2.8Day 〜夢の中ってこんなんなの?〜
おえぇ〜、まだ気持ち悪ぅ〜。
今俺は懐かしの王都フリードの街の入口にいる。と言っても二週間も経っていないが。
後ろには侵入も脱出も許さんと言わんばかりに閉ざされた大門が存在している。
ただし、ここは現実ではなく歴としたアリシアさんの夢の中だそうだ。
『配達』発動後、俺は四方を囲まれた箱に入れられて縦横無尽にシェイクされているような感覚に陥った。
《マスター、申し訳ありません。少々やり過ぎました》
ミクに言わせると少々荒っぽい運び方をした。と言う事らしいのだが…。
あれで少々?
人の身であんなカクテルでも作るようなシェイクされたら死んじゃうよ?
俺よく無事だったな? 夢で痛みが無いからか?
でも気持ち悪さはあるんだな、初めて知ったよ……。
《次からは真心込めて配送しますので》
………ミクの匙加減次第って事ね。
このセリフ前にもあったような?
でもホント次からはエコノミーでお願いしますよ? 割れ物だったら今頃大惨事だよ? 弁償出来ないよ?
あ、そういえば…。
ミク発動する時に不穏なセリフが聞こえたんだけど?
《何かありましたか?》
発動する前に費用がどうとか言って無かった?
《配達するのに費用が掛かるのは当たり前だと思いますが?》
いや、間違って無いけどさ。
《それに今の所私がマスターに物理的な制裁を加える事は出来ませんので》
お仕置きの一貫⁉︎
それに今の所って何⁉︎ ゆくゆくは出来るように何の⁉︎
《費用が掛かるのは本当です。出来るようになるかはマスターの日頃の行い次第です。
ただマスターに何かあっては私も困るので出来てもしませんのでご安心下さい》
さっきの配達の仕方は物理的じゃないの?
《夢ですので》
夢の中では何してもいいとっ⁉︎ 安心出来る要素が全く無い!
ヘタしたらトラウマになるよ⁉︎
「だ……………て…………します」
ミク? 何か言った?
《いえ、私は何も……》
ん? ミクじゃないのか?
「……か……いて」
じゃあコレ誰?
《アリシアの夢の中なので本人だと思われます》
え? そうなの?
でも何を言ってるか聞こえないんだけど?
《本人に近づけば聞こえるようになるのでは無いでしょうか?》
そりゃ身銭切って来ちゃったからには行くけど…どこに行けば?
王女様と言えばやっぱり城か?
《外には出れなさそうですしね》
夢の中まで監獄なのね……じゃあ城を目指しますか。
歩き出してすぐに違和感を覚えた。
人いないな?
《夢ですからね》
にしてもこれじゃあゴーストタウンじゃん。
元の世界だと作り物だと分かってるから良かったけど、こっちだとマジモンが出そうでヤダなぁ。
《フラグってこう言う事を言うんですよね?》
……………………やっちまったか?
《今の所幽鬼的なモノは見当たりませんが》
一先ずセーフ!
《代わりに兵士の姿が見えます》
前言撤回! 審議を行います!
デュラハンか⁉︎ それとも彷徨う鎧か⁉︎
ミク! そいつはどこだ⁉︎
《真っ直ぐこちらに向かって来ます。間もなく視認出来ます》
あれか? 写真判定に入ります!
……首は……あるな、後者か? でも…兜がフルフェイスじゃないな?
人を襲う怨霊の類と決めつけたのは早合点だったか? それだと冤罪だよなぁ。
《………警戒するに越した事はないと思います》
でもココってアリシアさんの夢の中でしょ?
よく考えたらそんな物騒な奴らが徘徊してる夢を見てるなんて想像出来んよ?
どっちかと言えば街を守る為に巡回してる衛兵の方がしっくり来るんだけど?
《衛兵と言うのは間違って無いかもしれませんね》
でしょ?
じゃあちょっとアリシアさんの事でも聞いてみようか。
「すみませ〜ん! ちょっと聞きたい事があr」
…………ちょっとマテ。
《どうしました?》
今まで誰も居なかったのに急に出て来たよね?
《そうですね》
衛兵って街の警備とか君主の警護をするのが仕事だよね?
《そうですね》
ココってアリシアさんの夢の中で俺って招待されて無いよね?
《無断侵入ですね》
という事は、怪しいヤツに君主の事を喋る訳もないので………ああ、やっぱり。
《今のマスターは冴えてますね。名探偵みたいですよ》
褒められてる気がしない。
流れ的に結構な人がこの展開を予想出来たんじゃ無いかな?
前からやって来る兵士に向かって思った。
いやもう、ホントすみません。完全に冤罪でしたね。
そんな事を思っていると、抜剣した兵士がこちらに向かって走り出して来た。
コレ完全に不法侵入だよ! 有罪は俺の方だよ!
とにかく応戦……って⁉︎ 刀がねぇーっ⁉︎
ここに来て素手かよ⁉︎
《マスター、この際素手でいいのでとりあえず避けて下さいね》
よくねーっ! 相手刃物だぞ⁉︎
そんなやりとりをしていたら兵士が上段から大きく振りかぶって来る所だった。
やべっ‼︎
そう思い剣線から逃れるように横に飛んだ。
ザクっという兵士の剣が地面を斬りつける音を聞きながら違和感を覚える。
何か余裕で躱せたな?
それに何でこんな距離が空いてんだ?
兵士との距離は5メートルほど空いていた。
《レベルが上がってステータスが以前の倍になってますから》
……そう言えばそんな事を聞いたような?
ってことは恐るるに足らずって事か!
不法侵入したのは悪いと思うが、問答無用で斬りかかるのはいかんよ?
ちょっと静かにしてもらおうか。
話はその後にじっくり聞かせてもらう!
そう思い未だ地面から剣を抜こうとしている兵士に接近する。
顔は勘弁してやろう! 狙うはボディだ!
《あっ》
えっ?
ミクが声を上げたが俺の拳は止まる事は無かった。ガン!と言う鉄の音そして手に感じる感覚…。
「いってぇぇぇーーーっ⁉︎」
痛覚だった。
《……遅かったみたいですね》
何で⁉︎ 夢でしょコレ⁉︎ 物凄く痛い⁉︎
拳にビビ入ったか折れたぐらいのレベルなんですけど⁉︎
《夢は夢ですがマスターの夢ではありませんので、それに痛みはあっても折れたりして無いので安心して下さい》
何ソレ⁉︎ 安心していいの⁉︎
しかも痛いのに目が覚めないよ⁉︎
《問題はそこですね。痛みがあるのに目が覚めないと言う事はマスターが耐えられない痛みを感じた場合、身体に外傷は無くても精神的に死亡する可能性がありますので気をつけて下さい》
はいぃぃっ⁉︎
《痛みがあるだけなのでまずは兵士をなんとかして下さい》
っ⁉︎
ミクの言葉に先ほど殴った兵士を見ると何かぶつぶつと呟きながら起きあがろうとしている所だった。
何だ? 何を言ってるんだ?
「罪人は殺せ」
おいぃぃっ⁉︎ アリシアさんの夢の中でもそんなんなのかよ⁉︎ デジャブ感しかねぇよ!
…ミク、相手は夢の中だけの住人だよな?
《はい、マスターとアリシア以外はそうです》
なら手加減はいらないってことだな。
先手必勝! 兵士に向かって全力ダッシュ!
起き上がる前に足の裏で顔面を蹴り飛ばす。
そのまま近づき吹き飛んだ兵士の手から剣を奪って斬った。
「えっ⁉︎」
斬った兵士が細かい粒子に爆散し、霧状になった。
その直後、手に持っていた剣の感触が消えた。
手を見ると剣も同じように霧状になっている所だった。
これは?
《アリシアの中では剣と兵士はセットで一つという認識なのでしょう》
えぇぇ〜、ってことはずっと素手のまんまって事かよ。
手を動かすと痛いんですけど?
《それはもう我慢してもらうしか無いですね》
夢でもこの仕打ちって、異世界マジで優しくねぇ〜。
《慎重に進んで行きましょう》
▽▽▽▽▽
その後の俺はまさに風林火山!
《マスターまた来ましたよ》
疾きこと風の如く!
《建物の間に素早く隠れただけですね》
合ってるでしょ?
とか言ってると兵士の姿が目視出来た。
そのまま通り過ぎるのを待つ、まさに動かざること山の如し!
《全然どっしり構えてないですね》
ちょっとミク! 今大事なとこ!
兵士が通り過ぎたのを確認、徐かなること林の如く!
《抜き足差し足の間違いでは?》
静かだからいいの!
兵士の後ろに近づき、そして侵掠すること火の如く!
《要は不意打ちですね》
これぞ風林火山!
《マスター、カッコよく言ってもダメですよ?》
ミク…そう言うのは言わなきゃ分かんないんだよ?
《すみません、あまりにもギャップがあったもので》
出来る事なら俺もそうしたいよ!
でもこっち素手なの! 夢なのに痛覚あるの!
良い子は危ない事してはいけないの!
《わかりましたから落ち着いて下さい。城が見えて来ましたよ》
やっとか、ちょくちょく兵士が現れるから結構掛かったな。
城の中もやっぱ兵士いるんだろうなぁ。
《むしろ城の方が多いんじゃないですか?》
やっぱそうかなぁ?
せっかくここまで来たから行くしか無いよなぁ。
ま、無理そうだったら引き返せばいっか。
そう思い城門を潜る。
「お願い………!……助けて…………!」
え⁉︎ ミク⁉︎ どうした⁉︎
《マスター、今のは私ではありません》
ミクじゃない? じゃあ今のはアリシアさん⁉︎
何で⁉︎ どう言う事⁉︎
「アリシアさん! どこですか⁉︎」
「お願い! 届いて!」
会話が噛み合ってない⁉︎
《マスター、これは一方的な思念のようなモノです。こちらの声は届いていません》
ミク! どう言う事だよ⁉ ︎何でアリシアさんの夢の中でアリシアさんが助けを求めてんだよ⁉︎
《わかりません、やはり本人直接聞くしか無いようです》
アリシアさんがどこにいるかわかるか?
《申し訳ありませんがわかりません。現在踏破されている場所にはいないようです》
ってことはまだ行って無い場所に向かえばいいいわけか。
城の踏破率は50%。上の階が未踏破。
俺的イメージだと王族の寝室も上の階!
そう思い上を目指して駆ける。
《マスター階下に兵士が集まって来ている様です》
マジか⁉︎ 帰りどうすんだよ⁉︎
隠れてやり過ごせるか?
なら見つかる前に全部終わらせるしかないか!
そう思いさらにスピードを上げて駆けて行く。
踏破されればミクが察知出来るので扉を開けて行く必要は無い。
なのでどんどんマッピングが進んで行く。
この機能がこれ程頼もしいと思ったのは初めてだ。
そしてついに行き止まりを迎えた。
ミク! アリシアさんは⁉︎
《すみません、分かりません》
何でだ⁉︎ 城はもう全部回っただろ⁉︎
《いえ、現在の踏破率は95%です》
95⁉︎ 何だ⁉︎ 隠し部屋でもあるのか⁉︎
《そう言ったモノは無いようです。まだ行っていないのは階下の場所です》
下⁉︎ どこだよ⁉︎ 全部回ってるだろ⁉︎
召喚の間、医務室、謁見の間、書庫、牢屋……っ⁉︎
牢屋が無い⁉︎ 一回目の時だからか!
待て待て⁉︎ 何でだよ⁉︎ アリシアさんが牢屋にいるってことか⁉︎ ありえねぇだろ⁉︎
《ですがその可能性が一番高いと思われます》
……兵士共を突破するしか無いってことか。
《脱出しますか?》
行くに決まってんだろ?
意味は分からんがアリシアさんが牢屋で助けを求めてるんだぞ?
行く以外の選択肢があるかよ!
《動機が不純ですね》
可愛いは全てに置いて最優先なんだよ!
と意気込んで階下に向かったのは良かったんだが、決めたからといって辿り着けると確約された訳では無い。
それとこれとは話が別だ。
いや〜、これはちょっと辿り着けないかも。
階下は既に兵士で一杯だった。
一人二人なら問題無い、しかしこれは数が多すぎる。
俺は階下から迫って来る兵士達に徐々に追い詰められていた。
《マスター脱出しましょう》
でも! アリシアさんが!
後ろには壁、前には凶器を持った兵士達。
考える時間も与えてくれない様だ。
数人の兵士達が斬り掛かって来た。
先頭の兵士が上段から振りかぶって来るのを横に避けるが、次の兵士が横に水平に斬り掛かって来た。
おわっ⁉︎
身を屈めて回避する。
いってぇっ⁉︎
三人目の兵士の斬撃が俺の肩を捉えた。
実際に斬られた跡は残っていないが、肩に痛みを感じる。
でも! 一番最初に斬られた時よりはマシか!
現実だったら傷が開いて動く所では無かっただろうが、幸い傷が深くなることは無い。
痛みを無視して斬りつけた兵士を蹴り飛ばす。
ステータスが倍に成長してるだけあって後ろの兵士を巻き込んで倒れて行く。
「がはっ⁉︎」
盾持ちの兵士が横から体当たりして来て今度は俺が飛ばされた。
くっそ! 何てハンパにリアルな衝撃だよ!
痛みに合わせて息の詰まる感覚に動くのが遅れた。
やっべぇ囲まれた。
既に回避するスペースも無い状況になってしまった。
囲みから兵士が一人進み出て来て剣を振り上げた。
《マスターすみません。これ以上は無理です。『緊急配達』を発動します》
へっ?
聞こえたと同時に俺はここに来た時と同じ感覚に陥った。
うぇっ⁉︎ またこれかよ⁉︎
俺は縦横無尽にシェイクされながら、頭に響くミクの声を聞いた。
《すみません命には変えられませんので、それと緊急配達の費用はマスターの所持している金額全てが代償になります》
ナンデストぉぉぉぉぉーーーっ⁉︎
次は短い予定なので本日中にアップ予定出来ると思います。




