それぞれ
スズの場合
「この辺でこれなおせる所ある?」
スズが王様に握りつぶされた鞘を持って尋ねた。
「こっちじゃ刀は珍しいから、取り扱ってる所は無いだろうねぇ」
「はぁ、せめて収める代わりがあればなぁ」
女将さんの言葉にどうしようか迷っていると。
「そこは専門に扱ってる所に聞いてみるのが早いだろうね。
知り合いに武器屋をやってるのがいるから紹介するよ」
「ほんと⁉︎」
「ああ、とりあえず抜身だとあれだから布で巻いておこうか」
「はぁい」
そうして女将さんの案内で店に向かった。
「邪魔するよ」
「らっしゃい、って姉さんじゃないですか!」
つるりと光る頭に筋骨隆々の上半身裸の変態さんが聞き覚えの無い単語を発した。
「あねさん? 女将さんじゃなくて?」
「ああ、紹介するよ。
コイツは旦那やアタシらと一緒にパーティ組んでたムジカだよ、変態じゃなくてね。
今回は長い間助かったよ」
「とんでもない! 旦那と姉さんの頼みですから! 後、変態は余計ですよ」
「年頃の娘の前でそんな格好で出て来るだけで十分だと思うけどねぇ」
無言で頷いて肯定していると変態さんが肩を落としたように店の奥に引っ込んで行った。
「ん〜? もしかしてここから武器の供給とかしてたり?」
「おっ流石だねぇ、その通りだよ。
側から見たら完全に反乱だからね、信頼出来るとこからじゃないとね」
「あれだけの兵の分を集めるのは大変だろうし、どこから足がつくか分からないからねぇ」
女将さんに同意していると変態さんが服を着て戻って来た。
「姉さんこっちのねぇちゃんは?」
「終盤で加わった傭兵のスズだよ」
「傭兵? こっちでは珍しいですね? でも旦那や姉さんが引き入れたなら確かなんでしょうね」
「そうだね、こんな見た目で腕は一級品だよ」
「へぇ、姉さんにそこまで言わせるなんてすげぇなぁ」
「アンタは叱られてばっかりだったからね」
「あはは、耳が痛いてすね」
「まぁそれはいいとして今日はこの子の得物を見てもらおうと思ってね」
「これなんだけど…」
布で包まれた刀を見せる。
「開けてもいいか?」
「うん」
刀身が露わになった刀を見て変態さんが唸る。
「刀……しかも上等な代物だな………でもこれ見る必要あるか?」
変態さんは見る目は確かなようだ。
「刀身じゃなくて鞘の方なんだよねぇ」
「鞘? 入れモンの方か、すまねぇなあいにく刀は扱ってねぇんだ」
「ええ〜」
「少し前なら一本だけあったんだが代わりを欲しいわけでもないみたいだしな」
「刀身に合わせた鞘が欲しい」
「なんとかならないのかい?」
「ん〜………」
変態さんがしばらく考え込んでいる。
「………知り合いに頼んでみますよ」
「ホントっ⁉︎」
「ただこっちで刀なんて珍しい上に鞘ってんじゃ、あまり期待しないでくれよ」
「でも可能性はゼロじゃないってだけいいさね」
「コレ預かってもいいか? 刀身に合わせるとなると必要だからな」
「いいよぉ」
これはいつまでも変態さんじゃ失礼かな。
「すぐには出来ねぇだろうからしばらく日を空けてからまた来てくれよ」
「わかったぁ、よろしくねムジカ」
刀を預けたまま店を後にした。
「女将さんありがとね」
「構わないさ、依頼の過程で破損させちまったからね」
「そこは仕事だから文句は言わないよぉ」
さてさて、鞘の目処はたった。
城の方はバタバタしてるから報酬もまだもらってない。
そうなると暫くはここに滞在する事になる。
「となると……ここの甘味を制覇しに行くしかない!」
「どう言う結論でそうなったかは知らないけど気をつけて……って、アンタには必要は無いか」
「心配ご無用ぉ〜、女将さんじゃあねぇ〜」
パタパタとスズがご機嫌にフリードの街中に紛れて行った。
ザック・アルマの場合
王族が解放されてから1週間が経った頃。
「まだ動けないのかい?」
「そうみたいです」
入れ替わりで俺に食事を差し入れに来てくれている女将さんが言った。
「スキルの後遺症だっけ? そんなんじゃ軽々しく使えないねぇ」
「全くもってその通りですね」
「でもその価値はあるがな。
小僧がいなきゃ俺達は今頃生きて無いからな」
「相手が天災級のオークキングじゃ無理もないか」
「ああ、それに1体だったのが幸いだな」
2人の言っている意味がイマイチだったので聞いてみる。
「1体だったのが幸いって?」
「ん? ああ、アンタはこっちの事は詳しくないんだったね」
俺が召喚者なのは今回の関連者は既に知っている。
職業まで知っているのは一部の人だけだが。
「オークキングってのはね個体の強さも厄介なんだが、ジェネラル以下を統率出来るのが最大の脅威なんだよ」
「ジェネラルって確か一騎士団総出で挑むって聞いた覚えが…」
夢の中でアリシアさんがそんな事を言ってたような…。
「おっ、それは知ってたかい、そうだよ。
で、キングが一国家を挙げての総力戦ってとこだね」
「と言っても天災級がそうほいほい出て来るなんて事もないからここ数十年は聞いた事がないな。
もちろん俺も伝聞でしか知らん」
「だけど今回はその稀な事が起こったと」
「だな、おかげで色々見直しをしなきゃならん」
「まっそこは騎士団長様に任せるさ。
無事解放出来たしアタシに出来る事はもう無いからそろそろ帰るよ。
宿をシャロに任せっきりだしね。
今回は昔のよしみで手を貸したけどもう無いに越した事はないからね」
「ああ、助かった」
「アンタは動けるようになったらシャロに顔を見せてやっておくれ」
「そうします」
そう言って女将さんは挨拶もそこそこに部屋を出て行った。
「アッサリしてますね」
「昔からあんなもんさ、それに会えない距離でもないからな」
「そんなもんですか」
「そんなもんだ」
付き合い方は人それぞれだもんな。
ていうかホント俺いつ動けるようになるんだ?
「そういやフリード王が礼をしたいと言っていたな。
結局バタバタしてそれどころじゃ無かったからな、けど……その様子じゃまだ動くのは無理そうだな」
「なんかすみません」
「気にすんな、俺も含めて小僧には感謝してる……て言うかいつまでも小僧のままじゃアレだな」
「言いやすい呼び方でいいですよ?
俺も旦那って呼びますから」
「そうか? まっ今更か」
「ですね」
今から呼び名変えるとか違和感しかないからなぁ。
「また様子見に来る」
「その時には動けるようになってるように願いたいですね」
「まぁ、ゆっくりすればいい」
そう言って旦那も部屋を後にした。
部屋を出た所で溜息を吐く。
「小僧には早く動けるようになってもらいたいもんだ。
じゃないと顔合わすのも躊躇うぐらい気落ちした姿を見るのもなぁ」
そう言いながら職務に戻って行った。
アリシアの場合
「………はぁ」
王様達が解放されて10日が過ぎた。
今は主だった職務は王が引継ぎその手伝いをしている状況であり、当初一人で奔走していた時と比べれば今は雲泥の差と言える。
なのに溜息をついているのは何故なのか?
理由は簡単、この度の功労者である悠生の事だった。
突然装飾品が壊れたと思ったらお父様達が正気に戻った。
少なくとも周りは何もしていない。
不可解すぎる現象だった。
そうなるとどうしても彼が何かしたと言われた方がまだ納得出来るのだ。
確かめようとすぐに駆けつけたのだが本人は眠ったまま目を覚まさなかった。
その時はまだ深く考えていなかったのだが、本人から話が聞けないのでその間に自分なりに考えてみた。
最初に思いついたのは自分が体験した夢の中と状況的に似通っている部分、つまり牢屋での事だった。
自分と父を閉じ込めていた牢の格子……その助かり方が夢の中と全く同じだった。
似通った部分が他にも無いか夢の内容を振り返った結果、その後の展開も悉く突破し最終的には解放してくれた。
と、それは良かったのだが過程が問題だった。
何度か思い返しているうちにその時の自分の状況を思い出したのだ。
夢の中とは言えずっと抱えられたままだったという事に。
そして不可抗力とはいえずっとしがみついていた事を。
お陰で目が覚めたと聞いても恥ずかしくてどんな顔をすればいいか分からず部屋に訪ねる事ができないでいた。
しかもしっかりお礼を言う機会を失ったまま、一度ならず二度とまでも粗相をしてそのままだった事で輪をかけて困っているうちに、ズルズルと日にちだけが経過していた。
周りも現実的じゃないと言うし本人も違うと言っている。
考えれば夢の中で何かするのは現実的では無いというのはもっともだ。
という風に納得しようともしたのだが、そうなると夢の中での事は自分が望んで想像した事、という事になる。
そう思うとどっちの場合でも羞恥が込み上げてますます思考の迷路に迷い込んでしまった。
謝りに行くだけならここまで躊躇する事は無かったのだろうが…。
「………はぁ」
そしてまた溜息を吐くを繰り返していた。
「アークよ……アリシアが何やら溜息ばかりついている気がするが心当たりはあるか?」
「いえこれと言って思い当たる事は無いですね」
「ふむ…」
「心配しなくても大丈夫ですよ」
「シンシア? 何か知っているのか?」
「聞いたわけではないけど……多分、ね」
「「???」」
フリードとアークが首を傾げるがシンシアはそれ以上話す事は無かった。




