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星汲みの巫女はたった一つの願いを叶えたい  作者: ゆきあさ


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21/33

21 リオン

来ていただいてありがとうございます。



女神ユリーア様にお使いの役目を与えられて、もうどのくらい経っただろうか。最初は正直面倒だと思った。でも、仕方がない。人間の娘を娶り人と女神様の橋渡しをすること。それが私に与えられた役目だ。



巫女として送られてきたのは貴族の娘で、婚約者がいるのにと泣いていた。先々代のお使いまでは上手くいっていたのにどうしてこうなる?それとも、それまではどちらかが、或いはどちらも我慢していたのか?私はこの仕組みに疑問を持った。先代のお使いの時に星の花嫁は星汲みの巫女と呼ばれるようになった。いつか花嫁になってもいいと思う人間が現れるまで、私はこのままお使いを続けることにした。何もせずに。女神様にはこのままでは消えてしまうと心配されたが、ならこの仕組みを変えればいいと思っていた。ちょっとした抗議のつもりもあった。嫌々やって来る巫女達と関わるのは私も嫌だった。


私は徐々に力を失っていった。当たり前だ。星界とは異なり、ここでは力を得られない。力とは生命力そのもの。私はじきに消えてしまうだろう。もう、どうでも良かった。星界にも帰るつもりが無かった。巫女としてやって来る娘達はその誰もが我々に興味が無いようだった。女神に対する信仰心というものが無い。中には光星魔法を扱える者もいたが、その娘もやはり同じだった。


セレストはそんな私の前に現れた。いつも通り特段興味をひかれなかった。どうせ今までと変わらないだろうと思っていた。しかし驚いた。彼女の魔法は神殿の奥に籠っていた私にも感じ取れる程の強い力だ。美しい星の光。私は初めて巫女の星の光を吸収した。消えかかっていた私の体は一瞬で実体を取り戻した。


朝、神殿でカイヤと一緒に掃除をする彼女を見ていた。彼女はとても楽しそうだった。今までの巫女達の中には掃除なんて絶対にしないと頑なに拒むものもいた。彼女、セレストも確か貴族の娘のはずなのに……。不思議だった。カイヤに対する態度もとても友好的、というかカイヤを母のように慕っているようにも見えた。私はセレストに興味を抱いた。彼女の前に姿を現わしてみた。巫女達の中には私を獣と言って怖がったり嫌悪したりする者もいた。彼女はどうだろうか?……子犬ってなんだ。私は星狼族だ。勉強不足は今までの巫女達と一緒だ。……でも、不思議と嫌悪感は無かった。私は彼女をもっとよく見たいと思うようになった。



セレストは傷ついて星の泉の神殿へ来たのだ。家同士で決めた婚約者に酷い扱いをされたのだった。しかも相手の男は無自覚だった。セレストの願いを無視して追いかけても来た。婚約解消を王子に確約され、セレストが安心して泣いた時、私の気持ちは決まった。彼女を守りたいと思った。女神様に彼女を星の花嫁として迎えたいと奏上した。これで巫女を選ぶための神託はもう下りない。これでセレストの気持ちが決まるまではここで私が守ることが出来る。彼女が私を選ぶことが無かったとしても。しかし私はセレストに触れたいと思うようになった。セレストはあまりにも無防備で鈍感で、私は自分を抑えるのに苦労してる。私は人と大差ない男だというのに彼女はまっすぐに私に向かってくる。私は彼女を好きになってしまったようだ。





セレストの力は我々星狼族に匹敵するかもしれない。瞳を覗き込んだ。星の光が体内に宿っているようだ。弱った小鳥、いや瀕死の小鳥を完全に回復させた。あれは蘇生と言ってもいいかもしれない。このことは誰にも知られない方がいい。特に権力者に知られた場合、碌なことにならないだろう。セレストには口止めをした。彼女は良く分かっていないようだった。これからは私が注意しておかなければ……。この神殿という神域にいる限りは問題ないだろう。




私はセレストに嫌われてはいないと思う。だから少し事を急ごうと思った。外堀を埋めて行こうという訳ではないが……。セレストの父親、バリエ伯爵に会いに行った。突然訪ねて行ったというのにそれほど驚かれなかった。まるで待っていたかのように。セレストを星の花嫁として迎え入れたいと申し入れた。バリエ伯爵は長い息を吐くと、伯爵の顔から一人の父親の顔になった。彼は語った。セレストが遠くへ行ってしまうかもしれないと、彼の母、つまりセレストの祖母から予言がされていた、と。それを防ぐためにセレストには良い縁談が組まれたようだ。実際には全く良くなかったが。セレストが望んでくれるなら、私の花嫁として星界へ連れて行くこともできる。そうすればセレストは私達星狼族と同じように長く生きることが出来る。ただし、そうなれば彼女のこちらの世界との縁は遠く薄くなる。


バリエ伯爵はセレストが望むなら、私との結婚を認めると言った。そして、そのための条件を出してきた。条件は三つ。一つ目。セレストの意思を何よりも尊重すること。そして二つ目。結婚はセレストが十八歳の誕生日を迎えてから。そして三つ目。結婚するまでは節度を守り、適度な距離を保つこと。一つ目は当然のことだ。彼女の意思を無視なんて決してしない。二つ目は、まあ、仕方がない。婚約期間は必要なのだろう。だが、三つめは正直自信が無かった。善処はしようと思う……。


これで一応父親の許可も取った。後はセレストの気持ち次第だ。何とか私を想ってくれるよう努力するしかない。私はセレストに自分の魔法で生み出した指輪を渡した。お守りだと言って。まだ婚約指輪として渡せる自信が無かった。守護の力が宿っているのは噓ではないから。



あのレベッカという令嬢は一体何なんだ?セレストの元婚約者に恋慕して、セレストに無理を言っているらしいが。セレストとの面会の後、我々神官たちが滞在する屋敷へやって来た。まあ、親戚の屋敷らしいから主に挨拶に来るのは当然の礼儀だが、何故我々のいる部屋へ来る必要がある?応接室に入ってきて、初対面だというのに馴れ馴れしく話しかけてきた。『私、セレストの親友なんです!セレストがお世話になってます。あの子がご迷惑をお掛けしてないですか?』……妙にねっとりとした声と視線ですり寄ってきた。正直気味が悪かった。セレストの親友だからと言って、何故私にいきなり話しかけてくる?私は早々にあてがわれた部屋へ戻った。


セレストが心配だったが、さすがに女性ばかりの離れへ行くわけにはいかなかった。翌朝に見たセレストは明らかに元気がない。一生懸命に笑っていたのが、なおさら痛々しかった。ロキオが女性の神官から聞いてきた話では、親友という令嬢にずいぶんと責められたようだ。何度も謝っていたという。あの令嬢に?あの後、ロキオや他の若い神官に話しかけて夜遅くまで居座ったらしい。あれが本当に恋しい男がいる女性の態度なのか?私はあの令嬢に不信感を持った。セレストは騙されてるのではないか?




祈りの儀式とやらは無事に終わった。後はさっさと帰るだけだ。早く安全な神殿へセレストを連れて帰りたい。これ以上他人の目に触れさせたくはない。穀物の病気は収まるだろう。さすがセレストの妹だ。病だけならもう問題ない。病だけなら。力を失いつつあるこの土地の力は回復してはいない。しばらくすれば別の病や虫害が発生するだろう。しかし……油断した。すぐ近くにいたというのに……。セレストの力をまだ見誤っていたようだ。彼女は息をするように魔法を使った。大地の異常を感じ取り、無意識に力を分け与えたのだ。優しいのだ、セレストは。心と力が直結している。セレストのおかげでこの土地はもう、あと何十年かは豊かなままだろう。誰にも気づかれていないといいのだが……。今なら土地の力が回復したこともシャルロットのせいにできる。私達は急いで祈りの儀式の場を離れることにした。急ぎの名目でセレストを抱き上げた。昨夜の幼馴染の令嬢のせいで体調が良くないのは気が付いていた。もちろん私がセレストに触れたかったのもある。こんなに優しい温かい魔法を感じたのは初めてだ。セレストの額に口づけた。彼女の視線を想いを全て自分に向けさせたかった。私は自分を抑えきれなかった。これくらいなら彼女の父親との約束違反にはならないだろう。……たぶん。



こんな形で知らせるつもりはなかった。セレストを星の花嫁に選んだことを。まさか元婚約者の男があんなにしつこいとは……。セレストの気持ちを待つつもりだった。でも、セレストは私を想ってくれていた。もう、誰かにセレストを渡さずに済む。遠慮もしない。誰でもない、私がセレストの一生を守ることが出来る。私の手の中で。もう、誰にもセレストを傷つけさせたりしない。




ここまでお読みいただいてありがとうございます。

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