その後1
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ジムにトレーニングに来た。ランニングマシーンやウェイトリフティングに使うようなダンベル。それに見たこともないトレーニング機器が広いスペースに余裕をもって並べられている。四方の壁のうち、2面はガラス張りで,人間国「アルス」の首都「マナセア」を一望できる。
そういえばここは,芸能人もたくさんくる会員制のジムだったよな。
今日は初めてだから隅に転がってる鉄アレイでも使っていればいいや。
そうして10kgのものを両手に持つ。意外と重いが重いからこそ鍛えられるというものだ。「きをつけ」の姿勢から鉄アレイを右左右左と肘を曲げて上げる。
「お、いいトレーニングしてますね」
トレーナー?がやってきて、ほめてきた。こちらは鉄アレイを上げているだけだ。
「どうですか?キてますか?キてますよね~」
トレーナーの声を聞いていると、少しずつ腕が重くなってきた気がする。
「い~い感じですめ~」
「・・・?」
「まだまだです!これからですよ~」
しかし、腕が限界だ。
「もう無理です。いったん休憩で」
と、言うも
「まだです。ここからここから!」
トレーナーは鉄アレイを置かせてくれない。
「いいです。いいですめ~」
「あのさ、さっきから『め~』ってなに?」
トレーナーの顔を見ると、山羊の顔だった。
『貴様は我が殺す』
トレーナーだった魔王がそう言ったところで目が覚めた。
いやな汗をたっぷりかいてしまった。
見慣れない天井をみてから、辺りを見るとどうやらここは病院のようだ。
起き上がろうとしたが全身がだる重くて動けない。
右手の感触に気が付き、目をやると母が隣の簡易ベッドから手を伸ばし、こちらの手を握っていた。
「母さん?」
と、口に出したつもりだったが、うまく声にならない。
しかし、その小さなうめきともいえない声に母は飛び起きた。
「マイト!マイト!起きたのね。よかった」
母の両手に頬を挟まれて顔を凝視される。久しぶりに母さんの顔をこんな近くで見た気がする。
「大丈夫?マイト?大丈夫?」
体中を触られまくり、
「あ、そうだ」と、母は慌ててナースコールを押した。
しばらくして、医師と看護師がやってきた。脈を測ったり聴診器をあてたりと診察されるが体がだるくてまるで動けない。特に腕が重い。
そういえば、魔王が吐き出した塊が腕に直撃して・・そのあと・・
「母さん」
「何、マイト?」
「う・・うで」
母が驚きと恐れの表情を見せて医師を振り返る。なかなか整った顔の医師は
「まだ、体もだるくて大変でしょう。もうしばらく休みましょう。でも、目がさめて良かった。もう大丈夫ですよ」
そういって頭に手をおく。十二歳の男に何をするかと思ったが、俺はまた、また眠りに落ちた。
浅い眠りならぬ、浅い覚醒を何度か繰り返しただろうか。父の顔も見たような気がする。
目を覚まし、カレンダーを見ると、あの日から五日が過ぎていた。
ようやく頭も体もはっきりしてきた。
「かあさん体を起こして欲しいんだけど」
「・・・わかった。ちょっとまってね。先生に聞いてみないと」
母は部屋を出て医師を呼びに行った。首は起こせるが変わらず腕はだるいままだ。
しばらくして母は医師とともに戻ってきた。整った顔だちの先生だと思ったら耳がとがっている!
エルフナースがいるならこちらもいておかしくなかった。
エルフドクター!略して・・略すのはやめておこう。
そんなedが固い表情で話しかけてきた。
「だいぶ体力がもどったようですね。食欲はありますか?」
「はい。いくらでも食べられそうです」
「それは良かった。今日から食事をとりましょう。そんなに大きな物は食べられませんが」
「何でも食べられそうですけどね。しょうがないです」
「ありがとう。分かってくれて」
「で、母さん。体をおこしてほしいんだけど」
こちらの注文が中々通らないのでしびれをきらしてもう一度言った。
「先生?」
母が不安そうにエルフ医師を見る。と、その時、
「おーマイト!目が覚めたか?調子はどうだ?」
父ジグが車いすで入ってきた。
「父さん、足が?・・・そうか」
父は魔王との戦いで右足をつぶされていたのだ。
「おー。これか?そのうち治るぜ。それよりそのままじゃ話しづらいだろう起こしてやりな。」
「でも・・ジグ。あなた」
「大丈夫だよ」
俺が体を起こしちゃいけない理由があるのだろうか。
「ほら、いくぞ」
父はベッドの横のリモコンを押してベッドを起こしてくれた。体が起きるに連れてずれ落ちる布団を母が妙に神経質に直す。
しかしベッドの角度が大分あがったところで布団がはだけ俺の腕が手首まで見えた。
「あー。やっぱり」」
母が驚いて聞く。
「え?知ってたの?」
俺の腕が真っ黒になっている。それは魔王の攻撃を受け気を失う前にこの黒色が肘まで侵食してきていた。
「ほらな」
父が得意げに言う。黒いのが原因で腕が重いのだ。
「すごく腕が重いのですが」
医師に聞くと、エルフドクターは
「・・・はい。ショックだと思いますが、マイトさんの腕。つまりこの黒い部分は金属になっています。くわしく言えば魔防鉱になってしまっています。」
何と!?改めて腕を見ると、銅像(色は違うが)のように金属的な光沢をしている。
「しかし、なぜか体への影響はありません。ですが、やはり金属なので動かすことはできなくなってしまいました」
・・・そうか。
・・でも生きていただけでも・・と、そう簡単には・・
「でも、まあ、生きていただけでもよかったんだよ」
と、父が肩をたたいてくる。
「マイト。大丈夫。私がなんでもお世話するから」
母が腕をつかんで言ってくる。
「うん。ありがとう。でも、あのとき骨折しただろうなと、思ったんだけど」
魔王の吐き出した。黒い球は魔防鉱の塊だったのだ。だからバリアをすり抜け俺の手を砕いた。
「あ~、それはあのあとすぐMSAKのヒーラーがやってきて回復させたんだ。骨がつながるまではできたんだが・・腕が金属化してからはどんな魔法も受け付けなかった」
父が解説してくれた。
「そうか・・・しょうがないか・・・・」
静寂が病室を包む。
すると、入口の戸が開き、場違いな声が部屋に響き渡る。
「おっ、目が覚めたようだね~」
がっはっはと笑いながら小柄で太っちょの男が入ってきた。50才ぐらいだろうか。頭髪はうすく眼鏡をかけている。脂ぎったその頭と妙にするどい目を光らせ、そのおっさんは近づいてきた。
「院長先生・・」
母は立ち上がって姿勢をただす。
「いやいや、一時はどうなるかと思ったが~ねっ。魔法なんて使えないと思っていたんだが、ねっ。ジェラール君に任せた私の判断は間違ってなかったようだ。ねっ」
がっはっはと再び笑う。ジェラールと言われたエルフドクターは表情を少し固くして少し頭を下げた。
「ん?何だね?君がどうしても魔法でやりたいと言うからやらせてやったんだ私に感謝すべきだろう?」
「ありがとうございます」院長とは目を合わさずお辞儀する。どこまでもクールなジェラール医師だ。
「本当にジェラール先生にはつきっきりで看病していただいてありがたかったです。ジェラール先生ありがとうございました」
父は院長ではなく、ジェラール医師に向けてお礼を言う。
「あー、お父さん。えー名前はー」
「ジグさん」
「えージグさん。ねっ。息子さんー、えー・・・」
「マイトさんです」
ジェラール医師のフォローを受けながら院長がまだ話す。
「マイト君が目覚めて良かったですな。
マホリンピックと世界を救った救世主が死んでしまったら引き受けたうちの病院の評判はどうなっていたか・・
まあとにかく命に別状がないことを記者会見で伝えなくては。どう言ったものか?がっはっは」
この院長は結局病院の評判が一番なのだろう。
「ところで、僕の手をそろそろ見てもいいですか?」
「え?」「え?」「え?」
父、母、edの声が重なる。しばらくおいて父が
「まあ、いずれわかることだしな」
手首にかかる布団をずらそうとする父に
「ちょっと待って。持ち上げるぐらいならできそう」
腕が重いのは事実だが、肘から下だけだ。二の腕に力を入れれば・・・
と、どうにか持ち上げた手から布団が落ちる。
「・・・・!?」
持ち上げた右手は、中指だけが立った状態だった。
左手はグーになっていたが、人差し指と中指の間に親指が差し込まれている。
「何で?!?!?」
愕然として腕を腿のあたりに落とした。鉄アレイが落ちたようなものでとてつもなく痛い。
「何でこんな?」
父に聞くと
「こっちが聞きたいわ!!」
と、すぐに返された。
それはそうだ。せっかく世のため人のために活躍してヒーローになった息子が、よりによってテレビでは映せない両手を持っている。
いろいろなことが頭を駆け巡る。このままではとても町は歩けない。
ずっと包帯をしているのか、それも大変だ。しかし・・
がっはっはと、院長が大笑いして言う
「まあまあ、面白いじゃないか。私だったら恥ずかしくて生きていけんが。ガッハッハ」
何が面白いのか院長は笑う。どっかに行けばいいのに。父が額に血管を浮かべながら口を開く。
「で、でもその手も何かには使えるんじゃないか?なあ、母さん。」
「え、ええ。そうね~~~。エレベーターのボタンを押すとか?」
「あー、うん」俺はうなづく。
「リモコンのボタンも押せるのでは?」edも参戦。
「あー、うん」
「たま〇っちのリセットボタンも押せるぞ」
「ボタンばっかりか!!
たま〇っちのリセットボタンってなんだよ!中指で押せるわけないだろ!
つまようじで押すやつだから!!
他にこの手の使い方はないの?」
「そーだ。耳垢が取れるわよ」
「あー、まあね」
「目ヤニも取れるかと」
「・・・うん」
「マイト!鼻くそも!」
「方向性!!!
3人が3人とも同じ方向のことを言っちゃダメでしょ!
全部分泌物じゃん!!
他は!?!?」
「?」「?」「?」
父、母、edが顔を見合わせ、首をかしげる。
「もー無いのかよ!首をかしげるってどういうこと?
お題わすれちゃったの?」
「良いアイデアがあるぞ。『ピーーーーー(自主規制)』というのはどうだ!?
ガッハッハ」
次の瞬間、車いすで俺の隣にいたはずの父の姿が消えた。
オルトロス戦でもいなかった父のマッハパンチが院長を廊下まで吹き飛ばした。
「子どもの前で何言ってんだジジイ!!」
ジェラール医師が口を「ありがとうございました」と動かしながら部屋を出ていった。
院長に肩を貸して連れていく。雇われの身も大変だ。
「父さん。ありがとう」
「あーすっきりした。右足が動かなくてもなんとかなるもんだな」
父と母で3人で昔よくやったハイタッチをした。
・・?ハイタッチ?
「マ、マイト・・。手が開いてるわよ?」
「本当だ。マイト。どうして?」
「あれ?動かせるみたい。重いけど」
手は相当固いが、手は開いたり閉じたりできる。
チートな筋力でも動かすのがやっとという感じだ。鍛えれば何とかなるかもしれない。
一筋の光が見えた気がする。
もう一度3人でハイタッチした。




