8Day 〜頑張ったよね?〜
「やるじゃないか!」
一旦休憩の為、闘技場から出ると女将さんに出迎えられた。
「旦那に言っといて下さいよ。
余裕だなんてとんでもないって!」
「あっはっはっ! 今回は運が悪かったみたいだね。
でも勝ち上がれて何よりだよ。
で、どうだいあの子には勝てる見込みはありそうかい?」
「どうでしょう? 勝算がゼロってわけでは無さそうですけど、あの子まともに戦ってないですからね」
3乗に興味を示してたから4乗なら上回れる可能性がありそうではあるんだが時間がなぁ…。
ミク4乗だとどれぐらい行けそう?
《4秒…と言ったところでしょうか》
予想より残ってないな、もう半分以上使ったって事か。
「今はアンタが頼りだ。
相手は底が知れないが頑張っておくれ」
「努力しますよ」
そしていよいよ決勝戦。
「さて皆様お待たせ致しました!
只今より決勝戦です!」
司会のギャッツが高らかに宣言した。
「それはいいんだけどさぁ、コレ何?」
「何だろうねぇ」
俺は入場前に渡された腕輪を見ながら呟いた。
つけろと言われたからつけたけどさぁ。
「決勝に残ったのはこの2人!
他を寄せ付ける事なく圧倒的な存在として優勝候補に躍り出た一輪の花! 実力は未だ未知数!
東方出身の武士スズ選手!」
スズの紹介に観客が沸いた。
「そしてぇっ!!
出身は違えど東方の武器を携し若き剣士! ユウセイ選手!
予選では目にも止まらぬ実力を発揮!
そして驚くべき事実が! 私も最初信じられませんでしたが職業はなんと『旅人』っ!」
今度は会場中に響めきが広がった。
そりゃそうだろうね。
「たびびとぉ? それって職業?」
「そうらしい」
スズと紹介された子の感想もよく分かる。
俺も最初職業と思えなかったし。
「にぃさん色々変わってるねぇ」
「かもな」
「開始前にご案内致します!
決勝戦のお二人には事前にこちらが用意した能力減退の腕輪を装着して頂いております!」
は? 今何て言った?
「本来は魔物の捕獲で用いられるモノですが、この度お二人の実力の兼ね合いで急遽ご用意させて頂きました!
理由は至極単純!
私も含めて観戦が困難を極めた為です!
この腕輪は一度つければ外す事は出来ませんが効果は30分!
その後に消滅するのでご安心下さい!」
…………俺自身最初は認知出来なかったから一般人が見えないってのは分かるよ。
お金払って観戦出来ないのは運営として困るのも理解出来る。
でも説明無しにこんなもんつけさせるなよ。
本当に消滅するんだろうな?
「へぇ〜」
スズが関心しながら腕輪を色んな角度から眺めながら見ている。
「って! 腕輪つけてねぇっ!」
「にぃさん、怪しいモノにすぐ手を出しちゃダメだよぉ?」
「スズ選手! 腕輪の装着をお願いします!」
舞台袖から係員らしき人から声がかかった。
「はいはぁい」
カチャ。
スズが緩い返事をしながら腕輪をつけた。
「ん〜? 確かに動きにくくなった気がするぅ、まっそれはにぃさんも一緒か」
「それでは両者準備が整ったようですので、決勝戦! 開始です!」
ミク3乗!
《了》
司会のギャッツの声と同時に『夢現』を発動。
それと同じくしてお互いに距離を取った。
一瞬の間を置いて…
キィンッ!
飛び出しはほぼ同時。
一息にお互い距離を詰め共に『居合』を放った。
結果は引き分け。
しかしスズの動きは止まらなかった。
弾かれた方向に逆らわず反転して左逆袈裟で斬りかかって来た。
それを体を右に傾ける事で躱し水平に斬りつける。
それをスズがバク転して躱し距離を置いた、と思えば着地してすぐに接近して斬りかかって来た。
ガキィッ!
俺も迎え打つ事で鍔迫り合いになる。
キィッ!
一度突き放し距離を取る。
「うわっ⁉︎」
そう簡単に余裕は与えてくれないみたいだ。
スズが片手突きで間近に迫っていた。
致命傷必須っ⁉︎
俺は紙一重で回避した。
そして運良くスズの背後を取った。
いける!
そう確信した瞬間。
「なんっ⁉︎」
顔に何かが当たり視界が奪われた。
突然の出来事に思わず大きく後ろに後退する。
何だ今のっ⁉︎ 痛みは無かったが?
見ると先程までは無かったスズの頭の後ろに揺れている薄水色のモノがあった。
もしかして今の後ろ髪かっ⁉︎
腰まである髪を一つに三つ編みにした髪が露わになっていた。
「髪は女の命、ってね」
「使い方ちげぇだろうがっ!」
服の中に入れてたのは分かってたけど、なんつぅ使い方すんだよ!
「これは驚きましたっ! 息もつかせぬ攻防!
能力減退の腕輪をつけてなおこの動き!
私の目では辛うじて追うのが限界ですっ! まさに決勝戦に相応しい戦いぶりだぁーっ!!」
ギャッツの実況に合わせて観客も歓声を上げる。
観客はいいよなぁ気楽で、こっちはギリギリなんだよっ!
向こうはまだ余裕がありそうだしやっぱ3乗じゃ無理か。
このままズルズル行ったら負け確。
となれば持てる全力で挑むのみ!
俺は刀を鞘に納め居合の構えをとる。
ミク4乗!
《了解です》
俺の体を光が包み込んだ、刹那。
ィィィィィィンッ
「「「「っ⁉︎」」」」
会場中に耳をつんざくような音が響いた。
「い、今のは一体っ⁉︎」
「……斬撃の音、それも相当のスピード…この距離でワシも辛うじて見えただけじゃ」
「えっ⁉︎ いやだってあの二人は腕輪を⁉︎」
「減退してなおその動きを見せたというだけじゃよ」
「なんという…まさに別次元の戦い!」
嘘だろっ⁉︎ 俺は驚愕した。
俺は正直認識出来ていないスピードだった。
『リモート』でイメージをしただけだからだ。
流石に女の子を全力で斬りつけるわけにはいかないから当たる直前に緩めるイメージだったわけだが、解説のじいさんの言う事が本当なら4乗に対応してきたって事かよっ⁉︎
《はい、このスズという娘は背後に回り込んでからのマスターの居合を少し違う感じではありましたが、居合のような技もしくはスキルで受け流してました》
冗談キツいって!!
威嚇も込めて刀を構えるが内心は滝のように汗が流れている。
「わぁっ⁉︎ にぃさん! 待った待ったっ!」
「な、何だ?」
落ち着け俺! 動揺を隠せ!
「にぃさん隠すの上手すぎ無い? ちょっとコレは割に合わないよぉ?」
「譲るつもりは無いんだろ?」
「いや〜、これはこう…」
「ウオオオォォォーッ!!!」
スズが何かを言おうとした時に狼の遠吠えのような声が響いた。
「ほえ?」
「な、何だっ⁉︎」
闘技場の入り口から聞こえたぞ?
俺達は揃って舞台が続いている入り口の方を見た。
何か来る⁉︎
「グルルゥ〜」
「赤い…狼? てかデケェなっ⁉︎」
「おっきぃねぇ」
入口いっぱいサイズの獣が姿を現した。
大人2、3人程度なら余裕で丸呑みできそうだ。
突然の珍獣の登場に場内の観客も呆然。
「た、大変ですっ! 優勝者との異種族戦用の魔物の檻が破られました!」
「なっ⁉︎ そんなバカなっ⁉︎」
司会のギャッツの驚き様はどうやらイレギュラー発生のようだ。
観客席からも不穏な空気が漂い始めた。
それより妙な単語が混じってたな?
「なんか優勝者用とか聞こえた気がしたんが?」
「あれ? にぃさん知らなかったの?
決勝の後にもう一戦あったんだよ?
申込の項目に書いてたよ?」
申込………あったか? そんなの?
えっと………「剣、異種族」って書いてたような……、え? 異種族ってそういう事だったの⁉︎
全く別エントリーだと思ってた!
「グルゥ?」
何かキョロキョロしてるな?
まぁ、元々用意してあったって事だから見た目デカいけどそんな危険度は高く無いだろう。
「調教師はどうしたんだっ⁉︎」
「そ、それが…檻を破られた際に……」
「何という……」
あれっ⁉︎ 危険度高いっ⁉︎
そのセリフって調教師の方お亡くなりになってませんっ⁉︎
「ねぇ、それって危なくない⁉︎」
「だ、大丈夫だ! だってここは常に腕に覚えのある者が集まるトコだぞ⁉︎」
「そ、そうよ! それに客席は防壁が貼られてるんだもの!」
え? そうなの? 初耳ですけど?
観客席からの声を拾っていたらそんな発言があった。
イレギュラーなら俺も避難出来るかな?
赤い狼を見てみる。
こっちを見てるな、すんなり逃してくれそうに無いんだが。
「なぁ、アレって危ないのか?」
俺は隣にいるスズに聞いてみた。
「ワタシって傭兵だから魔物に詳しくないんだよねぇ……でも危なそうかなぁ」
………ちょっと待て!
この子にこんなセリフ出させるっておかしくないか!
なんてモンを用意してんだよっ⁉︎
用意した奴頭おかしいんじゃないか⁉︎
「グルゥ」
暫くキョロキョロしていた狼がこっちを見た。
正確には俺の横にいるスズを。
「ん? ワタシ?」
「グルァァッ!」
スズの返事に答えるように狼が襲いかかって来た。
速っ⁉︎
「わぁっ⁉︎」
ガキィッ!
スズが狼の引っ掻きを受け流す。
「グルゥ」
受け流されても懲りずにスズの方に襲いかかる……俺を無視して。
「なんでっ⁉︎」
「……美少女フェロモン?」
「にぃさん!」
ふざけたつもりは無いんだがスズに睨まれてしまった。
てか俺の3乗より速くね?
「おや? おかしいな? てっきり君の方を狙うと思ったんだけど?」
何処かで聞いた事のある声が聞こえた。
「…っ⁉︎ アンタはっ⁉︎ ……名も無き男?」
「ふふ、名乗っていなかったね。
でも覚えてもらう必要は無いかな。
コレの糧となる君達にはね」
「っ⁉︎」
コイツっ⁉︎
パチン。
「グル…」
名も無き男が指を鳴らすと狼が動きを止めて男の側に控えた。
「凄いだろう? 元はただの黒狼だからね」
「え〜、黒くないじゃん」
スズが俺の側にやって来て突っ込む。
「特別製なんだよ。そうだね、コイツの事は真紅とでも呼ぼうか」
見たまんまかよ。
「今のコイツは本能剥き出しで底無しの飢餓状態と言った所かな。
優先的により強い者を求めて捕食する傾向にはあるけどね」
美少女フェロモンじゃなかったのか。
てか底無しとかタチ悪りぃ!
「え〜、何でワタシなのさ」
スズがあまり悲壮感の無い声で呟く。
「それは君と同意見かな、僕も彼を狙うと思ったからね」
理由は簡単、スキルによるドーピングみたいなもんだからだ。
素の俺だと大した力は無い。
せいぜい兵士Aとかそんなもんだろう。
言わないけどね。
「まだ秘密がありそうだね、実に興味深い。
コイツが君を喰らった時が楽しみだよ。
じゃあ真紅、好きに暴れておいでボクは一足先に帰っているよ」
「ガァァッ!」
名も無き男が言うと飛び掛かって来た真紅を俺とスズは左右に分かれて回避した。
「ええ⁉︎ またワタシぃ⁉︎」
その言葉通り真紅は俺には目もくれず一直線にスズに突っ込んで行った。
「何でにぃさんじゃないのさぁ!」
そう零しながらスズは真紅の爪や噛みつきを受け流したり躱したりしている。
スズすまん。
『夢現』は最初だけで今は解除してるからだと思うよ。
心の中でそう謝っておいて名も無き男を探したがここにはもう姿は無かった。
コイツがやられるとは思って無いってわけか…。
「しつこいのは嫌われるよぉ」
言いながらスズが真紅の右前足の引っ掻きを右に受け流して胴体を斬りつけた。
キィ!
「ガウ?」
「あ、硬い」
真紅がスズが斬りつけた辺りをポリポリという擬音がピッタリな仕草で掻いている。
「ノーダメージ? マジ?」
「……にぃさん交代しない?」
「グルゥ」
真紅がゆっくりスズへと歩を進めて来る。
「ご指名みたいだけど?」
「うへぇ〜、やっぱりこっち来るのぉ」
スズには悪いけど口調がのんびりしてるから余裕そうなんだよなぁ。
「ガァウッ!」
真紅が吼えながら噛みつきをして来た。
スズが後ろに距離をとって躱すが、再度追撃をして来た。
今度は勢いを殺さずに体ごとの突進だ。
「わわっ⁉︎」
スズが横に飛んで躱した事で真紅が勢いよく観客がいる壁に激突した。
ドゴォ!
「きゃあっ⁉︎」
「うわっ⁉︎」
「壁がっ⁉︎」
「逃げろっ!」
さっきまで防壁があるから大丈夫だ。とか言って傍観していた観客が壁が破壊された事によって一気にパニックに陥った。
案外防壁とやらも脆かったな。
……というよりアイツが規格外だった可能性の方が高いか?
真紅は何事も無かったように壁から出て来てこちらを見ている。
「ねぇねぇにぃさん、ワタシが動きを止めるからぁ、キツいのお願いしていい?
ちょぉっと、ワタシじゃ火力不足なんだよねぇ」
「動き止めるって……さっきの全く効いて無さそうだったけど出来んの?」
「当てるだけが動きを止める方法じゃないよぉ。
でもぉ、止めれるのは1秒未満かなぁ。
にぃさんが出た時にこっちに注意を向けさせる感じになるかなぁ」
「俺に合わせてくれるって事でいいのか?」
「そ〜ゆ〜ことぉ」
コレって4乗をリクエストされてるよなぁ。
ミク後どれぐらい行ける?
《残り1.5秒ほどです。
一撃なら1秒もあれば十分でしょう》
そっか、なら被害が拡大する前にやってやりますか。
「んじゃ任せるよ?」
「お任せあれぇ」
そう緩く返事をするとスズが居合の構えをとった。
そして表情から緩さが消え瞳が氷のように冷たくなって行く。
ゾッ!
それと並行して背筋に冷たいモノが走った。
背筋が凍るってこう言う事を言うのかな、実際に体験する事になるとはね。
今は頼もしい限りだな。
準備万端みたいだしこっちもやる事やらなきゃな。
ミク4乗!
《ラジャ》
光が俺の体を包むと真紅がスズからこちらに顔ごと勢いよく振り向いた。
時間が惜しい!
俺は構わずそのまま真紅に突撃した。
「『剣気修羅』」
突撃前にスズの静かな声が聞こえた気がした。
「ガウッ⁉︎」
真紅が気を取られた声だったのか、断末魔の声だったのかは不明だが俺は真紅の顔の間近でその声を聞いた。
刀は既に鞘に納めている。
今は『夢現』も解除して重力に従って落下中だ。
そして地面に着地し上を見上げる。
真紅の首に一筋の線が入りゆっくりと胴と別れて首が落ちて来た。
ドオッ。
唐突の決着に逃げ惑っていた観客が言葉を失って静観している。
スズがパタパタとこちらに寄って来る。
その表情に先程の背筋が凍るような緊迫感は無く、さっきまでの緩い感じに戻っている。
「やっぱりにぃさんワタシの時は手加減してたね? 今のだったら受け流せてなかったよ?」
「いや、そっちは試合だから! 状況が違うでしょ!」
「ん〜? 怪我しても治療出来るから皆そんなのあんまり気にしてないよぉ。
やっぱりにぃさん変わってるねぇ」
「あっ! そう言えばコレどうなるんだ⁉︎」
「んん?」
「決勝だよ決勝! 乱入で順序変わった上に共闘で倒しちまったけど?」
「どうなるんだろうねぇ?」
その後大会は中止となり俺達は重要参考人として事情聴取をされた。
その時に聞いた話だが、大会は暫く休止になるそうだ。
まさかの徒労ですかっ⁉︎
だいぶ頑張ったと思うんですけどっ⁉︎
解放されたのは日が暮れてからだった。




