4Day 〜井戸の中に入ってみました〜
周りは静寂に包まれ、眼前には深淵。
そこからさらに奥へと意識を集中し深淵の渦中へと堕ちていく、一つの光を灯して。
《開幕から何を言ってるんですか?》
ミクこそ、開幕って何よ?
只今、夜に孤児院の井戸を降下中。
思ったより大分深いんだよ。
降りるのはまだいいけど、これ帰り登るの大変だぞ?
もう二十メートルは降りてるぞ? ロープ一本でこの深さ登るのって考えただけでも憂鬱だわ。
むしろよくこんな深さまで掘ったな?
そこから更に倍以上の距離を降りてようやく足が地についた。
……真っ暗だな。
そう思いながら腰に付けてあったランプを手に取って周囲を照らす。
ありましたよ、大人1人通れそうなぐらいの横穴が。
灯りを向けて見るが終点は見えない。
ホント誰が作ったのこんなの?
そう思いつつも手持ちの灯りを頼りに横穴を進んで行く。
暫く進むと壁に阻まれた。
あれ? 行き止まり……………じゃないな。
道が横に続いてるのか。
いきなり詰んだかと思ったがそう言う事は無いらしい。
その後も道は右に左にと曲がっていた。
なんでわざわざ曲がってんだよ?
真っ直ぐ作ればいいだろうが!
そんな毒を胸中で吐いていると変化が現れた。
何だ? 奥の方が……灯り? こんな地下で?
持っていたランプの灯りを消してみると、奥の方から薄らと光が見える。
誰かいるのか? だとすると慎重に行かざるを得ないが…… 動いてる感じじゃないな? 設置型の光源か?
なるべく足音を消しながらゆっくりと光の方へ進んで行く。
これはまた………元の世界ではお目にかかれない光景だな。
一言で言うと洞窟……ではあるんだが、広さが違う。
穴から出た途端に視界が開けた。
そしてそこら中に薄く光るモノが立っていた。
その一つに近づいて見ると……コレ、木…だよな?
天井に突き刺さってるって事はここから地上まで伸びてんのか? なんつう木だよ⁉︎ ホントにコレ木か⁉︎
光ってるって事は実は木じゃないとかか? なんだよココ?
横穴は誰かが掘ったんだろうけど、流石にココは掘るってレベルの広さじゃないぞ?
疑問が溢れて来たがここで解答を持っている者はいない。
いたらいたでビックリだが、その時はバトルに発展してしまうかもしれないしね。
《バトルになるならまだマシだと思いますが、ここは迷いの森の下に位置します》
すぐ側にいました。ホント頼もしいパートナーです。
よく分かったね? マップ機能様々ってやつ?
《はい、未踏波とは言え森の方は踏み入れてますから》
って事はこの光って天井から根を張ってるやつってやっぱ木なんだ。枝が無く天井に刺さってるから木に似た何かかと一瞬思ったが。
危険が無いなら深く考えてもしょうがないか。
辺りを一周見回して見る。
……結構な光が点々としてるけど、コレ全部かよ?
どう進めばいいんだ? 森と違って道になってる訳じゃないから行き先が分からんし目印になるようなモノも無い。
変に進んだら元に戻れない、か。
《マスター、マスター》
ミクどうしたの?
《私がいますので適当に進んでも迷う事は無いですよ》
あ。
《忘れてましたね? 私と言う者がありながら》
言い方! 勝手に浮気者扱いしないで!
今更だけど、今まで1人でウロウロする事無かったじゃん。
いつもついて行ってるだけだったからさ、こうやって色々見ながらだとつい、ね。
《ヒモまっしぐらですね》
………事実は時として残酷なモノです。
せめて変なのにエンカウントしない事を願おう。
《では『護身用具』発動しますね》
……よろしく。
《……マスターまた忘れてましたね?》
しょうがないじゃん! 魔法に慣れてないし俺の魔法のイメージと違うんだよ!
それに自分で使ってる気がしないから余計に忘れやすいんだよ!
《責めてる訳じゃないんですからそんな荒ぶらないで下さいよ》
あ〜、ごめん。
ここのところ落とされ続けてる気がしてつい。
まぁでもこれで安全に探索出来るな。
《過剰な期待は禁物ですよ。あくまでエンカウント率を下げるだけですので》
不安な事言わないで。
「すげ」
僅かな灯りを頼りに適当に歩を進めていたのだが、思わず声が出てしまった。
表示されるマップの広さが尋常じゃなかったのだ。
更新されるマップの1フロアがデカイ。
マップ上は縮小されてたみたいだから最初分からなかったが直線で1時間ほど進んでやっと次の区画が表示されたのだ。
これ1フロアで街一つ分以上あるぞ。
地上も地下も迷ったら一生出れないじゃん。
元の世界では迷子になってもどうにか帰れるけど異世界ハンパねぇ。
マップがなきゃ死んでるわ。
とは言ってもどこに行けばいいのかが分からないから迷っている事には変わりないのだが、どうしたものか?
とりあえず真っ直ぐ進んではいるが果てが見えないんだよねぇ。
ねぇミク、コレちょっと無謀だったんじゃないかなぁ。
ちょっと休憩がてらその場に座り込む。
《今更ですね。観念して探索を続けましょう。あの時直ぐに来てれば目的地に連れて行って貰えたかもしれないのに》
結果論でしょ。
もしかしたら危ない目に合ってたかもしれないじゃん。
《たらればを言ったらキリが無いですね》
そうだよなぁ。
《マスター、こちらに接近して来るモノの反応があります》
なぬっ⁉︎ 敵かっ⁉︎ それを聞いて即座に立ち上がる。
《味方とは言い難いですね、この接近スピードは人だと思われますが》
人? こんなとこに? 怪しさしか無いんですけど?
《区画が広い事が幸いしましたね。今なら隠れる事が出来ますよ》
そりゃもちろん身を隠すよ。で、どっちから来るの?
《マスターが進んでいた方角ですね》
来た道じゃないんだ……まぁ考えても分からんし、とりあえずやり過ごそう。
隠れる所はいっぱいあるしな。
と言う事でココを通過するであろう人物が見える場所に身を潜める事暫し。
ミクが教えてくれた方角から灯りが見えた。
灯りが写すシルエットは一つ、人型には見える。
その事に若干の安心を覚える。
魔物だと話も通じないしね。
まだ魔族の可能性も捨て切れないから姿を晒す気は無いが。
灯りが徐々に近づいて来てついに視認出来る距離に到達した。
二足歩行だし、人って事でいい…のかな?
フードを被ってて男か女なのかすら分からない。
とは言えこんな誰も来ないような場所で姿を隠す必要あるのか?
《やましい事、もしくは身を隠す必要がある、といった所でしょうか》
単純に考えればそうなるよな。
これは気軽にコンタクトを取るわけにはいかないな。
そんな事を思っていると、フードの人物が足を止めてしゃがみ込んだ。
何だ? どうしたんだ? もしかしてこっちに気づいたのか?
《護身用具を発動してる状況で、この暗さと距離で気付かれるとは思えませんが》
ミクを信じるよ?
《気付かれたら敵意が無いか、手に負えない相手だと言う事ですね》
後者だとダメじゃん! 詰んでしまいますよ⁉︎
途端に緊張がMAXになり固唾を飲んでフードの人物の動向に注視する。
気分は無差別殺人鬼がいる屋敷で身を隠す子羊のようだ。
フードの人物は暫くしゃがみ込んでいたが、こちらに向かって来る様子もなく俺が来た方角へと歩いて行った。
姿が遠ざかって行くのを身動きせず見送る。
やがて姿が見えなくなり灯りが徐々に遠ざかって行く。
「………ふぅ〜」
思わず長い溜め息を吐いた。
心臓に悪りぃ……でも進展はあったかな?
進んでた方角にはなんかありそうだな。
《マスター、私としては先程の人物がしゃがみ込んでいた場所が気になるのですが》
それもそうだな。
何で都合良く俺がいたとこでそんな事してたのかは気になるところだ。
という事でフードの人物が何かを見ていた地点辺りに来てみたのだが……ん〜、何も無いけどなぁ。
暗いからハッキリとは見えないけど。
《灯りをつけてみては?》
そうしますか。
言われて灯りを点けてみたが特に何かあるようには見えない。
周りの木と同じうっすらと地面が光っているけど………あれ?
そこら辺の木が何で光ってんのかは不明だが、そこは異世界の不思議で納得しよう、でも何で地面まで光ってんの?
しかも俺が来た方向とさっきの人物がやって来た方角に向かって光ってる。
コレって…もしかして目印か⁉︎
よく見るとさっきの人物がしゃがんでいた辺りの光が若干途切れてる。
もしかしてさっき座り込んだとこか?
危ねぇ! また自爆するとこだった!
《マスター、夢でも現実でも一緒ですね》
毎回自爆するのがデフォルトみたいな言い方やめてよ。
こんなの分かるわけ無いでしょ。
でもこれは思わぬ幸運が舞い降りて来たな。
これならなんとかなりそうだ。
光る地面を目印にフードの人物が来た方角へと進んでいった。
さらに1時間ほど進むんだところで光が突然途切れていた。
え? マジ? ここで終了?
行き止まりでもなんでもないんですけど?
周りを見てみてもまだまだ探索出来る範囲は広そうだ。
《マスター、マスター》
ん? 何やらミクが自慢げに呼びかけて来ている気がする? どうした?
《マップをご覧下さい》
マップ?
言われるまま見てみるが、ミクが何を言いたいのか分からなかった。
……広いな。
そんな感想しか出て来なかったのだが。
ミク、マップを見たけど何かあるの?
《ココ、空洞になってます》
マップ上に光点が現れた。そこは道では無く黒く塗り潰された場所だった。
おお、マップってそういう事も出来るんだ。
直接書く紙じゃないから出来る芸当だな。
空洞って言ったな? この面積だと通れる道があるって事?
《可能性はあります》
目印が無くなっているこの現状を考えるとそこが当たりの感じだな。
さてどこに繋がってるのやら。




