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翌朝俺達は予定通りマロメの村を経由して都市バルトに到着した。


途中の道のりでミクが酔っ払った事実を知ってショックを受けるという出来事もあったがそれ以外は至って平和だった。


頑なに信じなかったミクが信じざるを得なかった出来事というのが……。


《マスター、昨日の事をよく覚えていないのですが何か無駄遣いをしましたか?》


無駄遣い? 何も買ってないけど…何で?


《覚えの無い配達履歴があったので、それも3件ほど》

……それ、ミクだからね?


《私はしてませんよ?》

酔っ払ってやるだけやって寝た上に記憶なくなってるじゃん。

完全に酒に呑まれてるよ。


《マスターご冗談を、怒らないので何を配達したんですか?》


俺じゃないってば、そもそも今までスキルの発動はミクにやってもらってたからスキルの使い方知らないし。


《……………………》

あ、コレ今気付いたパターンだ。


《マスター!》

な、何でしょう?


《一刻も早く私のレベルを上げて状態異常耐性を獲得して下さい!》

無茶言うなよ。

そもそもそんな耐性スキルあんの?


《分かりません! 分かりませんがそれに賭けるしかありません!》

そんな事言われてもこの辺は踏破してるし、小さいとこじゃレベル上がらないみたいだし。

しばらくは無理かなぁ。


《……………………》

……ミクの空気が一段重くなった気がする。


とまぁこんなやりとりがあった。

記憶は無くとも証拠が語るってやつだな。

まさか配達履歴から真相に辿り着くとは思わなかったけど。


「お団子、お団子ぉ」

《……………………》


横からはスズのご機嫌な声が聞こえてくる。

ミクとは正反対だな。


バルトでは数日滞在するらしくその間はまたも自由行動。

宿は商人さんと一緒の場所をとっているので出発する時は受付で伝言があるようになっている。


と言うわけでこちら側では珍しいと言われている団子がある店、スズと初めて出会った場所に向かっている。


「おじさん、お団子くださいなぁ」

「ん? その注文の仕方……、おお! この前の嬢ちゃんじゃないか! 武闘祭で何か起こったらしいじゃないか⁉︎

その後しばらく休業になってたからただ事じゃないと思ってたんだが、紹介した手前心配でな無事で何よりだ!」

「このとぉ〜り大丈夫ぅ」

「そりゃあ良かった。

団子だったな、ちょっと待ってな」


「スズって武闘祭に参加しに来てたわけじゃなかったんだ?」

「そだよ、ここのおじさんに賞金が出るって聞いて参加したんだよ。

甘味の為ならしょうがないよねぇ」


そのおかげで苦労したけどな。

いや、その後の展開的にはむしろ良かったのか?


「お待ち」

「やたっ! これこれぇ〜」


皿に出された三本の団子。

串団子のあんだな。


「ん〜、おいひぃ〜」

「美味そうに食べるな…俺も頼もうかな」

「まいど! ちょっと値は張るがそこの本場の嬢ちゃんのお墨付きだ、期待していぜ」

「いくらですか?」

「一本銀貨8枚だな」


……銀貨8枚? ……一本800円⁉︎  高っ⁉︎


「おじさん、あんみつもちょうだい」

「羽振りいいな、もしかして賞金出たのか?」


スズが頬張りながらピースサインを出した。

「嬢ちゃんやるなぁ、ほい団子お待ち」


俺の前に三本の団子が出された。

団子でこれはビックリな値段だな。


「ちなみにあんみつっていくらですか?」

「金貨1枚だ」


…………もう何も言うまい。

団子だけにしとこう。

じゃないと破滅してしまう。


「ほい、注文のあんみつ」

「ありがとぉ」


普通のあんみつだな。

スズがあんみつ食べてるのを見ながら団子を頬張った。

う〜ん、美味いんだけど魔物食材と比べると甘味は新鮮さが無いなぁ。


その後もしばらくバルトに滞在してから王都に戻った。

ちなみにバルト名物の武闘祭はすでに復活しているらしい。

あんな事があったのに逞しい事で。


そして特にイベントが起こる事もなくスズの甘味を巡る日々が続いた。


「護衛依頼終わりました、これ依頼書です」

そう言って受付嬢に紙を渡す。

護衛依頼は完了した証拠として依頼人からサインをもらう事になっているのだ。


「はい、確かに………。

ではこちらが今回の報酬になりますね」

「どうも」


道中の食事以外は全部向こう持ちで報酬金貨5枚。

この辺りは平和だしこんなもんかな。


スズは甘味代で全て消え去ってるけど。

この世界の甘味は恐ろしいな。


「ちょいと邪魔するよ」

「あ、すいません」

俺の後ろから老齢のお婆さんが受付にやって来ていた。


これは熟練の魔女か?

大釜を火にかけて中身を混ぜている姿が目に浮かぶようだ。

こんな年齢でもまだ冒険者出来るんだな。


「あ、ロゼさん! ちょうどいい所に!

こちらがこの前お話したランクDの悠生さんですよ」

「へぇ……アンタがそうかい」

「え? 俺?」


ロゼと呼ばれた魔女に値踏みされるように見られた。


「悠生さん、こちら薬屋を経営してるロゼさんです」

「薬屋?」

冒険者じゃなかったのか。


「ちょっと入り用でね。

ヤワラとキュルイ草が大量に必要なんだよ」


キュルイ草?

俺が首を捻っていると受付嬢が説明してくれた。


「どっちも回復薬の材料ですね。

キュルイ草は中級回復薬の素材ですよ」


へぇ〜。

この前使ったやつより上等なやつって事か。

しかも中級って事はさらにその上もあるんだろうな。


「キュルイ草を知らないみたいだけど大丈夫なのかい?」

「悠生さんなら大丈夫ですよ!」


俺の代わりに何故か受付嬢が自信満々に答える。

「採集が得意だと言った覚えは無いんですが?」


「悠生さん! そんな事言わずに是非ともお受けして下さい! お願いします!」

「何でそんなに必死なんですか?

他にも冒険者はいるでしょう?」

「あ、いや、そのぉ〜他の方々は悠生さんほど採集の実績がよろしくなくてですね、ギルド長からも頼んでおいてくれって言われてるんですよ。

ですからお願いします!」


受付嬢の必死のお願いに押されて、横にいるスズと顔を見合わせる。

「にぃさんに任せるよぉ。

今回はにぃさんが適任みたいだしねぇ」


「はぁ……、わかりましたよ。

そのキュルイ草っていうのがありそうな場所と実物を見せてくれれば探しに行きますよ」

「ほぉ〜……、じゃあ私の店に来な。

一つ分にも満たない量だけどまだ在庫があったはずだからね」


受付嬢が頼んでくるって事は今の俺のランク的には問題無いんだろうし。


連れられてたどり着いたのは、魔女の館……ではなく普通の建物だった。

まぁ魔女ってのは俺の単なる妄想の産物だったわけだが。


中は狭く左手に棚があり瓶が並べられている。

右手側には箱が置かれておりそこには何かの草らしきものが入っている。

そして正面には長机が置かれていており、その後ろにも瓶が並べられている棚があった。


「ここで待ってな。

商品に触れて割らないでおくれよ」

ロゼの婆さんが一言言い残して奥の扉の中に入っていった。


待ってる間なんとなく箱に入っている草を見てみると見覚えのあるものが混じっていた。

「これって確か…しびれ草」


少し前に採集したから間違い無い。

コレそのまま売ったりしてんだ。


今度は反対側の棚も見てみる。

黄色に紫、オレンジと様々な色の液体が入った瓶が置かれている。


この薄い水色の液体は見たことあるなぁ。

実際使ってみたけど、ただの回復薬であの効果だもんなぁ。

需要は高そうだ。

そうなると薬屋って意外と儲かるのか?


瓶の液体の作り方は分からないけど、素材をそのまま売れるんだったら俺でもできるな。

俺がそんな思考に入っていると…。


「待たせたね、これがキュルイ草だよ」

ロゼの婆さんが戻って来て手に持っていたものをこちらに渡してくる。


茎先に花径5センチくらいの青色の花が3輪ついている。

あっち(元の世界)で言うアヤメみたいだな。


「これはどの辺りにあるんですか?」

「この辺りで一番ありそうなのはマロメの村近くにある迷いの森だろうね」

「『ありそうなのは』?」

「定期的に採集出来る場所が無いのさ。

見つかった場合も2、3程度の少量しか無くて常に品薄でね」


………あの受付嬢知ってたな?

そんなモンを何故自信満々に言ったんだ?


「ちなみに1つ中級回復薬作るのにどれくらいいるんですか?」

「コレだと5つってとこかね」


結構消費するんだな。

一箇所で一つ分も採集出来ないとか、ここはミク先生に頼るしかない。

という事でどうなの?


《迷いの森は既に踏破済みですので問題無さそうです。

ただあるのは地上じゃなくて地下の方ですが》


そうなの? どれぐらいありそう?

《最初の依頼で集めた量ぐらいはいけそうです》


それだけあれば問題無いか。


「報酬は持って来た量で払うって事でどうだい?」

「それで構いませんよ」

「………中々自信がありそうだね?」

「収穫ゼロって事は無いと思いますよ。

最悪無ければヤワラを持って帰って来ますよ」

「お手並み拝見だね」


その後俺達は馬車で3日かけてマロメの村へやって来た。


「で、にぃさん……こっちに来たって事はありそうな場所が分かってるって事かな?」

「ま、そんなとこ」


俺達は孤児院にある井戸に来ていた。

迷い森って言われていきなり地下の方に向かったらそう思うか。


そこから地下に降りてミクの案内で2時間ほど進んでいくと、他よりも僅かに光が強いような気がする場所に辿りついた。


光の発信源は木なんだが、他よりも発光が強い木の周りについ最近見た覚えのある草が生えていた。

それも1つや2つではなく木の周りに複数生えている。


「……一箇所で2、3個とか言ってなかった?」

「あーうん、俺もそう聞いたな」

「毎度の事だからもう驚かないけどねぇ」

「……でもさ、アレ……何だと思う?」


俺は複数生えているキュルイ草に混じっている緑色の物体を指さして聞いてみる。


「……スライムじゃないの?」

「頭(天辺)に花……というか蕾?なんて生やしてるスライムって結構いるの?」

「見た事ないねぇ」

「………………」


下手に刺激しない方がいいのか?

危ない奴だったら困るしなぁ。


少し様子を見ているとスライムらしき奴が口?と言うか体?を大きく開けてキュルイ草を食った。


「っ⁉︎ スズ! 敵確定!」

「ふっ!」


俺の声に反応してスズが即座に斬り捨てた。

……かのように見えた。


「あれ? 斬れてない?」

その言葉通りゴムボールみたいに飛んで行って近くの木にぶつかって着地した。


そして蕾が胞子らしきものを撒き散らしながら花開いた。


「もしかして怒ったとかか?」

「さぁ?」


しかし花開いた後即座に襲って来る事は無かった。

ジリジリと徐々にこちらに戻って来るだけだった。

暫くそのゆったりとした動きを見ていると周辺から多数の花開いたスライムが湧き出て来た。


そしてそいつらと一緒になって次々とキュルイ草を捕食しだした。


「いっ⁉︎」

「わぁ」


スズはのんびりしているが、せっかく大量にあったのに全部とられるのは勘弁してもらいたい!


俺もスライムに上段から斬りかかった。

が、俺の剣はスライムに避けられるというまさかの結果になった。


「にぃさん真面目にやった方がいいよ?」

マジメなんですけど……。


いくら素のままとはいえスライムに躱されるのはショックだな。

恨めしげに睨みつけていると俺の一撃を躱したスライムがブルブルと震え出した。


え? 何? 今度こそ怒った?


スライムの体からこちらに向かって触手のようなモノがムチのように迫って来た。


っ⁉︎ 3乗!

《了》


バシィッ!

数瞬前までいた場所に触手が叩きつけられた。


「危ねっ! 予想外の反撃」

「びっくりだねぇ」


なんかこの世界のスライム悉く俺の想像と違うんだけど。

もしかして最弱のカテゴリーに分類されて無い?


その間にも次々とキュルイ草が他のスライム達に捕食されていく。


「やべ、このままだと全部無くなりそう。

スズ、なんとかならない?」

「ん〜どうだろ〜、やってはみるけどねぇ」


スズがそう言いながら無造作にスライムに向かって行く。

それを見て先程のスライムが触手をスズに向かって振って来た。


スズが触手を刀で受けたがそのまま巻き付いて引っ張り合いになった。


「んん〜、ほい」

スズが引っ張られるに任せて刀をスライムの方に真っ直ぐ突きの形にして触手を解いた。


解けた触手が戻るのに合わせてスズがスライムに迫る。


「一の太刀、瞬閃(しゅんせん)


スズが納刀していない状態から居合の如き斬撃を放った。

しかしスライムを斬る事は叶わずひたすら伸びるだけだった。


スズでもダメかと思った刹那。


スライムが先程みたいに吹っ飛ぶ前に刀を両手で持ち縦回転の斬撃を円状に振り抜いた。

そうしてスライムを刀に巻きつける事でさらに伸ばした。


ブチッ!

「ピギャ⁉︎」


え?


「今、何か聞こえたよね?」

「悲鳴……かなぁ」


伸縮するより早いスズの技術に驚くよりスライムが発声した事の方が驚いた。


2人の間になんとも言えない空気が漂ったがここは無視する事にした。


スズのおかげで光明が見えた。

リモートを使えば似たような事は実現可能そうだったので2人で残りを殲滅していった。


しかしこの場所のキュルイ草は手遅れになってしまったので、別の場所に向かう事にした。


その後まとまった場所に着くまでに多少の時間を費やしたが2人のリュックが容量いっぱいになる程度は発見した。


ちなみに群生地には必ずと言っていいほどにスライムがいた。

初回と違って蕾が1体だけだったが見つけ次第殲滅した。


「これだけあればいいかな」

「疲れたぁ〜、甘味がワタシを呼んでるぅ」


いや、呼んでるのはスズだろ。

そうして俺達はロゼの婆さんの待つ薬屋に向かった。


「お待たせしました、キュルイ草取ってこれました」

「おや? もう戻ったのかい?

どれ見せてもらおうか?」

「はい、どうぞ」


等身大に近いリュックを二つ差し出す。


「ん? ……まさかコレ全部かい?」

「そうですよ?」

「この短期間でこの量を⁉︎………もしかして群生地でも見つけたかい?」

「はい、運良く見つけました」


「運良く………そこに何かいなかったかい?」

「よくわかりましたね? 変なスライムがいましたよ」

「そいつはどうしたんだい?」

「倒しました」


「ほぉ〜、知らないみたいなのによく倒せたね。

それも運良く弱点をつけたと見えるね」

「え? あいつ弱点なんてあるんですか?」

「ん? 天辺の蕾を狙ったんじゃないのかい?」


「いえ、斬った……というか引き千切ったというべきか、剣で斬って伸びきった所をさらに無理矢理伸ばし斬りました」

「……なんとも出鱈目なやり方だね。

そんなんでよく仲間を呼ばれなかったもんだ」


………仲間? もしかして……。


「あの仲間って花が咲いてる奴ですか?」

「……もしかして呼ばれてたのかい?

蕾に衝撃を与えると花開いて他を呼び寄せるんだけど…」

「てっきり怒ったもんだと思ってました」


「……アンタ達が出会ったのはリコールスライムって奴だよ。

回復薬の素材を好んで捕食するスライムさ。

キュルイ草が群生で見つからないのはそいつが食い荒らすからなんだよ」


確かにめっちゃ食われたな。


「そんなもんを捕食しているからか物理や魔法にも耐性が高いんだよ。

そんなやり方でよく倒せたもんだ」


最初にゴリ押ししたのはスズだけどね。


「基本は弱点を最初に狙って倒すのが定石だね。

警戒されると向こうも簡単に叩かせてはくれないんだけどね」


あれ? もしかして最初に俺が避けられたのって警戒されたから?

無ければもっと楽に倒せたって事?


「なんにしろ依頼は達成してくれたんだ。

報酬を渡すからちょっと待っていておくれ」


そう言ってリュックの中をあらため始めた。


「やっちゃったねぇ」

「そうみたい」


今度からはもう少し情報集めようと思った。


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