おにごっこー1
おにごっこー1
「さすがにシュラさんの攻撃を全部相殺はできないですね」
大木の下、露出した根の間でミブは独りごちた。左太ももから出ている血を袖をちぎった布で縛って止めている。
縛りながらルールを確認する。72時間逃げ切ればクリア。デコピンされたらOUT。逆を言えばデコピンさえされなければ見つかっても良いということだ。
「そう遠くまで逃げられなかった。ここもすぐに移動しなければ」
原生林だろうか?不規則に並ぶ木々が邪魔をして遠くは見えない。
辺りに気を配りつつそっと立ち上がろうとした。
「見つけた」
(!?気配は感じなかったのに!)
ミブは前方へとび出し地面を転がるとすぐに声のした方へ攻撃をしようと構える。
「ちょっと待った!ミブさん。私です。私!」
そこには昨日知り合った人族エイミーがいた。昨日と違い肩まであった髪を後ろで結んでいる。
「なぜここが?」
左足の痛みが増す。その様子にエイミーがミブに駆け寄った。
「すみません。驚かせちゃいましたね。ミブさんがケガしたのが見えたので、探してました。ケガ大丈夫ですか?」
エイミーが楽な体勢にしてくれた。
「こんな簡単に見つかるはずは・・」
「あ、それは彼のおかげです。モドクさん」
するとミブが隠れていた木の陰から同郷モルガ国の人狼族、モドクが現れた。狼の顔と屈強な人間の体を持っている。
「こんなに血の匂いをさせちゃ、教官がすぐ来ちまうぜ」
血の匂いか。シュラ教官ならすぐに見つけそうだな。しかしこのにおいを止めることは・・
「そのために私が来たんですよ」
エイミーは両手をミブの左足にかざすと
「ヒール」
と、魔法をかけた。暖かい光とともにみるみる傷が治っていくのが分かる。
「あなたは回復魔法が得意なんですか?」
「いいえ、回復というよりは支援魔法の方ですね。尽くすタイプなんですよ」
「そうですか。ではこの作戦中は協力しませんか」
「・・ちっ。(無反応か。)もちろんです」
「モドク君。君の嗅覚は貴重な戦力だ。ぜひ協力してほしい」
モドクはぷいっとそっぽを向いた。
「ふん。メリットが無え。オレは教官を先に見つけて逃げればいいだけだ」
「では、何でエイミーさんについてきたのです?」
「そりゃあ、その女に・・」
「ん?」
治療の手を止め、エイミーが笑顔で睨む。
「いや、なんでもない」
「はい、もし我々と来てくれたとして、教官を察知したらモドクさんの言う通り、すぐ逃げてください。さらに、我々といっしょにいれば私たちを囮にできますし・・」
「ちょっと!ミブさん」
「それに私の火炎で煙幕を張れば逃げる時間を確保できますよ。でも、教官と出会ってしまったら勝ち目はかなり薄いですね」
「・・分かった。いいだろう。逃げても恨むなよ」
「ありがたいです。あなたの索敵能力はすごいですから」
「おとりに使われるのは嫌だけど。まあ、とにかく早く移動しましょう」
エイミーが辺りを警戒しながら言う。
立ち上がったミブは傷口に当てていた布をとり、ズボンの血のついた部分を破って顔の前に出した。大きく息を吸い込む。
「ちょっと待って。なにするの?」
「こんな血のにおいのするものを残すわけには行かないでしょう。焼却処分ですよ」
「・・そうだ!それ貸してくれる?いい考えがあるんだけど・・」
◇◇◇
「いい考えがあるんだけど」
フラグが4人の訓練生を前に話し出す。
「なんで協力する必要がある?」
背の高いドワーフのノアが聞く。
「もう、3人つかまった」
「本当?なんでわかるの?」
「オレってば耳がいいからさ。さっき3人目の悲鳴が聞こえたのよ」
「誰が?」
「魔族のソトス。エルフのシェン。人間のケンだね。しかも悲鳴がだんだんこちらにちかづいている」
「じゃあ早く逃げないと!」
「いや、間に合わないと思う」
「あきらめるってことか」
「いや、一旦迎撃しよう。オレたち5人でしかければいくら教官でもなんとかなるだろう」
「そうとも思えないけど時間は確かに無さそう。協力しましょう。作戦はあるの?」
人間族のリンが聞く。
「ありがたいぜ。じゃあ、作戦はこうだ。この中で一番戦闘能力が低いオレがおとりになる。みんなはオレより先に行って教官に見つからないようにしていてくれ。オレが見つかったら合図を送るから教官に攻撃だ。攻撃方法はそれぞれ得意なものでやってくれ」
「ドワーフはお前を置き去りに逃げるかもしれないぜ」
エルフのマルコがいうとノアが反論する。
「ドワーフは義理を大切にする。エルフこそ自分のことしか考えないのでは?」
「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!」
人族のリンが仲裁に入るも一触即発の空気になっている。フラグが
「MSAK隊員にそんな非情な奴はいないよ。オレはみんなを信頼している。でももし、オレが即やられたら逃げてくれ」
「わかった。一番やばいのはフラグだったな。すまない。ノア君、チュートさん」
「いや、こちらこそ冷静さを欠いた。マルコ殿申し訳ない」
女ドワーフのチュートが頭を下げる。
「じゃあ、時間がない。みんなあの高い木を目指して進んでくれ。15秒後にオレも行く。頼んだぜ」
辺りから4人の気配が消える。15秒後ちょうどにフラグは走り出した。なるべくガサガサと音をたてながら。
気づかれたとしても、俺の耳があれば教官の接近には気付けるはず、辺りの音に集中しないと・・
「フラグ君」
「わあ!!!」
いきなり後ろから肩をたたかれ、つんのめって転んでしまった。すぐに体勢をたてなおし振り返ると、ドワーフの教官ミーズがいた。
「今の動きはまあまあだったね」
「ちょっ・先生ちょっと待ってください。オレ結構耳に自身があったんですけど、どうやって」
「ん?答える必要もないけど。私は普通に追いかけただけだよ。音もそれなりに出ていたと思うけど」
「そんなはずは・・」
「まあ、そりゃ野生動物に気付かれないくらいには動いてたけど。それに気付かないなら、単に修行不足だね」
「くっ・・」
「さあ、おでこを出しな。痛くないように・・・」
「今だ!」
フラグが叫んだ直後に魔法の火球がミーズの辺りで爆発した。さらにその数瞬後3つの人影が爆煙に飛び込んだ。
「やったか!?」
フラグは立った。
しかし、すぐに煙の中から3人が仰向けに倒れてきた。おでこにはこぶし大のたんこぶ。そこからプスプスと煙が出ているようだ。
「逃げろ・・フラグ・・」
マルコが残り僅かな意識の中で言った。
風が煙を流しミーズの姿が見えた。
「無傷?」
ミーズはフラグを見て、ニヤリと笑むと、急に姿を消した。
「うわっ」
反射的に腕で覆う。・・が、何も起こらない。
そっと腕を下ろし、辺りの気配を探る・・と、
ドサッと後ろから音がする。
振り返るとそこにはミーズ教官とその足元におでこを腫らしたリンの姿があった。
「リン!」
リンはさっき魔法で遠距離攻撃をしたはずだ。なのにもう教官に捕まってしまったのだ。
フラグは逃げた。
しかし回り込まれてしまった。マルコに言われた瞬間に逃げるべきだった
「フラグ君。君がこの作戦を考えたのかい?」
「・・はい」
のどが乾く。
「この訓練はレクレーションみたいなものだと言ったろ?本気で72時間私たちから逃げられるとでも?」
ミーズの顔が再び笑む。
「作戦も雑だし、鍛えなおしだね。まあ、一番の敗因は、教官をなめすぎたってことだね」
ミーズが右手の中指を親指にセットするところまで見たが次の瞬間フラグの意識は無かった。




