小さくため息を零したゼーマンは少し離れて立つウシオとミルドにも声を掛けた。

 「嬢ちゃんも旦那も、怪我の手当やら何やら……色々と世話になった、達者でな」

 「あくまで応急処置程度ですから、きちんとお医者様に見て貰って下さい。ソウタ共々、お世話になりました」

 穏やかに微笑むウシオはミルドと共に恭しく頭を下げ感謝を述べた。ほどなくしてウシオ達の元へ戻るソウタへゼーマンが尋ねる。

 「で、まずは組合か?」

 「そうですね、少し街を散策しながら組合で宿の場所を聞こうかと思います」

 「なら……」

 ソウタの返答を受けゼーマンはおもむろに街の方を指差し案内を始めた。

 「このまま真っ直ぐ行くと南北に走る中央通りに出る、道幅が広いからすぐ分かるはずだ。その通りを右に曲がって天樹に向かって進め、しばらく行けば左手に組合が見えてくる。ついでにそのまま真っ直ぐ、天樹の足元まで行けばエステリア教会本部だ」

 「詳細にありがとうございます」

 道案内に感謝を述べるとソウタ達は改めて姿勢を正しゼーマン達を正面に見据えた。

 「では……ここまで本当にありがとうございました。名残惜しいですが、どうかお元気で」

 「お前さんらもな。向こう半年は禁航期間でエステリアにいる、何かあれば訪ねてこい」

 「ソウタ、オレ……頑張って一人前になるから」

 「うん、応援してる。怪我には気を付けて」

 ナウタとゼーマンの二人に挨拶を終えたソウタはふと、二人の背後にこちらへ視線を送る大勢の人影がある事に気が付いた。二隻の貨物船の甲板やマスト、見張り台の上からも手を振っているのが見える。六十人近い船員達は揃って作業を中断し西日に照らされながら恩人との別れを惜しんでいた。ソウタの視線を辿り振り向いたゼーマンは舌を打ち鳴らしながらもどこか嬉しそうに、また人知れず髭の奥でそっと笑みを浮かべていた。

 ソウタは大きく息を吸い込むと両手を口元に添え、十五日間の苦楽を共にしたひと時の家族への別れを叫んだ。

 「皆さんお元気でー! お世話になりましたー!」

 海へ向けて放たれたソウタの声は六十倍の野太い歓声となって返りエステリアの港へ響き渡った。

 船員達の思い思いの別れの言葉を一身に浴びながらソウタ達三人はもう一度深々と頭を下げると、クルリと踵を返し一路組合を目指してエステリアの街へと歩み出した。五歩進んでは振り返って手を振り、十歩進んではまた振り返って、ソウタは船が見える限り何度も振り返って手を振り続けた。


 ソウタ達の姿が見えなくなった頃、港にはゼーマンの咆哮が轟いていた。船員達が中断していた荷降ろしに戻り港に忙しなさと騒がしさが帰ってくるとそこへ一人の男性が近づいてきた。

 「ゼーマン、今回もご苦労だったな」

 労いの言葉を掛けるその男性は貨物船の所有者でありゼーマンの雇い主でもある商人であった。ゼーマンが軽くお辞儀をして挨拶すると商人は街の方を見やり不思議そうにゼーマンへ尋ねた。

 「先程少し見ていたが、さっきの三人は何者だ? 随分と別れを惜しまれていたようだが」

 「恩人ですよ、我々全員の」

 恩人? と小首を傾げる商人へゼーマンは槍烏賊と遭遇した事や嵐に飲まれた事などを報告する、すると商人は何故無事なんだッ!? と目を丸くして驚愕に声を荒げた。ゼーマンはフッと鼻で笑いソウタやミルドの事をかいつまんで話して聞かせた。

 「ミルド……彼がそうか……! 少し前に商会で名前だけは聞いた覚えがある……いや、しかしだ……いくら凄腕とはいえ槍烏賊から一体どうやって……?」

 「まあ……詳しい話はまた後ほど……それよりも、一つ頼みたい事があるんですが」

 「頼みたい事……? 珍しいな、商売の話か?」

 「ええまあ……とりあえず……服飾用の布をありったけ集めちゃ貰えませんかね、糸も合わせて」

 ふむ、と商人は顎に手を添え視線をやや下に向けて思案しだした。

 「服飾用の布か……服なぞ今からの参入は難しいと思うが、採算取れる見込みはあるのか?」

 「専門外の分野なもんでまだ何とも。ただ……ひと風来そうな気配は感じます、動くなら早い方が良い。詳細はこの後酒でも飲みながらという事で」

 「そうだな、立ち話もなんだ。今日もいい酒を用意してある、槍烏賊からどう生き延びたのかも聞かせてもらうぞ?」

 そう言うと商人はゼーマンを引き連れ足早に港を去っていった。


 それから少しして、いつものように手慣れた様子で荷降ろしの進む船内にて――

 「よっ……と、こいつで最後だ」

 船の底、沢山の木箱や樽で埋め尽くされていた船倉で作業に当たっていた一人の船員がフウと汗を拭い空になった貨物室を見渡していると、もう一人の船員が肩を叩いて声を掛けた。

 「おいこっち、見ろよ」

 「ん……?」

 肩を叩かれた船員が振り返り示された先を見る……と、何もない床を見て二人は顔を見合わせ穏やかに笑い合う。

 「……次は縄捌きでも教えてやるか」

 「知らねえのかよ、ずっと前からあいつこっそり練習してんぞ」

 「ああ? まじかよ、なら次は……――」

 他愛ない話に花を咲かせひと仕事終えた二人の船員は船倉を後にする。静かな波の音が木霊する薄暗い船の底、小鳥は己と向き合い空を見上げ翼を広げた。多くの仲間達に見守られながら、高みを目指して羽ばたくその足元に落ちる影は淡く、やがては見えなくなるだろう――。



 港を離れゼーマンの指示に従って道なりに真っ直ぐ進んできたソウタ達は現在、エステリアの街を東西に分断する巨大な中央通り沿いに立っていた。

 エステリアは南北に長く広さは王都の倍ほどもある。交易と宗教の国というだけあって目に入る商店の数は尋常ではなく、また道幅も驚くほど広かった。夕刻という事もありちらほらと片付けを始めている出店なども見られるのだがそれでも港町の露店市とほぼ同等と言って差し支えない人の往来と活気に溢れている。ソウタ達の知る範囲の中で、ではあるが間違いなく異世界最大の都市であった。

 街並みはと言うと建物にそれほど統一感はなく木造やレンガ造りが乱立している。一階が商店で二階が住居といった感じの作りが多い印象である。またいたる所に花や樹といった植物が植えられておりとても緑豊かな心地よい景色が広がっていた。そして何よりも特筆すべきは運河の存在であろう。街なかで多くの荷物を運ぶ際主に用いられるのが荷車や馬車であるがエステリアではそこに船が加わる。張り巡らされた水路を使い効率的に荷物の運搬が出来るように都市が設計されているようであった。

 またこのエステリアにはもう一つ不思議な特徴があった。空から監視用鳥人形の目を借りて街を見下ろすと住宅地の外側、街を取り囲むような形で広大な農地が広がっているのだが、その外周部分に防壁と呼べるような建造物がほとんど見られなかった。北側には立派な防壁が確認できるのだが東と南は簡素な木の柵があるくらいでほぼ何もない無防備な状態であった。代わりと言って良いのか謎だが天樹の周りにはグルリと取り囲むように防壁が建ちその環の一部が大きな建物に繋がっていた、恐らくあれがゼーマンの言っていたエステリア教会本部であろう。東の畑の更に向こう側には山も見えていた。

 上京したてのお上りさんの如く周囲をキョロキョロと見回しながら幅の広い中央通りの端を天樹に向かって歩いていると、ソウタは街の人々からの視線にある違和感を覚えた。珍しい格好のよそ者に対する奇異の目がある事は言うまでもないのだが、その中にミルドに向けられた疑念や焦燥、苛立ちと言った不可解な感情がある事に気付く。一つ一つは些末なものであったが寄せられる数の多さは少々異常とも言えるほどだった。こちらを見ながら声を潜めヒソヒソと話をする者などもおり、組合に着くまでの間ソウタは気を張り詰めながら注意深く街と人を見て回るのであった。

 中央通りに出てから三十分ほど歩いた所でソウタ達はようやくエステリアのサポーター組合へと辿り着いた。三階建ての大きな建物に掲げられた看板には『組合本部』という文字が記されていた。入り口をくぐると内部は長方形のように奥に広く正面にカウンター、左に二階への階段と右奥に食堂のようなスペースが広がっていた。入り口左右の壁には依頼を張り出す掲示板が掲げられ、左から右に向かって一つ星から三つ星の順番に並べられていた。

 もうすぐ日が暮れる時間にも関わらず組合一階のフロアには多くのサポーターの姿が見られ、次第に見慣れないよそ者へと視線が集まってくる。ややザワザワと騒がしくなる中ソウタが気にせずカウンターに立つ受付の女性に宿の場所を尋ねていると突然、ソウタの右後方から怒声が上がった。

 「おい! 何でその剣をアンタが持ってんだよ、アンタ誰だ!」

 その声にソウタが振り向くと数人の男性達が興奮気味にミルドを睨み付けていた、どうやらミルドの持つ剣に何か関わりがあるようである。

 ソウタはウシオと顔を見合わせると間に入り仲裁を試みた。しかし事情を話す中で剣は拾ったものであると告げると男性達の熱量は更に増し余計に収拾がつかなくなってしまった。事情もよくわからず紛糾する状況にソウタも組合職員も困り果てているとそこへ階段の方から声がかかった。

 「随分と騒がしいですね、一体何事ですか」

 カウンター前に出来た人だかりが一斉に声の方へ振り向くとそこにはどこか気品漂う初老の男性が立っていた。小綺麗な服をサッパリと着こなす姿勢の良いその立ち居姿はどこかフィクションに出てくるようなベタな英国紳士を思わせる。

 「所長っ、あの……っ」

 受付の女性が状況を説明しようとすると所長と呼ばれた初老の男性はスッと右手をかざしそれを静止した。自身に向けられた視線を一つ一つ順番に確認していくとミルドに目を留めなるほど……と小さく呟いた。

 「皆さん、この件は一度こちらでお預かりします。よろしいですね?」

 初老の男性が穏やかにそう声をかけると興奮した男性達はお互いに顔を見合わせ渋々一歩下がって同意を示した。

 「……では、初顔のお三方……少々お時間を頂けますかな? こちらへ」

 そう言いながら初老の男性は左手で上を示しソウタ達を二階へ誘った。到着早々面倒な事になった……とソウタは小さくため息を零すと、刺さる視線を背中に受けながら促されるまま渋々男性の後を着いていくのだった。


 エステリアに着いて早々、組合を訪れるなり訳も分からぬままトラブルに見舞われたソウタ達は組合本部二階中央に位置する所長室に招かれていた。黒壇のような質感の高級感漂うソファに腰を下ろしテーブルを挟んで対面に座る初老の男性の言葉を待つ。

 「まずはご挨拶からしましょうか。私はこの組合本部の所長を務めております、フューラーと申します。以後お見知りおきを」

 所長を名乗った初老の男性フューラーは穏やかな表情で真っ直ぐに正面に座るソウタを見つめていた。背筋を伸ばした綺麗な姿勢とゆったりと緩慢な動きを見せるオーラからも極めて落ち着いている様子が窺える。ソウタも向けられた礼節に誠意を持って応え丁寧に自己紹介と挨拶を返した。

 滞りなく挨拶が済んだ所でソウタは早速自分達の置かれている状況に対する困惑を伝えた。

 「あの、ボク達まだ良く状況が飲み込めていないのですが……」

 所長フューラーは穏やかな表情のまま頷くとゆっくりゆったりと口を開いた。

 「そうでしょうね、それを説明するにはまず……ミルドさんの持つその剣について、お話しなければなりません。先に一つ確認させて下さい、その剣はいつ、どこで手にされたのでしょうか?」

 フューラーの問いにソウタは場所以外の一切を偽りなく答えた。聖域の島を海沿いの小さな村に変え番人ガルドを村民に変えて、流れ着き持て余していた所を譲り受けた……と言った感じに脚色する。

 「ふむ……小舟に乗った剣だけが流れ着いた、と……持ち主はそこにはいませんでしたか」

 「はい、我々はもちろんですが村の方も見ていないと思われます。お知り合いの物……という事でしょうか?」

 ソウタが尋ねるとフューラーは静かに頷きミルドに向けて剣を見せてくれないかと願い出た。ミルドはソウタが頷くのを確認し船に乗る際巻きつけた布を解くとそっとテーブルの上に剣を横たえた。フューラーはその大きな剣を端から端までマジマジと眺め、ほどなくして小さくため息を零した。

 「……どうやら、間違いなさそうですね」

 そう呟くように語るフューラーは少し悲しそうな顔をしていた。

 「……その持ち主の方というのは……有名な方なんでしょうか?」

 「……ええ……そうですね……彼の名はイロアス、このエステリアで彼を知らぬ者はそういないでしょう。なにしろ……この剣はこのエステリアという国から、彼個人に贈られたものですから」

 「国から……個人へ……? 何か、特別な素材で出来ているとか……?」

 ソウタが驚きながら目の前の剣をマジマジと見つめているとフューラーは控えめに笑みを浮かべ首を振った。

 「いえいえ……職人が丹精込めて作った物ですが、物自体はただの大きいだけの剣ですよ。彼の体格や戦い方に合わせてこうなりました、ミルドさんと同じくらい大柄な男でね」

 フューラーは穏やかに微笑みミルドにその人物の面影を重ねるように遠い目を向けていた。

 「……国中から慕われていたんですね」

 ソウタはフューラーの表情や先程の男性達、街の人々の反応を思い返しながら少し胸を痛め大きな剣に目を落とした。顔も知らない人物を思い肩を落とすソウタを見てフューラーは静かに口元に嬉しさを滲ませた。

 「それはもう……魔獣の驚異から幾度となくこの国を救ってくれた、彼は間違いなくエステリアの英雄です」

 「……その方は小舟で海へ出たんですか? 失礼かもしれませんが破天荒と言うか、中々に無茶な方だなと思うのですが……」

 多少控えめにしつつもソウタの忌憚のない言葉にフューラーもやや困ったような笑顔を見せた。

 「ソウタ君の仰る通り、小さい頃からやんちゃな子でした。実の所彼が海へ出る姿を見た者はいないのですが、書き置きがありましてね……『果ての島を見てくる』……と、綴られていたそうです」

 「果ての島というのは?」

 ソウタの問いにフューラーは視線と左手でソウタ達の右後方を示した。ソウタ達が振り返ると入り口の扉横の壁一面に額縁に入った大きな地図が掲げられていた。精緻に描かれたエステリア周辺と少々大雑把ながらも王都の方までを含めた全体を描いた大陸図、そして下の方にも陸地が見切れるような形で描かれていた。

 フューラーはゆっくりと地図へ近づいていくとソウタ達の方を振り向きながら指でエステリアを指し示した。

 「この辺りがエステリアですね、果ての島というのは……こちらです」

 そう言ってフューラーが示したのは下部に見切れている陸地であった。ソウタが地図を自作する為に飛ばした人形もこの大陸の南東方向に他の陸地がある事を確認している。

 「その果ての島には何があるんでしょうか?」

 ソウタが尋ねるとフューラーはわかりません、と首を振って即答した。ゆっくりとした足取りでソファへ戻りながら問いへの答えを続ける。

 「陸地があるという事は古くから知られているのですが……目指した者は数多くいても、戻ってきた者は未だ嘗て一人もいないのですよ」

 「そんな所へ小舟で向かった……という事ですか、その方は……」

 「どうやら……そのようですねぇ」

 ソファに戻るとフューラーはゆっくり腰を下ろしながらフウとため息を零した。

 「その方はいつ頃エステリアを出られたんでしょうか?」

 「確か……収穫祭の少し前でしたから……丁度一年程前でしょうか」

 「結構最近なんですね……」

 苦笑いを零したソウタは咳払いを一つ挟むと意を決し改まって踏み込んだ事を尋ねる。

 「フューラーさんはその方が……亡くなったと、お考えですか?」

 フューラーは穏やかな笑みを浮かべたまま寂しそうにテーブルの上の剣へ視線を落としゆっくりと深呼吸した。

 「……この剣を贈られた時、彼はとても喜んでいました。年若い彼が亡くなってしまったとは、考えたくもありませんが……」

 フューラーは言葉に詰まり小さなため息で締めくくった。物悲しい表情とオーラを浮かべ暗く沈む沈黙を、ソウタは振り払う。

 「誰も戻って来た事がないのなら、今正に果ての島にいる可能性もまだ捨てるべきではないと思います」

 元気付けようと気遣うソウタの言葉にフューラーはゆっくりと視線で応えると穏やかに微笑み深く頷いた。

 「……そうですね……誰も姿を見ていない以上、今はまだ無事を祈りましょう」

 そう語り顔を上げたフューラーはソウタの心遣いに頭を下げ感謝を述べた。フューラーと再び視線を交わした所でソウタは一つ提案を持ちかけた。

 「図々しいのを承知の上でお願いがあるのですが、もうしばらくこの剣を我々に持たせていてもらえないでしょうか?」

 「ふむ……それは、どうしてでしょう?」

 ソウタは自分達が旅の途中である事、エステリアの次にリーミンを目指す予定である事、そして東の端まで行った後は故郷へ帰る為来た道を戻る事を説明した。

 「王都からここまでの道中では剣の持ち主の情報は耳にしませんでしたが、各地を渡り歩いている我々の方が珍しいよそ者という意味でも目立ちますし、その方の情報に触れる可能性は高いと考えます」

 リーミンまで行き再びエステリアへ戻ってくるまでの間に持ち主に遭遇、ないしは情報が得られなければその時改めて剣を返還する。自分達の所在がわかっていれば仮に持ち主とすれ違いになっても遭遇しやすいだろう、とソウタは必死に映らないよう気を配りながら淡々と話して聞かせた。

 「本音を言えば代わりを探す手間が惜しいだけなんですが……如何でしょうか?」

 ソウタの話を静かに聞き入っていたフューラーは目を細め唐突にフフッと口元をほころばせた。

 「まあ、元々返せなどと言うつもりはないのですが、中々説得力のあるお話でした。お若いのにしっかりとしておいでだ」

 ソウタはその発言に驚き目を丸くした。

 「先程の方々の興奮具合を見ても、てっきりこの場で取り上げられるものと思っていたのですが……」

 「彼を目標にしてサポーターになった者も数多くいますから、そう言った者達にしてみれば心穏やかではなかったかも知れませんが……説明はこちらでしておきましょう、どうぞお持ち下さい」

 ホッと胸を撫で下ろしありがとうございます、とソウタが頭を下げるのも束の間、フューラーはただ……、と重々しく付け加えた。

 「先程リーミンへ向かうと仰っていましたが……しばらくは難しいと思います」

 「……何故でしょう?」

 またトラブルか……と内心うんざりしながらソウタはフューラーの説明を待った。おもむろに立ち上がったフューラーは再び地図の元まで歩くとソウタ達へ振り返りリーミンを指し示した。

 「こちらにリーミンがあります。エステリアとリーミンの間には険しい山岳地帯が広がっていますので、南を迂回して行かなくてはなりません」

 説明の途中でフューラーは両手を後ろに回しソウタ達へ向き直ると唐突に街を往く人の多さに驚いたでしょう、と微笑んだ。突然の質問に戸惑いながらもソウタは頷いて答える。

 「はい、大きな都市は他に王都しか知りませんが、比較にならないほどです」

 「それもそのはず、現在エステリアには多くの避難者が押し寄せて来ているのですよ」

 「避難者……?」

 深く頷いたフューラーは再び地図を見て山岳地帯の南部を指し示す。

 「エステリアからリーミンへの道中には二つの町があります。砦から発展してできたその町の住民達がほぼ全員……避難民として今エステリアに来ているのです」

 町二つ分の住民がほぼ全員という事は恐らく数万人規模の避難という事になる。ただ事ではないのは考えるまでもなかった。

 「それだけの避難となると……魔獣絡みですか?」

 ソウタが尋ねるとフューラーは何も言わずゆっくりとした足取りで部屋の右奥にある机の元へ行き紙を一枚手に取り、またゆっくりとソファに戻ってくるなり彼はその紙をソウタへ差し出した。ソウタが受け取った紙は白く、上部には大きくシンプルに『危険』と書かれていた。中央には鋭い獣の目だけが描かれ下部に書かれた文字をソウタが読み上げる。

 「白の……王……」

 簡素なデザインの白い紙はシンプルだからこその迫力を訴え掛けていた。ソウタが紙をじっと見つめているとソファに座り直したフューラーが説明を始める。

 「少し前から、リーミン南部に位置する半島を縄張りにするようになりました」

 「半島……?」

 ソウタはもう一度振り返り壁の地図を見た。フューラーの示したリーミンの位置から数百キロ南に島のような半島がある、半島の大きさは港町とエステリアの間の海域よりも広く二つの砦町とは海で隔たれていた。

 「……白の王と言うのは鳥の群れか何かですか? 砦町とは海を挟んで離れていますし、半島も縄張りと言うには随分広いですが……」

 「わかりません……群れなのか個なのかすらも。わかっているのは燃え盛るような白い姿をしている事と……人の手には負えないという事だけです」

 ソウタは改めて手に持った白い紙に目を落とし描かれた鋭い獣の目と視線を交わしていた。


 それから少しして話を終えたソウタ達は剣を柄まで布で包み隠し身支度を整えると所長室を去るべく扉の前に立っていた。フューラーに向き直ると三人揃って恭しく頭を下げる。

 「それでは、お騒がせして申し訳ありませんでした」

 「お気になさらず、それよりも……元々はどのようなご用件だったのでしょう? 依頼を受けに?」

 フューラーの問いにソウタは首を振って否定し宿の場所を聞きに来た事を伝えた。

 「宿ですか、それは困りましたね……先程申した通り避難民で溢れていますから、殆どの宿は満室でしょう」

 なるほど……と唸ったソウタがどうしようかと隣に立つウシオと顔を見合わせているとフューラーは一つの案を提示した。

 「宿のようにとは行きませんが、もしお困りの時は教会本部を訪ねてみて下さい。きっと相談に乗って下さると思います」

 「わかりました、ありがとうございます」

 ソウタがもう一度頭を下げ感謝を述べるとフューラーはそのまま組合の入り口まで付き添いソウタ達を見送ってくれた。外へ出ると日はすっかりと落ち空は真っ暗になっていた。通りには大きなランタンのような街灯が点々と立ち並びかなりの広範囲を明るく照らしている。教会へと向かうソウタ達を手を振って見送ったフューラーは去りゆく背中を見つめながら一人そっと呟いた。

 「手紙の通り……しっかりした良い子ですね、リデル……さて……」

 フューラーは組合入口の方へと目を向け団子のように固まってソウタ達に鋭い視線を送るサポーター達を見ながらため息混じりに微笑んだ。腰に後ろ手を回しゆっくりとした足取りで組合に戻ったフューラーはその後小一時間の間サポーター達から質問攻めにあうのだった。



 ゼーマンの案内を思い返しながら天樹に向かって進み教会を目指す傍ら、ソウタは道行く街の人々を見ていた。日が暮れているにも関わらず人の往来は未だ衰えず、大通りは活気に満ちていた。店の軒先には色とりどりの飾りのようなものが多数ぶら下がりお店の人も買い物客も会話に花を咲かせ高揚しているようで、街はさながらお祭りのような雰囲気に包まれている。

 「避難民が多数いるとの事でしたけど、あまり悲観的な雰囲気ではありませんね」

 「うん……むしろお祭りみたいだ」

 街の雰囲気を不思議に思いながら人混みをかき分け歩いていると突然、ウシオの胸元から大きな欠伸が聞こえてきた。目を向けると小さな生き物がモゾモゾと服の隙間から顔を出し続けざまに伸びをしていた。

 「……またどこかへ遊びに行ってるのかと思ったら、寝てたのスイカ」

 「んー……ねてたー……」

 ポワポワと寝ぼけたままふわりと宙へ浮かび上がったスイカはそのままフラフラと高度を下げるとソウタの頭の上に不時着した。

 「夜はこれからなんだけど?」

 「んー……ここどこー……?」

 「エステリア、いつまで寝ぼけ」

 「すやぁ……」

 「まだ寝るの……猫かな……」

 小さな妖精の呆れた奔放さに口元をほころばせながら和やかに歩き続ける事約三十分、やがて緩やかな曲線を描く大通りの先に大きな建造物が見えてきた。

 教会という言葉の謙虚さとは裏腹の厳格で精緻な佇まいはもはや大聖堂と呼ぶに相応しいものであった。五芒星のように配置された五つの尖塔が輪を描く内側に十字形の聖堂と複数の建物が収められている。尖塔の天辺にはそれぞれに三角形八面から成るひし形の立体的なオブジェが飾られていた。建物の背後には巨大な天樹がそびえ立ち、宵闇に浮かび上がる生命力に満ち溢れた姿からはより圧倒的な存在感を圧し付けられる。

 教会正面の開けた広場に差し掛かった所で、ソウタは教会の前に立ちこちらを真っ直ぐ見つめている二人の男性の存在に気が付いた。温厚そうな男性とやや険しい表情の頑固そうな男性、おじさんと形容して差し支えない容姿に二人共同じローブのような服装をしている事から教会関係者である事がわかる。ソウタは一度足を止めキョロキョロと周囲を見渡してみた。近くには他に誰もおらず間違いなく自分達を見ていると確認したソウタはやや警戒しながらもゆっくりと二人の男性の元まで歩を進めた。

 その男性二人は目の前で足を止めたソウタ達の容姿を一人ずつ上から下へ、また下から上へと順番に確認すると突然妙な事を言い始めた。

 「……旅のお方、お待ちしておりました。御子様がお待ちです、どうぞこちらへ」

 温厚そうな男性がそう言うと頑固そうな男性は険しい表情を崩さないまま何も言わず、二人してスタスタと教会の方へ歩いていってしまった。

 「待っていたというのは……どういう事でしょう?」

 「…………」

 ソウタはウシオの問いに沈黙で答え去りゆく二人の背中を見つめながら思考を走らせた。エステリアには少し前に着いたばかりであり知人などいるはずもない。考えられるとすれば船長ゼーマン率いる船員の誰か、もしくは組合関係者であろう。ゆっくり歩いてきたので先回りされた可能性は否定できない、しかしソウタ達がいつ教会を尋ねるかは誰にもわからないはずであった。

 「(行き交う人混みの中にも怪しい人物はいなかった……御子とは誰だ……?)」

 教会の扉前でこちらを振り返り待っている男性二人を鋭く見つめながらソウタは小さくため息を零した。

 「わからないけど……様を付けて呼ぶくらいだから偉い人だろうし、色々と聞けるいい機会かもしれない。行ってみよう」

 見上げるようにウシオと視線を交わしたソウタは改めて教会とその背後の天樹を見据え、気を引き締めて教会への一歩を踏み出した。


 大きな扉をくぐってまず最初に目に付いたのは人であった。教会の中は所狭しと身を寄せ合い地べたに座り込む人々で溢れかえっていた。大聖堂と呼ぶに相応しい天井の高い広々とした空間は本来の神聖さとはかけ離れた陰鬱な空気が立ち込めている。

 「ここにいる人全員……避難されてきた方達ですか?」

 溢れかえる人の多さに面食らって足を止めたソウタの問いに二人の男性も足を止め、温厚そうな男性が振り向きざまに答える。

 「ええそうです、ご存知でしたか。皆、アルクスとフルリオからの避難者です」

 「(アルクスにフルリオ、砦町の名前か)フューラーさん、サポーター組合の所長さんに伺いました……周囲の壁に描かれているのは?」

 ソウタは座り込む人々から少し視線を上げ壁面を流し見た。教会内部の壁には一面絵が描かれていた。古い抽象的なタッチをしているが何となく意味は読み取れそうである。壁画は下段と上段に別れ、下段は左端から右端まで一周埋まっているのに対し上段は左側の途中までしかなかった。

 「これはエステリア教会の歴史、その成り立ちや時代ごとの象徴的な出来事を描いたものと伝わっています。こちらから始まりグルリと……」

 そう話しながら温厚そうな男性は入ってすぐ左手の壁から時計回りに、示す手を回しながら自身も回ってみせた。

 「……つまりあそこが現在を描いている場所、という事ですか」

 そう告げるソウタの視線は左前方斜め上に向けられていた。作業をしている者はいないが視線の先には木で組まれた足場が掛かっていた。途中と思われる輪郭だけの絵の中には横たわる大きな菱形の何かが描かれている。

 ソウタが壁画をマジマジと眺めているとこれまで黙っていた頑固そうな男性が初めて口を開いた。

 「申し訳ないが御子様をお待たせしておりますので、お話はこの辺で」

 そう言うと頑固そうな男性は一人先にスタスタと行ってしまった。温厚そうな男性もどうぞ、とソウタ達を先へ促し頑固そうな男性の後を追う。置いて行かれたソウタ達は周囲からの視線に居心地の悪さを覚えつつ、ゆっくりとした足取りで慎重に歩を進めるのだった。

 教会の一番奥、左右に配された扉の左をくぐり目の前の階段を上って二階へ、教会の祭壇裏と思われる場所に案内されると二人の男性はソウタ達にそこで待つように言い残しどこかへと去ってしまった。待たせていると言う割にすぐ会えないテンポの悪さにモヤッとしながらも、ソウタは案内されたミュージカルの舞台のような空間に興味の矛先を向けた。

 左右対称の空間、目を引くのは天樹を見上げられるように張られた球面状の大きなガラス窓。天樹から目を下ろすと正面には少し高い位置に玉座のような椅子の置かれた四足の台座が座し、奥壁面に沿って弧を描くように連なる階段状のスロープによってソウタ達のいる二階と三階へ繋がっていた。またスロープも台座も周囲の壁一面も全体を薄いカーテンのような布に覆われており、壁に備えられたランタンの明かりが間接照明のように照らし出す空間は薄暗くも神秘的な雰囲気をかもし出していた。足元にも目を向けると王都のシスターモニカに見せてもらったエステリア教徒の証や大金貨に描かれているものと同じ、巨大な樹と五つの星の模様が大きく描かれていた。

 ソウタとウシオが一緒にキョロキョロと部屋を見回していると不思議な感覚にウシオが呟くように口を開いた。

 「ソウタ、ここの空気……覚えがありませんか?」

 「空気……?」

 部屋の空気に意識を向けてみるとウシオの言う通り確かに既視感を覚え、ソウタは記憶の奥底へと問いかけた。思考を巡らせる中でふと伏せていた視線をゆっくりと上げ天樹を見上げたソウタは覚えた既視感の出どころを突き止めた。

 「……聖域の森だ、あの場所に似ている」

 異世界に来て最初に降り立った巨大樹の周囲に広がる不思議な森、そこに住む人々に聖域と呼ばれていたあの森の空気とこの空間の空気はとても良く似ていた。なるほど、と得心がいったウシオと一緒になって見上げる天樹は宵闇の中仄かに淡く光を纏っているように見えた。


 しばらく天樹を眺めているとそこへお待たせしました、と先程の男性達が戻ってきた。上ってきた階段の方へ目を向けると先程の二人に加え、一人男性が増えていた。頑固そうな男性と温厚そうな男性、そこにビクビク怯えたような臆病そうな男性が顔を連ねている。この臆病そうな男性もまたおじさんと形容して差し支えない容姿をしており先の二人と同じ服装に身を包んでいた。三人の男性はソウタ達から少し離れた所に並んで立つと掌を持ち上げるようにスッと真っ直ぐ上を指し示した。その手に導かれるように玉座と三階を結ぶスロープの左上を見上げたその時――シャンッ!? と甲高い金属音が頭上から降り注いだ。

 見上げた先、音と明かりを伴って現れた人影は三人。音も明かりも前と後ろの背の高い人物が担っているようで真ん中の小さな人物は何もしていなかった。しかしその真ん中の人物を視界に捉えた瞬間、ソウタは跳ねる心臓を抑え込み胸の内で瞬時に警戒レベルを最大まで引き上げた。本来あるはずのもの、生物である限り必ず持っているもの、ソウタの目が常に捉えて離さない生命力の揺らぎ、オーラが……その人物にはなかった。ソウタの異変に気付いたウシオも同様に警戒を強めるも両者共に誰にも悟られぬようそっと息を殺した。

 ゆっくりと階段を降りてきた三人は背の高い二人を両脇に侍らせると背の低い一人が粛々と椅子に腰を下ろした。衣擦れの音一つしない静寂は鈴を転がしたような可愛らしい声によって唐突に破られる。

 「お初にお目にかかります。私はフィリア、ここエステリア教会で御子の位を務めております。布越しでの失礼をお許し下さい、以後お見知りおきを。長らくお待たせしてしまい、また急にお呼び立てをして申し訳ございませんでした。驚かれたでしょう? あなた方のお噂を聞いて是非一目お会いしたいと考えておりました、お目にかかれて光栄です」

 オーラの見えない異常性とは打って変わって、御子を名乗るその口から紡がれる可憐な声は正しく年若い少女のものであった。良い姿勢をやや前に傾け少し興奮気味に語られる内容は極めて礼儀正しく、悪意らしきものは露ほども感じられない。

 ソウタはすぐ隣に並び立つ三人の男性にも気を配りながら手短に挨拶を返すと少しずつ探りを入れる事にした。

 「我々の事は誰から、どのように聞いたのでしょうか? エステリアに着いたのはほんの少し前の事なのですが……」

 「皆さんのお話を聞いたのは五日ほど前の事です。風の妖精を連れた不思議な方々が海を渡ってくると、この子達から聞きました」

 そう語った御子がスッと手を胸の高さまで上げるとその場にいる全員、三人の男性や両脇の近衛らしき二人すらもが驚愕し御子を見た。とりわけソウタの衝撃は凄まじく大きく目を見開き言葉を失っていた。想像しなかったわけでも想定していなかったわけでもない。しかしこれまで一度たりとも遭遇する事はなく噂を聞く事すらなかった為頭の片隅に追いやっていた……自分達と同じ、『妖精を視認する者の存在』。それが今初めて少女の姿をして現れ、目の前で淑やかに座っていた。

 御子の少女フィリアがそっと上げた掌の周りには三つの光が集まっていた。ぼんやりと浮かぶ赤、黄、青の仄かな光。フィリアがその手をソウタの方へ差し伸べると漂う三つの光はゆったりとした動きで徐々にソウタの方へと近づいてきた。

 赤い光はネコ科の獣のような姿の、黄色い光は石の塊に輝く目が付いたような姿の、青い光はタツキこと水の神を小さくしたような姿の、それぞれがデフォルメされたマスコットのような個性的な姿を取りフワフワとソウタの目の前を漂っていた。

 強い警戒と御子の衝撃的な発言、現状への分析と対処といった押し寄せる情報処理にソウタがフリーズしかかっているとその全てを吹き飛ばす嵐のような絶叫が鼓膜を震わせた。

 「わああああああああ――!? 何これ! これ誰! ここどこ! あれは何いいいい……ッ!?」

 言うまでもないだろうがその声の主はスイカであった。ずっとソウタの頭の上で寝ていたスイカはにじり寄る妖精達の視線の圧に目を覚ますやいなやパニック状態となり、飛び跳ね起きて絶叫しながら部屋の中を縦横無尽に飛び回った。締め切った室内に突如巻き起こる風に三人の男性と近衛達がどよめく中ただ一人、フィリアだけは両手を合わせ目を輝かせて歓喜に打ち震えていた。

 「まあ……すごい! 人の姿であるだけでなくおしゃべりまで出来るだなんて!」

 「ひ、姫様! これは一体、何が起きているのですか!」

 「ノヴル! アンブル! 御子様をお守りするのじゃ!」

 「わあああああ……あ……ん? 今誰か私の話した……?」

 「……なに、これ」

 ワイワイガヤガヤと混沌とする眼前の光景を目の当たりにした事でソウタはかえって冷静さを取り戻す事が出来ていた。頭の中でごちゃごちゃとしていたものが大きなため息と共に口から零れ落ちる。

 一方ソウタの心情など露知らず、混乱から急に落ち着きを取り戻したスイカは自身を真っ直ぐな瞳で見つめる見も知らぬ少女の元へ降り立ち首を傾げていた。

 「もしかして……私の事見えてる?」

 スイカが不思議そうに尋ねるとフィリアは感極まった様子で瞳を潤ませ満面の笑みを浮かべて何度も大きく頷いた。

 「はい、見えております! 初めまして、私はフィリアと申します!」

 「わぁ! すごーい! 私! 私ね、スイカ! ソータが付けてくれたの! じこしょーかい? するの私初めて!」

 「あぁぁ、お名前まであるなんて……スイカ様、素敵なお名前です!」

 御子と妖精の花咲く女子トークに呆気を取られ妖精が見えない故に御子の一人芸を呆然と眺める周囲一同の中一人、ソウタは目を閉じ額に手を当てて状況把握に努めていた……或いは現実逃避していた。二人だけの世界に入り込んでいたフィリアもそんなソウタの様子に気付くと一転して手を口元に添え慌てた様子で謝罪を口にした。

 「あっあのっごめんなさい、もしかして……見える事、隠していらしたり……」

 閉じていた目を開きゆっくりと顔を上げ申し訳無さそうな前のめりのフィリアを見たソウタは一つ深呼吸をして心を落ち着けた。一連の言動全てが何か悪意を持っての事とすればもはや大したものである。

 「まぁ……構いません、言う必要と機会がなかっただけですし……妖精は誰でも喋るわけではないんですね」

 少し諦めたような、或いは気の抜けたようなソウタの表情を見てフィリアはホッと胸を撫で下ろし笑みを浮かべた。

 「はい、うちの子達は喋る事は出来ませんが様々な方法で意思の疎通を取る事ができます」

 フィリアの元に戻った赤、黄、青の光は翠の光を取り囲みクルクルと回りながら少しずつ舞い上がっていった。フィリアとソウタ、ウシオが上っていく妖精達を眺めているとそこへ、傍らに立つ頑固そうな男性から強めの語気で不満が飛び出した。

 「……突然旅の者と会いたいなどと言い出したかと思えば妖精を連れた者とは……何故黙っていたのです、御子様!」

 キッと鋭い目を向ける頑固そうな男性にフィリアはムッとむくれたような声ですかさず反論した。

 「話せば招いて頂けないとわかっていたからですっ! もう、どうしてそう頑固なのかしら……」

 「頑固とはなんですか! 我々は先代から御子様を託されているのです、もし御身に万が一の事があれば……」

 「それはもう聞き飽きましたっ! そもそも、妖精達は無垢で純粋なものです! 妖精を連れた方が悪い人であるはずがないのです!」

 「そんなものわからないでしょう! 妖精が見える者など我らは御子様しか知らんのですから、中には妖精を連れた悪い輩もいるかも知れんでしょうが!」

 「まあまあ……客人の前ですよ、二人共落ち着いて……」

 やいのやいのと言い合うフィリアと頑固な男性を温厚そうな男性がなだめる、その様子を蚊帳の外から呆けた目で眺めていたソウタはドッと気疲れを感じていた。戻ってきたスイカののんきな声が頭の上からソウタを気遣う。

 「ソータおつかれ?」

 「……おかげさまで……はやくねたい」

 紛糾する統括理事会の会議をぼんやりと思い出しながら、ソウタは天樹を見上げフー……と浮かんだ幻を吹き消していた。


 「……えー、ごほん……大変お見苦しい所をお見せしました、お恥ずかしい限りです……」

 静謐を取り戻した空間にフィリアの気恥ずかしさに塗れたか細い声がじんわりと染みていく。未だ鼻息の荒い頑固な男性をチラリと一瞥するとソウタは気を取り直して用件を尋ねた。

 「それで……妖精を連れた者達に会いたい、というのが用件の全てでしょうか?」

 「あ……その……はい……仰る通りです……つまらない用件でお呼び立てして、申し開きもございません……」

 フィリアはただでさえ小さな身体をこれでもかと丸め縮こまって謝罪を述べた。であれば、とソウタは折角の機会を活かすべく聞きたい事があるとフィリアに申し出た。

 「あっはい、もちろん構いません。誠心誠意お答えさせて頂きます」

 「ありがとうございます。まず最初に伺いたいのは……コレについてです」

 そう言いながらソウタは一歩下がり足元の紋様に視線を落とした。

 「コレというのは……教会の紋章の事でしょうか?」

 「はい、王都のシスターにも伺ったのですがご存じなかったので……上部に描かれている五つの星が何なのか、という質問です」

 ソウタが言い終わると横に並び立つ男性達はお互いに顔を見合わせその場に妙な空気が流れ始めた。そんな変な事を聞いただろうかとソウタが考えているとフィリアのワントーン下がった真剣な声が答えではなく質問を返してきた。

 「申し訳ありません、ソウタ様。一つ確認をさせて頂きたいのですが、王都とはオルレオン王国のお話に間違いございませんか?」

 「……ええそうです、海を越えた港町の西の先にある王都です」

 答えた瞬間、ソウタは空気が張り詰める感覚を覚えた。三人の男性達も息を呑み御子であるフィリアを見上げている。フィリアは先程までとはまるで別人のような凛とした声色で三人の男性達を問いただした。

 「王都への布教活動は失敗に終わり、現在は様子を見ながら次の機会を窺っている……そういうお話ではありませんでしたか?」

 「ええ、我らもそのように記憶しております」

 それを聞いたソウタは耳を疑い、微かに目を細め刺すような感情を腹の底に押し留めた。

 「……ソウタ様、王都にはエステリア教会がありシスターがいる、という事でしょうか?」

 フィリアの言葉を受けその場の全員の視線がソウタに注がれる。ソウタはゆっくりとフィリアを仰ぎ見ると煮え立つ腹の内を抑えつつ淡々とした表情で口を開いた。

 「います。親を亡くした五人の子供達の面倒を、たった一人で見ている」

 「……なんてこと……すぐに活動記録を確認して下さい、今すぐです!」

 「はっ、直ちに……っ」

 フィリアの指示を受けた温厚な男性と臆病そうな男性は慌てた様子で来た道を戻り階段を駆け下りていった。走り去る男性達を冷ややかに見つめながらソウタは尚も攻め立てるように追及を続ける。

 「ご存じなかったのですね……本部に認知されれば、支援なども期待して良いのでしょうか」

 「もちろんです、こんな……知らなかったで許される事でしょうか……っ」

 フィリアは声を震わせ涙を溢しているようだった。オーラが見えない為その真意を知る事は出来ないが階下に降りた男性達が戻ってくるまでの間、薄布の向こうで涙する少女を見つめ続けていたソウタはほんの少しだけ煮え立つ思いを鎮めていた。我ながら単純だと自嘲気味にため息を漏らしているとバタバタと慌ただしく足音を響かせ男性達が帰ってきた。二人の手には帳簿のような物が見える。

 温厚な男性はセカセカと手を動かしペラペラと帳簿をめくっていくと目的の文字を指差して手を止めた。

 「あぁ、ありました。王都での布教活動は五年前に始まっております、その後は……三年前に断念との報告が入ってますな」

 「その報告をした者は一体誰ですか、連れてきなさい!」

 フィリアの怒声が響き渡ると温厚な男性は帳簿を隣の臆病そうな男性に見せ、別の帳簿から個人の特定を図った。しかし……。

 「も、申し訳ありません……現在は帝国へ派遣されているようでしてその、エステリアにはおらぬようで……」

 臆病そうな男性がビクビクとフィリアの顔色を窺いながらボソボソと答えると、フィリアは目を閉じ俯いて首を振っていた。漏れ出る吐息の音が重く染み渡る中、次に口を開いたのはソウタであった。

 「二人共、ですか?」

 周囲一同の視線が集まるとソウタは並ぶ男性達の方へ視線を向け尚も続けた。

 「ボクの聞いた話では当事者は司祭とシスターの夫婦であった、と……二人共帝国へ行ったのでしょうか?」

 ソウタが尋ねると臆病そうな男性はフィリアを見て答えるべきか判断を仰ぎそしてすぐに、答えなさい、と怒った声色と口調で叱りつけられた。

 「ぁ……えぇ…………いえ、帝国に派遣されたのは司祭のみです。夫婦かどうかはわかりませんがシスターは……ほぼ同じ時期にアルクスへ派遣されています、はい……」

 「つまりシスターの方は今エステリアにいるはずですね、砦町の住民は避難してきていますから」

 ソウタが釘を刺すように告げフィリアが後に続いてすぐに探しなさい! と檄を飛ばすと再び温厚な男性と臆病な男性の二人は慌てた様子で階下へと駆け下りていった。盛大に溜息を吐くフィリアを諌めるように頑固な男性が語りかける。

 「御子様、少し落ち着きなされ。急いた所で何も変わりませぬ」

 「本部からの支援もなくたったお一人で大変な思いをされている同胞がいるのです、落ち着いてなどいられますか!」

 「だから落ち着きなさいと申しておるのです! まもなく禁航期間、船も止まり帝国への道も閉ざされたまま……今出来る事は何もありませぬ」

 再び言い合いになるかと思われたがフィリアが言葉に詰まり押し黙った事であっさりと幕は閉じた。薄布の向こう、オーラは見えなくとも悔しさを滲ませている事は感じ取れた。

 ソウタはうなだれる御子ではなく一人残った頑固な男性の方を見やり会話を試みた。

 「こちらからも帝国へは入れないのですか」

 「……ええ、こちらからも……という事は、やはり王国側も同じか」

 頑固な男性は視線も鋭くオーラこそ警戒の色を示しているものの存外反応は悪くなかった。オーラの見えないフィリアよりは相手にしやすい、という事でソウタは頑固な男性との関係構築に意識を向ける事にした。

 「何の情報も入っていないんですか?」

 「断片的ではあるが情報だけは聞き及んでいる、だが対岸の事だ……確認までは取れておらんのが現状だ」

 頑固な男性は腕を組み不満を滲ませた。ただの質問のつもりだったが煽りに聞こえたかも知れない、とソウタが次の言葉を慎重に選んでいるとそこへフィリアが口を挟む。

 「ソウタ様、もし何かご存知であれば王国側でどうなっているのか、お聞かせ願えますか?」

 ソウタは頷いてフィリアの申し出を受け入れ王国側での帝国との状況を知っている範囲で事細かに話して聞かせた。国境の橋が崩落した事及びその原因、そして再建の協議の為の王国からの手紙に一切の返事がない事などを伝えるとフィリアも頑固な男性も顔を見合わせ沈黙した。男性のオーラを見るに特別驚いている様子はなく、概ね事前の情報通りなのであろうとソウタは読取った。

 「司祭の派遣などもしているわけですから、帝国とは敵対関係ではないんですよね」

 「はい、多少こじれた時期もあったようですが現在は良好な関係を築けていたと、少なくとも我々は考えております」

 エステリア側に渡っても依然帝国で何が起きているのかはわからないものの穏やかな状況でない事は確かである。面倒事にだけは巻き込まれないように気を付けなければ、とソウタが胸に深く刻んでいると頑固な男性からもため息が零れた。

 「まぁ……当事者の一人はこちら側にいるのですから、詳細もすぐわかるでしょう。禁航期間が明け次第支援を送れるよう、準備だけでもこちらで進めておきます」

 「はい、よろしくお願いします。ソウタ様、お話の途中で申し訳ありませんでした……紋章の星が何を意味するのか、でしたね」

 思い掛けない展開ではあったがとりあえず王都の、モニカ達の話はここまでと言う事でソウタは後ろ髪を引かれる思いを振り払い小さくため息を一つ零して気持ちを切り替えた。

 「はい、そのまま星を意味すると言うのは王都で聞きました。何故五つなのでしょうか?」

 「確か……古い伝承が元になっているとかだったと……申し訳ありません、うろ覚えで……アニード、覚えていますか?」

 フィリアは初めての名前を口にしながら頑固な男性の方を見ていた。名前の主はやや間を置いて咳払いを一つすると揺らめく動揺を隠し偉そうに口を開いた。

 「その程度の事であれば、教会の書庫でご自分で調べればよろしい」

 分からなかったんだな、と男性の動揺をその目で看破しつつ教会の書庫を見せてもらえるという願ってもない申し出にソウタは謙虚さを見せながら飛びついた。

 「それは……ありがたいお話です、よろしいんですか?」

 「本来であれば信徒しか閲覧する事はできんが……よろしいですか、御子様」

 「もちろんです、エステリア教に関心を持って頂けるのは大変に喜ばしい事、断る理由はございません」

 ソウタは身の程をわきまえた謙虚さを演出すべくしっかりと頭を下げ感謝を述べた。ウシオとミルドも後に続く。加えて嬉しい事に急な呼び立てのお詫びとして教会の一室を一夜の宿として貸してもらえる事になり、ソウタは重ねてしっかりと頭を下げた。


 話が一段落した所で頑固な男性アニードが会談の幕引きを図るとソウタは慌てて食い下がった。

 「あっあの……差し支えなければもう少し、お聞きしたい事があるのですが……」

 「まあ……ふふ、ソウタ様はとても好奇心旺盛なんですね。私にわかる事であれば何なりと」

 そう言って胸に手を当てお淑やかに答える少女。異世界で初めて遭遇するオーラの見えない人間、教会の御子フィリア。妖精も視認する彼女の事を探らないなどという選択肢はない。重要な役職に就く彼女と話をするこの得難い機会を無駄にするわけには行かない、とソウタは熱意の籠もった真剣な目でフィリアを見つめまくしたてるように問い掛けた。

 「御子と言うのはどういった役職なんでしょうか? 随分とお若いように見えますがいつ頃から御子を? またお話をしたい時はどうしたら良いでしょうか?」

 「ぁ、えっと……」

 「お待ちを」 

 フィリアが口を開こうとした所で頑固なアニードから待ったが掛かり目を向けるとその険しい表情が真っ直ぐにソウタを見据えていた。

 「御子とは、我ら教会の象徴とも言うべき大切なお役目です。謁見を希望される場合は申請と献金をお願いします。それと……御子様個人へのご質問は遠慮して頂きたい、よろしいですね?」

 「あ……すいません、失礼しました……」

 「い、いえ……」

 静かに、しかし確かな怒気でたしなめられたソウタはこの貴重な機会を棒に振る所だったかもしれない、と一人胸の内で冷や汗を垂らした。俯いたフィリアに謝罪しひっそりと深呼吸をして気持ちを落ち着けるとでは最後に一つだけ、と前置きを置いてソウタは謙虚で無難な質問を送った。

 「教会の壁画について……今新しく描かれている菱形のもの、あれは一体何を表しているんでしょうか?」

 ソウタからしてみれば当たり障りのない、されど気にはなっている場繋ぎ的な質問のつもりであった。しかしフィリアとアニードの反応は妙なもので、意味ありげに両者は静かに視線を交わすと確かな緊張感を纏ったフィリアの凛とした声がゆっくりと答えた。

 「あれは…………『星』です」

 「御子様」

 視線を交わしはしたもののお互いの認識には齟齬があったようで、アニードが改めて口を挟むとフィリアは小さく首を振って反論した。

 「調査は終わっているでしょう? 散々調べて何も出なかったのですから、もうよいでしょう」

 アニードは大きくため息を吐いた。不満はあるが観念したという様子で目を閉じたアニードを確認すると、フィリアは改めてソウタへ視線を向け畏まって姿勢を正した。

 少し長くなるかもしれませんがよろしいですか? と尋ねるフィリアへソウタも妙な緊張感に改めて姿勢を正すとはい、と深く頷いた。

 「それでは……十年ほど前の事です、お聞かせしましょう……落ちた星のお話を――」

 「(落ちた……星……?)」



 窓の外に淡く輝く天樹の元、赤は飛び跳ね駆け回り、黄は緩やかに漂って、青は優雅に舞い踊る。思い思いに揺らめく光が示すのは、邂逅の喜びか、或いは緊張の戸惑いか。

 綴り重なる人の営み、さざめく枝葉は語り部の如く、隙間に覗く星を映して、翠の瞳は爛漫と瞬いた――。

第十三話、お読み頂きありがとうございます。橘月りんごです。

後半スタートしました。登場人物なども一新され情報量が多く目まぐるしいですがどうかお付き合いください。

メタ的に当然ではありますが後半は第一部の核心に迫って参ります。クライマックスに向かって盛り上げていきますのでこの十三話以降も楽しみにして頂けると幸いです。

御子とは何者か、星とは何なのか。ソウタ達の旅の本番を、今後ともよろしくお願い申し上げます。

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