アリとキリギリスと俺
夏の温度をほのかに感じれる秋頃、太陽は南中高度へ上がろうとしている。
アリ達は冬へ備えるために働き、キリギリス達は
この秋を謳歌しようと羽音をかなで、俺は昼休みが故に弁当を食べている。
そんな平日の光景に一石を投じる者、もとい一石を投じるアリがいた。
『なあ、キリギリスさん方、これから冬が来ると言うのになぜあんた達は余裕綽々と出来るんだい?』
真偽は知り得ないがその言葉に皮肉めいた物を感じる。
「なぜかって?それはこっちの言葉だね、なぜお前達がそんな必死になって働いているのか、私には分からないよ」
そう言うキリギリスには苛立ちを隠している様子が見られる。
『そんなのこれから来る冬に備えるためさ』
それを聞いたキリギリスが呆れ顔になる
「すまないね、私の聞き方が悪かった、私が聞きたいのは虫の一生と言う限りなく短い時間をなぜお前達は働く事に費やせるかってことだよ」
その問いにアリも嘲けるような顔をして言う
『はっ、そんなことかい、それは僕達アリが女王アリの元に生まれ、子孫繁栄のために身を捧げることを誓ったからさ。』
「忠誠か、ご立派な事だ、働いて死んでその子孫繁栄とやらの糧になるといいよ」
『ところで、さっきも聞いたが僕はあんた達が余裕にしている理由が知りたいよ』
「僕はただこの一生を好きなように過ごしたいだけさ、忠誠とやらに踊らされてるどこかの誰かさん達の様には間違ってもなりたくないね」
キリギリスはそう言いながら働くアリ達を見下ろす。
『まあ良いさ、そう余裕をこけるのも今の内だ、後になって僕達を頼っても僕達は聞かないからね。
孤独に寒さと死んでいけばいいさ』
太陽は真上にのぼり議論もそろそろ締め場。俺は油っぽい弁当の飯を書き込む。その様を見てかキリギリスが俺に問う。
「なあ、そこの人間、さっきから私たちの話を聞いていたようだけど、お前はどう思うんだ?」
弁当のゴミをまとめて俺は一歩を踏み出す。
「「え?」」
そんな言葉を聞き俺は足の裏にこびりついた虫達の死骸を眺める。
秋の平日のお昼時、いつもの光景だ。