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休息です


翌朝、目が覚めた面々に酔い潰れて寝ていたと押し通した。


ミクの意外な一面を垣間見て酒は自重せざるを得ない結果となったが。


《失礼ですね、いつも冷静沈着な私がそんな醜態を晒すわけ無いでしょう》


とまぁこういう回答だった。

覚えが無さそうなので完全に酒に呑まれていたようだ。

《だからそんな事はありえません》


それから数日後。


「おめでとうございます! これでお二人はランクDになります!」


規定の依頼数と条件を達成した俺達はめでたく昇格した。


「いや〜、凄いですねぇ! まさか4日で二つもランクが上がるなんて!

討伐の方はスズさんがいるので納得ですが、悠生さんの採集能力の高さには驚きですね」


と受付嬢は言うのだが、マップの踏破が終わってモノが分かればミクが案内してくれるから簡単に見つけ出す事が出来たのだ。

これは俺も予想して無かった嬉しい誤算というやつだ。


「普通採集は時間がかかるものなんですけどこんな短期間でこれだけ依頼をこなす人は見た事無いですね。

しかも毎回量が多いですし、薬草関係の素材はどれだけあっても困らないのでこちらとしては大助かりです!」


おかげで報酬に色がついてスズに借りた借金も無事返済する事が出来たし、そろそろ城から出て普通に宿を借りる事もできる所までやってきた。


流石にいつまでも城に居座り続けるのは憚れる。

しかし手元に自分のお金を持つまでの道のりがこんなに長いとは思わなかったな。


俺が感慨に耽っているとスズが受付で何やらやっている声が聞こえた。


「じゃあ、これだけお願い」

「はい確かにお預かりします。

冒険者カードに記録するのでカードをお借りしますね」

「はぁい」

「では少々お待ち下さい」


今の会話だとランクDから使えるお預かりを早速利用してるみたいだ。

さてこっからどうするかな?

俺の当面の目標のランクはDまで、スズもお預かりを使うのが目的だったから一応の区切りとはなったわけだが。


ここらでゆっくりするべきか?

そういえばまだシャロに顔見せに行ってないな。

ここらで行っとくのもありか、となるとスズはどうするんだろうか?


「スズはこれからどうするんだ?」

「こっちの甘味を制覇しながらもう少しお金を貯めるかなぁ。

コレ作ってもらわなきゃいけないし、向こうに戻る旅費もいるしねぇ」


そう言って刀の柄に手を置いた。

そっか、鞘が代用品だったな。


こっちじゃ珍しいって言ってたし、となるといつかは東方の地に行く事になるのか。


俺のも両方ヒビが入っちゃってるし、しかも業物って聞いたからには捨てるってのも抵抗あるしなぁ。


「俺のも直せるかなぁ」

「こっちじゃ難しそうだしねぇ。

すぐじゃないけどにぃさんも一緒に行く?」

「マジ?」

「直せるかどうかは分からないけどねぇ」

「可能性があるならその時はぜひ!」


スズからの思わぬ提案に乗らない選択肢は無い。


「あ、でもそうなると俺もそれなりに貯めないといけないのか」

「にぃさんの場合は両方だからねぇ」


ん〜でも、ランク上がったし報酬もよくなるだろうからそこまで心配しなくても大丈夫な気もする。

思いの外採集が順調だからな。

その辺は一旦休憩してから考えるとしよう。


というわけで馬車で2日かけて女将さんとシャロのいる街道村にやって来た。

前回は徒歩で7日だったからな。


ちなみに今回は行商の護衛依頼を受注しての一石二鳥な旅だ。

目的地は都市バルト。

途中のここ街道村そしてマロメの村を経由してバルトを目指す事になる。

必要な物を都度買い足して行く為、結構ギリギリまで馬車に荷物を積み込んでいる。


道中はスキル『護身用具』のおかげで順調そのもの。

強いて言うならお尻が痛いぐらいか。

現代人がいかに快適な乗り物に乗っていたかを痛感させられた。


村に滞在中は自由にしてていいと言われているので俺達は女将さんのいる宿へと向かった。

経由地点でそれぞれ一泊していくので翌朝まではフリーなのだ。


扉を開けると小さい背丈にぴょこんとした愛らしい耳。

そして魅力的なふわふわな尻尾を動かしてMAS(マイエンジェルシャロ)が忙しそうにあっちにいったりこっちにいったりを繰り返していた。


「っ⁉︎」

俺がそんな事を思っているとシャロが一瞬直立し、周りをキョロキョロとしている。


そして俺の姿を確認してこちらに向かって来る。


「ユーセーさん⁉︎ もう大丈夫なんですか⁉︎

女将さんから動けなくなったって聞いてたんですが⁉︎」

「ああ、ご覧の通りもう大丈夫だよ。

それよりさっき急に立ち止まったけどよく分かったな?」

「あ、いえ。

ユーセーさんに気が付いたわけじゃなくてちょっと寒気が走っただけなんで気にしないで下さい」


……ん〜どうやらさっきのもお気に召さなかったらしい。

残念ながらこれもお蔵入りのようだ。

いやしかしもう少し好感度を上げればなんとかなるのか?


「油揚げ食べる?」

スズがどこからか持って来たのか、手に油揚げを持ってシャロの目線に合わせて揺らしている。


「い、いえ! まだお仕事中なので!」

そう言いながらもシャロの耳は先程よりもピンと真っ直ぐに立っており、視線も油揚げを右に左にと追っている。


え⁉︎ そんな定番に釣られるの?


「シャロ〜せっかくだから貰っときな」

奥から聞き覚えのある声が聞こえて来た。


「あ、どうも女将さん。

動けるようになったんで顔見せに来ました」

「みたいだね。

まぁただの筋肉痛って知ってるからアタシは心配はしてなかったけどシャロがずっと気にしてたから、よく来てくれたね」


「そっか、シャロ心配かけて悪かったな」

「いえ、元気そうで安心しました」


言いながら視線を移すと大事そうに油揚げを持っているシャロが答えた。


………なんか油揚げに負けた気がするな。


「アンタら今日はどうすんだい?」

「護衛の途中なんでここで一泊してから行く予定です」

「ん? 護衛?」

「こういう事です」


俺はそう言って1枚のカードを取り出した。


「なるほど、もしかしてそっちもかい?」

「そういう事です、先輩」

「早いね、アンタら2人なら納得だけどもうD以上になったみたいだね」


ギルドで護衛依頼を受けれるのはランクDからなのだ。

なりたての新人に護衛なんて任せるわけにはいかない。

これは一定の実力とギルドからの信用が無いと受けれない仕組みになっている。


「じゃあ今日は昇格祝いだ! 夜は豪華にいこうか!」


その日は大皿にコレでもかというほどの肉盛りが提供された。

そしてそれは途轍もなく美味かった。


一噛みで噛み切れる柔らかさに溢れる肉汁。

溶けた脂から甘みが滲み出しそれを甘めのタレがさらに引き立てるという絶品。

そして部位で歯応えが違うのもまた良しの楽しめるものだった。


なんでもブルバウと呼ばれている牛の魔物らしく、通常の牛の二段階上を行く美味さで知られているらしい。


ただ一般人の捕獲は危険過ぎて市場ではお高い取引がなされているそうで、ギルド認定ランクDの討伐対象になっている。


「どうだい? いっとくかい?」

「いやぁ、大変嬉しい誘いなんですけどちょっと問題がありまして」

「ん?」

「どうやら俺のスキルって酒が入ると制御が効かなくなるみたいなんですよ」

「んん? 街中だしアタシや連れもいるんだから使えないぐらい問題無いだろ?」


「いやぁ〜それだったらまだ良かったんですけど、勝手に発動しちゃうんですよね」

「はぁ?」

「物理的にどうこうするわけじゃないんですけど、強化した時の余波が……」


「……それって武闘祭でやったあれかい?」

「そうです」

「一般人からしたら迷惑な話だねぇ」

「そんなわけでお酒が楽しめないんですよねぇ」

「なんだかスキルが酔っ払ってるみたいだね?

まぁそんなわけないんだろうけど」


………女将さん鋭いな。

正にそんな感じでしたよ。


《マスター、まだそんな事を》


知らぬが仏ってやつか。

《聞いてますからね? まぁ信じてませんが》


「じゃあ今日のところはたっぷり食べな」

「そうさせてもらいます」


そしてしばらく過ごしていると…。


《ひたすらたべてばっかりですね》

飲めないからね。

でもこれホントに美味い。


《そうですか……》

……? 何だ?

ミクの返答(態度)に違和感を覚えたが、シャロの登場で深く追求する事をやめた。


「はい、ユーセーさんこれもどうぞ」

「お、これは」


見た目スイカで皮と身、全てが真っ赤。

懐かしのトレン果がシャロの手で運ばれて来た。


「これ美味いんだけど後がなぁ」

「あはは! ユーセーさん前回はそのまま食べたでしょ? これ簡単にスプーンで掬えますよ」


そう言ってシャロがスプーンでトレン果を掬った。

「ほらね」


なるほど、スイカと同じ形してるからついそのまま食べたけどそうやって食べるのが普通なのね。


「はい、どうぞ」

シャロが掬ったトレン果をそのまま持ってくる。

その好意に甘えて食べさせてもらった。


ん〜、以前食べたより美味い気がする。

なんというか甘さが上がったような…。


《ますた〜たのしそうれすねぇ》

……あれ? ミクの滑舌が怪しくない?

しかもこの症状はつい最近と同じ…。

いやでも! 今回酒は飲んで無いぞ⁉︎


「にぃさん、今日は大丈夫なの?」

俺が内心で動揺しているとスズが寄って来た。

手にはトレン果を乗せた皿を持っている。


そして唇の周りが赤くなってて口紅を塗ったみたいになっている。

いつもと違う雰囲気に見えてちょっとドキっとした。

俺の時とえらい違いだ。


「だ、大丈夫ってどう言う事?」

別の動揺が走ったが言葉の意味を尋ねる。


「だってこのお肉のタレお酒入ってるよ?」


…………何ぃぃぃぃっ!!?


「お、女将さん! このタレって⁉︎」

「え? まさかその程度でもダメだったのかい?」


その言葉がトドメだった。


《またあのときのめぎつねれすねぇ、ますた〜をゆ〜わくするなんてぇ〜そんなものはこうれす『はいたつ』はつろう、はつろ〜! は〜つろ〜!》


ちょい待てぃっ⁉︎

前回と違ってなんてもん発動させてんだっ⁉︎


その場にあったトレン果が皿ごと瞬時に消えて行く。


「「あ」」

その光景に見覚えのあるスズと女将さんが察した。


《どうら〜、まいったか〜………ZZZ》

やるだけやってミクはまたしても沈黙した。


「わ、私の油揚げが…」

そして何故かシャロの油揚げまでも『配達』の餌食になった。


シャロすまん。

もちろん後で新しく油揚げをあげた。


「これが言ってたやつかい?」

「そうです、今はもう何の反応も無いんでスキルが使えないですけどね」

「酔っ払って暴れた挙句に酔い潰れたって感じだね?」


女将さん的確ですね。

こうして街道村の夜は更けていった。






アリシアが自室に戻った時にあるものが机の上にあった。


「あら? これは…………ふふ」


見覚えのあるそれは『トレン果』だった。

以前、悠生が口周りにいっぱい付けていた姿を思い出して笑みが溢れた。


机に置かれたハンカチの横にあるという事は彼から送られて来たものだと思われるが…。


「差し入れ……にしては変ですね?

半分でふた皿というのも…それにコレは油揚げ? 一体何故?」


考えても全く分からなかったが、考えているうちにビャッコが全部食べてしまった。


「ヴァウ!」

「もう! ビャッコったら!」


トレン果は1日は色が落ちない。

ビャッコの口周りは真っ赤になっていた。


「明日は部屋で1日お留守番だからね」

「ヴァ⁉︎」

「そんな顔で出れないでしょ?」

「ヴァゥ〜」

「そんな顔してもダメ。

明後日からまた頑張るから、よろしくね」

「ヴァウッ!」


こうして夜は更けていった。

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