3Day 〜重大な事に気付きました〜
バンッ!
勢いよく宿の扉を開けて部屋の中に飛び込んだ。
部屋に入るなり声を掛けて来る人物がいた。
「アンタ今までどこ行ってたんだい?」
「えっ⁉︎ 女将さん⁉︎ 何でここに⁉︎」
肝心のアリシアさんはベッドで横になっていた。
「自分で言った事忘れたのかい? 今日戻って来たら返すって言ってたじゃないか」
「あ」
すみません! 完全に忘れてました。
「なのに一向に来る気配が無いから宿に様子を見に来たんだよ。
そしたらまだ帰って無いって言うじゃないか、なのにアンタらの部屋からは人の気配がある。
変だと思って中を確認したんだよ。
そしたらこの子が部屋で倒れてるから驚いたよ。
寝てるだけみたいだけど、床で倒れるなんてよっぽど疲れてたのかね?
そこまで無理させるのはあんまり感心しないねぇ?」
盗賊ってすげ〜な? それとも女将さんが凄いのか?
意識無いアリシアさんがいる事まで分かんのか?
いやそれより寝てるだけ? 本当に?
俺よりも知識がある女将さんが言うなら大丈夫なのか?
「ご心配おかけしたみたいですみませんでした!
……その、アリシアさんは本当に寝てるだけ何ですか?
疲れてたのは間違い無いんですけど、そう言う状況でも無かったので…」
「………どう言う事だい?」
「俺は詳しく無いんですけど、森で魔族の鬼人族というのに出会いました。
それでアリシアさんが何かされて倒れてしまったんです」
「魔族が出たのかい⁉︎ よく生きてたもんだね⁉︎」
元冒険者の方から見ても魔族ってそんな存在だなんて大丈夫なのか?
「…見た感じだと寝てるだけみたいだけど、そうなるとちゃんと診てもらった方がいい、か……」
女将さんが何かを考えている。
「知り合いに医者がいるから今から連れてくるよ。
寝起きの悪いヤツだから時間は掛かるけど、腕は確かなヤツだからちょいと待ってな」
「ありがとうございます!」
そう言って女将さんは部屋を出て行った。
女将さんには頭が上がらないな。
そんな事を思っているとビャッコが頭から飛び降りてアリシアさんの元へ寄って行った。
しばらくアリシアさんの顔を見ていたかと思うと、顔の横で小さい身体をさらに小さく丸めて瞳を閉じた。
安心した……って事でいいのか?
こういう時、知識が無いってのはつらいな。
《マスターは出来る最善を尽くしましたよ》
ミクはそう言ってくれたけど気分が晴れる事は無かった。
女将さんが戻って来たのはそれから二時間ほど後の事だった。
事前に言ってた通り寝起きが悪いというのは本当のようだ。
寝起き全開の寝癖に白衣を着崩した姿の中年男性が女将さんに引きづられている。
「こんな時間に勘弁してくれよぉ〜、カレンさんの見立てでは寝てるだけなんだろぉ?」
「念の為だよ、アタシは専門じゃないからね」
……セリフだけだと怠け者なヤブ医者にしか聞こえないんだが………大丈夫だろうか?
「待たせたね、コイツはギド、見た目は全く信用ならないが腕だけは信用してくれていいよ」
女将さんが俺の内心を察して声を掛けてくれた。
「カレンさん、腕だけって酷くないかい?」
「その寝起きの悪さをなんとかすれば考えなおしてやるよ」
そんな事を言ってはいるがこんな深夜に来てくれただけでも感謝するべきだな。
「すみません、こんな時間に来て頂いて」
「ん〜? 寝てないし健康そのものじゃないか?」
「そっちじゃないよ、見てほしいのはこっちの子だよ」
医者が俺を見てそんな事を言ってきたが、女将さんが即座に修正した。
大丈夫…だよね?
「ああ、そうなの?」
「まだ寝ぼけてんなら覚まさせてやろうか?」
「大丈夫です! もう起きました!」
何だ? 急に元気になったな?
来るまで何かあったのか? 知らない方がいい事が世の中にはあるからな、これはそういう類な匂いがする。
「じゃあ、診させてもらうよ」
「お願いします」
そう言ってアリシアさんを診察する。
ビャッコが目を開けて医者を見たが吼えるような事は無く、少し見ただけでまた目を閉じた。
それから少しして。
「心配しなくていいよ。
カレンさんの言ってる通り寝てるだけだね。
ただ、魔法を受けた痕跡があるね」
「魔法?」
「催眠の類かな。多分起きるまで一週間ぐらいは掛かるんじゃないかなぁ」
「でも命に別状は無いんですね?」
「それは保証するよ」
「良かったぁ〜」
無事に目が覚めるならこれ以上は望むまい。
やっと本当に安心出来た気がする。
もしこの話を聞かずにアリシアさんが目覚めなかったら大騒ぎしていたに違いない。
「じゃあ僕はこれで失礼するよ」
「あ、はい! ありがとうございました!」
そう言ってまだ寝癖のついた医者は部屋を後にした。
「大事に至らなくて何よりだね、アタシも帰るよ。
商人には帰りの件はアタシから言っといてやるからアンタもゆっくり休みな。
魔族の件も調べる必要がありそうだしね」
「ありがとうございました!」
女将さんマジ感謝!
女将さんが帰った後、改めてアリシアさんを見る。
ビャッコは相変わらずアリシアさんの顔の横で丸くなって目を閉じている。
俺も休もうと思いビャッコに声を掛ける。
「ビャッコ、アリシアさんに何かあったら教えてくれよ?」
ビャッコは一瞬目を開けたがすぐに目を閉じてしまった。
う〜ん、今までの意思疎通レベルなら分かってくれてると思うんだけどなぁ。
アリシアさんにかけられた毛布は規則正しく上下していて顔色も悪く無い。
医者からオッケーをもらってるから大丈夫だとは思うんだが、心配なのは変わりない。
アリシアさんの状態をマジマジと見ていると片方の耳に光る物が見えた。
普段は髪の毛で隠れて見えていなかったのか、今まで一緒にいて全く気付かなかった。
アリシアさんって装飾品つけてたんだ。
金色の素材を施されてレッド・ブルー・イエローを組み合わせたステンドグラス風のカラフルなデザインの……ピアス…じゃないな?
こういう耳に引っ掛けてるヤツ何て言うんだろ?
《イヤーカフですね。耳に引っ掛けたり覆ったりしてつけるアクセサリーです》
へぇ〜、ミク良く知ってるね?
見た事はあるけど名前は知らなかったなぁ。
アリシアさんも年頃の女の子らしい所あるんだなぁ。
王様があんだけ付けてれば一つぐらい娘にあげててもおかしくないか。
いやあんだけあって娘に一つって、ケチ過ぎるだろ?
素材が良すぎて装飾品が意味を無してないからか?
う〜む、それなら納得出来るな。
宝石なんてアリシアさんの前では霞んで見えるしな。
それが分かってるなんて意外と王様も理解してるって事か?
腐っても父親ってことか。
でも何で片耳だけ? そういうモンなのか?
《そういうモノもあります》
こっちではそうなの?
《『こっち』というよりマスターの知識です》
……ミク、今なんて言った? 俺の知識?
《言ってませんでしたね。
アクティベートの時にマスターの知識を共有しました。
そのお陰でマスターの奇行にも付き合えています》
奇行って言うなよ! 健全な男の子の反応だよ⁉︎
《そんな事より今後はどうしますか?》
そんな事って…まぁいいや、今後どうするかは重要だからな。
と言っても出来る事あるか?
《選択肢は三つでしょうか?》
意外とあるな?
《一つ、調査を続行》
無理ゲー。女将さんに一任。
《二つ、レベルを上げる》
無理では無いな。
《三つ、お金を貯める》
しなきゃね。
となるとお金を貯めつつレベルを上げる、か。
……っ⁉︎ そうだよ! 資金集めは絶対だよ!
アリシアさん暫く起きねぇよ! 宿代ねぇよ!
《ヒモまっしぐらですね》
餌に向かう猫みたいな言い方するなよ!
ダメだ明日女将さんに相談しに行こう。
そうと決まれば早く休もう。
………マジで頼ってばっかだな。
《やっぱりヒモまっs》
ミクそれはもういいよ。




