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星汲みの巫女はたった一つの願いを叶えたい  作者: ゆきあさ


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13/33

13 雨宿り

来ていただいてありがとうございます。


「今日は大掃除をします!」

夏が近づいたある日の午前中、カイヤさんにバスケットを渡されて巫女の住まいから出された。リオン様と一緒に。掃除ならお手伝いしますって言ったんだけど却下された……。何故?


「ほら、リオン様しっかりなさいませ!」

カイヤさんはそう言うとリオン様の背をボンと叩いた。しっかりって何を?リオン様はだいぶ力が戻ったようで、昼間でも元の姿、つまり人の姿でいることが多くなっているみたい。


みたいっていうのは、前みたいに一日中はこちらへ来てないから、分からないんだよね。多分お忙しいんだろうな。ちょっと寂しい。でも、リオン様が狼じゃないとちょっと緊張する……綺麗すぎるからかな?


リオン様はバスケットを持つと、空いた左手で私の手を取った。わわっ、顔が熱い。誰かと手をつなぐなんて久しぶり……。しかも男の人……。大きな手……。

「行こう、セレスト」

私達は花畑の方へゆっくり歩いて行った。


神殿の前には泉があって今日も良く晴れた空を映してる。神殿から見て右側には森と巫女の住まい。そして中神殿へ続く山道がある。左側には広い野原と花畑。時々、神殿の近くで花を摘んで女神様にお供えしてる。そして遠くの方には大きな木が生えてるのが見える。今日はあの大きな木のところまで行ってみたい。そう言うとリオン様はこちらを向かずに

「わかった」

って言ってくれた。


春に星汲みの巫女として神殿に来た頃は、色とりどりの花がたくさん咲いていたけど、今は入れ替わるように白い釣鐘の形の小さい花が一面に咲いている。白と緑の野原はとても幻想的だ。これからの季節はどんな花が咲くんだろう?楽しみ!


「少し、元気が出た?」

花に見惚れてると、リオン様がこちらを見ていた。

「昨日、また手紙が届いてたみたいだね」

ああ、また心配をかけてしまったみたい……。きっとカイヤさんにも。

「えっと、大丈夫です」

とは言ったもののあまり大丈夫じゃ無かった。昨日届いた手紙は二通。レベッカからと、……クロード様から。レベッカからは前と同じような内容。クロード様はまだパートナーを決めてないみたいで、やっぱり私に何とかして欲しいらしい。それに今回は明確に私を非難してきた。婚約は白紙になったけど、クロード様に何か言ってるんじゃないの?って。そんなこと言ってないのに。レベッカ、どうしちゃったんだろう……。


それから、クロード様からの手紙。もう意味が分からない。内容は学園やクロード様、アルベリク様やシャルロットの近況報告。家族のことなら、お母様やシャルロットに手紙をもらうから必要ない。アルベリク様、クロード様のことは更に興味がない。どうして手紙なんて送ってくるの?もう、どうしていいのか分からない。ちょっと参ってしまっていた。本当は手紙の内容を他の人に話すのは良くないけれど、リオン様に相談した。とても困っていたから。


「放っておいたら?」

「え?」

「幼なじみの要求はセレストにはどうにもできない。あの男のことも。セレストが悩んだり、嫌な思いをする必要はないと思うよ」

リオン様はいつになく厳しい口調で冷たく言った。

「受け取りを拒否するのでもいい。君があの男のことでこれ以上煩わされるのは嫌だ」

「リオン様……」


そうかな、いいのかな。贈り物の時みたいにしても……。うん、レベッカの方も、もう一度説明して終わりにしよう。

「ありがとうございます、リオン様。そうします。せっかくここで楽しいのに、勿体ないですから!」

「本当に楽しい?」

「はい!」

私の手を掴むリオン様の手の力が強くなった。

「リオン様?」

その後はリオン様は何も話すことは無く、私達は目指していた大きな木の近くへ辿り着いた。


「大きい!立派な木ですね」

「随分大きくなったんだな……」

リオン様は前からこの木を知ってたのかな?そっか、星狼族は人間よりずっと長命だって本に書いてあったっけ。思い出してキュッと胸が痛んだ。

「?」

私はこの胸の痛みが何なのか、よく分からなかった。


木の根元に布を敷いて、バスケットの中身を広げた。カイヤさんのお昼ご飯は最高だった。たくさんの具材を挟んだパン。魚の揚げ物。蜜で煮た果物、これはキラキラしていて宝石みたいに綺麗だった。チョコレートの入った小さなケーキまであった。綺麗な景色に美味しいご飯のおかげで、沈んでいた気分はどこかへ行ってしまった。カイヤさんはたぶん私の事心配して、気分転換のためにこんなに用意してくれたんだと思う。優しくて素敵な人だ。


そしてリオン様もだ。私の知ってる同じ年くらいの男の人は、クロード様と学園の男子生徒とかなんだけど、私はあんまり親しく話したことがない。リオン様は一緒にいてとても安心できる。最初が狼だったからかもしれないけど。


クロード様といた時は、好きになろうとしてた。嫌いにならないように頑張ってた。だって、嫌いになっちゃったら辛すぎるから。諦めて考えないようにしてたあの時とは全然違う。


一緒にいるのが自然で、息をつめなくても良くて……。話も静かに聞いてくれる。ただ、あの深い青い目で見つめられると、男の人だってわかってからはドキドキすることが多くてちょっと困るけれど……。




お昼ご飯を一緒に食べて、木の下でのんびりしてると、

「ああ、時間切れだ……」

ふいにリオン様が狼の姿に戻った。前よりまた大きくなった?それに少し毛並みが青みがかってきたみたい。星の光を掬った時みたいな色。綺麗……。

「そろそろ戻ろう。少し遠くまで来てしまったから、早めに帰ろう」

「はい」

ちょっと残念だったけど、私はほとんど空になったバスケットを持って立ち上がった。


帰り道、狼に戻ったリオン様がふいに顔を空に向けた。

「雨が……」

急に冷たい風が吹いて、雨雲がやって来た。すぐに雨がざっと降って来た。まだ神殿までは距離がある。私達は大きな木の根元へ戻った。結構離れた場所まで来てしまってたので、随分濡れてしまった。


「通り雨だから、すぐにやむだろう」

「今日はリオン様と一緒だからカイヤさんも心配しないですよね」

「怒ると怖いからな、カイヤは」

「はい…………」

私はリオン様の毛並みを持っていたハンカチで拭きながら、怒ったカイヤさんを思い出してちょっと震えてしまった。


ん?ちょっと寒いかも。髪を拭いて、濡れてしまった巫女の服を脱いだ。下に着ていたのは白いワンピース。下着ではないけれどちょっと人前に出るのは恥ずかしい服。今は風邪をひくよりはいいよね。私達は木の根元にもう一度布を敷いて座った。


「雨、強いですね……」

雨の音で遮られて世界が閉じちゃったみたい。雨音は大きいのに何だかとっても静か……。不思議な感じ。

「くしゅんっ!」

あ、まずいかも……。かなり寒くなってきちゃった。体が震えてきた。夏が近いとはいえ、ここは山の上なのだ。


「セレスト、寒いのか?」

空を見続けていたリオン様が慌てたように私を見た。

「ちょっとだけ……え?リオン様?」

リオン様が座ってる私に覆いかぶさって来た。狼の姿のリオン様に抱きしめられてる格好になってる。

「あ、あ、あの!リ、リオン様?」

声、裏返ってる!あ、でも

「……あったかい…………リオン様は優しいですね」

体から力が抜けた。そういえば、手紙の事考えててゆうべはあんまり眠れてなかった……。まぶたが重くなる。



「……この姿で良かった。我慢できなくなるところだった」

リオン様の呟きが夢うつつに聞こえた。








ここまでお読みいただいてありがとうございます。

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