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幼稚園編ー1

   3


 この2年で羞恥心を抑えるスキルを手に入れたと思う。

 今、俺は手をおひざにのせてしっかり保育士さんの話を聞いている。ヨーコ先生がオルガンに移動した。おうたの時間だ。

 ふー、よし。歌うぞ。歌うんだ。大きな声で。イヤだ。イヤじゃない!歌うんだ。踊りたくない。いや、踊るんだ。おどれ!踊るんだ俺!俺ならできる!がんばれ!

「ぐーちょきぱーで!!ぐーちょきぱーで!!」

 どうだ。慣れたもんだろう。普通の園児に見えるはずだ。


はあぁ・・・。

どっと疲れるおゆうぎの時間を終えるといつものように幼稚園の庭にあるカメの滑り台に向かう。甲羅の部分に入ることができ、薄暗く1人になるのにちょうどいいのだ。

 中で少し心を落ち着けていると、同級生のシンが入ってきた。

「ねえ。マイト!マイト!」

シンが目を輝かせて話しかけてくる。こういう時はあまりいいことはないが。

「なぁに?」

「すごい、いいものをみつけたんだ」

と、手にした石のようなものを見せてくれたが近すぎて見えない。

「なーに?石にみえるけど」

「うん。いし!」

「石がどーしたの?」

と、聞くと

「ばかだなー。よくみてよ。いぬにみえるでしょ」

「・・・・あぁ。ここらへんが頭?」

「ちがうよ。そこは鼻」

こちらの考えとだいぶ縮尺が違った。

「・・ああ。見えないこともないね」

「べつのも みつけたんだ」

シンはもう一つも見せてくれた。

「・・こっちは~、ゾウ?」

「ちがうよ!こっちもいぬでしょ!ほら!」

近すぎて見えない。

「へ~!すごいね!どこにあったの?」

一応話には乗る。

「あっちのほう。きづいたらあったんだよ。ほしい?」

「う、うん。ほしいほしい」

「あげないよ」

じゃあ聞くなよ。

「でも、マイトはともだちだからこれをあげる」

と、ポケットからもう一つ石を取り出して、渡してくれた。わりと丸っぽい石に細い線が三本入っている。

「これは~、人?」

「そう。ほらひとのかおにみえるでしょ?」

急に怖い話になる。確かに見えないこともない。「3つの点があれば人間は顔と認識してしまうんだよ。」と夢を壊すようなことは言わない。

「うれしい?」

「うん。うれしいよ」

シンは満足げな笑みを見せ、向こうを向いて寝ころんだ。

「ワンワン!」とか言いながら2つの石を戦わせている。

 改めてもらった人面石を見ると、つむった目のように見える2本の線と、口に見えなくもない線があった。ひびなのか模様なのか分からないが、変わった石であることは間違いない。が、そんなことはどうでもいい。

 前世でフィギュアコレクターでもあった俺がこの造形のままで許せるはずがないのだ。この石をかわいらしい人面にしてやらねば。俺は指先に意識を集中させた。

 この世界の魔法は、火・水・風・土・雷といった一般的な五元魔法と精神系の魔法とあるようだった。ひとまず五元魔法はこの五年で、ある程度使いこなせるようになったと自分では思っている。土系の魔法を使い、人面石をフィギュアに変えるのだ。

「まず、鼻を高くしないと」

魔力で石の形が変わる。

「うわああ!」

突然のシンの悲鳴に手元が狂う。鼻が少し欠けてしまった。すぐにもとに戻しながら声のしたほうを見る。

 シンはしりもちをついたような姿勢で自分の足元を見ていた。

そこにはシンが遊んでいた犬の石が落ちている。さきほどまでと違うのは、赤い光を放っていることだ。

光はどんどん明るくなりシンは後ずさりして俺の近くまできた。石の光はさらに強くなり、白くなったと思うと石が形を変えながら大きくなった。

粘液がうごめくように伸び縮みを繰り返しながら大きくなる。その光に邪悪なものを感じた俺はシンの背中をつかみ外へ引きずり出した。チートな腕力ならこれくらいはできる。まだ腰が抜けているのか放心状態のシンの頬をたたいた。

「シン!シン!大丈夫か」

「え?う、うん?いしがきゅうにひかったんだよ。マイト、、なにあれ?」

カメの滑り台の中から漏れていた光はおさまり、中から黒い犬が現れた。体長は2メートルほど、犬というよりオオカミのサイズだ。全身が黒く、目は赤く光っている。明らかにこちらに敵意を見せながら鋭い牙の間からよだれをたらす。魔犬といった感じだ。

「シン!逃げるぞ!」

「うわーーん!」

シンが恐怖に負けて泣き出した。その声に反応して黒犬がシンに襲いかかる。素早くシンの前に立ち、左手をかざす。あまり人前で使いたくはないんだけど。

「バリア!」

目の前に透明の壁があらわれた。魔犬はそのバリアに大口を開けたままぶつかり、ギャンと声をあげて後方に倒れた。何があったのか混乱してふらついている。

「シン!シン!」ほっぺをたたき正気に戻す。

「逃げるぞ!走れるか?!」

「う、うん」

しゃくりあげながらうなづく。

シンの手をひき、幼稚園舎に走る。と、後ろから気配を感じ、振り返ると、魔犬はシンに向かってとんでいた

バリアも間に合わない、とっさに犬の首に抱きつくようにとんだ、犬ともんどりうつ。かなりの力で首を締めるが魔犬は全身で抵抗する。

「せんせいをよんでくる!」

シンは泣きながら走り出した。ナイスな判断だ。幼稚園児を守りながら戦うのは幼稚園児には難しい。

 幼児の20キロほどの体重では軽すぎた。魔犬は俺がしがみついているのに立ち上がろうとする。とっさに持っていた石で犬の顔を殴りつけた。さっきの人面石をまだ持っていたのだ、うまく目に当たり魔犬は少しひるんだ。それに合わせて少し間合いをとった。

 2回体をぶるぶるさせると魔犬は完全に俺を標的にした。赤い目がこちらの様子をうかがっている。

 先手必勝!

「ウインドカッター!」

俺の手から風の刃が発射される。しかし魔犬は素早く横にステップし、躱した。

「風の刃!」「エアカッター!」「かまいたち!」

まあ、名前は違うが同じ魔法だ。そもそも攻撃魔法をこの世界で使っているのを見たことがない。名前は適当につけた。というよりまだ決まっていない。

「ウインドレボリューション!」

何度目かの同じ技を出すも躱されてしまう。魔法のスピードが足りないのかと、手を見つめる。魔犬はこちらのすきを見逃さず間合いを詰めてきた。

 再びウインドカッターで応酬するもじわじわと距離を詰められる。

「ウインドカ・・!」

ついに魔犬がとびかかってきた。

 しかし、それはこちらの狙い通り。飛び込んできた魔犬の腹に火球が直撃した。もちろん俺が放った魔法だ。これまで魔法の名前を唱えてから発動させていたのは相手にタイミングを覚えさせるためだ。安易に攻めてきたところで無詠唱の魔法攻撃をぶちかます。作戦通りだった。

 魔犬はヨロヨロと立ち上がりなおもこちらを睨む。可哀そうだが、危険な魔犬には消えてもらう。俺は左の手のひらを魔犬に向け体内の魔力を集中させた。手のひらの先に光の球ができ大きくなっている

この俺の元気を集めたボールなら魔犬も倒せるだろう。集中してボールをより大きくしようとした。しかし、バスケットボールほどの大きさになった所から、大きさが変わらなくなった。それどころか縮み始める。

「魔力切れか?」

 魔犬のほうは自動回復なのか足元がしっかりし始めている。

 そしてついに魔力の球は消えてしまった。おかしい。魔力はまだまだあるはずだ。でも右腕が重い気がする。と、右腕をみるとそこに赤ちゃんがいた。右腕に抱きかかえている。

 黒髪で少し茶色がかった肌の裸の赤ちゃんが俺の腕で自分の親指をしゃぶっている。

 まあ、かわいらしい女の子だわ。

 そんな場合ではないが、見とれてしまった。鼻筋に小さな傷跡がある。俺はこの傷跡を知っている。さっき俺が人面石につけてしまった傷だ。

 この赤ちゃんも石から生まれたのか。

 魔犬はアオーンと遠吠えをしている。体力が回復してきている感じだ。まずい再びエネルギーボールを作るが、また大きくならない。

「だあ、だあだあ。」

と、赤ちゃんの喜ぶ声に合わせてエネルギーボールが小さくなる。

 この子が魔力を吸っているようだ。親指を吸いながらもっとほしいという目でこちらを見るが、あげるわけにもいかない。

「ウインドカッター!」

魔力を吸われる前に発射するしかない。が、やみくもに連射した魔法は大したダメージを与えることはできなかった。魔犬の体力も戻ってきている。

 この子をどうしたものかと思案をめぐらせていると、

「だあ、だあ」

赤ちゃんが声をあげた。両手を開いてこちらに向けている。かわいいの~~

 心が和んだ。

 和んでる場合ではない。魔犬がとびかかってきた。

「バリア!」

二度目のバリアでは魔犬も驚かず、バリアに前足をついてバク宙で回避する。そして立つ唸り声をあげてこちらを睨んでいる。

 バリアをはったまま園舎に退こうとしたときバリアに異変が起きた。バリアも赤ちゃんに吸われ始めたのだ。

 少しずつ薄くなるバリア。魔犬は襲うチャンスをうかがっている。こちらは少しずつ後退する。と、足元の石につまずいて俺の視線がそちらに向いた瞬間、魔犬がバリアを突き破ってきた。

 赤ちゃんを両手で抱えて、横っ飛びする。ゴロゴロと回転してすぐに立ち上がって逃げる。

「きゃっきゃっ。」赤ちゃんはなぜか大喜びだ。

「何で笑ってんだよ。」

走りながら注意をする。この子がいなければたぶん逃げ切れる、5才の体で赤ちゃんを抱えて走るのは厳しい。

 魔犬と向かい合い、またこう着状態になった。

「あうーあうー」

赤ちゃんが俺の肩を乗り越えて後ろに行こうとする。

「どうしたの?」

振り向くともう一匹魔犬がいた。そういえばシンは犬の石を2個持っていたっけ。

「これは・・厳しいかな。」

 2匹の魔犬を左右に見比べながら、あとずさる。ガシャンと背中が園庭の高いフェンスにぶつかった。

2回目の人生も意外とあっけないね。


つづく

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