どこから行く?
王様との謁見を終えてフリードの街を徘徊する。
目指すはムジカの店、何をするにもまずは身を守るのは必要だ。
それに俺の刀の購入元だしな。
懐かしのムジカの店の扉を開けて中に入る。
「らっしゃい…………おっ? にぃちゃんじゃねぇか! 生きてたか!」
「おかげさまで」
「それに後ろにいるのは…この前のねぇちゃんじゃねぇか。
知り合いだったのか?」
ムジカの言葉に後ろを振り返る。
後ろにはスズしかいない…となるとスズの事なんだが。
「スズと知り合いですか?」
「いや、つい最近客としてな」
「女将さんにここを聞いたんだよぉ」
ああそういう事。
「何だ姉さんとも知り合いなのか?」
「あねさん?」
「女将さんの事だよぉ、昔パーティ組んでたんだって」
そう言えばそんな事言ってたな。
メンバーがムジカだとは知らなかったが。
「知り合ったのはここを出て行った後なんですけどね」
「そうだったのか、まぁ何はともあれ無事で何よりだ。
ちょうどいい、ねぇちゃんに依頼されたモン届いてるぜ」
「ホントっ⁉︎」
「ああ、今持って来るから見てくれ」
そう言って奥から布に包まれた物を取り出した。
スズがそれを受け取って布を剥ぐ。
それは刀だった。
「あ、そっかあの時壊されたやつか」
「そうそう、抜いてもいい?」
「構わねぇよ」
スズが距離を空けて腰に挿して構える。
チン。
そして鞘に刀が収まる音が鳴った。
「ほぉ〜、ねぇちゃんやるなぁ。
流石、旦那や姉さんに認められただけあるなぁ」
ムジカが感心したように声を漏らす。
察するに抜刀して収めたんだろうけど、試しでコレかよ……相変わらず常人離れしてんなぁ。
それに意外だったのはムジカだ。
今のセリフってスズの抜刀が見えたって事だよな?
ムジカって実は凄いやつなのか?
「違和感あるなぁ」
「やっぱそうか、そこは正直こっち側ではそれ以上は無理だな」
「しょうがないかぁ…でもありがと、お代は?」
「特注になっちまったから大金貨1枚だな」
いっ⁉︎ 壊れたのって鞘だけだよなっ⁉︎
それで10万っ⁉︎
「んじゃ、はいこれ」
「おうまいど」
スズが惜しげもなく大金貨を支払った。
「で、にぃちゃん、今日はどした?」
俺が高額のやり取りに驚いているとムジカが声をかけて来た。
「あっ、とぉ…実は…」
俺は持っていた刀を鞘から抜いて見せた。
「あ〜なるほどヒビか……ん? 鞘の方にも入ってんな……」
「そうなんです」
「………結論から言うと、ねぇちゃんのと同様修復は無理だな。
刀ってやつはこっち側の剣とは違って繊細過ぎる。
ヒビを治す事は出来るが元の強度にはならねぇ、
しかも刀に合わせて鞘が作られてるから尚更だな」
「そう、なんですね」
俺は肩を落とした。
まさか金額の問題以前の話になるとは…。
「にぃさんのは普通の刀より良いやつだからねぇ」
「え? そうなの?」
「ワタシの刀と打ち合えるんだからねぇ」
まさかの名刀宣告⁉︎
そんないいやつだったの⁉︎
「……にぃちゃん」
「え? わっ⁉︎」
ムジカが声をかけてすぐ俺の方に何かを放り投げてきた。
それを咄嗟に片手で掴んだ。
「何ですか? いきなり」
それを見てムジカが不敵に笑う。
「いや、前とは違って随分簡単に持つと思ってな」
言われてふと気付く。
今手に持っているのは片手剣だが、当初ここに来た時は重過ぎて片手で振れなかった物だ。
「そう言えば…」
「あいにく刀の在庫はそれしかなくてな。
振れるなら目処が立つまでそれを使ったらどうだ?」
俺は片手剣を軽く振って手応えを確認してみる。
……うん、問題無さそうだ。
「そうします、これいくら……っ⁉︎」
ちょっと待て!
よく考えたら金持ってねぇ!
「と思ったけど出直します」
「うん? どうした?」
「あ、いや今持ち合わせが無いの忘れてました。
これは先に冒険者になって依頼をこなすしかないかぁ」
「にぃさん、忘れたの? 冒険者になるにもお金はかかるんだよ?」
「…………」
完全に忘れてました。
俺の中に冒険者になる為に金がかかる知識が無かったからだ。
「おお? にぃちゃん冒険者になんのか?」
「そのつもりですけど」
「ならそいつは門出祝いだ持っていけ」
「いいんですかっ⁉︎」
「構わねぇよ。
後、俺に敬語は必要ねぇよ」
「ムジカ! アンタほんとにいい人だ!」
「その代わり一発で受かれよ?」
「もちろん!」
ムジカにお礼を言ってその足で冒険者ギルドへ向かった。
王都の街はマッピング済みの為、場所は聞かなくても分かる。
ただし、地図でコンプリートしたから見る景色や場所は初めてだが。
「ここ?」
「そのはず、まぁ入ってみれば分かるだろ」
扉を開けるとガラの悪そうな奴らが屯しており入って来た俺達に視線を送る…………なんてテンプレは発生しなかった。
中はがらんとしており受付と思われる場所に若い女性が1人頬杖をついているだけだった。
テンプレは発生せず、か。
残念なような、ほっとしたような複雑な気持ちで受付へ向かう。
女性は何の反応もしない………というより寝てないかあれ?
受付まで来ても女性か起きる気配は無い。
とりあえず声をかけてみる。
「すみませ〜ん」
「ふえ?」
俺の声に反応が返って来た。
「冒険者登録をしたいんですけどいいですか?」
「え? え? あ、失礼しました! はい! 大丈夫ですよ! えっと登録ですね。
それには試験を受けて合格する必要がありますが宜しいですか?」
「大丈夫です」
「では日程が決まりましたらご連絡しますので、お名前と滞在場所のご記入をお願いします」
すぐじゃないという事は現役冒険者との試験になるって事か。
閑散としたギルドに職員に試験を担当出来る人がおらず、受付嬢は居眠り……大丈夫かここ?
でも職務中に居眠りしてた割には真面目な対応だな?
「ここっていつもこんな感じですか?
イメージだともっと賑わってると思ってたんですけど?」
「時間帯によりますね。
こちらは受付になるので朝が1番人の入りが多いです。
今は皆さん受注した依頼を遂行中ですよ」
今の時間は昼過ぎだ。
そう言う事ならギルド内が閑散としているのも理解出来る。
冒険者の皆は依頼に精を出しているというわけだが、それ以外はどうなんだろうか?
「他に職員はいないんですか?」
「ここは私一人です。
最近までは外に出る事が難しかったので依頼も殆ど無くそのせいで人件費を削減せざるを得ない状況になってまして、そこで突然の緩和によって依頼が急増。
今は辞めた人に声をかけてるんですけど、戻るにも今の仕事を急に辞める事も出来ずに人手不足という状況なんです」
……不景気に煽られた中小企業みたいな状態だな。
て事はさっきのは疲れ果てた結果って事か。
不真面目じゃなかったのが分かってよかった。
それに突然の緩和か……。
実は今回の件に関しては一般には一切公開していない。
元々魔族に国が乗っ取られていたなんて知られていないからだ。
危機は去ったのに今更事情を説明するのは民に不安を与えるし、隣人が魔族かもしれないなんて疑心暗鬼を生むだけと判断したからだ。
近いうちに国民に対して行動を起こすらしいが、それはもう少し国が安定してからの話だそうだ。
関係者各位はそれまでは知らぬ存ぜぬを貫く事になる。
と言う事で真実は闇の中。
ここで俺が口を滑らす訳にはいかない。
「はい、これでお願いします」
そう言って受付嬢に紙を渡す。
「はい確かに、お名前は…悠生さんですね。
滞在場所は………っ⁉︎」
「ん?」
受付嬢が目を擦って俺が渡した紙を見直している。
「フ、フリード城っ⁉︎ 何でそんなとこにいる人がここにっ⁉︎」
ああ、そういう事か。
「ちょっと城からの食糧調達馬車の護衛をしただけですよ」
途中の村からマロメまで馬車で護衛を兼ねた移動をしてるから嘘では無い。
「あ、そうなんですか。
護衛が出来るぐらいなら試験も問題無さそうですね。
では手配が済みましたら連絡しますので、その翌日の昼にギルドまでお越しください」
「わかりました」
そう言って俺達は冒険者ギルドを後にした。
さてこれで用事は終わったから後は試験を待つのみとなったわけだ。
こっち来て初めてゆっくりする時間が出来た気がするなぁ。
まだ体も万全じゃないし、試験まではしっかり英気を養うとしますか。
あ、でも片手剣は試しといた方がいいか。
ぶっつけ本番はマズイ気がする。
……なんか他にも何か忘れてる気もするけど、まぁいいか。




