10Day 〜誤魔化します〜
コンコンコン。
扉を軽くノックする。
「誰ですか?」
中からやや緊張したアリシアさんの声が聞こえる。
「ニュースをお届けに来ました」
「っ⁉︎ その言葉は⁉︎」
すぐに察してくれたようなので遠慮なく扉を開ける。
いやホント世の中何が役に立つかわからないもんだな。
苦労して説明した甲斐があったってもんだ。
《説明したのは私ですけどね》
その節はありがとうございました。
ミクには感謝しかないよ。
「悠生様!」
「アリシアさん、お元気そうで何よりです」
「ちょっ⁉︎ アンタっ⁉︎ それに旦那まで⁉︎」
俺と旦那の予定外の登場に女将さんが慌てた様子を見せる。
「悪いな、話は隣で全部聞いてたから把握はしてる。
取り敢えず大丈夫、とだけ言っておく」
「大丈夫って何を根拠に………ん? 聞いてた?」
女将さんの疑問を遮ってアリシアさんが口を開いた。
「ザック騎士団長っ⁉︎ 御無事だったのですね!」
「はい、恥ずかしながら生き永らえておりました。
今日まで何も出来ずに誠に申し訳ありません」
言いながら旦那が深々と頭を下げた。
「顔を上げて下さい、貴方が皆を連れて脱出したのは知っていますよ。
その後こちらでは消息が分からなくなってしまいましたが、こうしてまた会えて嬉しいです」
「勿体ない御言葉です」
ちゃんと騎士っぽい振る舞いするんだなぁ。
普段の旦那からはこんな姿想像出来なかったけど。
俺がそんな感想を抱いていると女将さんから肩を突かれた。
「こりゃどういう事だい?」
「旦那の言葉通りですよ、詳しくはまた後ほど。
取り敢えず話を合わせてくれればいいですよ」
「ふぅん……、まっ大丈夫なら構わないさ。
アンタもそれでいいね?」
「ええ、団長殿がいいと言うのであれば異論はありませんよ」
女将さんとギドが特に質問する事なく了承してくれた。
「現在は王都奪還の準備をしておりこれからが正念場といった所です」
「そうですか…王族が至らぬせいで苦労をかけました。
誠に申し訳ありません!」
「何をおっしゃいますか! 悪いのは魔族であり王家に非はありません!」
「そう言って頂けるのは嬉しいですが、付け入る隙があったことは事実。
果たすべき責務を全うせずして王族の意味はありません。
これよりは私も全力で力になります。
どうか引き継ぎご協力をお願い致します」
「はっ! 仰せのままに!」
「そして悠生様、この度は私を救い出して頂き誠にありがとうございました」
「とんでも無いです! 俺はアリシアさんの声を聞いただけですから」
「そんな事ありません! 夢の中で私を救ってくれたではありませんか!」
ぐっ! アリシアさんに嘘をつくのは申し訳ないが全力でシラを切るしかない!
「………夢、ですか? 確かに夢でアリシアさんの声を聞きましたが、それだけですよ?」
「えっ⁉︎ でも現にこうして⁉︎」
「流石に夢でどうこう出来る訳ないですよ。
アリシアさんが自力で打ち破ったんだと思いますよ?」
「でも! 私は特別何かしたわけではありませんし!」
「ずっと祈り続けてたでしょう?」
「それはそうなのですが、でも! 今まで一度もこんな事はありませんでした!」
「王都から離れた事で呪縛が緩まったのかもしれませんよ」
「それはっ⁉︎ ……確かに今まで王都から離れる機会はありませんでしたが、ですが! 夢の中での悠生様は今の貴方と同じ雰囲気をお持ちでした!」
尚も食い下がるアリシアさんにシラを切り続けるが、実に胸が痛む。
「それにアリシアさんは召喚士です。
夢の中で状況を打破する為にちょうどいいタイミングで現れた俺をイメージで召喚したのかもしれませんし」
「………」
「俺に覚えが無い以上それは俺じゃありません、アリシアさんの力ですよ」
「……そう、なのでしょうか?」
「アリシア王女、小僧もこう言ってますし夢で何かするなんて流石に無理でしょう。
それより今は事態が好転した事に喜んでおきましょう」
「…………そう、ですね。
悠生様が嘘をつく理由がありませんし…、今はお父様達を救出する方を優先するべきですね」
アリシアさんの言葉が刺さるが、堪えろ俺!
どこか別の方向からも視線を感じるが気にしたら俺の負けだ!
徹頭徹尾貫くんだ!
「で、どうするんだい?
予想外の出来事だけどやる事は変わらないだろ?」
「…そうだな、まずは城に連絡を入れておくか。
アリシア王女が操られてる時に頼む事は出来なかったからな」
そう言えば早朝に連絡してるって言ってたもんな。
「間隔が空いてしまっていますのでそれらしい文を送っておいた方がいいでしょう。
そうですね……、マロメの村近隣に広がる迷いの森にて魔族と交戦、その際に昏睡させられておりました。
幸い悠生様のお陰で難を逃れる事が出来ましたが現状戦力では困難を極めると判断。
城に戻り討伐隊を編成、再度赴きます。
と言った内容でしょうか」
「…それなら城の守りも若干薄くなるでしょうし好都合です。
となると元々城に行く予定だった3人には城に戻ったら目印を設置して討伐隊を城外へ引き連れてもらおう」
「あの……ザック騎士団長、目印というのは?」
「すみません、アリシア王女はまだご存知無かったですね。
詳細は省きますが小僧には対象を転移させるスキルがあります。
その為に出口となる目印の設置が必要なんです」
「転移⁉︎ そんな事がっ⁉︎」
なんかもう転移になってるけど、スキル名は『配達』なんですけどね。
「それで目印とはどのような?」
「何でも大丈夫ですよ。
今回は持運びなので小物とかがいいんじゃないですか?」
「なるほど………でしたら私の部屋ではどうでしょうか?
城に帰って戻っても不思議では無いですし、私の私物が部屋にあっても違和感は無いでしょう」
「アリシア王女の部屋? よろしいのですか?」
「もちろんです、私の部屋であれば警備の者もいないでしょうし」
「では御言葉に甘えさせて頂きます」
「ええ、では悠生様こちらをお使い下さい」
そう言ってアリシアさんは一枚のハンカチを差し出して来た。
「お預かりしますね」
ミクお願い。
《了解です》
ハンカチに手をかざすと円形の光が現れ、六芒星が描かれて行く。
六芒星が完成すると角が一つずつ丸い光を灯し全体が光を放った後、痕跡を残さず消えた。
「これで完了です」
そう言ってアリシアさんにハンカチを返す。
「へぇ、見た目は何も変わらないんだね?」
女将さんがマジマジと見ながら感想を漏らす。
そう言えばマーキングを人に見せるのは初めてか、かくいう俺も見るのは2回目なのだが。
「これで設置は問題無いとして後は討伐隊が城から離れた所で合図をもらうだけだな」
「それは難しそうですね…、城から出た時点で伝書鳩を送っても数日かかりますね」
「その事なんですが、それもこの小僧が解決してまして…こっちも詳細は省きますが指定した対象の会話内容を聞けるというスキルがあります。
しかも距離を問わずです」
「っ⁉︎ 本当ですか⁉︎」
アリシアさんが驚愕したようにこっちを見て来た。
「ええ、ただし指定した対象に過不足があった場合は無効ですけどね」
「それにしてもそれは……、悠生様、あの…本当に夢に干渉出来たりはしないのでしょうか?」
うおっ⁉︎ 疑惑が再浮上⁉︎
「え、ええ、流石にそんな事は出来ませんよ」
「そう、ですか……失礼しました。
では十分に距離が出来た時に合図を送りましょう」
危ねぇ、すぐに引き下がってくれてよかった。
これは気が抜けないなぁ。
「あの悠生様、この事は他言しないようにお願い出来ますか?
知られてしまうと…その、悠生様の身に危険が…」
アリシアさんからも旦那と同じ事を言われた。
「大丈夫ですよ、旦那から既に言われてますから」
「そうですか。悠生様のスキルなので使うなとは言えませんが、出来る事なら見られないように配慮した方がいいと思います。
もし商人の方などに知られた場合は血眼で捜索されると思いますので」
「……そんなにですか?」
「そんなにです、これは経済を根本から変えてしまうほどのモノです。
中には強行手段に出る輩がいてもおかしくないレベルです」
「き、気をつけます」
王女様に真面目に言われると怖いな。
《気をつけてもやらかすのが、マスターのクオリティですけどね》
…否定も出来ん。
その後も打ち合わせを行い、それが終わるとアリシアさん達は王都へと出発して行った。




