表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
72/172

迷路の出口


「……はぁ」

溜息が漏れる。


先程謁見の場で思わず視線を逸らしてしまった。

その前にたまたま出会った時も逃げるように去って行ってしまった。


顔を合わせるとその気がなくても思い出してしまう。

このままではまともに顔を合わせないまま悠生様は城を離れてしまう。

お父様達を救って頂いたのにそれではあまりにも失礼過ぎる。


そう言えばお父様が悠生様の褒美は『あの件』と言っていましたね?

一体何の事なのでしょう?


スズさんの報酬のようなモノでは無いようですが、悠生様がそういったモノを望まなかったのか、それともそれより価値のあるモノなのか……。


お父様が了承したという事は少なくともここにある何かなのは間違いないのでしょうが……正直思いつきませんね。


時刻はそろそろ夕刻になろうという時。

そんな事を考えながら城内を歩いていると声が聞こえて来た。


「お、小僧戻って来たか、どうだった?」

「試験は後日ってことになりました」

声で誰かを察した瞬間物陰に隠れるように動いてしまった。


……確か冒険者になるには試験があると聞いた事がありますね。

「んじゃ現役の試験って事か、相手も気の毒になぁ」


ザック騎士団長のあの言い方……悠生様が試験に受かるのはほぼ確実のようですね。


「現役ならそんな事ないんじゃないですか?」

「何言ってんだ、駆け出しの奴の試験だぞ。

そこに小僧みたいな規格外な奴が出て来るなんて思わねぇだろ」

「俺って規格外なんですか?」

「少なくともオークキングを退けられる奴を普通とは言わねぇな」


ザック騎士団長の言葉に私も同意です。


「ここに来て初めてのチート級扱い」

「なんだその『ちーと』ってのは?」


………『ちーと』……意味は分かりませんがどこかで聞いた事があるような響きですね…?


「あ、いや気にしないで下さい……と言っても魔力切れになりましたけどね」

「上手く生き残れたんだ贅沢言うもんじゃねぇぞ?」

「それもそうですね……あ、旦那ちょっと訓練に参加してもいいですか?」

「ん? どうした?」

「刀がダメになったんでコレを試しておきたくて」


悠生様が取り出したのは片手剣、刀はどうしたのでしょうか?

少なくとも私の記憶では牢の格子を斬ったのに使用したはず……、もしかしてそこで?


「何だ? 格子を斬った時か?」

「いえあの時は大丈夫でした。

ダメになったのはその後ですね」

「後?」


「色々…というほどでは無いですが、ちょっとありまして」

「………小僧そいつはもしかして…」

「ま、そう言う事です」

「それじゃあ断る訳にはいかねぇなぁ、と言ってもこっちとしてもいい刺激になるだろうしな。

どうする? 早速やるか?」

「そうですね、お願いします」


そのまま2人が去って行くのを見送る。


後…といっても悠生様は動けなかったはず?

ザック騎士団長は何か知っている様子でしたが……。


………いけません! 詮索は後ですね!

まずはしっかり謝罪とお礼を伝えなければ!

いえ! お礼だけでは足りませんね。

言葉では足りないほどの恩を受けたのです。

私からも何か出来る事をしたいですね……。


お父様のあの件というのが分かれば参考になるかもしれませんね。


……何だか物で誤魔化そうとしてる感じがしますが、この際致し方ないと目を瞑りましょう!

そうと決まれば早速お父様の元へ参りましょう!


少し早足に向かいお父様がいる部屋の扉をノックする。

すぐに中から声がかかった。


「失礼します」

「アリシアか丁度良い所に来たな、先程今日の分が終わった所だ」


そう言うお父様の側にはお母様とお兄様もいた。


「皆揃っているなんてどうかしましたか?」

「アリシアこっちにいらっしゃい」

「? はい」


疑問に思いながらもお母様に呼ばれて近づいていくとふわりと抱きしめられた。


「ごめんなさいね、本当ならもっと早くこうしてあげられたんだけど」

「お、お母、様?」


お母様に抱きしめられていると頭の上にそっと手が置かれた。


「よく頑張った、誇りに思うぞ」

「そ、そんな事ありません」

「そんな事あるよ、僕らは何も出来なかったんだから」

「アークの言う通りだ」


皆んなで口々に褒められて少々照れ臭い。

抱きしめられている為身動きも出来ない。

ただ振り解こうと言う気にもならなかった。

夢で見たこの時を取り戻す為に諦めなかったのだから。


しばらくの間家族の温もりに包まれて時が過ぎた。


「お、お父様、そろそろ……」

「む? まだ良いではないか」


最初こそ3人と抱擁を交わしていたのだが途中からお父様が独占しており流石に恥ずかしくなって来た。


「そのせいで今回の事に漬け込まれたんですよ。

溺愛するのは構いませんが、ほどほどにする事も覚えないと」

「むぅ……致し方ないか」


お父様は渋々と言った様子です。

そして当初ここに来た目的を思い出す。


「お父様、お聞きしたい事があったのですが…」

「どうかしたか?」

「その、悠生様にお礼をしようかと思ったのですが、その前にお父様がどのような褒美をお与えになったかを聞こうと思いまして」

「その事か、何と言えばいいものか…」


悠生様は何か難しいモノをお願いしたのでしょうか?


「あのそんなに高価、もしくは珍しいモノをお望みだったのでしょうか?」

「ん、いや、難しくは無いし珍しくも無い。

すぐにでも出来る事なんだが……」


ますます分からなくなってしまった。


難しくなくて珍しくも無い、その上すぐ出来る。

なのに言い淀む。

まるで謎かけのようですね。


「そのまま言っても良いのでは無いですか?」

「そうだな……褒美、というよりはお願いをされたな」

「お願い……ですか?」


お願い? お父様に? 悠生様が?

……全く検討がつきませんね?


「家族の時間を作ってアリシアを褒めてあげて欲しいそうだ」

「え?」


今私は一体何を聞いているのだろうか?

悠生様の褒美の話だったはず。


「あ、あのお父様…」

「その気持ちは分かる。

私も予想の斜め上の事だったからな。

ただ本人からの希望なのは間違いない」


それでは悠生様はこれだけの事をしておいて無償で終わらすと⁉︎


「それはあまりにもっ!」

「本人にその気が無いようなのでな。

しかし受けた恩は絶大だ。

助けを求める事があれば即座に応じよう」


お父様はそう言うけれど流石に納得しづらいものがある。

同時に何かあげて誤魔化そうとしていた自分が恥ずかしくなる。

またもや葛藤しそうになったところでお父様から声がかかる。


「それに褒美に関しては私より適任の者がいるのでな」

「え?」


お父様の言う言葉の意味を考えていると。


「アリシア、我が娘の笑顔が見れる。

それ以上の褒美は無いそうだ」


またも斜め上の言葉に一瞬唖然となる。

欲が無いにも程がある。


でも今まで見て来た悠生様ならそう言いそうな気もする。

なんだか一人悩んでいたのがバカみたい。


「私からの依頼だ、悠生殿に褒美を届けてくれるか?」


無理に取り繕う必要は無い。

素直にお礼を言えばいいのだ。


「…はいっ!」


勢いよく返事をして部屋を飛び出した。

目指すは悠生様がいる訓練場へ、剣の練習をすると言っていたのでまだやっているはず。


「そこ! 連携が乱れてるぞ!

休む暇を与えるな!」

「「はいっ!」」

「ちょっと旦那⁉︎ これ訓練っ!」


目的の場所から悠生様の声が聞こえて来た。

まだやっていたみたいだ。

でもなんだか不穏な気配が……?


「お前ら! 手加減して勝てるとおもうな!

全力で行け!」

「「はいっ!」」


「え?」

訓練場の様子が視界に入り見えたモノは悠生様を取り囲むようにして襲いかかる兵士達だった。


「皆さん! これは一体何事ですかっ⁉︎」

「「え?」」

私の声に一同が振り向く。


「アリシア王女? どうしたんです?

こんなとこへ?」

「ザック騎士団長、これは何事ですか⁉︎」

「これって……ああ、小僧の事ですか。

大丈夫ですよ、お前らもうちょっと続けてろ!」

「「はいっ!」」

「旦那人使い荒い!」

再度悠生様を皆で取り囲んで行く。


「ちょっ……」

「まぁまぁちょっと見てて下さいよ」

止めようとした私をザック騎士団長が制してきた。

悠生様の声に危機感が無さそうだったので大人しく見守る。

一人に多数なんてどうしてこんな事を?

使い慣れていない剣の訓練していたはずでは?


そんな事を考えていると悠生様の前にいた2人が同時に襲いかかった。

キィィン!

よくは見えなかったけど、前の2人の剣が悠生様に届く前に弾かれた……のだと思う。


悠生様の後ろから間髪入れずに後ろから突きで襲いかかる兵士がいる。

「あっ!」


声を上げた時には悠生様は身を捻って突きを躱して兵士の手を掴みまた別の角度から襲いかかって来た兵士の剣をその剣で受けた。

「え⁉︎」


今度は味方のいない方で悠生様の死角になっている方から襲いかかるが悠生様は見る事もせずに手に持っている剣を振るって受け止めた。

「え⁉︎ えっ⁉︎」

「大丈夫でしょう?」


ザック騎士団長の言葉に頷くしかなかった。

その後も攻防が続いたが悠生様は事もなく凌いでいた。


「旦那ぁーっ! そろそろ時間切れっ!」

「そうか、よしお前ら終了だ!」

「「はいっ!」」


「今のでわかったと思うが格上とやり合う場合は死角から攻めても気付かれて対処されると思え!

連携とフェイントは常に意識しろ! いいな!」

「「はいっ!」」

「よし! 今日はこれで解散だ!」

「「ありがとうございましたっ!!」」

そう言って兵士達が解散して行く。


「つ、疲れたぁ」

「小僧付き合わせて悪かったな」

「これの練習代が高くつきました」

「でもそんだけ扱えるのが分かれば十分だろ?」

「まぁ、そこは否定しないですけどね」


「そう言えばアリシア王女はどうしてここに?」

未だ放心状態から抜け出せない私にザック騎士団長が声をかけて来た。


はっ! そうでした!

悠生様が関わると何故か毎回思わぬ出来事が発生している気がしますね。


「悠生様に改めてお礼を言いに来ました」

「ああ、そう言う事ですか」

「お礼なんて、約束通りやれるだけやっただけですよ」

「っ⁉︎」

その言葉を聞いた時脳裏に記憶が蘇った。


夢の中での2度目の邂逅、その時に発した言葉。

そしてその後に聞いたあの言葉…『ちーと』。


自分の夢の中で知らない単語が出て来るなんてありえない。

だから何処かで聞いたと思っていた。

そしてそれは事実だった…ただし聞いた場所と人物が普通ではなかった。


「やっぱり……」

「え?」

「あ、いえなんでもありません」


やっぱり夢で助けてくれたのは悠生様だったんですね。

そう言いかけた言葉を飲み込んだ。


直接聞いたわけでは無いけれど間違い無い。

知りたかった事はもう判明した。

なら問い詰めて困らせるような事はするべきじゃない。


「悠生様……」

静かに名前を呼ぶ。

「はい?」

名前だけを呼んだ私に彼が不思議そうに首を傾げる。


「本当にありがとうございました」

言葉と一緒に自然と笑顔が出た。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ