邂逅 スズ②
大会当日の朝。
ふぁ〜…、もう朝かぁ…。
眠いなぁ〜、でも甘味の為に頑張らないとなぁ。
身支度を整えた後、宿を引き払う事で会場へと向かう決心を固める。
まだ眠い足取りで会場に着くと受付で出場者が待機している場所に連れて行かれた。
道すがら今日の説明も受けたところによると、
参加者は全部で30名、本戦出場は4名。
本戦をかけてバトルロワイヤルでの選抜。
敗北条件は気絶、降参、舞台から落ちる事。
特段難しい事は無かった。
そして待機場所に着くと既に何人かが待っていた。
軽く何人か流し見る。
あれ? あの人刀持ってる。
こっちでは稀な刀、そしてつい最近所持している人を街で見た記憶がある。
今時仲裁に入ろうとした珍しい人だ。
少し話をしてみたけど、にぃさんじゃこの大会はちょっと難しいと思った。
事情があるみたいだけど深くは聞かない。
人それぞれ悩みはあるものだし、ワタシも負けてあげるわけにはいかないんだよねぇ、甘味の為に。
「それでは選手の皆様、闘技場に入場して下さい」
案内の人に言われてゾロゾロと移動を始める。
舞台は思ったより広かった。
これなら少し離れてサボれそう。
「ここでルールを説明致します!
気絶、降参、舞台から落ちたら即敗北!
残りが4名になった時点で終了となります!
また制限時間の30分で勝敗がつかない場合は撃破数の多い上位4名が勝者となります!」
ん? 撃破数?
ん〜ずっとサボってるのはダメかなぁ?
まぁ人数が少なくなってから考えればいいかな?
「それでは試合開始です!!」
開始の合図と共に気配を消してその場から離れる。
他はみんな武器を手に手当たり次第挑んでいる。
みんな頑張るねぇ。
ワタシは飴でも食べて暫くは様子見かなぁ。
お〜、にぃさんも絡まれてるねぇ。
およ?
キィン! カラン!
甲高い音を響かせて刃物が地面を転がる音が響いた。
居合かぁ、随分様になってるなぁ。
あ、にぃさんがこっち見た……飴が欲しいのかな?
「ヒャッハー! ここはねぇちゃんみてぇなのが来るとこじゃねぇぜぇ! その首もらったァァ!」
騒がしいのが来たので睨みつける。
ビリッ!
「はれ? か、から、だ、が動、か、ない?
ひぎゃっ⁉︎」
「食べてる時は静かにねぇ」
頭を鞘で叩きつけた。
「ああ〜っと! 一体何が起こったぁ⁉︎ 異国の服を身に纏った少女に襲いかかった暴漢が突如動きを停止! そして謎の昏倒が相次いだぁーっ!」
あ、やり過ぎた。
まぁこれで後は楽出来るかなぁ。
「これはまた……希少な使い手がおったもんじゃな。
しかもあのような娘がその域に達しているとは、俄には信じ難いのぉ」
「ハロルド殿! 今のは彼女がやった事だと⁉︎ 一体彼女は何をしたんですかっ⁉︎」
「ひっ⁉︎ あ、あのハロルド殿…な、何かお気に触る事でも⁉︎」
「おお〜すまんな。
簡単に言えば今と同じ事をあの娘がしたんじゃよ」
「ど、どう言う事ですか⁉︎」
「今、ワシに睨まれて怯んだじゃろ?
あの娘はそれよりもっと強い意志を一瞬に込めて暴漢に放ったんじゃよ。
他の倒れた奴らはたまたま近くにいてとばっちりを受けただけじゃな」
「はっ? えっ? いやいやっ⁉︎ 待って下さいっ!
意志を込めるだけで人を倒したり出来るんですかっ⁉︎」
「殺気を放って相手に感じさせるぐらいはワシにも出来るが、動きを止めたり倒したりは無理じゃ。
最初に言ったじゃろ? 希少と。
東方での呼び名なんだったかのぉ……確か『剣気』だったかの?」
おじいちゃんよく知ってるねぇ。
ん〜? なんだか周りが徒党を組み出した?
あ、にぃさんがその一つに絡まれてる。
「これは珍しい展開になりました!
あまりな実力差を見せた彼女以外が次々と共闘しております!」
あれ? もしかしてワタシのせい?
成り行きを傍観してたらにぃさんが健闘。
絡んで来た3人組を圧倒した。
あれぇ? にぃさんの動きが違う…。
「にぃ〜さん」
「うおっ⁉︎」
「なんかワタシのせいで目の敵にされてごめんねぇ。飴食べる?」
そう言って予備の飴を取り出してみる。
「あ〜っと、気持ちだけ貰っとくよ」
「そう? 美味しいのに、はむ」
「ふぃふぁんも、ふぁかふぁかふぁふふふぉがふぉふふぁふぇ?」
「食べるか喋るかどっちかにしてくれ。何言ってるか全然分からん」
「この前見た時と違うんだよねぇ? 今のにぃさんなら前のチンピラ程度なら問題無さそうに見えるよぉ? だいたい5倍ぐらい強く見えるかなぁ?」
「っ⁉︎」
「ワタシも甘味がかかってるから負けてあげないけどねぇ」
「余裕だね。他の人らみたいにかかって来ないんだ?」
「ん〜、まぁにぃさんは仲裁に入ってこようとしてくれたからそのお礼、みたいな?」
「そりゃどうも。どうせなら勝ちを譲って欲しいところだけど」
「それはムリぃ〜」
「ですよね〜」
「今はにぃさんに手は出さないから頑張ってねぇ」
にぃさんに声援を送ってまた傍観する事に徹する。
ふむふむ。
今度は1人……、だけどあの人…にぃさんより強そうだなぁ。
そんな事を思いながらなんとなく眺めているとおじさんから動きがあった。
ガキィッ!
おじさんの一撃でにぃさんが飛ばされた。
後ろに飛んでたみたいだから大丈夫そうだけど……最初の一合目を見る限りでは間違いなくあっちのおじさんの方が強い。
にぃさんにはちょっと荷が重いかなぁ。
「にぃさんがんばれ〜」
声援を送ってみる。
「先程の娘か…尋常では無い手練れ。
こちらの後に是非手合わせ願おう」
ありゃ? 余計な事言ったなぁ。
サボれると思ってたのに。
「およ?」
にぃさんが光を纏った。
それと同時に放つ力強さも変わった。
……にぃさんさっきよりまた強くなった?
今度はにぃさんから動いた。
キキィン!
にぃさんの斬撃が速い……間違い無い。
さっきよりさらに速く強くなってる。
キィキィィィンッ!
緯度にも及ぶ斬撃の応酬が闘技場内に響いた。
おじさんも強いけど…これはにぃさんの方が上回ってるかも。
一瞬距離を置いてにぃさんが『居合』の構えをとってそれをおじさんが迎え打った。
キィンッ!
一際甲高い音が響いた。
どちらも得物は振り抜いている。
カランッ!
静まった場内に乾いた音が届いた。
おじさんの剣が折れた。
同じ場所を狙い続けたにぃさんの作戦勝ちかな。
それにしても不思議だなぁ?
にぃさんに近づき、背後から背中をつんつんと突きながら確かめる。
「にぃさんにぃさん」
「ん? どうした?」
「ん〜?」
今のにぃさんは強くなさそうに見える。
「にぃさんまた急に強くなったね? 今のにぃさんは出会った時と同じ感じなのに」
「もしかして前言撤回したりする感じ?」
「んん? だいじょぶだいじょぶ。
今は手は出さないよぉ、する必要も無さそうだし」
「ん?」
ワタシの言葉の意味が分からずにぃさんが周りを見渡す。
「そしてここで参加者が残り2名となった為、予選のバトルロワイヤルは終了となります!
本戦は一度休憩を挟んでからとなります!」
「え?」
周りにはワタシとにぃさん以外立っている者はいなかった。
「にぃさん達が暴れてるのに巻き込まれたみたいだよ」
にぃさんが急に強くなったカラクリはよく分からないけど、ワタシは楽に進めてめでたしめでたし。
▽▽▽▽▽
そしていよいよ決勝戦。
「さて皆様お待たせ致しました!
只今より決勝戦です!」
「それはいいんだけどさぁ、コレ何?」
「何だろうねぇ」
決勝戦前に受け取ったであろう腕輪を付けたにぃさんが聞いてくるが、ワタシもコレが何か分かってない。
「決勝に残ったのはこの2人!
他を寄せ付ける事なく圧倒的な存在として優勝候補に躍り出た一輪の花! 実力は未だ未知数!
東方出身の剣豪スズ選手!
そしてぇっ!
出身は違えど東方の武器を携し若き剣士! ユウセイ選手!
予選では目にも止まらぬ実力を発揮!
そして驚くべき事実が! 私も最初信じられませんでしたが職業はなんと『旅人』っ!」
会場中に騒めきが広がった。
「たびびとぉ? それって職業?」
「そうらしい」
「にぃさん色々変わってるねぇ」
「かもな」
「開始前にご案内致します!
決勝戦のお二人には事前にこちらが用意した能力減退の腕輪を装着して頂いております!」
能力減退の腕輪ねぇ。
「へぇ〜」
関心しながら腕輪を色んな角度から眺めながら見る。
「って! 腕輪つけてねぇっ!」
「にぃさん、怪しいモノにすぐ手を出しちゃダメだよぉ?」
「スズ選手! 腕輪の装着をお願いします!」
舞台袖から係員らしき人から声がかけられた。
「はいはぁい」
カチャ。
「ん〜? 確かに動きにくくなった気がするぅ、まっそれはにぃさんも一緒か」
「それでは両者準備が整ったようですので決勝戦開始です!」
司会の人の声と同時にお互いに距離を取った。
まずはどれぐらい動きが鈍ってるのか確認しないとねぇ。
今のにぃさんはおじさんの時と同じ強さを放ってる、しっ!
キィンッ!
飛び出しはほぼ同時。
一瞬にしてお互い距離を詰め共に『居合』を放った。
結果は引き分け。
う〜ん、いつもと感じが違うなぁ。
弾かれた方向に逆らわず反転して左逆袈裟斬りでにぃさんを攻める。
にぃさんがそれを体を左に傾ける事で躱し水平に斬りつけて来た。
バク転でそれを躱し距離を置く。
着地と同時ににぃさんに接近して斬りかかる。
ガキィッ!
迎え打たれて鍔迫り合いになる。
ちょっと力だと分が悪いかなぁ。
キィッ!
にぃさんが押し込んで距離をとろうとしたけど、
「うわっ⁉︎」
離れてすぐに刺突をにぃさんにお見舞する。
紙一重で躱されて背後を取られる形になった。
にぃさんもそう思っただろう、でもにぃさん甘いね。
背中にしまってあった髪をにぃさんの顔に当たるように首を大きく回す。
「なんっ⁉︎」
一瞬の間を逃さず距離をとる。
にぃさんには何が起きたか分からなかったみたいだね。
「髪は女の命、ってね」
「使い方ちげぇだろうがっ!」
ん? 反応が返って来た?
ワタシの所での言い回しなのに、こっちでも使うのかな? 聞いた事は無いけどなぁ?
本当に出身違うのかなぁ?
っ⁉︎
ィィィィィィンッ
「「「「っ⁉︎」」」」
会場中に耳をつんざくような音が響いた。
あっぶな⁉︎ 何今の動きっ⁉︎
「い、今のは一体っ⁉︎」
「……斬撃の音、それも相当のスピード…この距離でワシも辛うじて見えただけじゃ」
「えっ⁉︎ いやだってあの二人は腕輪を⁉︎」
「減退してなおその動きを見せたというだけじゃよ」
「なんという…まさに別次元の戦い!」
別次元はにぃさんだけだよぉ。
今のはまぐれ、後ろがチリっとしたから受け流しただけに過ぎない。
にぃさんが構えなおした。
まずい、これは割に合わない!
「わぁっ⁉︎ にぃさん! 待った待ったっ!」
「な、何だ?」
「にぃさん隠すの上手すぎ無い? ちょっとコレは割に合わないよぉ?」
「譲るつもりは無いんだろ?」
「いや〜、これはこう…」
「ウオオオォォォーッ!!!」
「ほえ?」
「な、何だっ⁉︎」
降参と言いかけたセリフはどこからか聞こえた遠吠えでかき消された。
「グルルゥ〜」
「赤い…狼? てかデケェなっ⁉︎」
「おっきぃねぇ」
突然の珍獣の登場に場内の観客も呆然。
「た、大変ですっ! 優勝者との異種族戦用の魔物の檻が破られました!」
「なっ⁉︎ そんなバカなっ⁉︎」
「なんか優勝者用とか聞こえた気がしたんが?」
「あれ? にぃさん知らなかったの?
決勝後にもう一戦あったんだよ?
申込の項目に書いてたよ?」
まぁ、勝っても負けてもよかったみたいだけど。
「グルゥ?」
ん〜? 何か探してる?
それより結構面倒くさそうだなぁ、アレ。
「なぁ、アレって危ないのか?」
「ワタシって傭兵だから魔物に詳しくないんだよねぇ……でも危なそうかなぁ」
「グルゥ」
暫くキョロキョロしていた狼がこっちを見た。
「ん? ワタシ?」
「グルァァッ!」
返事に答えるように狼が襲いかかって来た。
「わぁっ⁉︎」
ガキィッ!
いきなりこっちに向かって来た狼の引っ掻きを受け流す。
「グルゥ」
受け流されても懲りずにワタシばっかり襲いかかってくる。
「なんでっ⁉︎」
「……美少女フェロモン?」
「にぃさん!」
にぃさんがバカな事言うから思わず怒鳴っちゃった。
「おや? おかしいな? てっきり君の方を狙うと思ったんだけど?」
誰?
「…っ⁉︎ アンタはっ⁉︎ ……名も無き男?」
にぃさんそれじゃ何も分からないよ。
「ふふ、名乗っていなかったね。
でも覚えてもらう必要は無いかな。
コレの糧となる君達にはね」
「っ⁉︎」
パチン。
「グル…」
突然現れた男が指を鳴らすと狼が動きを止めて男の側に控えた。
「凄いだろう? 元はただの黒狼だからね」
「え〜、黒くないじゃん」
にぃさんに隠れながら突っ込む。
「特別性なんだよ。そうだね、コイツの事は真紅とでも呼ぼうか」
まんまだねぇ。
「今のコイツは本能剥き出しで底無しの飢餓状態と言った所かな。
優先的により強い者を求めて捕食する傾向にはあるけどね」
「え〜、何でワタシなのさ」
「それは君と同意かな、僕も彼を狙うと思ったからね」
今のにぃさんじゃダメって事?
「まだ秘密がありそうだね、実に興味深い。
コイツが君を喰らった時が楽しみだよ。
じゃあ真紅好きに暴れておいで、ボクは一足先に帰っているよ」
「ガァァッ!」
名も無き男がそう言い残したのを合図に飛び掛かって来た真紅をワタシとにぃさんが左右に分かれて回避した、んだけどぉ…。
「ええ⁉︎ またワタシぃ⁉︎」
その言葉通り真紅はにぃさんには目もくれず一直線にこっちに突っ込んで来た。
「何でにぃさんじゃないのさぁ!」
真紅の爪や噛みつきを受け流したり躱したりしながら愚痴を漏らす。
「しつこいのは嫌われるよぉ」
言いながら真紅の右前足の引っ掻きを右に受け流して胴体を斬りつけた。
キィ!
「ガウ?」
「あ、硬い」
真紅を見ても斬りつけた部分を触っているだけで痛そうじゃない。
「ノーダメージ? マジ?」
「……にぃさん交代しない?」
「グルゥ」
真紅がゆっくりこちらへと歩を進めて来る。
「ご指名みたいだけど?」
「うへぇ〜、やっぱりこっち来るのぉ」
「ガァウッ!」
真紅が吼えながら噛みつきをして来た。
後ろに距離をとって躱すが、再度追撃をして来た。
今度は勢いを殺さずに体ごとの突進。
これは受け流せない。
「わわっ⁉︎」
それを横に飛んで躱した事で真紅が勢いよく観客がいる壁に激突した。
ドゴォ!
「きゃあっ⁉︎」
「うわっ⁉︎」
「壁がっ⁉︎」
「逃げろっ!」
傍観していた観客が壁が破壊された事によって一気にパニックに陥った。
真紅は何事も無かったかのように壁から出て来てこちらを見ている。
速さはややこっちが上、力と防御は向こうが上。
ん〜、困るなぁ。
「ねぇねぇにぃさん、ワタシが動きを止めるからぁ、キツいのお願いしていい?
ちょぉっと、ワタシじゃ火力不足なんだよねぇ」
「動き止めるって……さっきの全く効いて無さそうだったけど出来んの?」
「当てるだけが動きを止める方法じゃないよぉ、でもぉ止めれるのは1秒未満かなぁ。
にぃさんが出た時にこっちに注意を向けさせる感じになるかなぁ」
「俺に合わせてくれるって事でいいのか?」
「そ〜ゆ〜ことぉ」
にぃさんは少し考えてからこっちのお願いを聞いてくれた。
「んじゃ任せるよ?」
「お任せあれぇ」
それじゃあ本気を出さないとねぇ。
居合の構えをとり集中。
抜けば必中、必殺の一撃を極限まで研ぎ澄ます。
にぃさんの体を光が包んで行くのを感じる。
真紅の注意がにぃさんに向いた。
今っ!
「『剣気修羅』」
真紅に向けて全力で威嚇を放つ。
「ガウッ⁉︎」
その声を最後に真紅の首に一筋の線が入り、ゆっくりと胴と別れて首が落ちて来た。
ドオッ。
ふぃ〜、疲れるぅ。
本気なんて出すもんじゃないねぇ。
それにしても…。
「やっぱりにぃさんワタシの時は手加減してたね? 今のだったら受け流せてなかったよ?」
「いや、そっちは試合だから! 状況が違うでしょ!」
「ん〜? 怪我しても治療出来るから皆そんなのあんまり気にしてないよぉ?
やっぱりにぃさん変わってるねぇ」
「あっ! そう言えばコレどうなるんだ⁉︎」
「んん?」
「決勝だよ決勝! 乱入で順序変わった上に共闘で倒しちまったけど?」
「どうなるんだろうねぇ?」
まぁ、ワタシとしてはもうにぃさんとやり合う気は無いけどねぇ。
だって割に合わないもん。
次からは本筋に戻ります。




