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おにごっこ-3

おにごっこー3


◇◇◇


「なんとか一日目は超えられそうですね。エイミーさんの作戦がうまくいったのでしょう」


 5mはある巨岩が木々に隠されるようにあった。岩の上に生えた巨木がその岩を真っ二つに割り、身を隠して休むにはちょうど良い。その岩の脇に3つの影があった


「シュラ教官は匂いを頼りに追跡するだろうから、血のついた服の切れ端を使ったのは正解かもな」


 辺りはすでに暗く明かりなしでは顔も判別できない。


「へへ・・だと良いけどね」


エイミー・ミブ・モドクが小さな魔法の光を囲んで話している。


「今日は交代で休みましょう。最初はエイミーさんどうぞ。モドクもそれでいいかい?」


ミブが声をかける。空を見上げるモドクの顔には光が当たらず表情は見えない。


「・・ああ。今日の月はでかいな」


残りの二人も空を見上げる。満月だった。


「これだけ明るければ、ライトもいらないかもね」


エイミーが明かりを消す。三人は輪郭だけになった。


「モルガ国では満月の夜に交通事故の件数が増えるようですよ」


ミブが話す。


「そりゃあ、俺たちは魔族だからな。野生の部分が出ちまうんだろう」


「でも、アルス国でも同じこと聞いたことがあるわ。でもね。単にいつもより明るいからスピードを出しすぎるのよ」


「しかし事故だけででなく犯罪の発生率も上がるんです」


「それも明るいほうが悪いことも作業しやすいからじゃない?」


「顔を見られるかも知れないのに?」


「犯罪者の考えなんて知らないわよ。先に休ませてもらうわ」


エイミーは休める場所、巨石の割れ目に向かう。


「じゃあ今、オレがやろうとしていることは分かるか?」


エイミーを見るモドクの目が緑色に光った。


 ガッ!


エイミーは突然の音に振り向く。


大きな影がさっきモドクがいた場所より近くにあった。よく見るとミブとモドクがお互いに腕を掴んでにらみ合っている。


「何してるの!?」


「どけ。ミブさんよ。その人間はオレのもんだ」


「何を言っている!月を見ただけでそのざまか?」


「うるせえ!お前だって我慢してるんだろ?バレバレだぜ」


エイミーはミブの体が竜人化していることに気付いた。


「ばれてしまってはしかたない。人間の女をそうやすやすと手放すわけがないだろう」


「え??ミブさん??」


「もう本性を出したか。お前のその落ち着き払った態度が気に入らなかったんだよ!」


モドクはミブの手を振り払い殴りかかる。

が、ミブは軽々と躱してモドクの腹にパンチを入れる。


「がっ・・・」


モドクは前のめりに倒れそうになるも、なんとか踏ん張って左パンチを繰り出す。しかしそれもミブに躱された。


「特別枠の私に勝てるとでも?」


ミブが完全に竜人モード変わると吠えた。


「倒すのが目的じゃねーぜ」


エイミーに背を向けていたモドクは急に振り返ると駆け出した。低い姿勢で襲いかかってくる。


「!!・・バリア!!」


エイミーが出した光の壁にモドクはすぐには反応できずその壁にぶちあたる。


(今のうちに・・)


エイミーは振り返って走り出す。野営していた場所から離れる。森に入るといくら満月でも暗く、何度も躓きながらも逃げる。髪はほどけている。


「助けて…」


と、つぶやくも、すぐにエイミーは立ち止まった。目の前にすでにミブがいたからだ。体をこわばらせて逆方向に逃げようとすると後ろにはモドクが。


「よし。ミブさん。ここは協力しないかい?」


妙に明るいトーンで話す。


「まあいいでしょう。人間の女とはいいえ、魔法使いはやっかいですからね」


二人にはさまれエイミーは後ずさる。


「では、私が先に」


「傷つけんなよ」


ミブが走り出した瞬間、エイミーの前に人影が現れた。


「そこまでです。魔族の理性はこんなにももろいのですか?」


すごい殺気が辺りを包む。


「スターク先生!」


「大丈夫ですか?エイミーさん」


スターク教官が優しく微笑みかけた。


そのおでこに何かがヒットした。


「痛っ」


エイミーが発射したヘアゴムだった。


「やったぁ!大成功!先生今、『痛っ』っていいましたよね。私の攻撃を受けたということですよね?私たちの勝ちということでいいですよね?」


「・・・・・」


スターク教官はおでこをかきながらため息をついて聞いた。


「はぁ・・この作戦はいつから?」


「モドクさんの嗅覚があれば教官より先に気付くことができるかもと思っていました。そしてもし接近に気付いた時には…」


「月を話題にする。ですね。よくわかりました。私が皆さんを甘く見すぎていましたね。反省します。私は30分後に再出発します」


スターク教官はもう一度ため息をついてから言った。


「訓練生は君たちを入れてあと七人残っています。あ、エイミーさん。男の人には気を付けるように。それと次はありませんよ。」


「ええ、もちろん。じゃあ先生。しっかり待機してくださいね」


「はい。わかりました」


エイミーたち三人は森の中へ駆け出した。


 ◇◇◇


 3分後、3人は森の中を走っていた。エイミーが話す。


「ここからはバラバラに逃げたほうがいいわね」


「そうですね。別の教官が来ることも考えられ・・」


「やばい!後ろから来る!オレは逃げるぜ!」


急にモドクが右方向へと転換して走り去った。


「私もいくわ。協力してくれてありがとう」


エイミーは左方向へと走る。


「私は足止めしてみましょう」


ミブは立ち止まると振り返った。


「ここは通しません」


全方向に集中し気配を探る。夜の闇が辺りの音を消した。


何分経ったのか、いや何秒も経っていないのかもしれない。


「こんなにおにごっこに緊張するとは」


ふっと緊張がとけた瞬間、目の前の闇が何かを発射した。


すんでのところでミブはそれをかわすことができた。


「ほう。今のをかわすか。ルーキーにしてはまあ良い方だろう」


闇の中からシュラ教官が現れた。後ろの木が数本氷の塊にへし折られている。


「降参しろ。時間の無駄だ。勝てるとでも思っているのか」


「勝てるはずがないでしょう。しかし、あの二人の逃げる時間を少しでも稼げればいいのです」


ミブは両手を前にかまえる。

シュラ教官はアゴを軽くなでると少し微笑んだ。


「素晴らしい。仲間を思う心は警備するうえでも大切なことだ。軽く組み手をしてやろう。特別訓練だ。あの二人はロンとミーズにまかせよう」


戦うといいながらもシュラは仁王立ちをしたまま人差し指だけでかかってこいと挑発した。


ミブがボクシングのように体格に似合わない軽いステップを踏む。

次の瞬間シュラの間合いに入って左ジャブを顔に突き出すと見せて、右のローキック。

が、シュラは初めのジャブには一つも反応せずローキックをジャンプして躱す。

ジャンプと同時に前蹴り。ミブは腕をクロスしてそれを受けるも元いた場所まで後退してしまう。


「接近戦はまだまだだな。次はどうする?」


シュラの挑発に乗るようにミブは大きく息を吸い、火球を連射した。


シュラはそれを左手で簡単に右へ左へはじき返す。その手には氷のコーティングがされていた。


「なんだ?貴様、魔法も使いこなせてないのか?本気で来い」


「魔法?・・では、本気で行かせていただきます」


ミブは一層大きく息を吸い火球を放った。そのサイズは5mを超える。辺りの気温は一気に上がり森の枯れた葉に火をつけながらシュラに向かっていく。


そしてそれは二人の中間地点で急に止まった。


「!?」


火球の周りに白い幕が覆う。そして辺りの気温は逆に一気に下がっていく。そして幕に見えた小さな氷の布ははみるみる厚くなると氷の壁となって完全に包み込んだ。


そして炎の形をしたまま氷の塊となって地面に落ちた。


「・・・そんな・・」


「所詮ルーキー。まだまだだ。これから死ぬほどしごいてやろう」


いつの間にか隣にいたシュラ教官がデコピンをした。


そのとんでもない痛みに、おでこを抑えしゃがみこんでしまった。


「そんな・・特別枠の私が・・」


「?・・・!。終わったようだな」


シュラが見た方向から、エイミーをかついたミーズと、モドクを引きずってくるロン教官が現れた。


「やはり、無理でしたか・・特別枠のわた・・」


「・・ああ。何か勘違いしているようだが、お前は特別枠ではないぞ」


ミブは目の前が真っ暗になった。

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