目標ができました
視界良好異常な〜し。
街道を進む事、数時間。
時計が無いからなんとなくなんだけど、今のところ命の危機に遭遇することもなく順調そのもの。
平和だ。
と言うか魔物どころか誰一人出会ってない。
「アリシアさん、お聞きしたいことがあるんですが?」
「何でしょう?」
「街道って普段からこんなものなんですか?魔物とか?」
「今はまだ街からそんなに離れていませんので魔物が増えるのは2、3日進んでからですね。それに今は我が国に出入りする人も多くありませんので」
街の付近は安全ってことか、巨人が溢れる世界とは違うってことですかね?
普通に出れたから忘れてたけど、入ったら出れないとこでしたね。
そりゃ周りから見たらよっぽどの天国か地獄にしか思わないですよね。
で、大抵の場合は後者と、そりゃ近づかないわな。
そんなことを考えていると、ついに第一村人発見!遠くの山頂からこっちに向かって人が歩いてくるのが見える。
あれ?俺、今なんかおかしいこと言ってない?
第一村人は違うな外だし、いやそれもおかしいけど、それ以上におかしいとこあるよ!
なんで山頂から人が歩いてるのが分かった?
いつの間にかそんな特殊能力を開眼したか⁉︎
思わずアリシアさんの目を見る。
「どうかなさいましたか?」
小首を傾げるアリシアさん。
クソー!やっぱり可愛い!
なんで監視なんだっ⁉︎バカヤロー!
何かの瞳術でも使えるようになったかと思ったがそうでも無さそうだ。
バカなネタを挟んでいるうちに地響きを伴ってドンドンと近づいてきているあのお方は一体⁉︎
やべぇ‼︎光の速さでフラグ回収しに来やがった‼︎
どう見てもサイズが違う!
スライムどころか巨人が初戦ってハードル高過ぎだろ‼︎
アリシアさん!今すぐ避難しましょう!逃げましょう!
思わずアリシアさんの手を取って走り出そうとした時にはもうすぐ側まで巨人がやって来ていた。
でけぇ⁉︎これは17メートル級か⁉︎はたまた機動戦士級と言うべきか⁉︎
いや、この際どうでもいい!どうする⁉︎
これは勝ち目どころか、こんな見晴らしの良い場所では逃げることも出来そうに無い!
くそ!完全に詰んだか⁉︎
「悠生様、大丈夫ですよ」
アナタ何言ってんの⁉︎
こんな大物に立ち向かうおつもりですか⁉︎
見るとアリシアさんが巨人に向かって手を振っている。
え⁉︎お知り合い⁉︎
巨人を見上げる。
ええ〜っ⁉︎本当に知り合いっ⁉︎
巨人も手を振り返していた。
そして最後にサムズアップして去って行った。
唖然。
ちょっと理解が追いつかないんですけど?
「今の方はお知り合いですか?」
「知り合いでは無いですね」
「違うの⁉︎」
じゃああのやり取りってなんなの⁉︎
「今のは『ギガントウォーク』と呼ばれています」
「……何それ?」
「言ってしまえば巨人の散歩です。挨拶をすれば基本的に無害ですが、しないと怒って暴れます」
「えっ⁉︎俺してないですよ?」
「それはこれが原因ですね」
そう言ってアリシアさんが指差した先を見る。
「あ!すみませんっ!」
逃げようとしてアリシアさんの手を握ったままだった。
「いえ、気にしていませんので」
……アリシアさん、ちょっとは気にしてくれてもいいんですよ?
意識してるの俺だけですか?完全なる一方通行ですか?
誰か愛しさと切なさに耐える心の強さを下さい。
それからは至って平和だった。
そして日が傾いて来た頃に。
「そろそろ野営の準備をしましょう」
お〜、初めての野営!
……野営ってどうすんの?
「アリシアさん、とんでもなく申し訳ないんですけど…俺、野営の知識って全く皆無なんですが…」
「ご安心下さい私が用意しますので」
う〜ん、それはちょっと情けなさ過ぎる。
「それはちょっと申し訳ないんで何か手伝わせて下さい」
「…………では薪を集めて来て頂きますか?」
今、だいぶ間があったな?監視対象だからウロチョロされると困るってことか?まぁいいや。
「じゃあ、ちょっと行って来ますね」
周りを見渡すと少し距離はあるが木々がある場所が見えた。
うん、あそこにしよう。
アリシアさんに向かう場所を伝えて歩き出す。
体感で15分ぐらいかな?で目的の場所に着いた。
コイツを使ってみよう。
今の俺の相棒、なのに名前の無い刀を鞘ごと外す。
なんで鞘ごとかと言うと……差したまま刀を抜けなかったからだよ!
居合ってどうやってんのかね?
鞘から刀を抜き、丁寧に鞘を置く。
何となく元の世界では刀ってなんか高価なイメージがあるからね。
鞘と言えど投げ捨てたりしないよ。
戦ってないから負けじゃないしね。
手頃な枝を探して…、斬るべし!
あれ?切れてなーい!
いや、髭剃りだとそれで良いけど刀はそれじゃいかんよ!
取り敢えず刀を枝から引っこ抜く。
でもムジカは切れ味は良いって言ってたよな?
となると問題は俺の方か…、幕末漫画を読破しているからと言って上手く扱えるなんて思ってはイケナイ。
実際はこんなもんですよ。
…せめて枝ぐらい綺麗に斬れるぐらいに練習しよう。このままじゃ話にならん。
無事に明日を迎えられるかどうかも怪しい世界だ。初日で既に死にかけたしな。出来る事を増やすに越したことはない。
そこからはひたすら黙々と刀を振り続けた。
少しはマシになったはずなのにまた斬れ味が落ち始めたことに違和感を覚えて周りを見る。
辺りがいつの間にか暗くなっていた。
そうか、暗くて見えなくなってきたのか。
しょうがないけどまた今度だな……あっ!
やべえ!薪を取りに来ただけなのにアリシアさんを結構な時間放置プレイにしてしまった!
急いで戻らないと!……⁉︎
そしてどんだけ薪を持って行けばいいか分からん!
やり過ぎた!
取り敢えず持てるだけ持って行って許してもらおう!うん、そうしよう!
来た時の倍ぐらいの時間を要して帰り着いた。
「お待ちしてました。こちらの準備は終わりました」
アリシアさんが淡々と告げてきた。
……アリシアさん怒ってませんよね?
怒られる要素はあるけど、いつも通りのアリシアさんですよね?
目に入ったのはテントに料理の準備。
もう何も手伝うことは無さそうだ。
でもそうじゃないんですよ!
準備は出来てるよ?間違いない!
でもですね、あのテント一人用ですよね?
一つしか無いんですが?
これはアレか?無言の圧というやつか?
流石にこの状況で二人一緒に寝るなんて妄想出来るほどお花畑じゃない。
そもそもそんな素振り微塵も無かったし、エロゲですらもうちょいフラグ的なものがあるだろう…。
あんのか?分からん!
だが、しかし!今俺がとる行動はコレをおいて他に無い!
俺の全身全霊を今この瞬間に全て注ぎ込む‼︎
「…それは?」
アリシアさんから感情のこもっていない一言が紡がれる。
くっ⁉︎力及ばずか⁉︎無念。
「…DO・GE・ZAです」
「…東の大陸でその様な言葉を用いると聞いたことがありますね?」
まさかの文化の違い⁉︎ってことは伝わってないのか⁉︎
「悠生様、火を起こしますので薪を頂いても宜しいでしょうか?」
「どうぞ!お納め下さい!」
「ありがとうございます」
そう言って薪を受け取ったアリシアさんが料理の支度に入ってしまった。
あれ?怒ってない?
じゃあ、あのテントは?
どこかでフラグ立てましたっけ?
アリシアさん外向きはツンだけど、内側はデレッデレですか?マジですか⁉︎
どうしよう⁉︎急展開過ぎて緊張がハンパない⁉︎
「こちらをどうぞ」
アリシアさんが携帯食っぽいパンとスープを差し出してきた。
まさに異世界って感じだな。いやそうでもないのかな?ただの俺のイメージだし。
そんなことより簡素とは言えアリシアさんみたいな美少女、それも王女様が作ってくれてるなんて、シチュエーションだけを見るととんでもないな。
ありがたく頂こう。
「いただきます」
まずスープから……。
一口サイズに切られた野菜を薄めの塩味で茹でた感じだ。
しょっぱいな…。
今度はパンを……固いな。
フランスパンを倍ぐらいの固さにしたみたいだ。
しかし!この後に柔らかくて甘い時間が待っているならこの程度は些細な問題だ!
と、言う事でさっさと食べてしまう。
「見張りの時に温めて食べれるようにスープは少し多めに作っていますのでまだありますよ?」
ん?見張り?
良く分からずに反応出来ずにいると。
「いくらまだ街から近いと言っても夜は危険ですので、交代で見張りをしましょう。休む時はあちらのテントをお使い下さい」
………聞いたか?
世界よ!これが現実だ!
おかわりしたスープを一口飲む。
しょっぱいな……。
魔物がいる世界だもんな。
そりゃそうだよ。
無事に生還出来たら旅人らしく美味しいモノを食べに行こう。
この世界で目標が出来た瞬間だった。
今後は三日以内を目安にアップして行きます。