身動き出来なくとも
っべぇ〜、全く動けん。
城の医務室に搬送されて5日が明けた。
主謀者と思われる商人はこの間に姿を現す事は無かった。
兵を連れて出て行ったアリシアさん達はオークキングが去った日の夕方には戻って来ている。
戻って直ぐに俺達が運び込まれた医務室に駆け付けてくれたのだ。
そこでハッピーエンド!
となればよかったのだがまだ問題が解決していない。
王様達が囚われている牢の結界がまだ残っているからだ。
状況を把握したアリシアさんは俺達に命に別状が無い事に安堵したのも束の間、王様達の牢に向かって行った。
しかし結界を解除する事は叶わなかった。
旦那から聞いた話だと牢に触れると電撃が流れる仕組みになっているそうだ。
じゃあ壁を破壊したら? と言ったんだが、既に試した後らしく結界の影響か何かで傷一つつかなかったそうだ。
せっかく城を解放したのに最後にこんな仕打ちがあるなんてアリシアさんが落ち込むのでは?
と思ったが、王様直々に国を頼むと言われて国の立て直しに奔走している。
元々王様不在の間はアリシアさんが取り仕切っていた為、状況の把握は出来ており適任だった事もある。
とは言っても相当多忙な様子で、初日以来顔を見ていない。
まぁでも王女様が見舞いに来るってのは高望みが過ぎるかもしれないが。
「にぃさん、具合はどぉ?」
そんな事を思っているとスズが現れた。
「全然動けん」
「大変だねぇ」
あまり大変そうに思って無さそうな感じに言ってくる。
ちなみに旦那とスズも動くのに苦労する状態ではあったのだが治療魔法でアッサリ完治して今はご覧の通りだ。
で、俺は何故未だにこんな状態なのかと言うと治療魔法は外傷には効果を発揮するのだが、筋肉痛みたいな傷では無いものには効き目が無いからだ。
これには皆お手上げで時間をかけるしか無いという結論になってしまった。
「他人事だなぁ」
「他人事だからねぇ」
「………」
「冗談だってぇそんな顔しないでよぉ、助けられたんだから恩は感じてるよぉ。
ちゃんとお使いしてきてるよぉ」
「そうだった、でどんな感じ?」
「ん〜、見た目は大丈夫なように振る舞ってるけど疲れが見えて来てるねぇ。
あれ多分寝てないんじゃないかなぁ?」
動けない俺に代わってアリシアさんの状態を見てもらっているのだ。
アリシアさんの性格を考えればそりゃそうなるよなぁ。
今回の事で胸を痛めていた上に王様から直接頼まれたんだ。
とは言っても俺やスズに政治の手伝いは無理だから何も出来ないのだが、それでも心配なものはしょうがない。
「そっか……で、もう一つの方は何とか出来そう?」
「出来たらもうやってるよぉ」
「そりゃそうかぁ」
もう一つとはもちろん王族一同がいる牢の事だ。
頭を使う事は出来ないが実力行使ならこっちの土台だろうと思いスズにお願いしたんだが無理だったみたいだ。
聞いた情報では壁は試して無いから分からんけど電撃って夢のまんまだから電撃が届く前に切断すればいけんじゃね?
とか思ってスズならやれると思ったんだがアテが外れたみたいだ。
「にぃさんも無茶言うよねぇ、牢の鉄なんて特に頑丈に作られてるのに斬れだなんて、しかも電撃のおまけ付き」
「いやぁ、スズならやれるかなぁ〜と」
「触れるだけならいいけど切断となるとねぇ」
……触れるのは大丈夫なんだ。
アリシアさんに休んでと言っても聞き入れてもらうのは無理だろうし、かと言ってそのままという訳にもいかんしなぁ。
夢とは訳が違うかもしれんが可能性があるならやるべき…か。
「スズ、悪いけど旦那呼んで来てもらえる?」
「いいよぉ」
そうしてスズが旦那を呼びに行って暫く。
時刻は夜。
「遅くなってすまねぇな」
旦那が医務室にやって来たのは完全に日が落ちてからだった。
「こっちこそ忙しいのにすみません」
「いや鎌わねぇよ。
小僧がわざわざ呼ぶって事はまた何かするつもりだろ?」
「お察しの通りですけど、成功するかどうかは不明ですよ? しかも今回のはただの力技なんで」
「どういう事だ?」
「にぃさん……もしかしてワタシに言った事をするつもり?」
「正解」
「ん? 何だ?」
「電撃を受ける前に牢を斬るんだって」
「はぁっ⁉︎ そんな事出来るのかっ⁉︎
しかもその状態で⁉︎」
身動き出来ない俺が言っても説得力無いよなぁ。
「戦闘は無理ですけど動くのはなんとかなるんで、旦那にお願いしたいのは俺を牢まで運んで欲しいんですよ」
「いやまぁそれは構わねぇが…そんな状態で動けんのか?」
「そこは大丈夫です。
少ししか動けないけど試す分にはそれで十分なんで」
筋肉痛で動けないだけであって魔力は既に回復している。
『夢現』と『リモート』を使って牢を斬るだけだから1秒もかからないだろう。
それに1秒未満なら筋肉痛が追加される事も無いだろうし。
あっても現状とあまり変わり無い。
強いて言えば寝たきりの状態が少し長引くぐらいか。
問題は斬れるかどうかという点と斬った後に何事も起こらないかという事だ。
「スズも一緒にお願い、何か起こっても困るから」
「はぁい」
そうして俺達3人は王様達が囚われている牢に向かった。
「誰だ?」
牢の中からやや疲弊した声が聞こえる。
「フリード王、夜分に失礼致します」
「ザックか、どうしたこんな時間に? それに背の人物と後ろの娘は見た事が無いな?」
「少し試したい事があって参りました。
後ろの娘は今回の作戦で雇った傭兵でスズと言います」
「ども」
……スズにしては緩く無い返事……なのか?
「傭兵…そうか今回の件に協力してくれて感謝する」
王様が格子に近寄りながら礼を言う。
スズの態度も特に気にしていないようだ。
奥には2人の影が見える。
おそらく王妃様と王子様だろう、どうやら就寝中のようだ。
俺は旦那に降ろしてもらって肩を借りながら自己紹介をする。
「こんな格好で申し訳ありません。
アリシア王女に召喚された悠生と申します」
「召喚? ……救世主召喚の儀を行ったのか⁉︎」
「都合のいい手駒を手に入れようとしていたようです。
今回はそれが裏目に出てこうして城を解放するに至りましたが」
「そうか…、悠生と申したな? 其方には申し訳ない事をした。
謝って済む事では無いがすまなかった」
いきなり王様に頭を下げられた。
「ちょっ、ちょっと! 顔を上げて下さい!
俺を召喚するに至ったのって魔族のせいであって王様に非があるわけではないと思うのですが…」
「いや私が不甲斐ないばかりに魔族に付け入る隙を与えてしまったのは事実だ。
可能な限りの対応はさせてもらう」
…この親にしてあの娘ありか?
先日アリシアさんも同じような事言ってたな。
子は親の背を見て育つとはよく言ったもんだ。
まんま体現してるのはレアな気もするが。
「…では、一つだけお願いを聞いて頂けますか?」
「うむ、私に出来る事なら最大限に叶えよう。
もし王族に恨みがあるのなら私が罰を受けよう」
「フリード王⁉︎ 流石にそれはっ!」
「よい、1人の人生を変えたのだ1個人が出来る事ならそれに全力で応えよう」
旦那が慌てるが王様の意志は固い。
最初に俺に死刑宣告した偽物ならともかく初対面の王様にそんな事を言うつもりは毛頭ない。
むしろジーク・フリードにしか出来ない事をしてもらうつもりだ。
「では、ここを出る事が出来たら家族でアリシアさんを目一杯褒めてそして甘やかして上げて下さい」
「…………は? いや! それが願いだと?」
「はい、アリシアさんは長い間1人で頑張って耐えていました。
それは今も変わりません、出来る事を精一杯やろうとしています」
「そうだなしっかりし過ぎているとも思うが」
「それにご自分の立場をよく分かっていますので甘えたりする事も無いでしょう」
「うむ、親としては寂しい所ではあるのだが」
「傍目には大丈夫そうに振る舞っているようですが、今回の件では相当参っていると思います。
俺からのお願いとして年相応の時間を作ってあげて下さい」
「それは是非もないが…それでは其方が得るものが何も無いではないか」
「ちゃんとあります、王様なら分かると思いますよ」
「なんだと?」
「アリシアさんの笑顔が見れる……それ以上の報酬は無いでしょう?」
「「…………」」
王様と旦那が黙り込んだのも束の間。
「くっくっく、あっはっはっ!」
王様が声を上げて笑い出した。
その声に一緒に牢に入っていた2人の人物が目を覚ました。
「父上?」
「どうしたのですか?」
「いやすまない、何でもない。
私なら分かる、か……なるほど確かにな。
分かった約束しよう」
「決まりですね。
では本題に入りましょう、すみませんが格子から少し離れてもらえますか?」
「うむ?」
王様が格子から距離をとったのを確認し『夢現』からの『リモート』を発動させる。
キィンッ!
カラカラカラン!カラン!
甲高い金属音が一度響き三分割にされた格子が地面に力無く転がっていった。
どうやら夢と同じで上手くいったみたいだ。
「なっ⁉︎」
「本当にやりやがった…」
「にぃさんならやりそうな気がしてた」
驚愕、事実確認、呆れと三者三様の反応が返って来た。
「…だ、旦那、後お願い」
俺はそれだけ言うと崩れ落ちた。
「だ、大丈夫かっ⁉︎」
王様が慌てて俺の方に近づいて来た。
「すみません、筋肉痛で動けないだけなんで大丈夫です」
「き、筋肉痛?」
言葉の意味がすぐに理解出来なかった王様が繰り返す。
筋肉痛で動け無いってそりゃそう言う反応になるよなぁ。
俺も未だに信じられんし。
「下がって!」
唐突にスズの鋭い声が飛ぶ。
ザンッ!
そして何かを切断する音が続いた。
「気持ち悪ぅ〜」
「な、何だアレはっ⁉︎」
音の方を見ると三分割した格子が消え赤い塊、そしてそこから蠢く複数の赤い手があった。
夢と同じモノが発生していた。
斬られたのとは別の2本の手が俺達の方に迫ってくる。
ザンッ!
スズが2本の手を即座に斬り捨てる。
「にぃさんやらかした?」
「やったのは俺だけど狙いは俺じゃ無いと思うぞ?」
そんな会話をしていると別方向から赤い手が伸びて来る。
本命に向かって。
「っ!」
ザンッ!
そちらもスズの手によって斬り裂かれる。
「王様が狙いって事ね」
スズが納得したように赤い塊を見据える。
「フリード王! こちらへ!」
旦那が俺を背負いながら臨戦態勢をとる。
ゴポッ。
赤い塊から今度は複数の手が伸びて来た。
「げっ⁉︎」
「小僧! 降ろすぞっ!」
「いっでぇぇっ!」
俺の返事を待たずに地面に降ろされた。
ザンッ! ザシュッ!
スズと旦那が手分けして赤い手を切り裂く。
ゴポッ!
「いっ⁉︎」
「なっ⁉︎」
2人が斬った部分からまた新たな手が現れた。
すぐには伸びて来ずにこちらの様子を伺うかのようにユラユラと動いている。
夢と同じで牢の中に戻すのが優先って事か、牢の中にいる2人には全く関心が無い感じだな。
夢と全く一緒なら電撃が有効ではあるんだが……。
「スズ、旦那、どっちか電撃とか使える?」
「無茶言うな俺は戦士職だぞ⁉︎」
「ですよねぇ、スズは?」
「ワタシも無理」
「だよねぇ〜」
……夢と同じ方法取るしかないかぁ。
そんな事を思っていると赤い手が拳を作った。
あ、標的変わるパターン。
「うぇっ⁉︎」
「ぐおっ⁉︎」
ボコォッ! ガンッ!
スズを狙った拳は不発に終わり背後の壁を穿ち、大剣で受け止めた旦那が後ろに後退させられる。
「さっきより速くなってるっ!」
「威力も厄介だ!」
一緒ではあるが俺の時より気が短いな…邪魔者が2人になったからか?
休む間もなく拳の弾幕が2人を襲う。
「わわっ!」
「ぬっ! ぐっ!」
スズは何とか回避しながら手を切断し、旦那もいくつか被弾しながらも手を斬りつけているが焼石に水。
もう一踏ん張りしますか……。
そう思った矢先。
「ビャッコ! お願い!」
「ヴァウッ!!」
聞き覚えがある声と共に雷が手に襲いかかった。
「皆さん大丈夫ですかっ⁉︎」
アリシアさんだった。
ここらで一区切りの予定だったんですが何故か続く形になってしまいました。
気長にお待ちいただければと思います。
一日三時間の睡眠と残りは仕事で動き回る事を続けると本編の主人公と近い症状に陥る事を知りました。
動くと痛いってこんな状態なんですね。
でも仕事だからしょうがない。




