天使はここにいた
マロメの村に出発する日の早朝。
俺は宿の井戸で水を汲んで水面を眺めていた。
「…良かった、消えてる」
昨日の晩の時点で『トレン果マーク(勝手に命名)』が消えなかったことで焦った俺はこうして早朝から顔を確認しに来たというわけだ。
何故鏡じゃ無いのかと言うと、鏡って結構貴重らしく、ここら辺で持ってるのは女将さんの手鏡だけらしい。
流石に早朝から借りに行くのは悪いので、こうして水で代用している訳だ。
マジで良かった。もう一生アリシアさんと顔を合わせられないかと思った。
《普通に顔合わせてたじゃないですか》
ミクが何か言ってるけど今の俺はそんな事気にしない。
さぁ!アリシアさん!アナタの悠生が返って来ましたよ!
そんな事を思いながら花園への扉を開ける。
「戻られたのですね」
「はい、消えてるかどうか心配だったんで」
アリシアさん寝起きも良くいつも通りですね。
そろそろ何かのパラメータが上がってもいいんですよ?
そんな事を思っているとアリシアさんが身支度を始めてしまった。
と言ってもバックとローブだけなんだけどね。
俺も刀とローブを身につけてアリシアさんと共に食堂に向かう。
「あっ、おはようございます!ユーセーさん昨日はすみませんでした!」
「気にしないでいいよ、それより昨日はありがとう」
食堂に降りて早々にシャロが謝って来た。
シャロが何かした訳ではない。
むしろして貰った、と言った方が正しいだろう。
俺は昨日トレン果マークのお陰で部屋から一歩も出なかった。
そんな俺をシャロが気を利かせて部屋まで食事を運んでくれたのだ。
なんて良い子なんだ!
最初に持って来てくれた時は笑われたのだが、シャロと親睦を深める事が出来たので、終わり良ければすべて良しだ。
それにこのまま親密度を上げて行けばいつかモフらせてくれるに違いない!
「っ⁉︎」
急にシャロが挙動不審になったな?
「どうした?」
「少し寒気がしたんですけど、…多分気のせいです気にしないで下さい」
そう言うと足早に厨房に引っ込んでしまった。
う〜ん、モフるにはまだまだ数値が足りないようだ。
日々精進あるのみだな。
「アンタら荷物はそれだけかい?部屋に置いてる物があれば宿で預かるよ?」
女将さん登場。
そう言う女将さんも軽装だ。
まぁ、盗賊だし長旅でも無いからそんなモンなのかな?
「荷物はこれだけですね」
「ふ〜ん、ってことはそっちの子が持ってるのはマジックバックかい?」
流石盗賊!お目が高い!
『狙った獲物は逃がさない』というやつか?
……違うな、ありゃ泥棒か。
「そうですね」
「流石国の関係者は懐事情が違うねぇ」
「あ、やっぱマジックバックって高いんですか?」
出来れば俺も所持したいので、聞いておいて損は無い。
「その子の持ってるやつだと大金貨1000枚ってとこじゃないかい?」
大金貨?…一番高い通貨じゃなかったか?
1枚十万で、十、百、千、億⁉︎
マジっ⁉︎日本円換算で約1億ですかっ⁉︎
流石王族、一つの価値がとんでもないぜ。
これは自分で所持するのは難しいかもしれない。
でも旅をするには不可欠だよなぁ。
「おや?皆さんもう準備が出来ているようですね」
商人さん登場。
「はい、こっちはいつでも大丈夫です」
「では馬車を移動させて来ますので暫くお待ち下さい」
「ありがとうございます」
商人さんが馬車を取りに行っているのを待っていると厨房に引っ込んでいたシャロが何か持って出て来た。
「皆さんコレをどうぞ。気をつけて下さいね」
「これは?」
「お弁当です。全員分ありますからお腹がすいたら食べて下さいね」
「マジ⁉︎ありがとシャロ!」
なんて気が利く子だ!素晴らしい!
俺は今猛烈に感動している!
思えばこの世界に来てここまでしてくれたのはシャロが初めてではなかろうか?
よし!シャロにはSMAの称号を上げよう!
「っ⁉︎」
あれ?シャロがまた挙動不審になったな?
「どうした?」
「また寒気がしたんですけど、…多分気のせいです気にしないで下さい」
う〜ん、どうやらお気に召さなかったようだ。
残念だがお蔵入りだな。
「シャロ留守の間任せたよ」
「はい!」
ん?そう言えば宿の店員って女将さんとシャロしか見てないな?
「宿って女将さんとシャロ以外に誰かいるんですか?」
「いや二人だけだよ?」
「え⁉︎一人で全部するの大変じゃないですか⁉︎」
「ああ、その心配はないよ。滅多に泊まりの客なんて来ないしね。それに小さい村だから全員が顔見知りだ。事情は知ってるからシャロが困ってたら手伝ってくれるよ」
そうなんだ。なら安心だな。
とんでもないブラック企業かと思ってしまった。
そんなやり取りをしていたら宿の入り口で馬の鳴き声が聞こえて来た。
どうやら商人さんが馬車を移動させて来たみたいだ。
「じゃあ、行ってくるよ」
「はい!皆さんお気をつけて」
シャロに別れを告げて宿を出る。
「すみません。今日は宜しくお願いします」
「いえいえ、こちらこそ宜しくお願いします」
そう言って馬車に乗せてもらい街道村を出発した。
ミク『護身用具』お願い。
《スキル『護身用具』を発動します》
今回は移動だし同行者を無駄に危険に晒すわけにはいかないからね。
「マロメの村までの間に魔物は多いんですか?」
「ん〜、夕方頃には着く距離だから余りいないねぇ、出て来てもそこまで危ないヤツには会ったことはないねぇ」
それなら無事に辿り着けそうだな。




