軍勢です
既に非常事なのにさらにそれを告げる鐘の音が追加で響いた。
どう考えても悪い予感しかしない。
急ぎ門の入り口に向かう。
辿り着いて飛び込んで来た光景は未だ冒険者と騎士団が魔物と交戦している最中だった。
突破されたわけじゃない?
じゃあさっきの鐘の音は何だ⁉︎
「集団魔法準備! 急いで下さいっ!」
遠くからこちらに向かって来るアリシアさんが大声で叫んでいる。
見ると冒険者と騎士団も徐々にこちらに後退して来ているようだ。
魔物の群はまだ残っているがこちらに向かって来る様子が無い。
「はぁ、はぁ、はぁ、火力は入りません!
冒険者と騎士団の後退が完了次第、討伐された魔物に向けて広範囲で焼き払って下さい!」
アリシアさんが息を切らしてそんな事を言った。
その事もよく分からなかったが、それ以上に魔物がまだ残っているのに全員が後退するのは一体どういうことだろう?
残った魔物に向けて魔法を放つ為に下げたならまだ分かるんだけど、アリシアさんが言ったのは討伐された魔物に向けてだった。
こちらに辿り着いたアリシアさんにどう言う事が聞こうとしたが…。
「「プロミネンスっ!」」
ゴオッ!!
聞こうとしたところで魔法師団から魔法が放たれた。
今度は一筋の炎が魔物に向かい着弾すると広範囲に炎が広がっていった。
どう言う事か聞きたいところだがアリシアさんの息が荒いので息が整うのを待つ。
急かすのはよく無い、紳士の嗜みだ。
《誰が紳士ですか?》
そう言うトコはしっかりツッコんでくるね?
《調子に乗るのを嗜めるのもパートナーの務めかと》
……モノは言いようだよね。
その間にも前線に出ていた者達が続々と門の周辺に集結していく。
「負傷した奴は退がれ! 待機組は前へ出ろ!
こっからは無理だと思ったらすぐに退がれ!
絶対に喰われるなよ!」
殿を務めていたらしいクラウドさんからそんな声が上がった。
喰われるな? 人喰いの魔物でも出たのか?
「アリシアさん何があったんですか?
わざわざ討伐した魔物を目標に魔法を放つなんて?
それに喰われるなって?」
「悠生様がご存知無いのも無理ありません。
この世界ではスタンピードと呼ばれる魔物の大移動ともう一つ大波に追われる津波と言うモノがあります。
そして今大波が現れました……オークの軍勢です!」
アリシアさんが言い切ると広がった火の中からオークの軍勢が現れた。
その数はどんどん増えて来ている。
またオークとかこっち来てから何かと縁があるな。
そんなもんは願い下げなんだが…。
そんな中、猪型の魔物が火の中から飛び出して来た。
しかし飛び出した先はオークの群の中。
すぐにオーク達に捕獲されそして…。
「うえっ⁉︎」
そのままオークに噛みつかれ四肢を引きちぎられていく。
そしてその猪に他のオークも群がっていく。
喰われた⁉︎
「アレがオークの1番厄介なとこだよ。
食欲に忠実で喰った分能力を向上させる。
俺らの中じゃ『捕食』って呼ばれてるがな」
クラウドさんの言葉に先程討伐した魔物を焼き払った理由が判明した。
喰われるなってそう言う事か!
えぐいな想像したくねぇ…。
オークの軍勢を迎え撃つべく冒険者と騎士団が突撃して行く。
こちらはオーク1匹に対して2人以上で交戦。
押されそうな所には単独でオークと渡り合えるクラウドさん、スズ、ビャッコの2人と1匹がフォローに入る事で戦線を維持。
幸いオークの軍勢の進軍速度は遅い。
このまま押し返せる!
「ぐわあぁーっ!」
と思っていたところで騎士団から悲鳴が上がった。
人が宙を舞ってる⁉︎
いや違う! オークの群の中に一際デカい奴がいる!
しかもそいつはピンクじゃなく青い体躯をしていた。
あんなデカい奴いつ現れたんだ⁉︎
「くそっ! 時間をかけ過ぎた!
ジェネラルに進化しやがった!」
「え⁉︎ 進化⁉︎ そんな急にするもんなの⁉︎」
「……おそらく私達が倒した仲間を共食いしてます。
でなければあの巨体を察知できないはずがありません」
俺の疑問にアリシアさんが予想を述べた。
「いっ⁉︎」
俺がその事実に言葉を失っていると別方向からも悲鳴が上がった。
「ぎゃーっ!」
今度は冒険者側からだ。
そしてそちら側にも青い体躯をしたジェネラルがいた。
「嬢ちゃん! アレの相手行けるか⁉︎」
「やるしかないんでしょ?」
「そっち側は任せたぞ! お前ら! ジェネラルには触れるな! オークに専念しろ!」
クラウドさんがスズと周りに指示を出し、自らは冒険者側に現れたジェネラルに向かって行った。
しかし向かうまでの間にジェネラルの一振りで周りの者達は吹き飛ばされていく。
そして吹き飛ばされた先はオークの群の中…。
「ぎぃっ⁉︎」
「がっ⁉︎」
オークに噛みつかれ声にならない声を上げて捕食され、そこに次々とオークが群がっていく。
「うっ⁉︎」
俺はその光景を見ていられず吐き気を催して蹲った。
「…っ! ビャッコッ!」
「ヴァウッ!」
巨大化したビャッコの爪が捕食中のオークを襲うが、数匹を切り裂いただけで大した効果は無かった。
「悠生様大丈夫ですか⁉︎」
アリシアさんが声をかけてくるが込み上がってくる物を我慢するのに精一杯で碌に返事も出来なかった。
その間にも被害が次々と出ている事を示す悲鳴が聞こえてきたが、それでも俺はその場から動く事が出来ないでいた。
ビリビリッ!
「おらあっ!!」
ザクッ!
そんな状況の中、大気が震える感覚とそのすぐ後に気合いの入った声と共に何かを斬りつけた音が俺の元に届いた。
そしてその後、悲鳴が収まった。
「いい加減にしとけよブタ野郎!」
「………」
やっと顔を上げる事のできた俺の目にはジェネラルに啖呵を切るクラウドさんと無言で歩み寄るスズの姿があった。




