駆け引き
沈黙が2人の間に流れる。
相手との距離はおよそ7メートル、この程度の距離はお互い無いに等しい……と言っても相手との力量差は歴然。
向こうが動かずにいてくれるならそれに越した事は無い。
ただいつまでこの状況が持つのかは不明。
……覚悟を決める。
失敗した時はもうどうしようもない。
「ねぇ、何で攻めて来ないの?」
唯一の方法、それは会話だ。
真面目にやればおそらく1秒も持たない。
相手が反応すればそれだけで儲け物。
しかし最も可能性の高い方法。
「答える義務は無い」
失敗した⁉︎
緊張が一気に膨らむ。
「…………が、付き合ってやろう」
ほんの僅かな間でしかなかったが一気に疲労が押し寄せて来た。
心臓に悪い…。
「追い討ちをかけてもいいのだが、久々に我を退けた相手だ。
それではつまらんだろう」
「そんな理由? 今ので死んだとかは思って無いんだ?」
「加減は間違えたがそれはなかろう。
吹き飛ばされたとは言え我の手を防いでいたからな。
お前も死んだと思っている相手の為にここに留まったりはせんだろう?」
「…………お見通し…ってわけね。
ついでにもう一つ、アンタこの間のオークキングだよねぇ? その姿は何?」
「質問が二つに増えているが、まぁよかろう。
会うのは二度目だな、誇っていいぞ人間で我に二度も出会ったんだからな」
この間の奴で間違いは無いらしい。
見た目がだいぶ違うからまだ別にいる可能性も否定出来なかったが、こんなのが2人もいたらたまったもんじゃない。
「この姿だが……我も知らぬ」
「知らない?」
「意図したわけでは無いからな。
我を謀ったオーク共を蹴散らした後にこうなった。
力が上がったので進化では無いか?
この姿は……おそらく我を退けたあやつを意識したから…、という事にしておこう」
不可思議な事もあるもんだ。
ただ良い出来事では無い。
「そのせいで加減がまだよく分かっていない。
こんな風にな…」
拳を作った手を前に突き出した。
その後、奴の親指がブレた。
「っ⁉︎」
ボゴォッ!
後ろの方で岩に何かが当たったような音、そして頬を何かが掠め温かい物が流れ落ちる感触。
「まぁこの辺りが妥当か…」
背後の岩を一瞬盗み見る。
何かがめり込んだような跡があった。
コイツ何をしたの⁉︎
手には何も持っていなかった…となると魔法⁉︎
でもそれだと速過ぎる!
それにそれだとさっきの動きは⁉︎
単純にそういう魔法だ、と言われればそれまでだがそうでない場合は……。
「今、のは……」
「別に何も、ただ空気を弾いただけだ」
っ最悪! やっぱり指弾!
何か物を弾いたり魔力を使ったならまだ分かる、でも空気を弾いただけなんて……想像以上の化物だ!
「答えてやったんだ次はお前が我に付き合う番だ」
「……何?」
正直ワタシがコイツに答えてやれる事は無い。
それに力加減がどうとか言ってる時点でおそらくもう会話は終わり。
「大した事では無い、時間稼ぎがしたいのは分かっている。
だからその間我を止めてみろ、加減はしてやるが死に物狂いでやらぬとあっさり終わるぞ」
「っ⁉︎」
先程と同じように手を正面に突き出して親指を弾いて来た。
親指の照準は顔の正面!
今度は反対の頬を掠めた。
きっついなぁ〜、初見なら確実に当たってた。
1度見たのと軌道が分かったから反応できたけど割に合わなさすぎる!
こうなるのは避けられなかったかぁ……まぁでも少しは引き延ばせたって事でいいかなぁ?
「流石に避けるか……では次はどうかな?」
「っ!」
連射!
やっぱりそうくる!
守の型、『忍冬』!
キッ! キキィッ! キィン!
うぇっ⁉︎ 速い上に重い!
一発弾くだけで手が痺れる!
全部弾くのは無理だ!
直撃は迎撃! それ以外は迎撃した姿勢がそのまま躱す動きに!
そこから迎撃姿勢になるようにひたすら動く!
でもコレ…っ! 動けない!
その場に釘付けにされてる!
それでも直撃だけは絶対に避けなきゃ!
100は軽く超えたであろう所で連射が止まった。
「ふぅーっ! こほっ! こほっ! はぁ…はぁ…」
盛大に息を吐いた後にむせる。
時間にして数秒、息をするヒマも無かった!
「ふむ……器用だな小娘」
「どっ、ちが…器用…はぁ…はぁ、なんっだか…」
殺気があるならまだしも空気を弾いただけの、しかも無色透明であんな量! 反則過ぎる!
それに向こうは一歩も動いて無い、ホントに次元が違う!
「いくつかこちらを見ずに躱したり弾いたりしていたな……感知系か?……いや魔力は感じ無かったな……それ以外……範囲は広く無さそうだな」
……鋭い、魔力じゃないのは合ってるし限定的なのも合ってる。
守の型、『忍冬』。
自分の周りに剣気による結界を張る事で間合いに入った物に反応する事が出来る。
最大でも刀で届く範囲までが限界だけど…。
一対多や速すぎる相手に使うのが基本の受けに特化した技術……だけど、全力で防御に徹しても防ぎ切れなかった!
それにもう手の感覚が殆ど残って無い……次は防ぎ切れない!
刀を持つ手が震えて刀がカタカタと音をたてる。
力が入らないのか恐怖で震えてるのかすら分からない。
「その状態でよく凌いだものだ。
小娘、お前は我が出会った人間の中ではアヤツの次に強いぞ。
……もう少しいけるか?」
来る!
パンッ!
「かはっ⁉︎」
一度だけ乾いた音が周囲に響いた。
大槌で腹部を殴られたような衝撃に息を吐き出した。
「…あっ、…か……っ!…」
い、息、が…でき、ない!
「この辺りが限界か…」
パパパンッ!
「っ⁉︎」
息が出来なくて声も出ないまま全身に衝撃が走り吹き飛ばされた。
「ごほっ!」
地面に仰向けに倒れて咳き込む。
咳と同時に暖かい物が口から溢れた。
予備動作が見えなかった上にさっきの倍は速い!
来るのが分かっても反応しきれなかった。
しかもコレ内側やっちゃったかなぁ…。
体動かないし息もしづらい…、と言うより感覚が無い。
マズイなぁ、コレ…にぃさんでも勝てないでしょ。
……にぃさんの全力は前回戦ってた時に見た。
それと比べてもコイツの強さは異常だ。
まさか一歩も動かずに負けるなんて思わなかった。
今からでも遅く無いから逃げてって言いたいけどそれを伝える術は無い。
だから来ちゃうんだろうなぁ…。
「スズっ!!」
ほらやっぱり…。
「来たか」
にぃさん来ちゃったらもう逃げられないよ。
コイツが待ってるのはにぃさんなんだから…。
…でも…逃げれるなら…に…げ………て……。




