津波です
「敵影殲滅を確認!」
「「「おおおおっ!」」」
開戦から1時間ほど経っただろうか、見張り台から確認している兵士から報告に周囲から歓声が上がった。
どうやら終わったようだ。
俺達はというと……戦闘には参加せず負傷した冒険者や兵士達の治療の手伝いをしていた。
作戦の概要が分からない為、途中参加は控えたのだ。
と言っても重傷者はおらず軽傷の者が何人か下がって来る程度だったので手伝いも包帯を巻く程度だったのだが。
「良いことだけどコレ使わなかったな」
俺はロゼ婆さんから託された中級回復薬を持て余していた。
流石に俺がもらうわけにはいかないからクラウドさんに渡しておくか。
見張り台の上にクラウドさんはもういない。
開戦の合図と共に見張り台から降りて敵陣に突っ込んでいったからだ。
リーダーが真っ先に突っ込んで行って大丈夫なのかよ?
と思わなくもないが、あの性格なら納得もしてしまう。
俺達は門の入り口まで向かいクラウドさんを探し、程なくしてクラウドさんを見つけた。
「お疲れ様です」
「ん? おお! 期待の新人じゃねぇか!
もう戻ってたのか……って……早くないか?
往復するだけの日数も経ってないはずじゃ?」
当然の反応だよなぁ。
「とんでもなく急ぎましたよ。
それでロゼさんから中級回復薬を預かってますよ」
「おお! そいつは助かる!」
「でもコレの出番は無いみたいなんで安心しましたよ」
「ん? なんでだ?」
「え? さっきまで負傷者の手当の手伝いをしてた限りではコレが必要そうな人はいませんでしたけど? どこかで重傷の人がいるんですか?」
「いや、今の所それは無い」
ん? 今の所?
妙な言い方に首を捻っているとクラウドさんが門の外を指差す。
そこには遠目でも分かるほど魔物の大群が横たわっているのが見える。
殲滅を確認って言ってたから生き残りがいるわけでは無いみたいだけど?
「……全滅してるように見えますけど、スタンピードはこれで終わったんじゃ?」
「スタンピードならそれで良かったんだが、あそこにいるのは中型までで移動速度の速い奴らだけだ。
こいつは津波だ、遠くに砂煙が見えるだろ?
次は大型共が来るぞ」
津波って聞いた時はスタンピードの表現の違いかと思ってたけどまさかここでは別物扱いだったとは…。
戦闘に参加した面々は分かっていたようで一息入れてはいるが浮かれた様子は無い。
「悪りぃがそっちの嬢ちゃんにも手伝ってもらえるか?」
「これじゃあ逃げ場が無いしねぇ」
「期待してるぜ、お前さんはどうする?
この前見た感じだとこっからは厳しいと思うが」
それはその通りなんだよなぁ。
しかも今までぶっ通しで残りの魔力は半分を切ってる。
長期戦、しかも大規模戦闘と予想されるので少なくとも休んで回復させないと正直使い物にならない。
「少しでも魔力回復したいのでしばらくは裏方の手伝いをやっておきます」
「魔力? お前さん職業『旅人』だったよな?
魔法職系なのか?」
ん〜、どうなんだろ?
『配達』とか『プランナー』はそれっぽいんだけど、今ここで必要なのは戦闘要員だしなぁ。
そうなると『夢現』……となると。
「…身体強化系なんでそっちに魔力使う感じですね」
「なるほど戦士系になるわけか…となると長期戦は難しそうだな。
もしもの時は後方の援護を頼む」
流石ギルド長、それだけで俺のスキルの問題を看破してきた。
「嬢ちゃんは鐘の音が聞こえたらここに集まってくれ、それまでは自由にしてていいからよ」
「やた! にぃさん甘味食べいこ!」
「この状況でもマイペースだなぁ」
「ああ〜、今はみんな避難してて店はやってないと思うぞ?」
「ええ〜っ⁉︎」
クラウドさんの言葉にスズがこの世の終わりみたいな声を上げる。
「緊張感のカケラもねぇなぁ」
「ふふ、頼もしい限りじゃないですか」
聞こえて来た声の方に振り返る。
「アリシアさんに旦那!」
「ヴァウ!」
「と、ビャッコも」
2人と1匹の姿がそこにあった。
「これはアリシア王女。
この度はありがとうございます。
陣頭指揮といいご自身も召喚士として参戦して頂けるなんて感謝致します」
「クラウドギルド長そんなにかしこまらないで下さい。
街を守る為に奮起していただきこちらこそ王に代わりお礼申し上げます」
「力無き民の為に、その理念に従ったまでです。
ここに集まったのはそういう奴らばかりですよ」
「心強い限りです、私達も最善を尽くします。
あの…クラウドギルド長そちらのお二人を少し宜しいでしょうか?」
アリシアさんが目線で俺とスズを指す。
それを見たギルド長が小声で俺に囁いてくる。
「お前さん達何かやらかしたのか?」
「人聞きが悪い事言わないで下さいよ。
ちょっと縁があって食糧調達用の馬車を手伝った事があるだけですよ」
クラウドさんの顔にはそれだけでか?
みたいな表情が浮かんでいたがこの際それで納得して頂こう。
「お待たせするのも悪いんでちょっと行ってきますね」
「ん、ああ。
じゃあ鐘が鳴ったら宜しく頼む。
ではアリシア王女、俺はここで失礼します」
「はい、また後ほど」
そう言ってクラウドさんは門の方へ向かって行った。
「悠生様招集に応じていただきありがとうございます」
「小僧、予定より早く呼ぶ事になっちまってすまなかったな」
アリシアさんと旦那から声をかけられる。
「いえ、その為に連絡してもらうようにお願いしてたんで問題無いですよ。
実際連絡貰ってからすぐには来れなかったんですけど」
「謙遜すんなよ。
小僧じゃなければ来るどころか知る事も出来ないんだからな」
そう言われればそうなんだろうけど、あいにく今は万全の状態とは言い難い。
「ところで悠生様先程少し耳にしましたが魔力の残りが心許ないとか?」
アリシアさんが耳の痛いところをついてくる。
ここは隠してもしょうがない。
「すみません。
来たまでは良かったんですけど、正直半分切ってますね」
「小僧のスキルだと長期戦は難しいからなぁ」
「それでも頼もしい事に変わりはありませんよ。
ですが頼ってばかりではいられません。
悠生様の出番が無いよう出来る事をしましょう」
「って事だ、小僧は本当の切り札だ。
それまでは魔力の回復に専念してくれ」
「ワタシも休みたいけどそうも言ってられないからねぇ」
「なんか悪いな」
「その代わりに終わったら甘味奢ってねぇ」
緊張感ねぇなぁ。
まぁ心配し過ぎて萎縮するよりマシか。
スズならなんとかしそうだしな。
「では私達は冒険者の方々と作戦会議がありますので失礼しますね」
さっき言ってた後ほどってのはそのことか。
〜作戦会議〜
西門の近くに設置された簡易の天幕で4人の男女が机を囲んでいる。
「第一波は広範囲魔法による掃討で良かったが、次の第二波は大型が中心となる。
高火力での先制から何人かでパーティを組んで対処に当たる必要があるだろうな」
クラウドギルド長の言葉にアリシアが続ける。
「そうなると連携の問題ですね。
冒険者の方々と私達で別れた方がいいでしょう。
即興の組み合わせでは限界がありますし。
冒険者側の魔法使いの方はパーティ戦でも慣れていると思いますので、初手はこちらの魔法師団で担当しましょう」
「助かります。
では冒険者と騎士団は北と南でそれぞれ別れて中央の西門は俺が担当します。
俺なら単騎でもそこらの奴よりやれますから」
「私もそこに加わりましょう。
私のビャッコもパーティ戦の経験がありませんので、下手に混ざって連携を乱すよりはいいかと思います」
「っ⁉︎ アリシア王女! それはちょっと!
それなら俺も中央を担当します!」
いきなり前線に王女が出陣するのは守る立場にあるザックからすると躊躇われた。
「ザック騎士団長には現場での指揮をお任せします。
私では現場指揮は出来ませんから」
「ですがっ!」
「アリシア王女、旦那の立場もあるんでそれはちょっと」
この場に居合わせたムジカも難色を示した。
「私だって役に立ちます。
今はこの脅威を退けるのが最優先です」
「だからと言って前線に出る必要は無いでしょう! ビャッコであれば遠距離でも十分です!」
「それでは何かあった時に困ります!」
アリシアもザックの両者譲らない言い合いに困っているムジカ。
そんな様子を見ながらクラウドは思う。
責任感の強い王女に職務に忠実な騎士、後ろでふんぞり返って何もしない奴らよりよほど好感が持てる。
それに指揮官が前線に出るのとそうでないのでは士気が大きく違う。
とは言ってもこのままだとどこまで行っても平行線……妥協案を掲示しないと収まらないだろう。
「……ちょうど1人凄腕がいるんだがそいつを王女の護衛につけるってのはどうだ?」
「そんな凄い方が抜けてはそのパーティの方々が困るでしょうし、私についている場合では無いのでは?」
「いや問題無い、そいつは今回1人だ。
ランクはDだが実力はA以上なのは俺が保証しよう」
その言葉に該当する人物に心当たりがあった。
それも2人。
アリシアとザックが顔を見合わせる。
「あの、その方というのは…」
「面識はあるみたいだから説明は不要だと思うが、さっき話してた嬢ちゃんの事だ。
護衛としては十分だと思うぜ、少なくともアレ以上の護衛はいねぇだろうな。
もうひとりはランク相応って感じだったから後方を任せてある」
「スズさんですね」
「……確かにあの嬢ちゃんなら文句は無いな」
ギルド長の言い方から察するに悠生のスキルに関しては詳しく知らないようだ。
知っていれば先程の言葉は出てこない。
後先考えなければという条件付きだが単純な戦闘力ならおそらくこの場所で最大。
それ以外も常識を覆すスキルを持っているがそちらは公になった場合、今後あらゆる者が悠生を取り込もうとするだろう。
正直出番が無いのが望ましい。
となるとこの提案は断る理由が無い。
ただしスズの意向は入っていないのだが…。
「決まりだ、それじゃあそれぞれ手筈を整えるか」
第二波はまもなくやってくる。
「くしゅん」
どうしても甘味を諦めきれないスズに付き合って街を徘徊しているとスズがくしゃみをした。
「どうした? 風邪か?」
「ん〜、そんなんじゃないかなぁ。
これはアレだね…甘味がワタシを呼んでいる」
真面目な顔でおかしな事を言っている。
「やっぱり風邪で熱でもあるんじゃないか?」
「んー、あっちから呼ばれてる気がするぅ〜」
スズが足取り軽くパタパタとかけていく。
その様子は風邪では無さそうだが。
「残念ながらそれは無いと思うぞ」
むしろあったらそれは甘味を模した何かだろうな。
その後も徘徊するが結局どこの店も開いてなかった。




