8Day 〜時折晴れ間が見えるでしょう〜
爺さんの解説のおかげで完全にあの子に向かう奴がいなくなってしまった。
見た目に反してだいぶ常識から逸脱されてる方みたいなのでその気持ちは分からんでもない。
そして周りは隣人と何事かを話し会っているように見える。
その光景を眺めていたらいくつかのグループみたいな塊に分かれていった。
え? 何? 何が起こった?
訳が分からずに傍観していると3人の男達に取り囲まれた。
「にいちゃん悪いな。
ちょっとあの嬢ちゃんはモノが違い過ぎるみたいだからな、ここは大人しく俺らにやられてくれよ」
いやいや! 悪意を予防する対策どこ行った⁉︎
完全に共闘してるじゃねぇか!
「これは珍しい展開になりました!
あまりな実力差を見せた彼女以外が次々と共闘しております!」
「当然じゃろうな。
今の光景を見て単独で挑むのはよっぽど自信があるか、力量差が分かっていない輩ぐらいじゃろう。
あるいは挑戦者か…どちらにしろここで多数で決着をつけなければ優勝は無いじゃろうからな」
「おっと! これは早くも彼女の勝利予告か! 果たしてこれを覆せる者は現れるのかぁ⁉︎」
「聞いた通りだ。共闘してる奴らはそんな感じだと思うぜ? 今回は運が悪かったな」
半分解説のせいでこうなってんじゃねぇのかっ⁉︎
迷惑過ぎるっ!
「今の状態ならさっきの技は使えねぇだろっ!」
「っ⁉︎」
ガキッ!
正面の男が上段から振り下ろして来た片手剣を防ぐ。
その左右から別の男達が両手剣を横薙ぎに斬りかかって来た。
うおいっ⁉︎ 当たったら死ぬだろうがっ⁉︎
ミク! 2乗! プラス『リモート』っ!
《了》
ミクが簡潔に応え身体能力が向上する。
そして同時に送ったイメージを『リモート』で再現。
正面の男の剣を弾き飛ばし、柄で鳩尾を突いた。
正面の男が呻き声を上げて沈黙したのを確認。
そして左右から迫る剣を背面飛びの要領で躱し空中で身体を捻って左から斬りつけて来た奴の背中を斬りつける。
着地と同時に右から迫った奴の腹部を斬る。
3人の男達がバラバラと倒れていく。
「っ⁉︎」
その光景に周りも息を呑んだ。
「これは驚いた! 東方の武器を持った若者が3人を秒殺!」
いや殺ってないし、ちゃんと峰打ちだから。
「にぃ〜さん」
「うおっ⁉︎」
心中で司会に突っ込みを入れていると唐突に背後から声を掛けられた。
またもやこの子に背後を取られてしまった。
コレ完全にやられてるよな?
「なんかワタシのせいで目の敵にされてごめんねぇ。飴食べる?」
そう言って懐から飴を取り出して来た。
「あ〜っと、気持ちだけ貰っとくよ」
「そう? 美味しいのに、はむ」
そう言って取り出した飴を頬張る。
「ふぃふぁんも、ふぁかふぁかふぁふふふぉがふぉふふぁふぇ?」
「食べるか喋るかどっちかにしてくれ。何言ってるか全然分からん」
「この前見た時と違うんだよねぇ? 今のにぃさんなら前のチンピラ程度なら問題無さそうに見えるよぉ? だいたい5倍ぐらい強く見えるかなぁ?」
「っ⁉︎」
そのセリフに絶句した。
いやいや! おかしいでしょっ⁉︎
何でピンポイントで力量測られてんのっ⁉︎
「ワタシも甘味がかかってるから負けてあげないけどねぇ」
どんだけ甘味食べるつもりだよ?
てか今アナタに襲われたら終っちゃうけどね。
「余裕だね。他の人らみたいにかかって来ないんだ?」
「ん〜、まぁにぃさんは仲裁に入ってこようとしてくれたからそのお礼、みたいな?」
「そりゃどうも。どうせなら勝ちを譲って欲しいところだけど」
「それはムリぃ〜」
「ですよね〜」
「今はにぃさんに手は出さないから頑張ってねぇ」
そう言い残して人のいない方へ歩き出した。
……そもそも戦う気ねぇ〜、また飴食べてるし。
不幸中の幸いか手は出さないと言ってくれたからここでは気にしなくていいのは助かるな。
さて残りは………随分減った気がするな?
15人を下回ったぐらいか?
名も無き男も残ってるな。
相変わらずあの子の所には誰も向かっていかないな。
代わりに俺のところには来るんだな。
男にモテても嬉しくない。
今度はお一人様が相手か。
中々渋いおじさまだ。
手には無骨な両手剣を携えている。
バスターソードってやつか?
「異国の剣の使い手、一つ手合わせ願おう」
「さっきまでの人達とは毛色が違うみたいだな」
「退屈はさせぬよ。いざ参る!」
どこの武士だよ⁉︎
両手剣とは思えぬスピードでこちらに飛び出して来た。
「ぬんっ!」
その勢いを殺さずに斜めから斬り下ろして来た。
馬鹿正直に受ける気にはならないな。
身体を横にズラす事で紙一重で躱す。
「甘い!」
地面に着く前に直角に軌道が変化した。
「ぐっ⁉︎」
ガキィッ!
俺は刀で受けながら力に抵抗せずに後ろに飛び距離を取った。
両手剣の軌道を急に変えるなんてどんな力してんだよ⁉︎
「よくぞ凌いだ、攻防の瞬間だけ動きが違うな? まだ余力があるという事か」
このおっさん鋭い⁉︎ 違う方向性に勘違いしてるが余裕なんてねぇよ!
『リモート』様々だよ! じゃなきゃ今ので終わってるよ!
内心冷や冷やもんだなこりゃ。
「にぃさんがんばれ〜」
少し離れたところからのんびりした声援が届く。
「先程の娘か…尋常では無い手練れ。
こちらの後に是非手合わせ願おう」
何しれっと勝ちを確信してやがんだ!
でもその予測は間違ってねぇよ、今のままじゃこっちに勝ち目は無い。
ミクこいつは2乗じゃ無理そうだ、3乗の短期決戦で行く!
《かしこまり》
光が俺の全身を包み込んでいく。
「っ⁉︎」
「およ?」
おっさんには悪いがリアクションを待っててやれる程余裕は無い!
キキィン!
バツ印に斬りつけた斬撃をおっさんが大剣を振り回さずに身体の位置を変えて捌いてきた。
くそっ! やっぱこのおっさん強ぇ!
そりゃ振り回すよりそっちの方が楽だろうけど、そんなすぐ対応出来んのかよ!
でもこっちも最初に発現させた時とは一味違う!
夢の中でリハ(アリシアさん救出)ったおかげで動きが認識出来てる!
追いつけなくなるまでやってやるよ!
即座におっさんの背後に周り横一閃!
しかしおっさんが回転しながら大剣を切り上げる事で相殺される。
こっのぉ!
その後も左右前後を問わず斬撃を叩き込むが悉く大剣に阻まれる。
キィキィィィンッ!
緯度にも及ぶ斬撃の応酬が闘技場内に響いた。
一瞬距離を置き俺は刀を鞘に納め『居合』を放ちおっさんはそれを真っ向から迎え打って来た。
キィンッ!
一際甲高い音が響いた。
どちらも得物は振り抜いている。
カランッ!
静まった場内に乾いた音が届いた。
「見事…某の負けだ。
同じ箇所を狙われたか…あの娘以外にもこんな猛者がいるとはな」
「おっさんも十分強かったよ」
「おっさん…か、年を取ったな、相手の力量を見誤るとはな。
一から鍛えなおすとしよう、また手合わせ願いたいものだな」
おっさんはそう言って舞台を降りて行った。
「決着! あまりの事に実況が追いつきませんでした! 正直私も最初の一合目以外全て見えたわけではありません! 凄まじい応酬が一瞬のうちに行われた事が分かるのみ!」
「まさかもう一人現れるとは…」
「ハロルド殿どうしましたか?」
「あの娘ほどでは無いがあの若者…先程間違いなく『剣気』と同質のモノを放っておった。
いやはや本当に世の中は広い」
「なんとっ⁉︎ 彼女と同じ技をっ⁉︎」
「意図して放った訳ではなさそうじゃがな。
何人か倒れとるじゃろ? 周りに撒き散らしたと言ったところか」
あれ? 何か前にも似たような事あったような? 俺何もしてないんだけど?
《騎士団長の時と同じですね。マスターを覆った魔力が周りに影響を与えたと推測されます》
……あ〜、旦那が驚いてたのってそれだったのか、意図してやったわけじゃないから実感ないなぁ………てか旦那の嘘つき!
何が余裕だろ?だよっ! 全然余裕じゃないじゃん!
「これは驚いた! 彼女の独壇場かと思われたが、思わぬダークホースの出現だぁーっ!」
観客席からも歓声が上がる。
つんつん。
背後から背中をつんつんと突かれる感触がした。
「にぃさんにぃさん」
そして聞き覚えのある声。
「ん? どうした?」
「ん〜?」
俺を突きながら首を傾げている。
相変わらずいつの間に近づいてるんだ?
「にぃさんまた急に強くなったね? 今のにぃさんは出会った時と同じ感じなのに」
そりゃ『夢現』の時間は限られてるからな。
発動しっぱなしには出来ないから降参宣言が出てすぐ解除したよ。
にしてもあんまり興味無さそうなのに意外としっかり見てるな?
………違うか、見たからこそ興味を無くしたモノには関心が無いと言った方が正しいか?
現に飛びかかる火の粉は払ってるしな。
あれ? コレってもしかして警戒されだした?
だったら勝算あり?
「もしかして前言撤回したりする感じ?」
「んん? だいじょぶだいじょぶ今は手は出さないよぉ。する必要も無さそうだし」
「ん?」
俺がその言葉の真意を図ろうとした時、司会のギャッツの実況が入った。
「そしてここで参加者が残り2名となった為、予選のバトルロワイヤルは終了となります!
本戦は一度休憩を挟んでからとなります!」
「え?」
周りを見ると立っている者は俺とこの子を除いて誰もいなかった。
「にぃさん達が暴れてるのに巻き込まれたみたいだよ」
倒れている者の中には名も無き男も含まれていた。
え〜? あんだけ何かありそうな絡みしといて予選落ち?
有難いけどなんか色々テンプレから逸脱してんなぁ。




