3Day 〜只今迷いの森探索中なり〜
「ヴァァァウッ!!」
アリシアさんの横を従順に歩いていたビャッコが突然吠えた。
「ビャッコ? どうした?」
俺は何もやってないぞ?
「悠生様何か来ます」
「っ⁉︎」
ビャッコが睨んでいる方向を見るがそっちは道なき獣道。とんでもなく嫌な予感がする。
予感が音となって俺の聴覚を刺激した。
あ〜、なんか凄い嫌な音が聞こえる。
草木をかき分けるガサガサという音に混じってキチキチという音がお届けされていた。
ガサッ! という一際大きい音を響かせて現れたのは………何だコレ?
分類で言えば昆虫かな? 足6本あるし。
「アーミーアントです、強敵ではありませんが気を付けて下さい」
このサイズで蟻なの? デカ過ぎて分からんかった、まさか人よりデカいサイズの蟻と出会うなんて…俺の3倍はデカいか? 強敵では無いって言ってるけど蟻って噛まれたらマズイやつだよな?
「キシャーーッ!」
突っ込んできた! アリシアさんがいるのに何て行動しやがんだ!
アリシアさんを害するモノは万死に値する!
「ヴァウ!」
そう思った後にビャッコが吠えた。
おお! 同志よ分かるか! ならば滅殺あるのみ!
《何で通じ合ってるんですか?》
ミク、気分だから突っ込まなくていいんだよ?
こちらも刀を抜いて突っ込む。
幸い動きは速くない! でもデカいのは脅威だ!
という事で眼前で直角に方向転換しアーミーアントの右前足を斬りつける。
「キシャーッ⁉︎」
サイズはデカくなってもこの細さなら難なく斬れたところを見るに確かに強敵では無さそうだ。
決してビビった訳では無い。ホントダヨ?
《カタコトですよ?》
しょうがないでしょ! こんな大型昆虫生物元の世界では出会わないよ! 何万年前の話だよ!
そんなやりとりもありつつ続けて2本目、3本目と足を斬り落とした。
右側の足が全て無くなった事で身動きが取れなくなったのを確認して、背後から背に駆け上がり脳天を突き刺すと痙攣してすぐに動かなくなった。
「悠生様!後ろを!」
「っ⁉︎」
振り返る事もせず即座に前方に跳躍してアーミーアントの背から飛び降りた。
ブチブチという嫌な音が先ほどまでいた場所から聞こえて来た。
振り返ると別のアーミーアントが仲間に噛み付いていた。
危ねぇ! アリシアさんグッジョブ!
アリシアさんに向かってサムズアップを返す。が、アリシアさんは真剣なご様子で周囲を警戒中の為こちらを見ていなかった。
ちょっと凹みつつ仕切り直す。
くたばってるとはいえ仲間ごとかよ!
魔物の世界は非情だな。
テメェらの血は何色だ! って突っ込みてぇよ。
《黒い色をしてますね》
…冷静な御回答ありがとうミク。
そんなやりとりをしていると次から次へと別のアーミーアントが現れた。
名前から察してたが、やっぱそういう類のやつか!
通りでアッサリ倒せたわけだ。
軍隊、その名の通り集団か。一匹で行動する蟻の方が珍しいかもしれんがそのサイズなら一匹で十分だろうが! 何匹いんだよコレ。
ちょっと無理ゲーなんだけど?
「ビャッコ!」
「ヴァァァウ!」
アリシアさんの呼び声に応えるようにビャッコが吠えてアーミーアント達に向かって行った。
「おい⁉︎ ビャッコ! 危ねぇ! ぞ?」
言葉の最後は疑問系になった。
何故ならビャッコが光り輝き出したからだ。
光は一気に誇張し、瞬く間に俺の倍以上の大きさになった。
ビャッコがデカくなった⁉︎
「ヴァウ!」
ビャッコが吠えながら前足を振り抜くと紙屑のようにアーミーアント達が引き裂かれた。
それを二度と三度繰り返すとアーミーアント達が散り散りに逃げ始めた。
「ヴァァァウッ!」
ビャッコが一際大きく吠えると逃げ出したアーミーアント達にビャッコから放たれた雷が追撃するようにアーミーアント達に降り注いだ。
雷が止み、一瞬のうちにアーミーアント達は焼け焦げていた。
周囲に危険がなくなった事を確認して俺は恐る恐るビャッコに声をかけた。
「あの、ビャッコ……さん? そのお姿は?」
よく見るとビャッコは薄く光ってて輪郭がゆらゆらと揺れていた。
……実態じゃないのか?
「ヴァウ!」
今度の吠え方はなんか自慢気だな?
「ビャッコ、お疲れ様」
「ヴァウ!」
アリシアさんの言葉にビャッコが反応して駆け出しアリシアさんに飛びかかった。
うぉい⁉︎ その体型でアリシアさん飛びかかったら大変な事に⁉︎
とか思ったら直前に光が弾けて元のサイズに戻ってアリシアさんの胸の中に収まった。
………なんじゃそりゃ。
凄いしお手柄なのもわかるが……羨ましいぞ!
《マスターもお疲れ様です》
ミクがそう言ってくれるのは嬉しいんだけど、物凄い敗北感があるのは何故だろう?
追加で出て来ない事を確認した後、都合良くアーミーアントとの戦闘跡が出来たので、もう一度左の道を進む事になった。
道中アリシアさんの肩に乗るビャッコを羨ましいと思いつつも森を進んだのは内緒だ。
そして歩く事1時間ほど……。
ちょっと待て。
目の前には2本の分かれ道と山積みの石。
景色はずっと変わらず、分かれ道も同じ。
ここまではまだいいとしよう。
俺にはマップがあるからループしてる訳じゃないのは分かっているからね。
だが何故アーミーアントとの戦闘跡がここにある⁉︎
「やはり一周していたみたいですね」
「そう言う事になりますか……」
それ以外考えられませんもんね。
う〜ん、これはマップがあっても説明不能。
ミク先生! ヘルプ!
《申し訳ありません。これに関しては不明です》
ミクでも分からないとなると俺に分かるわけがないな。
「これは一度出直した方が良さそうですね」
「そうですね…」
アリシアさん的にはループしているのだから戻る時は右の道を進む事になるのたが………まぁそうなりますよね。
引き返した結果、目の前には2本の分かれ道と山積みの石。
そしてアーミーアントとの戦闘跡。
「っ⁉︎」
これには普段冷静なアリシアさんも驚きで声が出ないようだ。
引き返したつもりで元の道に入ったはずなのにまさかのループ、常人なら完全に遭難待った無しだ。
「一周していたのでは無い? でもこの痕跡は……」
アリシアさんが懸命に推測している。
マップがあれば何でも無いのだが事実を知らない人からすると意味不明だろう。
と言ってもマップがある俺にも意味不明な状況なのだが。
ここは俺の数少ない知恵を総動員してこの場を乗り切る最大級の解を導き出すしかないようだ。
そう、古から伝わる伝説の技を見せる時が来たのだ!
《……敢えて今は聞きませんが、私にはとても不本意な気がします》
……さて本編初披露と行きますか。
《今無視しましたね?》
なんの事?
「アリシアさん一度引き返しましょう」
「悠聖様お分かりになるのですか⁉︎」
「分かっている訳では無いですが、戻る方法はあります。ここは俺に任せてもらえますか?」
「……わかりました」
良かった、素直に受け入れてくれた。
「ちょっと待ってて下さいね」
「? はい?」
疑問一杯な顔をしたアリシアさんを横目に俺は少し道から外れて森の中に入って行く。
ん〜、これでいいかな?
森の中で手頃なモノを掴み取ってアリシアさんの元に戻って来た。
「………悠聖様……それは……」
アリシアさんがコメントに困っている。
まぁ、知らなければそうだよね。
《知ってたらこの場面ではふざけてるようにしか見えませんよ?》
俺が持って来たモノ。
それは『木の棒』だった。
「これは俺の世界では古くから伝わっている技法で道に迷った人が行ったとされるものです」
「悠聖様の世界ではそのような技がっ⁉︎」
アリシアさんの驚きを他所に俺は分かれ道の真ん中に歩いて行き棒を地面に立てる。
そして僅かに戻る道に倒れるようにして手を離した。
カランという音を立てて棒は倒れた。
エクストラスキル『棒倒し』!
《……………》
「……………」
静寂という音が聞こえる気がする。
「言い方は色々ありますが『ダウジング』と呼ばれる技法になりますね。では行きましょうか」
一説によると棒を倒す人が無意識に行きたい方向に倒しているとも言われているらしいが。
俺の場合はまさにエクストラスキルの名に恥じない威力を秘めている。
《勝手にスキル登録しないで下さい、何ですかエクストラスキルって。しかも思ってる事と言ってる名称がどうして違うんですか》
何となくそれっぽい名前の方が説得力あるかなぁと思って。
《やっぱり不本意でしたね》
そうして俺はマップを頼りに進み出した。
またしても同じ風景に出くわしたが、そこはエクストラスキルを使い気にせず進んで行く。
《……………》
ミクが不満そうだが、まぁ誤魔化す為だから大目に見てほしい所だね。
次の分かれ道に来た所で戦闘跡が消えた。
「これは⁉︎」
風景に変化があった所でアリシアさんも余裕が生まれた様だ。
「このまま別れた道を戻って行けば出れると思いますよ」
「はい!」
そこから俺達は少しペースを上げて引き返し始めたのだが…。
「あ!」
「ヴァ⁉︎」
「っ⁉︎大丈夫ですか⁉︎」
いくつかの分かれ道を戻った所でアリシアさんがよろけたのを咄嗟に受け止めた。
「すみません! 急ぎ過ぎましたね少し休みましょう」
「申し訳ありません」
アリシアさん表に出さないから分かりにくいけど相当疲れていたようだ。
正確な時間は分からないが、とうの昔に日は暮れている。
ずっと歩き続けた上に戦闘もしたりで半日以上活動しっぱなしだ。
ちょくちょく休憩していた最初の旅とは比べ物にならないだろう。
かく言う俺もステータスが上がってなければ確実に根を上げていたのは間違いない。
これは断言出来る。
「……おかしい、ですね」
「どうかしましたか?」
「来た道を戻っているならもう入り口に出てもいいはずなのですが」
アリシアさん⁉︎ まさかあの状況で道を覚えてんの?
マジか⁉︎ マップいらずの記憶力じゃん!
俺なんてマップがあるのに覚えて無いの……にぃぃっ⁉︎
そんな事を思いながらマップを見ると思わず声が出そうになった。
何で⁉︎……入り口をスルーしてる⁉︎
脇道なんて無いから分かれ道があったらエクストラスキルを使えばいいと思ってマップを見て無かった俺が悪いと言えばそうなんだが。
ミク! 気づいてたろ⁉︎ 教えてよ!
《申し訳ありません。説明に困ってしまったのでお伝え出来ませんでした》
どういう事?
《入り口に通じる道が消えていました》
はぁ⁉︎
《本来分かれ道だった場所が一本道の脇道同様の景色になっていました》
何だよそれ⁉︎
異世界だからってそんな事ありえるのか⁉︎
《迷いの森とはよく言ったものですね》
冷静に言ってくれるけどどうすんの⁉︎
マップがある俺には迷いの森なんて無意味だと思っていたが、一筋縄ではいかないようだった。
棒倒し…小さい時は自由気ままでしたね。
何回もやり過ぎて行きたい方向なんて完全無視でしたけどね。




