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第一話 ゴミ箱での朝

 「がはっ!?」

 「・・・はぁ。ったく、余計な時間食っちまった。」

 握った拳から力を抜いて一つ息を吐き出す。薄暗く狭い路地裏。たった今殴り飛ばした男を合わせて5人のチンピラが転がっている。つまらない因縁をつけて金品を巻き上げようとしてきた輩だ。

 「そんなことより・・・割れてないよな?」

 チンピラには目もくれず路地の傍らに避けて置いておいた紙袋を確認する。中身は野菜とパンと卵だ。

 「よし、大丈夫そうだ。」

 「まっ、待てやコラァ。てめぇ・・・覚えたからな・・・灰色あた・・・ま

 「先に手を出してきたのはそっちだろうが。」

 最後に殴ったチンピラはそう言って意識を失った。誰がどう見たとしても悪いのはチンピラ達だろうに、こういった奴らは毎度同じ様な捨て台詞しか吐かないものだ。

 「さて、急いで帰らないとな。怒られちまう。」

 裏路地から抜け出ると辺りはすっかり朝日が射し込んでいた。そろそろ寝坊助共が叩き起こされる頃合いだろうか。そんな事を考えながら帰路を急いだ。



 「戻ったぞ。」

 「・・・おかえり。」

 「あぁ。」

 出迎えてくれたのは白髪の少女マシロだった。

 「帰ってきたか。買い物に行かせて悪いなグレイ。ぐおっ、頭が痛ぇ。」

 「もぅ・・・酔っ払って勝手にサンドイッチ作ったら駄目だよ?」

 「ぐぬっ、反省してる。うぐっ、少し横になってる。」

 奥から現れたのは家主であるジダンという中年男性だ。クシャクシャの黒髪。少し太り気味で眼鏡を掛けており、いつもヨレヨレの白衣らしき服を羽織っている。通称は親父さんだ。そして俺が予定に無かった朝市へ買い物に出かけた原因を作った男である。マシロに怒られてシュンとしている。どれだけ飲んだか知らないが二日酔いで顔色が悪い。

 「グレイ兄ちゃん帰ってきたの?腹減った!」

 「カズラうるさい。おかえりなさいお兄ちゃん。」

 「あぁ、ただいま。そんでもっておはようか。」

 子供の姉弟もやってくる。元気な赤毛の小僧が弟のカズラ。その正反対に大人しいのが姉のアネモネだ。アネモネの髪は弟よりも落ち着いた色をしている。性格が髪色に出るのかはもしかしたら有り得る・・・のかもしれない。

 これでこの家の住人は全員だ。そしてアネモネとカズラの姉弟を除いて血は繋がっていない。俺とマシロは半年程前に、アネモネとカズラは二年程前にジダンに拾われたのだ。決して裕福では無い家だ。だというのに野良猫や野良犬よりも金のかかる人間を拾ったのか、親父さんの真意は定かではない。しかし今の所はなんとか上手く回っている。総じて言えば幸せなのだろう。居場所を作ってくれた親父さんには感謝しか無い。

 「今日はどうするんだ?」

 サラダとトーストに目玉焼き。シンプルな朝食を囲みながらマシロに尋ねる。

 「・・・今日も商店街を手伝う。お金も貰えて料理も教えてくれる。皆良い人。二人も連れて行く。」

 「そうか。良くしてもらってるみたいだな。」

 「本屋の爺ちゃんから勉強教えて貰えんだ!」

 「私も色んな本を読ませて貰ってるの。あ、ちゃんとお手伝いはしてるよ?」

 近くにある商店街。元々はあまり活気の無い場所だったと聞いている。だがそれも過去の話だ。二ヶ月前だったか、俺とマシロが商店街を牛耳っているとかいう集団に因縁をつけられ返り討ちにしたのだった。それ以来、商店街は雰囲気が良くなり客足も増えた。マシロは商店街の住人に良くして貰っているし、マシロやカズラとアネモネ姉弟も積極的に手伝いをしたりしている。

 「グレイは、どうするの?」

 「俺か?そうだな・・・まぁいつも通りに親父さんに仕事が無いか聞く事になるんじゃないか?」

 「そっか。頑張ってね。」

 「あぁ、そうだな。」

 正しい年齢は分からない。見た目的に言えば自分が二十代半ば。マシロが十代後半。アネモネが十代前半。カズラがアネモネより二年程若い印象だ。肉体的には一番しっかりしている自分は当然ながら出来る仕事の種類も多い。そんな自分にジダンは何かしらの仕事を紹介してくれるのだ。

 朝食の片付けやら何やらをしているといつの間にか時間は過ぎていく。商店街に行く三人を送り出してから、コップ一杯の水を手に親父さんの部屋へと向かった。

 「親父さん、水持ってきた。」

 「おぉ、すまんな。んぐっ・・・っはぁ。二日酔いの時に飲む水の美味いことよ。」

 「二日酔いってのはそんなに辛いのか?」

 「人それぞれってところだな。俺は頭痛だけだが、吐き気やらダルいやら・・・ま、様々だ。お前は酒が飲めないから分からないもんな。」

 「あれは駄目だ。合わなかった。ところで仕事なんだが・・・」

 「おぅ。ん~~、そうだなぁ。あれこれ色々とあるんだが・・・いや、そろそろか?やっぱり設備だもんなぁ。よし、なら手紙を届けて貰うか。仕事っていうよりは手伝いって感じだがな。」

 「何だってやるさ。まだまだ恩返しには程遠いしな。」

 「無理だけはしないでくれよ?んじゃあ今からささっと手紙を書いておくから出る準備でもしてきてくれ。」

 「わかった。」

 親父さんに促されるまま部屋を後にする。朝に一度外出しているのですぐにでも出れるのだが、手紙を書いている様子をジロジロと見るものでも無いだろう。アネモネ達の部屋を軽く掃除でもすれば丁度いい筈だ。

 「さてと、こんなもんか。」

 時間にして二十分程だろうか。軽く掃き掃除をしてベッドを整えて、散らかった小物を整理整頓する。主にカズラ側のベッドをだが。不思議と家事というものは嫌いじゃない。記憶を失う前の自分も同じ様に家事をしていたのだろうか?答えの無い疑問は尽きない。

 「親父さん、もう出れるぞ。」

 「おぅ。それじゃあこいつをゴンザレスって奴に渡してくれ。場所は東区の・・・東区の・・・ありゃ?どこだったか・・・。」

 「しっかりしてくれよ。」

 「悪い悪い。この前、もぐら亭で飲んでる時に久しぶりに会ったんだが酒のせいで記憶が曖昧で・・・う〜む、駄目だ。」

 「じゃあどうするんだ?」

 「そうだ!もぐら亭のママなら知ってる筈だ!手間ぁ増えるがママに聞いてみてくれねぇか?」

 「もぐら亭ってのは・・・あぁ、いつも親父さんが行ってる所か。わかった。でもママさんが知らないんなら帰ってくるからな?」

 「それで構わねぇ。それとこいつは手間賃だ。好きに使ってくれていいからな。」

 「こんなに良いのか?」

 「良いに決まってるだろうよ。たまには遊ばないと人生腐っちまうぞ?」

 「あー・・・あぁ。とりあえずは有り難く受け取っておく。」

 「んじゃ俺は寝る。気を付けてな。」

 渡されたのは封筒と小遣いにしては多い金。遊べだなんて言っていたが、酒は飲めないし女遊びも今は興味が無い。何か美味い土産でも買って帰るのが良さそうだ。そんな事を考えながら家を出るのだった。

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