5.6Day 〜しつこい!〜
「…ほ、本当に悠生様、なのですか?」
「? ええ、間違いなく」
アリシアさんどうしたんだ?
「先程のオークは普通のオークではありません。
あれはジェネラルオークです。あの、その……」
へぇ将軍かぁ、大層な名前だなぁ。
普通のオークと違うから青かったのか。
それよりもアリシアさんが何かもの凄い言いづらそうにしてるような?
「アリシアさん? どうかしましたか?」
「も、申し訳ありません!」
いきなり謝られた。何故?
「本来ジェネラルオークは一騎士団が決死の覚悟で挑んで勝てるかどうかという存在と伺っています。
その……今まで見てきた悠生様では少し厳しいのではと…す、すみません!!」
へぇ、そんな強敵だったんだ。
そりゃあ旅人ごときに倒せるとは思えないよなぁ。
「それはまぁ、俺の日頃の行いのせいなので気にしないで下さい。
実際前回まではそんな感じでしたしね」
「本当にすみません!」
……王女様が牢屋から謝ってる姿を見ると罪悪感しか湧かないな。
悪女なら別に構わないが、女神のようなアリシアさんが陥っていい絵面では無い。
「俺への感想はともかくそこから出ましょうか」
「でもこの格子に触ってしまうと…」
キィンッ!
アリシアさんが言い終わらないうちに甲高い金属音が一度響いた。
カラカラカラン!カラン!
「え⁉︎」
切断された格子が地面に力無く転がっていった。
響いた音は一つ、しかし斬撃は二つ。
瞬時に斬れば感電する暇もないかと思ってやってみたけど上手くいったみたいだな。
刀を鞘に収めてアリシアさんをみる。
「アリシアさん?」
「……………」
返事がない。
突然の事にフリーズしているようだ。
「アリシアさーん」
もう一度呼んでみた。
「は、はい!」
反応が返ってきたが、アリシアさんがまだ動こうとしない。
というか俺が斬った格子を見ている。
「早くそんなとこから出ましょう?」
アリシアさんに声をかけて手を差し出した。
う〜ん、アリシアさんが出にくいほど狭く斬ったつもりは無いんだけどなぁ?
足元に少し格子が残ってるだけで高さは屈まなくても通れるぐらいで切断している。
「アリシアさん?」
「あ、は、はい」
今度こそ俺の手をとって素直に牢屋から出てきた。
「っ、失礼!」
「え? きゃ⁉︎」
アリシアさんから小さい悲鳴が上がる。
俺はアリシアさんを引き寄せ牢屋の反対側に後退した。
「あ、あ、あの、ゆ、悠生様⁉︎」
アリシアさんが急に吃っているが、今はそれどころじゃない。
べちゃちゃ!
俺とアリシアさんがいた場所に着弾するモノがあった。
「なんだありゃ?」
「え?」
俺の言葉にアリシアさんも同じ方向に視線を動かす。
いつの間にか切断された格子があった場所に赤い塊が発生しており、そしてそこから蠢く複数の赤い手があった。
さっきの音はその手が地面にぶつかった音だ。
「っ⁉︎」
複数ある別の2本の手がこちらに伸びて向かって来た。
それを右に跳ぶ事で逃れる。
何だよコレ⁉︎ しかも中々速いんだけど⁉︎
躱したと思ったが空ぶった2本の手が俺の方に曲がって追尾して来た。
そして反対側からも別の手が伸びてきてハサミ打つ形になった。
「おっと!」
「きゃあっ!」
上に飛び上がりそのまま壁を蹴って別方向に着地する。
何だ? 殴って来るわけじゃないのか?
どっちかというと掴もうとしてる感じだな。
そんな事を思っていると今度は一斉に手がこっちに伸びてきた。
手が到達する前にその場から素早く離脱。
目標を見失い手同士がぶつかり合う。
べちゃっ!
ただ掴もうとしてる手がぶつかった所でダメージは期待出来そうに無い。
しっかりこっちを狙って来てるがこの手はどこで居場所を判断してんだ?
また2本の手がこちらに向かって伸びて来た。
ワンパターンだな。
居場所は分かっても知能は無いのか。
横に跳んで簡単に躱したが、躱した所に別の2本の手が伸びて来ていた。
追加で跳躍して加速することで2本の手から逃れる。
「ひっ⁉︎」
しかし追加跳躍した方向からさらに別の手が2本伸びて来ていた。
おっと、そうでも無いのか?
上に飛んで躱すとお見通しと言わんばかりに追加で2本の手が迫って来ていた。
目だけじゃなくて頭脳にあたる部分もあんのかこの手は?
壁を蹴り迫ってくる手の方向に跳躍。
「きゃ⁉︎」
向かって来る手の1本を右回し蹴りで吹き飛ばし、回転を止めずにもう1本の手を左の後ろ回し蹴りで蹴り飛ばした。
べちゃ!
壁に叩きつけられた手が何ごともなかったようにゆらゆらと起き上がって来た。
手に起き上がるって変な言葉だな。
しかもこの感触……それにさっきからぶつかった時の音といい水系か?
水系で赤いってなんか血みたいだな。
打撃は効果が無さそうだな。
それにさっきから俺の動きについて来てるしちょっと厄介だな。
「アリシアさん大丈夫ですか?」
「は、はぃぃ〜」
あれ? アリシアさんがグロッキー?
そう言えば時折小さい悲鳴なようなものが聞こえた気が………とっ⁉︎
「きゃあ⁉︎」
俺は咄嗟に身体を反転させた。
アリシアさんが悲鳴を上げたがしょうがない。
地面すれすれに迫って浮上して来た手を躱して後ろ回し蹴りを放つ。
べちゃ!
今、アリシアさんの足を狙って来た?
そういえばさっきから俺の胸の辺りに全てが集中していたような…。
消えた格子といい、アリシアさんを狙っている事といい、拘束する事が目的か?
なら殴りかかったりせずに掴もうとしてるのも納得がいくか。
となるとこの手をなんとかしないとどこまでもアリシアさんを追いかけて来るってことか。
斬撃なら効果があるだろうか?
「あ、あああの、ゆ、ゆ、悠生様!」
考え事をしていたらアリシアさんに声をかけられた。
顔を俺の方に向けているので表情は分からないが耳が物凄く赤い⁉︎
躱したはずだったが何かされたのか⁉︎
「アリシアさんどうしましたっ⁉︎」
俺は腕の中にいるアリシアさんに声をかけた。
その隙を逃すまいと手が一斉にこちらに向かって伸びて来た。
全方位に追尾出来るように円状に伸びて来やがった⁉︎ 手の数は8本!
アリシアさんを左手一本で支える。
片手だとバランスが悪いので先程よりも密着させてアリシアさんを俺の胸辺りに押し当てて固定するような形になった。
「ーーーーーっ‼︎‼︎︎⁉︎」
ん? 今何か声にならない悲鳴のようなものが聞こえた気がするが?
いや、それより空いた右手で抜刀!
最初に右切上で2本、続けて切落で4本の手を迎撃。
唯一逃げ場のある後ろへ僅かにバックステップ、間を置き逆袈裟からの左薙でさらに4本の手を迎撃。
ボボンッ!
ほぼノータイムで8本全て迎撃し、斬り落とした手が爆散した。
おっ? 斬撃有効?
と思って斬られた手達を見ていると……。
斬られた部分がまた手の形になってしまった。
もしかして効果無しか?
……でも先っぽは爆散したしな、斬り続けたら無くなんのかコレ?
今度はこっちから攻めてみるか…。
と、その前にっと。
俺はアリシアさんをゆっくり降ろした。
「アリシアさん少しここで待ってて下さいね」
アリシアさんは座って俯いたままコクコクと頷いた。
さっきの症状は気になる所だが、苦しそうな感じはしないから大丈夫だろう。
まぁ、動けなかったとしてもアリシアさんに触れさせるつもりは無いが。
さて、物の怪退治と行きますかっ!
瞬時に手近な手から手へと移動し、手首を斬り落とす。
再生した8本の手を斬り落とし爆散させる。
ボボボボンッ!
「あっ⁉︎」
背後から声が聞こえて即座に後方へ移動、アリシアさんに追加で迫っていた別の2本の手を斬り落とす。
ボボンッ!
こっちは完全に無視かよ、なら!
アリシアさんに手が迫っていかないように手を斬り落としながら手の根元へ接近。
塊を十字に斬る!
ボォンッ!!
アリシアさんの近くまで後退し塊が爆散するのを見届ける。
どうだ⁉︎
爆散しなかった一部の箇所でもぞもぞと動いている物体を発見した。
どぽぽっ。
泥水の中から出て来るような音をさせて新たに複数の手が出現した。
効果無しっ⁉︎
なら効いてるみたいなエフェクト出すなよ!
参ったな……、やられる事はないだろうがキリが無いな。
今の俺には打撃、斬撃以外に手が無い。
「せっかくのチート級の力も効かなければ意味が無い、か」
「………」
アリシアさんから不安そうな視線を感じる。
助けに来といて無理でしたなんてのは避けたいが、やっぱこういう世界だと剣と魔法の両立は必要なのかよ。
でも魔法って正直ビャッコが使ってるの以外でそれっぽいの見た事無いんだよなぁ。
あれは凄まじい光景だった。
蟻達が黒焦げになってたしな……黒焦げ?
なんか忘れてるような?
ドゴォ。
「うわっ⁉︎」
「きゃあ⁉︎」
考え事をしていたら手が襲って来た。
地面に穴を穿つあたり中々の威力だ…てか今コイツ俺を狙ってきやがった⁉︎
しかもグーだったぞっ⁉︎ 流石にキレたって事か?
そうなるとアリシアさんの近くはマズイな。
ドゴゴゴゴォ!
思うや否や複数の手が先程まで俺がいた地点に降り注いで来た。
おおぅっ⁉︎
さっきまでは手加減してたってことか!
ドン! ゴォッ! ザンッ! ボン!
手が地面や壁に穴を穿つ音に混じって斬撃音と手が爆散する音が部屋の中に響き渡った。
さっきまでとスピードが違う!
避けながらだと攻勢に出にくい!
それにっ⁉︎
ザンッ! ボンッ!
隙を見てアリシアさんを捕まえようとしやがる! なんて面倒なっ!
「悠生、様」
「大丈夫ですよ。アリシアさんには触れさせませんから」
触れさせないのは大丈夫なのだが、いかんせん決め手が無い。
それは向こうも同じだろう、が!
ボンッ!
直線で殴りかかって来た手を躱しざまに斬りつけ爆散させ、根元に接近。
途中左右から殴りかかって来る手を跳んで躱す。
ドドォ! ……パリッ。
空ぶった手が壁に穴を穿つ。
ん? 今なんか違う音が聞こえた気がする?
確かあっちから……とっ!
一瞬しか見れなかったが、斬られて上下に僅かに残った牢屋の格子と手が破壊した壁やら石の破片しか無かった。
気のせい…では無いと思うが何だ?
一旦躱すのに専念して音の発生源を探る。
ドゴォ! ドドドォッ!
遠慮なくやってくれるな全く!
……パリッ。
っ⁉︎ あれはっ⁉︎
脳裏に閃きが走る、が………やれるのか?
いや構うか! ダメならそん時はそん時だ!
うおっ⁉︎ でけぇ⁉︎
俺が考え込んで動きが止まっていた所に手達が集まって巨大な拳になって襲って来た。
ドガァッ‼︎
巨大な拳が真っ二つに割れながら地面を抉った。
避けれなかったけど、元がさっきまで斬ってた手だからな大きさ変わっても強度は変わんねぇだろ。
斬る事自体は容易い!
そして一つにまとまった今がチャンス!
巨大な拳の手首を切断し、拳側が爆散する。
すぐさま手首から元の手達に再生してこちらを追尾してくる。
俺は根元に到達する直前で向きを変えて牢屋に接近した。
そして残っている格子に刀の先端を触れさせる。
パリッ! バリリッ!
刀が格子に触れた瞬間、電撃が刀に流れてくる。
だが今のステータスなら!
俺の手に触れる直前まで電撃を帯電させ手の根元に即座に移動!
電撃を帯びた刀を手の根元に突き刺しその場を離脱!
バリバリバリィィッ!
うおっ⁉︎
電撃は即座に手の根元に浸透していった。
水っぽいだけあるな、電気の通り方が半端ねぇ。
最初に格子に触れた時よく無事だったな俺。
ボォォォンッ!!
そして爆散。
ガシャン! パリ…パリッ…。
手の根元に突き刺した刀が力無く地面に落ち最後に僅かに残った電撃が音を発した。
完全に思いつきだったけど塵も残さず上手くいったんじゃないか?
周囲を注意深く見るが復活する気配は無い。
チート級の力を得てすぐにそれが通じない奴が出て来るなんてどうしようかと思ったが、なんとかなって良かった。
刀の元へ行き一瞬だけ触れてみる。
うん、もう大丈夫そうだ。
チィン。
電撃が残っていないのを確認して刀を鞘に納める。
ふむ、これにて一件落着!
《とはいきませんけどね》
そうだよなぁ、まだ準備段階だもんなぁ。
でも俺的にはアリシアさんを救えた事は大きい!
ここに来て最大の偉業と言える!
という事でさっさとアリシアさんを連れてこの辛気臭い牢屋から退散しよう。
うん、それがいい。




