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9 王子殿下の視察③

来ていただいてありがとうございます。

本日二話目の投稿になります。

 

「やあ、セレスト嬢、久しぶり。随分と印象が変わったね!驚いたよ」

「…………」


どうしよう、声が出ない。これは予想外だった、ほんとに。ご挨拶しなきゃって思うけど……。

「これは、アルベリク第三王子殿下、ようこそおいで下さいました。私はこの中神殿の神官長をしております。ロキオと申します。そちらの方は?」

ロキオ様がにこやかにご挨拶してる……。

「こちらはクロード・オラール。今日は私に付き添ってもらったんだよ」

アルベリク様は何だかご機嫌みたい。

「ああ、オラール侯爵家の……」


私も何か言わないとダメなのに……。手が震える。ふいに手に温かい感触。リオン様のお顔がモフモフと手に触れている。わぁ、あったかい……。見上げてくるリオン様の青い目が綺麗……。ふっと体から力が抜けた。ありがとう、リオン様。リオン様に笑いかけてから、

「アルベリク第三王子殿下、お久しぶりでございます」

私は何とか一言ご挨拶して頭を下げた。



「今年は大流星祭の年だからね。まだ夏前だけど、準備は今からしっかりやってくれているようで安心したよ。星汲みの巫女様にもパレードに参加してもらおうと思ってるんだ」

アルベリク様がこうおっしゃってるんだから、見世物は決定みたいだ。地面に落ちていた気分が更に地下へもぐっていくみたい……。

「承りました」

なるべく無表情に見えるように答えた。


私の右隣に座ってるロキオ様が小声で

「巫女様、大丈夫ですか?ご気分が悪いのですか?」

と心配そうに尋ねてきた。なんとか笑って

「大丈夫です」

って小さな声で答えた。


「さあ、公の話はここまでにしよう」

私の斜め前に座ったアルベリク様は手を打った。

「セレスト嬢、シャルロットや君のご家族はみんな元気だよ」

「ありがとうございます……あ、あの」

「ふふっ驚いた?君もクロードに会いたいだろうと思って一緒について来てもらったんだよ」

アルベリク様は得意げにウインクをしてくる。え?どうしてそういう発想になるの?意味が分からない……。

「ほら、クロード!君も何か話さないと」

アルベリク様は隣のクロード様の肩をポンポンと叩いている。


「贈り物は気に入らなかっただろうか?」

う、嘘、クロード様が喋った?私に向かって?間違いないみたい。こっち見てる。何で?何で?魔術で幻覚を見せられてる?

「…………い、いただく理由がありません。婚約は解消されて……」


「私達の婚約はまだ継続している」


……え?今なんて言ったの?この人……信じられない……。何でそんなことになってるの?

「どういうことなんですかっ?!」

私は思わず立ち上がってしまった。





「私は婚約を解消して下さいってお願いしましたよねっ?殿下もお聞きになっていたはずですっ!どうしてそんなことになってるんですか?!」

みんなすごく驚いてる。失礼だとは分かってるけど、止められなかった。


「巫女様、どうぞ落ち着いて」

ロキオ様が私に座るように促した。

「一体どういうことなのです?巫女様」

ロキオ様は優しく聞いてくれた。その穏やかな顔にすこしホッとした。何故だかこの方は味方のような気がしたのだ。私は星汲みの巫女が叶えてもらえるお願いのことを説明した。

「それはおかしいですね。星汲みの巫女様の願いは必ず聞き届けられなければなりません」

ロキオ様は険しい表情で目の前の二人に向き直った。


「セレスト嬢、無理をしなくていいんだよ。君がクロードを気遣ってそんな願いを申し出たのは分かってるから」

アルベリク様とクロード様は何故か痛ましげに私を見てる……。はい?何でそうなるの?

「セレスト嬢は大人しくて無口だから、僕達の前ではあまりクロードと仲良くはしてなかったみたいだけど、クロードのことを思って婚約を解消するくらい、クロードの事を大事なんでしょう?」

ああ、アルベリク様の中で訳の分からない美談になってる……。目の前が真っ暗になった……。



私は両手で顔を覆って俯いた。最初から?最初から説明が要るの?あれ?耳元で声がする。

「大丈夫か?私が話そうか?」

私の左隣に座っていたリオン様がささやく。あ、ちょっとくすぐったい。思わず笑ってしまった私にリオン様が訝し気な顔をする。

「大丈夫です。自分で話せます」

不思議、リオン様の目を見てると力がもらえるみたい。一つ深呼吸してから話し始めた。


「私はオラール様とお話をしたことはほとんどありません」

最初に会った時に、話がつまらないと言われたこと。女性の声は耳障りだから、静かにしていてほしいと言われたこと。それからは会話はほとんど無いこと。アルベリク様と妹のシャルロットと四人で会う以外は最近はお会いする機会が無かったことを一気に説明した。オラール様が途中で口を挟もうとなさったが、無視させていただいた。

「私はクロード・オラール様との結婚を望んでおりません。婚約の解消は私の心からの望みです」

今度こそ、理解していただけただろうか?私は不安に思いながら目の前の二人を見た。





「今の話、本当なの?クロード?」

アルベリク様は戸惑ったように尋ねた。

「…………概ね正しいと思う」

何が概ねなんだろう?まるで他に何かあるみたい。思わすオラール様を睨んでしまった。それまで黙って聞いていたロキオ様が口を開いた。

「つまり、貴方は巫女様の言葉を聞くつもりが全くなかったということですね。巫女様の意思をないがしろにして……。酷いなさりようですね。オラール侯爵令息様」

ロキオ様、何だかすごく怒ってるみたい。あ、そうか私のこと神殿の仲間だと思ってくれてるのかも。ちょっと嬉しいな。


「ごめん、クロード。君のことは大切な友人だと思ってるけど、今回のことはちょっと擁護できない」

ああ、良かった。アルベリク様は分かって下さったみたい。

「私は……そんなつもりは、セレストを傷つけていたとは……思ってなかった」

何故か傷ついたように声を震わせるオラール様。

「君は私の望むとおりの女性になろうとしてくれていたのだと……」

ああ、そういう解釈だったんだ。すごい自信……。本当に私のことはどうでも良かったんですね……。知ってましたけど。


ふうっとため息をついたアルベリク様は

「分かったよ、セレスト嬢。勝手なことをしてすまなかった。私アルベリク・シャリエールの名に懸けて、君たちの婚約が解消されることを約束しよう。未来の義姉上に不幸になってもらいたくないからね」

とおっしゃって下さった。

「アルッ……」

オラール様は何か抗議しようとなさったけれど

「これは決定事項だよ、クロード」

アルベリク様の一言で黙ってしまった。



良かった。本当に良かった。ホッとしたら涙が零れた。リオン様が鼻先で頬を拭ってくれたので嬉しくなった。思わずリオン様の首に抱き着いちゃった。

「ありがとうございます……リオン様……」

ああ、モフモフ……。幸せ……!







ここまでお読みいただいてありがとうございます。

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