奔走 アリシア②
ザック騎士団長を先頭に3人で王達が囚われている牢を目指す。
正直な所、牢屋がある事は知っているがそこに行く事は初めてだった。
何故なら使われた事が無いからだ。
あっても訪れる事があったかどうかは分からないが。
そのはずなのに妙に既視感を感じる。
それもごく最近……それは奥へ進むに連れて明確になっていく。
「こちらです。牢に触れると電撃が流れる仕組みのようで迂闊に触れる事が出来ませんのでお気をつけて」
「っ!」
到着した時には確信に変わった。
ザック騎士団長の説明、そして場所……夢で囚われていた状況と瓜二つ。
同時にそれは自分にはどうする事も出来ないという事も分かってしまった。
中に見える人影に向かって駆け出したい衝動を抑えて出来る限りの声で叫ぶ。
「お父様っ! お母様っ! お兄様っ!」
「…その声はアリシアか、良かった」
「無事だったのね」
「怪我はしてないかい?」
声は弱々しいが娘妹に対する気遣いの言葉が放たれた。
手を伸ばせば届くのに触れる事が叶わない。
目頭が熱くなるのを唇を噛み締めて堪える。
「…はい、私は大丈夫、です」
「私のせいで魔族に付け入る隙を与えてしまいすまなかった」
「そんな事っ…!」
言いかけて口籠る。
つい先日同じ事を自分も口にした。
相手がどう言い繕うとも納得しない事は先刻自分が言った事だ。
ましてや頂点に立つ王がそれを良しとしない事は分かりきっている。
今必要なのは傷の舐め合いでは無い、どう動くかだ。
王が動けないとなると代わりに動ける者が指揮を取るしかない。
しかし父としてその言葉を発する事も無い。
ならばこちらが提案するしかない。
「ご安心下さい、お父様達が出て来るまで私が王都を守ります」
「っ⁉︎ いやそれは!」
「私なら大丈夫です。
自由を奪われていましたが状況は把握出来ています。
現状では誰よりも適任だと思います」
「う、いや、そうかもしれんが……」
「今動けるのは私だけです…どうかご決断を」
「…………………。
アリシア頼む……だが決して無理をするなよ」
「はい、出来ない事は致しません」
「 う、むぅ……」
どうとでもとれる言い回しに思案顔になる。
「ザックよ」
「はい」
王がザックを近くに呼び寄せる。
「分かっているな?」
「分かってますが、止めて聞くような方では無いですよ?」
「それでもだ!」
「……善処します」
「ザック騎士団長行きましょう!」
「はぁ……すぐ行きます」
言われた矢先にその意気込みを見せられてザックが小さな溜息を吐きながら王女の後を追った。
国が不安定な状態で全てを進めるのは不味いですね。
内部整備から初めて……、ですがお父様達の事を考えると外部の事も……。
やる事は山積みですね。
▽▽▽▽▽
「…………ふぅ」
あれから5日が経った。
治安整備、重税の廃止、入国制限の解除、流通の回復、それらに伴う各所への対応。
そして今も自分の姿が隠れる量の紙の山を前に息を吐く。
量は多い、しかし出来ない事は無い。
何をするにも人手は必要だ、彼のおかげで人的被害は皆無、器物破損も城内のみと被害も少なく問題は無い。
出来ない事はしない。
と言ったものの最大の課題はそこなのだ。
未だ救出の目処が立っていない。
牢も壁も堅固な作りに変換されており並の威力では歯が立たない。
国で1番であろうザック騎士団長でダメだった事から現状では物理的な破壊は不可能、ならば魔法による破壊ならとビャッコにお願いしたが帯電はするものの時間が経つと霧散するだけだった。
牢はビャッコと同質の属性の為、破壊に至らなかったのだ。
もはや王国内だけでは救出の手立てが無い。
「…………はぁ」
「そろそろ休んだらどうですか?」
「えっ⁉︎ あっ! ザック騎士団長! いつの間に部屋に⁉︎」
「ノックはしましたよ、まぁ返事はありませんでしたが」
「あっ、す、すみません! どのようなご用件でしょうか⁉︎」
「さっき言った通りですよ、そろそろ休んで下さい」
「……お気遣いありがとうございます。
ですがゆっくりもしていられませんので」
「人の出入りにも気付かないぐらい疲れてるのは効率が悪いですよ。
倒れでもしたらどうするんですか」
「……そうですね、申し訳ありませんが少し休みますね」
そう言って机の上に置いてある紙の束を一部抱えて出て行った。
「………はぁ、ありゃあ休む気ねぇなぁ。
こりゃあ小僧の呼び出しに期待するしかねぇか」
今日の昼過ぎに小僧の使いとしてスズが呼びに来たのだが生憎手が離せなかった為、向かう事が出来なかったのだ。
「………ふぅ」
自室に持ち込んだ書類を片付けた所で一息つく。
少しずつだが確実に進んでいる。
そうなると自然と思考は救出方法に傾いて行く。
……仕様は夢と同じ、牢や壁の破壊は現状不可能。
ではどうやって夢の中で助かったのかと記憶を辿る。
……夢の中では悠生様が現れて牢を斬った。
しかしその当人は自分では無いと言った。
本当にそうなのだろうか?
嘘をつく理由は無いので本人に違うと言われればそれまでなのだがどうしてもそうは思えなかった。
夢で見た悠生様はそれまでに見ていた姿とは一線を画していました。
夢の中で私にとっての理想を召喚したのではと悠生様は言った。
確かに助けを求めていたのは事実です。
いくつか障害はありましたが問題なく解決しました。
私の夢の中なら私にとって都合のいい展開になっても不思議ではありません。
牢を斬った事もさる事ながらその後も正直全ての動きを捉える事が出来ないほどでした。
まさに救世主と言って差し支えない実力。
夢で無ければ……でも夢で無かったとしても今は動ける状態では無いのでお力をお借りするのは難しいでしょうが…………………あら?
そこまで考えた所で疑問が出た。
そう言えば悠生様は何故筋肉痛になったのでしょうか?
それも動くと痛みが走るほどの……?
通常の筋肉痛ではありえない症状。
しかも魔力切れも起こしている……。
魔力切れはまだ分かる。
100名を超える人員を瞬時に移動させたのだ。
個人の魔力量でどうにか出来た事が既に常軌を逸しているがそれだけでは筋肉痛にはならない。
状況が状況だった為、戻って来た時以来顔を見せていない。
思えば粗相だけをして部屋を後にしていた。
そこまで考えたところで…。
「……私はなんて事をっ!」
勢いよく立ち上がり部屋を後にした。
時刻は夜、だが自分がした仕打ちを一刻も早く謝る為そこには全く気が回らなかった。
小走りで医務室へと向かう。
部屋の前まで来ると灯りが漏れていたのでまだ起きているようだ。
コンコンコン。
今度はちゃんと扉をノックする。
しかし待てども返答は無い。
「?」
ゆっくりと扉を開けるとそこには誰も居なかった。
「いない? 悠生様は動けないはずでは?」
部屋に争った形跡は無い。
何よりビャッコが大人しい。
少なくとも危険は無さそうだが、だとすると動けない体で一体どこへ?
「ヴァ? ……ヴァウ」
「あっ、ビャッコ! どこ行くの?」
肩から飛び降りたビャッコが一度こちらを振り向く。
「ついて来いって事?」
「ヴァウ」
そうだと言わんばかりに吠えてどこかに歩いて行く。
しばらくついて行くと向かう先に検討がついた。
お父様達の所?
「…………、あっはっはっ!」
奥の方から笑い声が反響してきた。
この声はお父様?
元気なのはいい事だが笑っていられる状況でも無いはず……一体何があったのでしょうか?
疑問に思いつつも歩を進めると今度は笑い声ではなく切迫したような声が聞こえて来た。
ボコォッ!
そしてもう間近と言う所で一際大きな音が振動と共に伝わって来た。
「っ⁉︎ 今のはっ⁉︎」
何かが起きた!
残りの距離を一気に駆ける。
次第に見える人影とナニか。
あれはっ⁉︎
夢で見たモノと全く同じ⁉︎
そう判断し即座にビャッコに声をかける。
「ビャッコ! お願い!」
「ヴァウッ!!」
ビャッコが返事と同時に雷が手に襲いかかった。
それはそのまま塊へと伝わり全体を包み込み煙を上げて消滅して行く。
「皆さん大丈夫ですかっ⁉︎」
「アリシアっ⁉︎ どうしてここにっ⁉︎」
声を聞いてまさかとは思ったがそこには牢から出ている父の姿があった。
「悠生様にお話を伺おうとして医務室に行ったのですが、誰もいなかったのでビャッコの案内でここに…それよりお父様これは⁉︎」
「うむ、この者に助けられた」
視線を追うと床に倒れている悠生がいた。
「ど、どうもアリシアさん、こんばんは」
「悠生様っ⁉︎ 動けないのにそんな無茶を⁉︎」
駆け寄って助け起こそうとした所で慌てた声がかかった。
「ア、アリシアさんっ⁉︎ ちょ、ちょっと待って! 大変嬉しいんですけど今動かすのは!」
「あ」
……遅かった。
「ーーーーっ!!!」
「す、すすすみませんっ!!」
「あ、この展開は……」
やりとりを見ていたスズさんが呟いた。
時既に遅し。
手を離して中途半端に起こした体が重力に従って地に落ちた。
「いっでぇーーっ!!!」
城全体に届いたのではないかという悲鳴が響いた。
「ーーーっ!! ほ、本当にすみませんっ!!」
「姫さんホント鬼だねぇ」
「アリシア王女それよりもフリード王達を休ませて上げましょう」
「あっ! そ、そうですね!」
「私は大丈夫だ、アークは大丈夫か?」
「はい、父上」
「そうか、ではシンシアに肩を貸してくれるか」
「あ、はい、ではお母様参りましょう」
「ごめんなさいね」
牢の格子に当たらないように注視して見ると鋭利なモノで切断された跡があった。
「これは…夢と…同じ…」
そんな事を思っていると前方のやりとりが思考を掻き消した。
「ほら小僧行くぞ、よっと」
「いたっ! 旦那! 痛いっ! いてぇっ!」
「……せっかくの場面もこれ見ると薄れるなぁ」
「だねぇ、ホントなら感動の再会になるとこなのに台無し」
「しょうがないでしょ! 痛いもんは痛いんだから!」
「す、すみません!」
「いやっ⁉︎ アリシアさんは全っ然! 微塵も悪く無いですよ!」
そう言ってくれるものの一度ならず二度までも同じ事をしてしまって申し訳無さが倍増した。
「……はぁ…」
思わず溜息が出てしまった。
それは周りには聞こえない程度のものだったが、側にいたシンシア王妃にはしっかり聞こえていた。
「…………」
その様子を珍しそうに見ていたがそれに関して口を開く事はしなかった。
かわりにアリシアの視線の先を追う。
視線はザック騎士団長の背中にいる人物に注がれていた。
「ふふ」
「お母様? どうかなさいましたか?」
「いえ、何でも無いわ」
「?」
何でも無いと言われればそれまでなのだが、何故か釈然としないものを感じながら無意識に元の目線に戻す。
それを見ていた王妃から自然と笑みが溢れた。
それから全力で職務に取り掛かろうとする王を大事をとって今夜は養生してもらおうと説得し、やっと解散というところで突如眩しい光が発せられた。
発生源はすぐに判明した。
何故なら救出した王族3名からだった。




