特別枠
◇◇◇
ということで、BBQ会場である。
まあ、苦手だ。前世の引きこもり体質がここ5年の父さんとの山ごもりで再発した。みんなそれなりに和気あいあいと話しているというか情報を探り合っている。浮かれた魔族の女が仮面をつけて裸同然の格好であらわれ、上官に怒られて着替えに戻っていたが、それ以外は普通の苦手な会食といった感じだ。
「よう、ジョン君?飲んでる?」
いきなり肩を組まれた。振り向くと人族の青年だった。5年前の炎上以来、偽名「ジョン」で生活している。
「僕は未成年だから飲めないんです。ええと・・」
「名前を覚えていない?こりゃ先が思いやられるぜ。俺は『フラグ』アルス勢の名前くらい覚えといた方がいいね」
「すみません。山にいたもので・・」
「山?ああジョンが特別枠ってやつ?」
「まあ、そーなんですかね?わからないですけど」
他の参加者はMSAKで勤務経験が数年あり、そこでの実績を認められここにいるが、俺は勤務ゼロに等しい。おそらくでなくても父さんのコネだろう。
なにやら、それぞれの国に一人ずつ特別枠があるらしい。誰がそうなのかは知らされていない。表面上、平等ということだ。
「オレは情報通フラグ先輩よ。君が格闘系なのも知っているよ。魔法が苦手なのもね。ついでに、ここのメンバーについて教えてあげよう。何か質問はあるかい?」
特に気になることもないがここで「無いです」というのは気が引ける。
「んーじゃあ、一番強いのは誰です?」
「そりゃもちろんオレさ。と、言いたい所だけどやっぱり『ミブ』だろ」
「ミブ?」
「あそこの竜人さ。おそらく魔族国モルガの特別枠だね」
リザードマンだと思っていたが何とその上位種、竜人だった。スーツをビシっと決めてワインか何かを飲みながら人間の女性と談笑している。
見た目は竜で怖いが女性が笑顔で話しているのを見ると悪い人ではないのかもしれない。
「今、ミブと話しているのが『エイミー』ね。魔法が得意らしいよ」
フラグ先輩の解説が入る。と、エイミーがこちらに気付いて手を振ってきた。
「?」
と、思いつつも軽く手をあげる。エイミーはミブに会釈するとこちらに速足で歩いてきた。エイミーの顔についていた笑顔がこちらに近づくにつれて青ざめた。
「ムリムリムリムリ。めっちゃこわい。あの人、めっちゃ怖いよ」
細かく手と首を振りながら俺たちに話しかけてきた。
「エイミーちゃん大丈夫?」
「あなたフラグね。こちらは?」
「ジョンです」
「あージョン。ほぼ初対面なのにごめんなさい。あの人。ミブさんっていうの?話せば悪い人ではないんだろうけどね。私そもそも爬虫類系が苦手なのよ。それで武勇伝をいくつも語られてもね。いや、それは褒めたりもしたわよ。でも笑ってるのに、目が笑ってないのよ。チョー怖い」
エイミーはいっきにまくしたてる。
「はあ」という、返事も最後まで聞かず
「でもね。すごい強いのは確かね。プレッシャーというか圧というかは桁がちがうわ。人間チームが束になってもどうかしらね」
「へー私はそんなに強いですか?」
いつの間にかエイミーの後ろにミブがいた。フラグと俺も気付かなかった。
エイミーは真っ白な顔になってゆっくりと振り向いた。
「え・・・と、い、いつから?」
「爬虫類キライの辺りからですね」
「そ、それはまた、ずいぶん前です・・ね。あ、でも爬虫類にもかわいらしいのもいますよね」
「では、こちらのほうが良いですか?」
そう言うと、ミブは光に包まれた。光が収まるとそこには赤い髪のイケメンが立っていた。服装が先ほどのミブと同じで名札もついている、同じくさっきまでミブの頭に生えていた角が合った。
「これでどうでしょ・・」
「好きです」
エイミーが告白した。
「切り替えが早い!」
フラグにつっこみもエイミーはお構いなしだ。
「先ほどの武勇伝もっと聞かせてくださる?」
「いやいや武勇伝というほどでもないですよ。そちらの彼に比べれば」
と、ミブが俺の方を見ていた。
「ジョン?ジョン、何かしたのか?」
「?なんのことでしょう?」
「そうですね。それは追々。ジョンさん?あなたがアルスの特別枠ですか?」
「よくわかりません。特別枠というのは噂ですし。仮にあっても平等なはずです」
ミブはしばらく真顔でこちらを見ると少し微笑んだ。
「そうですね。お互い訓練頑張りましょう」
そういって握手をするとまた別のテーブルへと行ってしまった。
「お前、よく耐えられたなエイミーの言う通りあのプレッシャーはすげえ。ちびるかと思ったよ。エイミーもよく行くよ」
エイミーはミブについていってしまった。よほどタイプだったのだろう。
「オレはあっちの人族ケンとリンのとこに行くけど、ジョンは?」
「ぼくは静かにすごします。すみません」
「わかった。たくさん食べろよ」
一人オレンジジュースを持って周りを見ると隅の暗いところで座っている少年を見つけた。なんとなくピンときて肉の串をもって少年に声をかけた。
「食べますか?」
「あ、どうも。あ、ありがとうございます」
遠慮がちに肉を受け取った少年はドワーフだった。こげ茶色の短髪で眼鏡をかけている。体が小さいドワーフ族だから少年と間違えた訳ではなく、実際に髭もない若いドワーフだった。でももしかしたら年上かもしれない。お互いに何を話すでもなく
「ジョンと言います」
「ザムです」
ザムと名前だけ確認し合うと前を向いてもくもくと肉をほおばっていた。
何も話さなくてもいいのは落ち着く。二人で入ってくるなオーラを出していれば間に割って入ってくる人もいな…
「これ、そこの!お主!」
すげえ、入ってくる人がいた。両手を腰に当て仁王立ちで俺の前に立つ。エルフの女性だ。おまけにめちゃくちゃ美人。これまた美しい金髪を左手でかき払いつつ
「アルスの特別枠のジョンであるか!?そうであろう!?」
高圧的な態度ってやつですね。エルフってもっと小さい声で話すんじゃないの?
「特別枠かは知りませんが、僕は確かにジョンです。あな」
「我はエルフの特別枠フェルである。敬いなさい!」
さすがエルフ。言葉から見た目より年をとっていることが分かる。そしてめんどくせー。
「はあ、よろしくお願いします」
「何じゃ?まだ、部下にするとはいっておらん。おぬしの実力次第じゃな」
「いや、訓練に対してよろしくお願いしますと言いたかっ…」
「分かっておる。我の美貌にひかれ、ついてきたいのであろう。しかし仕事は仕事じゃ。足手まといを雇うわけにはいかぬ。訓練のなかで実力を見せてみよ」
随分と上からの物言いだが、フェルも訓練生だよね。戸惑っているとエルフ国フレストの「ロン」という引率教官がやってきた。
「ひめ・・いや、フェルさんこんな所、早いところ出ますよ。部屋でもっと良いものを召し上がりましょう。こんな下賤な者達と話す必要などありません」
はい、こいつきらい。
「いやじゃ。まだ肉を食う」
フェルは両手に持っていた肉を食らう。
そんなわがままを言うフェルも美しい。今はBBQを食べる時で合ってわがままを言っているのはロンの方だ。
「おぬしらも明日の訓練に備えてしっかりと食べるのじゃぞ。・・ん?誰かと思ったら、ザム。おぬしもいたのか」
「・・はあ。どうも」
ザムは眼鏡の位置を直しながら、小さく返事をする。
「お主のモノはとても良いぞ。また、頼むこともあるかもしれぬ」
「モノ?姫、あの汚らわしいドワーフと知り合いなのですか?ものとは何ですか?どのような関係が?」
慌てふためく教官と俺。
「ザム、知り合いなの?」
つい、俺も聞いてしまった。ザムが答える前にフェルがザムを目で威圧する。
「まあ、ちょっとだけ」
大切な部分は答えないザムに安心したフェルは
「ではまた明日にな。ハッハッハ」
と謎の笑いを残して去っていく。その横をロン教官が何があったのかとしつこく聞いている。
フェルは後ろ姿も美しいなあ。でも、ナース服は似合わないなあ、などと思っているとその長い金髪が不自然になびいた。風はないはずなのに。とっさにザムを見る。ザムも見ていたようだが、こちらと目を合わせて、すぐにそらせた。
「おーい、ジョン。飲んでるか?あ、飲めないか」
フラグ先輩が帰ってきた。
「さっきまでフェル様と話してただろ。きれいだよなー。さすがエルフ国第四皇女きっとおしとやかなんだろうなあ」
「皇女?第四?」
「そうだよ。知らないのも無理はない。お忍びでの参加だからな。フェル皇女は国の平和維持を国民にだけ任せるのはしのびない。自ら戦わねば国の威信にかかわるといってMSAKと契約をしているんだ。素晴らしい方だろう」
「おしとやかではなかったけどね」
「まさか。あんなきれいなんだから。おしとやかに決まってるだろ。皇族ってことで特別枠と言われているが、実際の実力も相当らしい。あんな人と同じチームで戦えたらなぁ。ジョン、お前もそう思うだろ?」
フラグは立ったまま俺に話しかけた。
「ああ、はいぃ」とあいまいな返事をしていると隣にザムがいないことに気付いた。
「どうした?」
「いや、さっきまでザムっていうドワーフと一緒にいたんだけど」
「ザム?ドワーフ族のか?そいつも特別枠という話だ。こいつもお前と同じでかなり若いらしい。オレは一度も見てないけど本当にここにいたのか?」
「はい。物静かな少年と言った感じでしたけど」
今日だけで特別枠全員と知り合ったわけか。
「急にいなくなったのか?特別枠は変わりもんが多いってっことだな。お前もか?」
と、フラグ先輩に変わり者扱いされて心外に思いつつ
「そんなことありませんよ」
と返した。
「魔王と戦ったことがあるだけです」
とは答えなかった。
つづく




