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第六話 当初の目的

 「ごちそうさん。良い店だった。」

 「だろう?安いし美味いし客もいない。料理の見た目に目を瞑れば通い易い。あぁ見えて店主も心配性で大人しい奴なんだから驚きだ。」

 「見た目か。確かに個性的ではあったな。今度は親父さん達も連れて行きたい店だ。」

 ゴンザレスに案内された店は少しだけ個性的な飲食店だった。小さな店内に客の姿は見当たらず、空席が出迎えてくれた。店主は無口で無愛想だったが、ゴンザレスは構わず注文をするとすぐに調理を始めたのだった。そして短時間で料理を完成させる。出てきたのは、実に・・・個性的というかグロテスク・・・とまではいかない?形容しがたい謎の一皿。見た目に面食らっていると、隣のゴンザレスは既に食べ始めていたし店主に凄い形相で睨まれていたしで恐る恐る口へと運んだ。結果として味も匂いも食感も、どれを取っても満足のいく美味さであった。安心したのか店主は良い笑顔で厨房の奥へ消えていった。

 「それじゃあ手紙は渡したから俺は行く。」

 「ちょっと待ってくれ。」

 「まだ何かあるのか?」

 「そうだ。さっき店で手紙を読ませて貰ったんだが、それにはお前さ・・・君の検査をして欲しいって書かれてた。」

 「俺の・・・検査?」

 「あぁ。手紙にはもう一人?の方も検査して欲しいとは書かれていたんだが、そっちはすぐには無理だろう?とりあえず君から、グレイ君からと思うんだが。」

 「それは時間がかかるのか?暗くなる前には南区に戻りたい所なんだが。」

 「結果が出るまでは時間が必要だが、検査自体はすぐに終わる。簡単な検査と血を採るくらいだ。」

 「それくらいなら終わらせるか。親父さんにやってくれって言われたなら断る理由は無いしな。」

 「研究所は近くにある。こっちだ。」

 体調が悪かった訳では無いのだが、親父さんから検査を受けるように書いてあったのならば受けなければならない。だから直接手紙を渡すように頼んでいたのだろう。この機会に自分の体の事を知れるのは好都合なのかも知れない。主に今日起きた事柄ばかりではあるが、瘴気への耐性や異常な腕力の謎が解明されるのならば無駄に悩まなくて済むようになる。手紙にはマシロにも検査を受けさせたいと書かれていた。それについては親父さんから本人に伝えるだろう。病気だとかそういう体調では無いので近日中に受けさせればいいだろうか?

 「ここだ。」

 「これが・・・研究所?」

 「だろうな。俺もそう思う。とりあえず入ってくれ。」

 再びゴンザレスの後に付いていき、到着したのは何の変哲もないもない石造りの民家だった。研究所と聞いてもっと凄い外観を予想していたのだが、期待を裏切られてしまった。しかしゴンザレスは何か含みのある表情で民家の扉に手を掛けた。

 「階段?ここは民家じゃないのか?」

 「驚いただろ?民家は借りの姿ってやつだ。まぁ、普通にこっちから入れるんだけどな。」

 玄関から入ってすぐに地下へ降りていく階段があった。左右には扉が付いていて、そこを開けると普通のリビングやキッチンがある。

 「秘密基地みたいだ。カズラにも見せてやりたいな。」

 「おっと、この場所は他言無用だ。秘密じゃなくなるからな。」

 「そうか、残念だが仕方ない。」

 隠したものが暴かれれば秘密では無くなってしまう。幼少期の頃の記憶は無いが、秘密基地という存在には心をワクワクさせる響きがある。そう、それは秘密だからなのだ。

 そうして階段を降りていく。真っ直ぐに降りていく。上にある民家の敷地からは完全に離れただろう。やがて金属製の頑丈そうな扉が現れた。ゴンザレスが壁にある機械に何かを読み込ませると鍵が外れる音と共に自動で扉が開いたのだった。

 「・・・はははっ、これは凄いな。何に使うのか全く分からん」

 飾り気の無い壁と床。部屋を埋め尽くす勢いで並べられた見たことも無い機械群。

 「本当は関係者以外立ち入り禁止なんだ。だから手早く済ませよう。そこに座ってくれ。」

 「この椅子か?」

 「先に血を採るから腕を伸ばしてそこに置いてくれ。そう、血管は・・・ははっ、元気な血管じゃないか。よし、じゃあ少し痛いぞ〜・・・・・・」

 「血管に元気とかあるのか?」

 「どうしても血管が細くて見えにくい人もいるんだ。そういう人は注射が扱い辛くて大変だ。だからグレイ君みたいに血管が太いと嬉しくなってそう言うのさ。うん、良い血の色だ。そういえばディアナは元気にしてるか?」

 「ディアナ?ってのは誰なんだ?家族と言えば血の繋がってないアネモネとカズラとマシロしかいないぞ?」

 「ん?ディアナだって。ジダンの奴と結婚した俺達の・・・」

 「親父さんが結婚してたのか?」

 不意に振られた質問。それが含んだ意味は大きかった。結婚していたという事実。しかし記憶にある半年間ではその存在すら知らなかった。あの家を掃除していても結婚していた事を匂わせる物品は一つとして無かったからだ。自分やマシロよりも長くあの家にいるアネモネやカズラは知っているのだろうか?

 「う〜〜〜む、そうか。そうか。こいつは後ではっきりさせなきゃならないな。」

 ゴンザレスは目を丸くして驚いていた。そして何とも微妙な表情で眉をしかめながら唸る。

 「俺は半年前にこの街で目を覚まして記憶喪失ってやつなんだが、親父さんはずっと独身だと思ってた。」

 「・・・お前さんは気にするな。まぁ、きっと何かあったんだろう。酔いどれモグラ亭で会った時も何も言わなかったしな。俺やジダンとディアナ。それにもう一人足した四人は同じ職場の同僚だったんだ。」

 「そうだったのか。」

 「今のアイツが何を考えているのかは分からない。俺だって血の繋がらない人間を四人も抱えてるって聞いて驚いたしな。本人が言わないなら下手に首を突っ込まないでいてくれ。」

 「もちろんだ。親父さんには助けて貰った感謝しかない。何か理由があっての事なんだろう。」

 「ま、俺には聞く権利があるからな。今度モグラ亭で会ったら聞いてみるさ。それじゃあ他の検査もしていくか。」

 それからいくつかの検査をして研究所を出る。ゴンザレスはしきりに難しい顔をしていたが検査時間自体は確かにそこまでかからなかった。外に出ると夕陽が街に濃い影を落としていた。その光景が何とも美しい。帰り道の途中で何か美味いものでも買って土産にしよう。幸いにも皆が甘い物好きだ。来る途中に見かけた良さげな菓子屋にでも寄ってみよう。そんな事を考えながら家路を急ぐ工場勤務者達に混ざってトラッシュ地区を後にした。

 

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