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第九話 緊急依頼

 「グレイ、どうするの?」

 「そうだなぁ、今日の所は帰ってもいいかもな。」

 「夜ご飯は?」

 「俺が予定通り作る。材料は買わなくても大丈夫だ。」

 「何を作るの?」

 「ガベッジロールだ。この間、トラッシュ地区で食ったのが美味かったからな。それを真似してみようかと思ってる。」

 「いいね。楽しみ。」

 「ここに若い奴らがいないのも気になるし、また後日にでも

 「ふざけんなッ!!!」

 マシロと今日の予定を話し合っていると、二階の方から女性の怒声が聞こえてきた。それから重い何かが床に落ちたり、ガラスの割れる音が複数回聴こえた。

 「ちょっと待って!ね?一回落ち着いて話を

 「うるさい!あんただって皆と同じなんでしょ!?」

 二階の部屋から出てきたのはマックスと呼ばれた青年と栗色の髪の女性だった。その声から先程の酔っぱらいと同一人物だとわかる。

 「あぁもう!外で飲んでくる!・・・ふんっ!」

 不機嫌に階段を踏み鳴らしながら一階へ降りてきた女性は、こちらを見つけるとバツが悪そうに視線を泳がせながら建物から出ていった。

 「お騒がせして申し訳ありません。」

 「あぁ、いや、大丈夫だ。誰だってイライラする時はある。」

 「イライラで済めばどれだけ良かったか・・・ははは。それで・・・若い人達がいない話でしたよね。皆さん、近くに新しく建った集会所に移ってしまったんです。」

 「そういくつもあるものなのか?この・・・魔獣狩人(ハンター)とやらの集会所は?」

 「基本的には各街や村に一ヶ所です。魔獣の狩猟、討伐や素材は勇者庁が管理しています。そして領主は勇者庁から組織の任命権を与えられているのです。」

 「要は集会所とやらを開くにも勇者庁?と領主の許可がいる訳だな。なんでそんなものが新しく建ったんだ?」

 「不運が重なったと言いますか・・・。ここを仕切っていた代表が死んでしまったんです。その騒動の中で代表を引き継いだのが、別の地域で狩人(ハンター)をしていた代表の娘でした。しかし集会所を運営するには経験も浅くトラブルばかり。そんな時に別の集会所が出てきたものですから段々と人はそちらに流れていって、残っていてくれた人達も背に腹は代えられず・・・。もしかしてこれは全て仕組まれていたのかも、なんて考えたりもしましたけど今さらです。」

 「ならさっき出ていったのは・・・」

 「はい、現代表のエトナ・カリュシュカです。実は私、彼女とは幼馴染みでして、こちらの集会所の話を聞いて居ても立ってもいられなくなりまして。前の仕事を辞めてこちらに飛び込んだんですよ。」

 「最近の事しか知らないってのはそういう事だったか。」

 これはまた複雑な話だ。しかし基本的に一ヶ所しか許可されていない魔獣狩人(ハンター)集会所が新しくポッと出てきて、尚且つこちら側にはトラブルばかり。これは仕組まれていると考えても頷けてしまう。きっと市長辺りに金を積んだのだろう。

 「街から受けたライセンスも、もうじき取り上げられるでしょう。継続する為に出された条件はあまりにも滅茶苦茶だったので。なので聞きたい事は新しい集

 「なっ、なんだこの音は!?」

 「うるさい・・・」

 マックスの言葉をかき消す様にけたたましい爆音が鳴り響いた。爆音は鳴り止まず二度三度と連続し、遂には重低音をたてながら離れていった。

 「まさか!?」

 マックスは慌てた様子でバタバタとどこかへ行ってしまう。あの音には聞き覚えがある。そう、この街へゴミを運び込んでくる自動車の音だ。貧困者ばかりのこの街では人や動物が引く荷台車が主だが、富裕層の住む北区では当たり前の様に走っている。きっとここでは魔獣の死体を運んだりする為に所有されていたのだろう。

 「うぉぉ〜ッ!!かっけぇ〜!!グレイ兄ちゃん!見た!?輪っかが二個しかなかった!」

 「輪っかが二個?車は四個付いてる筈だろ?カズラの見間違いじゃないのか?」

 「違っげぇ〜よ!本当に二個だったって!姉ちゃんも見たろ?」

 「うん、見たよ。それにすごく小さかった。」

 「そうか、う〜む、そういうのもあるのか。」

 鼻息荒く窓ガラスに張り付いていたカズラが妙な事を言い出した。車輪が二つしか付いていなかったと言うのだ。そんな不安定そうな物は見たことが無い。しかしアネモネも見ているのなら実在しているのだろう。実は色々な種類の自動車が世の中にはあるらしい。

 「なんてことだ・・・」

 そんな雑談をしているとマックスが入口から入って来た。いつの間にか外に出ていたらしい。その足取りはどこかぎこちなく、何か思い詰めている様子だ。

 「大丈夫?なにかあったの?」

 それにいち早く気づいたマシロが声をかける。するとマックスは最初にマシロを見てから、次に俺に視線を移す。

 「いや・・・駄目だ・・・そんな・・・・・・でも・・・早くしないと・・・くっ!お二人は・・・どれくらい強いんですか?」

 「どうしたんだ急に?」

 「緊急事態なんです!どれくらいですか!?狼は?熊は?魔獣と戦った事は?」

 「おいおい、急な話だな。ネズミの魔獣くらいなら駆除した事はあるが、狼や熊は街に出ないからなぁ。あとはそこら辺のチンピラ連中か。マシロはどうだ?」

 「熊みたいな大男なら。あ、市場で暴れてた猪なら倒した。」

 「猪か、そんな事があったのか。どんな感じだったんだ?」

 「グレイは他の仕事中だったから。野生動物は凄いね。反応速度が人とは比べ物にならなかった。あと美味しかった。」

 「食ったのか?」

 「市場の皆と。脂が甘かった。野生味(ワイルド)な味。」

 グッと親指を立てるマシロ。味はともかく、野生動物の反応速度はやはり人間とは段違いだ。一度くらいは猪とも戦ってみたい。

 「・・・・・・本当に急な話で申し訳も無いんですけど・・・今から一仕事受けて貰えませんか?」

 マックスはとても言い辛そうに、絞り出すように言った。言葉には複雑な感情が含まれている様に感じる。

 「一仕事か。内容はなんだ?あんまり無茶なのは無理だ。子供も連れてきているしな。」

 「彼女を、エトナを連れ戻すのを助けて欲しいんです。彼女の父親はある凶悪な魔獣に殺されたんです。倉庫にあった筈の装備も無くなっていたので恐らくは街の外にその魔獣を倒しに向かったんだと思います。未だに魔獣狩人を返り討ちにし続けている化け物なのに。」

 「グレイ、助けてあげよう?」

 「う〜む・・・わかった。ただし魔獣を倒すんじゃなくて人を連れ戻すだけだ。」

 恐らく断ってもマックスは一人で向かうのだろう。それにマシロの目が、自分だけでも行くと言っていた。そんな事をさせる訳が無い。本心は凶悪な魔獣とやらに興味があるのだが、今はそんな事よりも人命を優先すべきだ。

 「本当ですか!?ありがとうございます!」

 「グレイ兄ちゃん何かするのか?」

 「あぁ、さっき飛び出していった人を連れ戻してくる。」

 「なんだそれ!面白そうだな!早く行こうぜ!」

 「駄目。危ないんだって。カズラとアネモネはお留守番。」

 「えぇ〜!?二人だけずるいってぇ。あ痛っ!」

 「カズラ我儘言わないの。」

 「すぐゲンコツするの止めろってーの!暴力反対!」

 目を輝かせたマックス。そこへカズラがやって来る。しかし連れて行く事は出来ない。街の外がどれだけ危険かを知らないし、魔獣とやらがどれだけ凶暴かも分からない。そんな心中を察し、カズラがヒートアップする前にアネモネが止めてくれる。

 「分かってくれ。お前達を怪我させたりしたら親父さんに、いや、俺が俺自身を許せない。」

 「・・・わかった。」

 「アネモネもありがとうな。」

 「うぅん。でも怪我したり、死んじゃたりはしないでね?」

 「あぁ、ちゃんと帰ってくる。約束だ。」

 姉弟の頭を撫でてやる。血は繋がっていなくとも家族としての繋がりを感じる。絶対に約束を守り、無事に帰って来なければならない。

 「それじゃあ子供を家に送ってくる。それからで良いか?」

 「はい、こちらも準備がありますから。ただ早めには出発したいですね。」

 「心配しないで大丈夫だ。すぐに戻って来る。」

 不安を払うようにマックスの肩を軽く叩いてやる。この細身の体では戦う事はできないだろう。だが彼は自ら危険へと飛び込もうとしている。それにはどれだけの勇気が必要か。マックスもエトナも、俺もマシロも。皆が無事に帰ってこれる結末になるといいのだが・・・

 

 

 

 

 

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