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5 お使い様

来ていただいてありがとうございます。



「ごめんね、ごめんなさい。…………撫でてもいい?」

あ、つい本音が……。小さな灰色の狼さんはカッと牙を見せてきた。それはそうだよね……。初対面で子犬と間違えた挙句、尻尾をいきなり掴んだら、それは嫌われるよね……。うん、それならわかるんだ。でもね、初めて会った人からいきなり嫌われていたのはどうしてなんだろう?それからの会話も拒否されたし。クロード様の尻尾なんて掴んでないのになぁ……。みんなにそうなら、まだ仕方ないって思えるんだ。でも、それは違った。妹や王子殿下には普通に、ううん、もっと仲良くお話なさってた。あ、ダメだ……思い出しちゃったら……。


私が涙をこぼしたのを見て、小さな灰色狼さんはぎょっとしたように目を見開いた。焦ったように周りを見回した後、隣にちょこんと腰を下ろした。私が狼さんに怒られたから泣いたと思ったみたい。

「お使い様?……撫でてもいいの?」

灰色狼さんはこくりと頷いた。悪いかなって思ったけど、ふわふわの魅力に抗えなくてそっと撫でさせてもらっちゃった。

「わ、あったかい。可愛い。……ありがとうございます」


私は立ち上がってお使い様の正面に膝をついて座った。

「ご挨拶が遅れました。私はセレスト・バリエと申します。新しい星汲みの巫女に選ばれました。これからよろしくお願いします」

そのまま頭を下げたら、頭になんだか柔らかい感触。お使い様のお腹が見える。お使い様は後ろ足で立ち上がって、前足で私の頭をポンポンってしてるみたい。やっぱり普通の動物とは違うんだなあ……、なんて今さらなことを考えた。












「セレスト様は最近、御髪やお肌の調子がいいみたいですね」

この星の泉の神殿へやって来て一週間位経った頃、カイヤさんは私を見て嬉しそうに言った。今、カイヤさんは私の髪を整えてくれているところだった。本当にカイヤさんは何でも出来る人だ。カイヤさんへの尊敬ポイントは更にアップした!



私は鏡に映った自分を見た。そういえば、くすんでいた髪の色が少し明るくなったような気がする。肌も透明感が増してきていて……。それから目の色……、薄い空色だったのが濃いっていうか深い青色になってきたみたい……。これって、山とか神殿の空気のせいかな?あ、そうか!思い付いた!

「きっと、カイヤさんのご飯が美味しいせいです!」

「あらあら、嬉しいわ。でもセレスト様は元々お綺麗ですから、それが表に出てきているだけですよ。はい、出来ました」

カイヤさんはふふふっと笑って、後片付けをササっとすると、お茶の準備をすると言って部屋を出て行った。


「綺麗かぁ、言われたことない……」

妹のシャルロットなら、よくみんなに言われてたけどね。肩で切りそろえてもらった髪をいじりながら、ブラシを見てふと思いついた。ブラッシングしてあげたいな。お使い様……。今度会えたら……。ん?なんか視線を感じる。あ、いた。窓の外に青い目の灰色の狼が。


「んー?なんか少し大きくなりました?お使い様」

お使い様は首をかしげてこちらを見ている。気のせいかな?でもやっぱり……、うーん……。まあいいや。普通の動物じゃないんだし、考えても仕方ないよね。

「ブラッシングしてもいいですか?」

お使い様の前にしゃがみ込んで、手に持ったブラシを見せてみた。不思議そうにしている、気がする。ちょっとだけブラシで背中を梳かしてみた。嫌がってる感じは無いみたい。思い切ってお使い様を抱き上げて座り、膝に乗せてみた。最初はちょっとジタバタしてたけど、ブラッシングを続けたら大人しくなった。気持ちがいいみたい。


「あれ?なんか、白っぽくなってきた?」

灰色の毛が抜けてきたと思ったら、お使い様が灰色から灰白になった!汚れてたってこと?

「今度、お風呂に入った方がいいかも……一緒に」

お使い様はその言葉に一瞬ビクッと身を震わせた。

「あ、ちょっと待って!まだ……。行っちゃった。お風呂嫌いなのかな?」

ブラッシングは良くても、洗われるのは嫌なんだね。走ってどこかへ行っちゃった……。



「あらまあ……」

さっきのことをカイヤさんとお茶を飲みながら話したら、カイヤさんは楽しそうに目を細めた。

「お風呂はダメなんでしょうか……」

ああ、今日もカイヤさんのお茶は美味しい……。手づくりのお菓子まであって天国……。

「お風呂というか、一緒が恥ずかしいんですよ」

カイヤさんは口元を隠して笑った。

「恥ずかしいんですか?」

「ええ、男の子ですもの、お使い様は」

「男の子……」

狼なのに、雄ではなく??男の子なの?










星汲みは一人で出来るようになった。何とあの小舟は魔力を込めると漕がなくても進んでいけるのだ。カイヤさんが船を楽々漕いでいたのはそういう訳だったのね。私も試しにやってみたら船は泉を思うように渡っていけるようになった。今夜も小舟を出して星の光を杯に汲んで神殿の祭壇に捧げた。

「女神様、今日もお守り下さってありがとうございます」


神殿にいると何だかすごく落ち着く。朝も昼間も静かな神殿は、夜はもっと静まり返っていて、その冷たいくらいの感じが一番好きだ。祭壇の真上には小窓があって、明るく青白く輝く星が見える。

「前はこんなに星を見ることってなかった……」

神殿の外は星の海。神殿の中からも星が見えてなんだか力をもらえる感じ。


トンッと軽い音がした。祭壇の上にお使い様が乗っていた。そんなところに乗っちゃっていいの?抱っこして下ろすべきか迷ってたら、

「え?!」

杯に口を付けて星の光を飲んじゃった……!あっという間で止められなかった。


「ええ?!!」

それよりももっと驚いたのは、お使い様が白く輝きだしたこと……!お使い様が白い狼に変化した!


「リオン」

「……!」

びっくりしすぎて声が出なかった。お使い様がしゃべった?言葉を理解してるとは思ってたけど、話せたんだ……。


「セレスト、私の名はリオンだ」

白い狼が青い瞳で私を見つめた。吸い込まれそうな深い青。目が離せない。

「…………リオン様」

名前を呼ぶと、リオン様は満足そうに頷いた。







ここまでお読みいただいてありがとうございます。

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