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第3話 ジト目ボクっ子TS幼女弓使い「ニア」

 「……」


 全身に感じる冷たい空気。身を切るような風が、私の意識を急速に高めていく。


 うっすらと朝日が届くようになった中庭で精神を統一させる。毎朝の鍛錬は欠かさない。これから行う戦闘のイメージはペドリアスドラゴン。私が戦った中でも五指に入るほどの強敵だった。


 イメージ上でペドリアスドラゴンを作り上げる。


 巨大な体躯に大きな翼。薄いグリーンの瞳。そして……舌先が無数に割れ、触手のようになっている謎の器官。この触手で何人もの旅人が犠牲になったという。


『ペドオオオオオオオン!!」


 私を見たペドリアスドラゴンが興奮したように襲いかかってくる。そう。ペドリアスドラゴンは、一般には知られていないが第二形態がある。それが幼女を目にした時。


 私もヤツとの戦闘中に第二形態を味わった。突然乱入した魔女ヨージョカによって今の姿に変えられた時だ。ペドリアスドラゴンは突然興奮し、その無数の触手で襲いかかって来た。


「ペドオオオオオオ!!」


 放たれる無数の触手。あれに絡め取られると、装備を全て引き剥がされてしまう。あの時の私も危うく捕食されるところだった。


 だが。


「今は違う!!」



 スパンスパンスパァン!!



 触手の隙間を縫うように舞い、手にした剣で確実に触手を切断していく。



「うおおおおおお!!!」


「ペドッ!?」



 ヤツの頭上に舞い上がり、剣を構える。面食らうドラゴン。私が倒した時の再現。そして、その眉間に思い切り剣を突き刺した。


「ふん!!」



 ズシャッ!!



「ベドォ……」


 (くや)し涙を流しながら朝焼けに消えていくドラゴン。剣についた邪気を払い、(さや)へとしまった。


「ふぅ。流石にこの体での戦いにも慣れた。仮に別個体がいたとしても苦戦はしないだろう」


「……朝から戦闘訓練?」


 声の方を向くと、そこにはニアが立っていた。ジトリと相手を射抜くような眼光に青い髪。軽装鎧にマント……そして背負われた弓。その姿は朝焼けの中、ひときわ輝いているように見える。


「朝の鍛錬をしないと落ち着かなくてな」


 極力爽やかに見えるよう笑みを浮かべる。ここで戦闘一辺倒の寡黙(かもく)な者だと思われてはいけない。


 爽やかに見えるよう努めよう。あくまで爽やかに。


「そ、そそうなんだ……すごいね……」


 しかし、ニアの目はなぜか視線を彷徨(さまよ)っていた。



「……何で裸なの?」


 ニアの頬が薄らと赤くなる。その視線を追うように体に目を向けると、薄い丘が2つに白い肌が目に入った。


 しまった。誰も来ないと思ったからこの時間に庭に来たのに。戦闘に集中していて裸体であることを忘れていた。


「ペドリアスドラゴンとの戦いを再現する為だ。討伐した時に私は裸だったからな」



「ペドリアスドラゴン!? あの噂は本当だったの!?」



 突然声を荒げるニア。彼女は私を真っ直ぐ見ると顔を赤くし、そのマントを差し出して来た。


「ま、マント……風邪ひくよ……そのままだと」


「ありがとう。ニア」



◇◇◇


 その後。ニアにせがまれドラゴン討伐の話をした。


「……それで、戦闘の最中にその体に?」


「そう。ヨージョカの呪いだ。そこから一気に戦況は不利になった。装備が体のサイズに合わなくてな」


「そこからどうしたの?」


「ペドリアスドラゴンの触手に装備を奪われ、全身を拘束された。だが、捕食しようとドラゴンが口を開けた瞬間、足元に剣があることに気付いたんだ」


「それで、ドラゴンの隙をついて?」


「ああ。触手を捻じ切りドラゴンの顔面を串刺しにしてやった」


「すごい……ボクもこの体に慣れるまで大変だったのに……」


「そういえば、ニアもヨージョカに?」


「……うん。部下を引き連れた魔女に村が襲われてね。ボクの故郷の人たちはみんな幼女にされたんだ」


 ニアが手を握りしめる。


「ひどい有様さ……皆精神まで幼女にされちゃったせいで村は崩壊。散り散りに里親や教会のところに行く事になった」


「その中で君だけが精神を維持した者……ロリババァとして覚醒したと?」


「……うん」


 そうか。だからニアはその称号が嫌いなのか……村を襲った悲劇を思い出すから。


「何より辛かったのは父さんが幼女にされた事だった。あんなに強かった父さんが、可愛らしい姿で泣きながら助けを求めるんだ。そんな姿なんて……見てられなかった」


「ニア……」


「ヨージョカの呪いは一度かかると元には戻らない。だから……ボクは復讐の為にロリヴァーナイツに入ったんだ」


「復讐……か。私と同じだな」


「アレックスも?」


「私はもっと単純だ。自分がこうなったことへの復讐さ」


 両手を開くとマントがハラリと落ちる。ニアは再び顔を赤くしてマントを差し出した。ハッとして再び体にマントを羽織る。


「そ、そっか。アレックスらしいね」


「私は単純だ。今よりさらに強くなって、戦う。それしか無い。それで誰かが救われるならそれでいい」


 ニアの鋭い眼光が、少しだけ優しくなる。


「君なら……ヨージョカを倒せるかもしれない。なぜだか分からないけど、そう思うよ」


「違うだろ?」


「え?」


「私()なら倒せる。だろ?」


「ふふっ。そうだね」


 ニアはおかしそうに笑った。



◇◇◇



 その日の午後。私はロリス王に呼ばれ謁見(えっけん)の間へと向かった。


「アレックス殿。昨日は派手にやり合ったようだな」


「申し訳ございません。私の力を見せる必要がございました」


「良い。ことの顛末(てんまつ)は知っておる。私もそこに立ち会いたかったほどだ」


 ロリス王の瞳に慈愛の色が浮かぶ。


 嬉しい。ロリス王に認められ、なお私の力を見たいと言って貰えるなど……戦いに明け暮れた過去の私に聞かせてやりたい。


「ありがとうございます」


 嬉しさのあまり笑みを浮かべてしまう。ロリス王は、それに合わせるようにニコリと笑った。


「王に笑いかけて頂けるとは……感激です」


「ハッ!? いやいや、うむ……そうだな。貴殿を一目見るだけでワシは若き頃のように胸が、あ、いや……いやいやいや!」


 ブンブンと顔を振ると、ロリス王は再び威厳ある顔付きへと戻った。


「コホン。それで、ロリヴァーナイツの状況はどうだ?」


「ゼフィー、ニアは私を認めてくれました。その他4名は顔合わせにすら応じてくれなかったようです」


「ふむ。ガーラは自室に篭ってしまっている。他の者達にも何か事情があるのかもしれぬ」


 困ったものだ。早く騎士団としての活動を始めたいのだが……このままでは魔女本体にも辿り着けないだろう。


「不満そうな顔をしているな」


「いえ。早く魔女の手先を倒したいと」


「素晴らしい心がけ……そうであろうと思ったのだ。だからこそ貴殿を呼んだ。新生騎士団(ロリヴァーナイツ)に初の任務を与えようと思ってな」


「任務? 我らは今3人しかおりませんが」


「我が騎士アレックスならできると信じている」


 王が熱い視線で私を見つめる。顔まで赤くして、よほど私に期待をしているのだろう。騎士を名乗るものとしてこれに応えなければ。



 (ひざまず)き。王の瞳を真っ直ぐ見つめ返す。



「我が主ロリス王よ。何なりとお申し付け下さい。私を見初めて下さった(あるじ)の為ならば、私はどんなこと(・・・・・)でもやってみせましょう」



「おぉ……なんと……そのような言葉を聞けるとは。私ほど幸せな者はこの世界におるまい」



 王が感嘆の声を漏らす。そして、じわりと涙を浮かべる。


 ん? 王が泣くほどのことだろうか?


 いや、それほどまでに私を信頼してくれているのだ。それに疑問を持つとは、恥を知れアレックス。


 私は心の中で己を叱咤(しった)した。


 王は再び顔をブンブンと振るうと、私に命令を下す。



「ロリヴァーナイツにはオサナイ村に行ってもらう」



「そこには何が?」


「どうやらここ数日オサナイ村が魔物に襲われているとの情報があるのだ……」


「魔物……その様子では通常の魔物とは違うようですね」


「そうだ。よもや魔女自身が現れたとは思えんが」


「分かりましたロリス王。我らにお任せ下さい」


 こうして、私、ゼフィー、ニアの3人はオサナイ村へと向かった。






 オサナイ村へと向かうアレックス達。そこでは一体何が起こっているのか……?



モンスター図鑑


悪食竜(あくじきりゅう)「ペドリアスドラゴン」


 この世界最強の魔物と噂される飛竜。その舌は触手のように枝分かれしている。捕食時に獲物を捉える為に使うと言われているが、何の為に使われるのかは定かでは無い。


 なお、幼女を前にすると強くなる第二形態があるという伝説があるが、その姿を見た者は誰もいない。


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