ダンジョン探索です②
リーガルダンジョン地下4階。
「疲れたぁ〜!!
もうしばらくアイツらは見たく無い!」
「しかも1個も落とさなかったねぇ」
「ホントだよ! あんだけ沸いて出たくせに収穫ゼロとか!」
今愚痴っているのは地下3階の事だ。
地下2階は一言で言うとアニマルゾーンだった。
動物型の魔物が多種に渡って徘徊していた。
コボルトと違って攻撃力に割り振って来た感じだったがそんなものは当たらなければどうと言う事は無い。
ちなみに地下2階の魔石の結果は1個だった。
50匹ぐらいは屠ったんだけどなぁ。
《にぱ〜、ですね》
何その笑いと数字を合わせたような表現?
どっかで聞いた事あるような無いような?
この際2%でも落ちてくれてたのが良かったと思えるよ。
地下3階の悲惨さに比べれば…。
せめてもの救いとして今の所2乗で乗り切れている事ぐらいか。
地下3階を表現するなら蟻地獄だった。
それもアーミーアントだった。
例に漏れずここでも集団で行動するらしい。
それだけならまだ良かったんだが、厄介だったのがダンジョン内の通路がアリの巣みたいに至る所が分岐しており、次から次にアリが絶えず迫って来るのだ。
おかげで進むだけで苦労する始末で間違いなくここが1番時間を食った。
討伐した数は100や200じゃ利かない。
その数を討伐して魔石がまさかのゼロ!
というよりアーミーアントって確かランクDに分類されてたけどあの数はおかしくないか⁉︎
森で会った時ですら数十体程度だったのに桁変わってんだけど⁉︎
ここ本当に冒険者ランクDで踏破可能なのか?
「にぃさん、ぼやいてもしょうがないよぉ。
飴食べる?」
スズが呑気に飴を差し出して来る。
「あ〜うん、今日は貰っとく」
「疲れた時には甘いモノだよねぇ」
そんな事を言っているがスズに疲れた様子は無い。
というより疲れてなくても常に糖分を摂っているように思う。
それでこの体型……世の女性陣全てに羨ましがれる事間違い無しだな。
「んん?」
「いや、よく太らないなと思って」
「食べた分動けば大丈夫ぅ〜」
スズは簡単に言うけど普通は難しいんだけどなぁ。
食べると言えばダンジョンに入ってから結構経つけどまだ何も食べて無いな。
飴だけってのは流石に……こんな事なら地下2階でトトロン狩った時に少し持って来れば良かったな。
戻るにもまた地下3階を通る事になると思うとげんなりする。
というよりよくあんな階層マッピング出来たな?
俺はマップがあるから通るだけでいいけど、貰った紙には地下3階も網羅されていた。
俺は自分のマップと紙の3階を見比べて見る。
距離感とかはバラバラではあるけど全体のイメージとしてはほぼ間違って無い。
ミクに言わせれば完璧であればこの紙でもマップ踏破可能だったらしい。
フリードで地図を最初に見た時に踏破出来た理由がここにきて判明した。
完璧じゃないから見ただけで踏破扱いにならなかったって事は殆どの場合は地図を見てもダメだろ。
むしろ完璧な状態だったフリードの地図が凄えよ。
それはさておき。
この紙のマップによると探索する範囲があるのはここ地下4階が最後で地下5階は1フロアのみ。
あからさまにボス的なやつが控えてる気がしてしょうがない。
ここらで休憩を挟んで行きたい所なんだが、落ち着ける場所ってあんのかな?
歩きながら広い場所に向かっていると騒がしい音が聞こえて来た。
ドドドドドッ!
そこにいたのはブルバウだった。
騒がしい理由はそいつが走り回っていたからだ。
ただし、背中にコボルトが乗っていたが。
「コボルトライダー?」
「何それ?」
「いや言ってみただけ」
でもこれは有難い。
貴重な食糧確保と行こう。
俺の思考を読み取ったのかコボルトライダーがこちらに突進して来た。
ブルバウの突進は直接受け止めるのは素の状態じゃ無理なので横に移動する事で躱す。
通り過ぎたブルバウを見ると違和感を覚えた。
「あれ? コボルトどこ行った?」
「にぃさん、上」
「上? っとお⁉︎」
ガン!
間一髪、上から振って来たコボルトの一撃を躱す。
「ギッ!」
標的を外したコボルトは即座にブルバウの元まで走り、再度背に乗ってまたこちらに突進して来た。
ちょっと驚いたが同じ突進とは芸が無い。
「スズ、下は任せた下処理よろしく」
「部位が選び放題だねぇ」
ブルバウをスズに任せて先程と同様に飛び上がったコボルトに向かってこちらも跳躍する。
ちなみに2乗発動。
「ギッ⁉︎」
「残念」
ゴッ!
下からのアッパーでコボルトの体がさらに上に突き上げられる。
絵面的には某格闘ゲームで昇○拳を放ったかのようだろう。
斬るとブルバウに血が降りかかってしまうから素手でぶん殴っただけではあるが。
そしてコボルトは少し離れた位置に落下して動かなくなった。
K.O.! とか言うナレーションが聞こえてきそうだ。
《言いませんからね?》
分かってるよ。
さてスズの方も問題なく下処理に入ってるみたいだし、俺はこの辺の掃除を担当しますか。
マップに点在する目印に向かってフロア内のコボルトライダー(勝手に命名)を殲滅していく。
フロア内の魔物を片付け終わって戻ると…。
「おふぁえりぃ〜」
先にブルバウを食べているスズがいた。
「もう食ってんの?」
「むぐ、出来立てが一番美味しいからねぇ。
はい、にぃさんの分」
「ありがと」
差し出されたのは蒲焼みたいに串を打ったステーキ肉だった。
なんとも贅沢な串焼きだ。
貰った肉に舌鼓を打ちながらあっという間に完食。
やっぱこっちの魔物素材って美味いな。
もう少し休憩したら最下層に挑むか。
そう言えば他に潜ってる人と全然会わないなぁ。
地下2階で一度見かけただけか。
一応ダンジョン内では基本不可侵。
あからさまな危険であれば話は別だが、そうでなければ獲物を横取りしようというマナー違反にあたるらしい。
もしかしたら相手も避けてるのかもしれないな。
そんな事を思いながら束の間の休息を挟んだ。
▽▽▽▽▽
時間はほんの少し遡ってリーガルダンジョン地下3階。
「おい、間違いないんだろうな?」
「本当だって男女の2人組でここに初めて来たみたいで地図も持って行ったからな」
「へへ、最近警戒されてるから久々の獲物だな」
3人組の男が何やら不審な会話をしながら地下3階の通路を進んで行く。
「ここまでいなかったって事はちゃんと地図を見て進んでるって事だな」
「そりゃそうだろ、初見で周りながらだとこんな短時間で行けないだろ」
「探索するだけで一苦労だからな。
特にこの3階は入り組んでるしな」
1人はダンジョンの入り口で悠生達に話かけてきた警備の男。
残り2人も年齢は30頃と近い見た目。
1人はスキンヘッド、もう1人は頭に黒いバンダナを巻いている。
ただし、悪党臭いセリフが実年齢より老けた印象を与える。
「おい! 止まれ!」
先頭を行くスキンヘッドの男から鋭い声が上がる。
「どうした⁉︎」
バンダナ男が尋ねる。
「……いや、大丈夫みたいだ。
これはアーミーアントの死骸だな」
「アーミーアント? じゃああの2人がやったのか?」
「だろうな、今ここに潜ってるのはさっきの奴らとお前の言う男女の2人組だけのはずだからな」
「運の無い奴らだな。
地図通り最短を行けば蟻達に出会う事なんて滅多に無いのに」
「運は良くねぇんじゃねぇか?
俺らに目をつけられてる時点でよ」
「ぎゃはは! 違いない!」
そんな会話をしながらアーミーアントの死骸を避けて通り過ぎる3人。
そしてすぐに異常な事態に気付く。
「……おい、何だこりゃ?」
「アーミーアント……だな」
「見りゃ分かるよ! この数は何だよっ⁉︎」
「…20や30どころじゃないな…これ下手したら100は超えてるんじゃないか?」
「地図通り進んでればこの数はおかしいだろっ⁉︎
運がどうこうってレベルじゃねぇぞっ!」
それもそのはずリーガルダンジョン地下3階で遭遇するのは横道に逸れたとしてもせいぜい10〜20匹程度。
ましてや三桁の大群なんて聞いた事が無い。
「それもそうだがコレ全部死骸だぜ?
コレ……もしかしなくてもあの2人組の仕業って事になるんじゃないか?」
「そんな強そうには見えなかったぜ?
共食いとかの間違いじゃ?」
「それもそれで聞いた事無いけどな……」
いつもと違う状況に戸惑いながら3人はさらに進んで行くが、アーミーアントの死骸は途切れる事が無かった。
「いやいや! コレどう見ても異常だろ⁉︎」
「確実に200体以上いた…」
「最短の道でコレはおかしい!」
「あの2人組コイツらにやられて獲物の取り合いにでもなったんじゃないか?」
そう思えるほどに常軌を逸した数だった。
ふと警備の男が思いついたように呟いた。
「……そう言えば蟻って甘い物に釣られる事があるよな?」
「何だ急に? まぁ飴に群がってるのは見た事あるけどよ?」
「……女の方が飴を食べてたんだよ」
「だから何だ?」
「もしかして食べながら進んだからこんなに集まったんじゃないか?」
「……いくら何でもそんな事ねぇだろ?
二重の意味で」
一つは飴でアーミーアントが寄って来ている事。
もう一つはダンジョン内を飴を食べながら呑気に進んでいるという事実に。
実際は的を得ていたりするのだが、そんな事当人達は知るよしも無く、ただ理不尽に迫り来る蟻を殲滅しながら進んでいたわけだが。
「それが本当なら何でこんなダンジョンに来てんだよ? 随分場違いじゃねぇか?」
「そんな事知らねぇよ」
「どっちにしろ進めば分かるんじゃねぇか?」
「進むのかよ? コレどう見ても異常だろ?」
「今の所死骸だけだ、危なくなったら引き返せばいいだろ? それにあの2人がやったのならこんだけ相手にしてりゃ疲弊してるさ」
「そうかもしれねぇけどよぉ…」
そう言いつつ結局地下4階の階段まで来てしまった。
そしてアーミーアントの死骸はここまでずっと続いていた。
「「「………………」」」
3人は言葉を失っていたが最後の気力を振り絞って地下4階へと踏み込んだ。
そして言葉を交わす事なく広い部屋に出た所で見た。
コボルトを素手で殴っている男と直進するブルバウに臆することなく飴を頬張りながら歩み寄って行く女を。
そしてすれ違う寸前で女の姿が消え、ブルバウが突然地に伏したっきり動かなくなった。
そしてなんと女はそのままブルバウを捌き始めたのだ。
「「「っ‼︎⁉︎」」」
疲れているどころか余裕すらあるその光景に絶句。
一同は無言のまま来た道を振り返った。
そのまま3人はダンジョン内のルール通り不可侵を貫き無言で地上へと踵を返した。
地下2階に戻った時やっとの思いで口を開く。
「あの女…見たか?」
「飴…頬張ってましたね」
「それもおかしいけどそれより何だよアレっ⁉︎ 全く動きが見えなかったぞっ⁉︎」
「男が言うには凄腕とは言ってたけど……」
「そんな次元じゃねぇだろっ⁉︎ 何であんなのがこんなダンジョンに来てんだよ⁉︎ 男の方も何で素手でコボルト相手にしてんだよっ⁉︎」
「下手に手を出さなくてよかったな」
「ああ……いるもんだな、あの若さであんな別次元の奴らが」
「俺、これからは真っ当に働こうと思う」
「……そうだな、またあんな奴らが来ないとも限らないしな」
「そうしよう」
そして本人達が知らぬ所で探索者による被害が減った事は言うまでもない。




