静かな炎
キングが2体出たって聞いて来たけど……想像してたのと違うなぁ。
コイツはアレよりは強くない。
何より見た目………一言で言うと肥満体型。
力押しの感じがするなぁ。
この前は何にも出来なかったから再戦だと思って身構えてたんだけどなぁ。
コレなら倒すのは無理でも十分時間は稼げる。
その間ににぃさんがあっちを仕留めてくれればなんとかなりそう。
っと。
ドゴォン!
キングの拳が地面を穿つ。
とは言っても一発でも受ければそこで終了。
綱渡りな状況ではあるけどねぇ。
もうちょっとこっちの攻撃が効いてくれればやりようがあるんだけどなぁ。
コレ……さっきから効いてないよねぇ?
「スズさん退がって下さい!」
「ほえ?」
予想外の声にちょっと間抜けな声が漏れ、身体だけが反応してキングから距離をとった。
「雷爪槍っ!」
退避した直後、ワタシがさっきまでいた場所を光の筋が通過してキングに向かって走った。
「ぐっ⁉︎」
その後キングが左肩を押さえて片膝をついた。
キングが手で押える直前に見えた。
キングの左肩の部分が抉り取られていた。
ええぇっ⁉︎
突然の事に呆気に取られながらも後退し、キングに傷を与えた人物を見る……。
「……姫さん? どしたのその格好?」
見た瞬間、傷を与えた事よりもその見た目の方が優った。
「私の奥の手です」
姫さんはバチバチという音を全身から鳴らしながらこともなげに言った。
見た目の説明を求めたつもりだったがこの際深くは考えないようにした。
確かに奥の手と言うだけの事はある。
ただ今まで使わなかったという事は消耗が激しいんだろう。
一撃でキングの肩を貫いたのだから……、ただそれ以外に気になる事もあった。
「ん〜、何で狙いが肩だったの?」
「そ、それは……お恥ずかしながらまだ上手く制御出来なくて、その、狙いが定まらないんです」
「ええ⁉︎………姫さん……。
それワタシに当たったらどうすんの?」
「あ、いえ…その…スズさんなら言えば射線から外れてくれると思いましたので、つい……申し訳ありません!」
つい、で亡き者にされたらたまらないんだけど…。
姫さん、可愛い顔して恐ろしい子…。
ん〜でも、ワタシに足りない火力を補ってくれそうだねぇ。
狙いがって言ってるから至近距離で撃つ必要があるわけでぇ…。
「ちなみにさっきのを近づいてドンッ!みたいな事は出来そう?」
「難しい…ですね、溜めが必要なのと身体能力は上がっていますが私自身にそういった経験がないので。
それに先程の威力のモノとなると後3……いえ2回が限度ですね」
ん〜……使い所が甘いと言わざるを得ない。
せっかくの威力も当たらなければ意味が無い。
さっきので多分向こうは姫さんを相当警戒してくる。
警戒していれば致命傷は避ける事は出来る。
それどころか撃たれる前に潰しに来る。
さっき言ったみたいに近づいて撃てるなら問題無かっただろうけど、姫さん個人にそれは難しいとなると知られてない時が最大の狙い目だった。
まぁ見た目がコレだから多少警戒はされたかもしれないけど。
バチバチ音を鳴らして耳と尻尾を生やしてる姫さんの姿を見て思う。
青いなぁ………でも人の事は言えないか、ワタシもアイツ相手にただ斬りかかった挙げ句何も出来なかったしねぇ。
まぁとにかく思いがけず切り札が出来た。
……目の前のコイツもキング、やられたまんまってのはねぇ。
手負い相手に足止めも出来ないようじゃアレには到底及ばない。
コイツで試してみようかぁ。
「相手が手負いになった今ならワタシが隙を作る、姫さんは合図したら迷わず撃って」
「分かりました」
未だに片膝をついたまま動こうとしないキングに向かってゆっくりと歩を進める。
よっぽどさっきの姫さんのやつを警戒してるみたいだねぇ。
まぁおかげで楽に姫さんとアイツの距離をとれたから結果良し。
「お、おのれぇぇ!!」
キングが激昂して立ち上がって向かって来る。
速い! でも速過ぎるほどじゃない。
拳を突き刺してくるのを懐奥に踏み込む事で躱し通り抜けに右足首を斬りつける。
何度か繰り返すも結果はさっきまでと一緒で擦り傷程度にしかならなかった。
ワタシが斬りつけた足を軸に左足で踏みつけを放ってくる。
ダメだ、やっぱりこの程度じゃ動きを止める事すら出来そうにないねぇ……。
そして幾度目かの踏みつけ。
ドォンッ!
三の太刀、『明月・円』。
ズバッ!
「ぬっ⁉︎」
三の太刀、明月は身体全体を使った回転による斬撃、その派生技。
柱が縦の円状の個に対する斬撃、今の円は横の円状で周囲に対する斬撃。
ただ今回は個に対して放ってるので一点に集中した。
その甲斐あって辛うじて通った。
擦り傷から斬り傷ぐらいにはなった。
ただ相手がデカ過ぎて大したダメージは無い。
その証拠にキングが即座に拳を叩きつけてきた。
ゴォッ!
四の太刀、『顎・龍』。
ズ、バッ!
「ぐっ⁉︎」
二の太刀、玄鳥が開く斬撃に対して四の太刀、顎は閉じる斬撃、その派生技。
咬が左右から2連撃ずつ放つ挟む斬撃に対して龍は上下から2連撃ずつ放つ斬撃。
それで地面を殴った手首を斬りつけた。
今回は威力重視、全体重を乗せた上段斬り下ろしから同じ箇所へ下段からの斬り上げの斬撃を一発ずつ。
通った、けど…これでも切断まではいけないか。
斬りつけた方の手で拳を繰り出してきた。
それを紙一重で避ける。
ゴォッ!
一の太刀、『瞬閃』。
顎でつけた斬り口に追加で斬撃を放つ。
ズバッ!
「ぎっ⁉︎ き、きさまぁ!」
致命傷には遠いけどこれでやっとこっちに注意が向いた。
「スズさん⁉︎ 大丈夫ですかっ⁉︎」
姫さんが叫んで来たけど大丈夫という視線だけを送る。
姫さんには言い忘れてたけど避ける事を考えてちゃ難しいんだよねぇ。
だからちょぉっと無理してみようかぁ。
▽▽▽▽▽
「雇用の延長…ですか?」
お父様達が救出されて少しした頃、ザック騎士団長からそんな相談を受けた。
「ええ、元々スズの嬢ちゃんは俺が独断で雇った傭兵です。
状況が状況なのでもうしばらく雇っていた方が何かあった時に助かりますから許可を頂ければと思いまして」
「備えはあって然るべきですからね。
ザック騎士団長が推すのであれば異論はありませんよ」
「助かります、あの腕前の奴は探しても見つかるもんじゃないんで」
「そんなに凄いんですか?」
「凄いなんてもんじゃないですよ。
もし俺が嬢ちゃんと戦えば勝てませんね、これは断言できます」
「ザック騎士団長よりですか⁉︎」
ザック騎士団長は王国最強の戦士だ。
その彼に自分より強いと断言させるなんて……。
「まぁそうですね。
単純な力比べなら負けないでしょうが戦闘となると話が違う。
俺の攻撃は嬢ちゃんに当たらないでしょう。
いくら力があっても当てなきゃ話になりませんから、仮に当たったとしても応じてくれないでしょうけどね」
「そこまでですか」
「この辺りで対人であの嬢ちゃんに勝てる奴はいないでしょうね」
流石にそれは言い過ぎなのでは?と思わなくもない。
魔法だったら威力が凄いとかで分かりやすいのだが、直接の戦闘に関しては素人に等しい自分には何となく凄いんだろうぐらいにしかその時は思っていなかった。
結局その後スズさんはすぐに冒険者になってしまったので雇う事は出来なくなってしまった。
冒険者を雇うにはギルド経由で依頼をする必要がある。
そして低ランクの冒険者には護衛や直接の依頼は出来ない。
理由は単純、ギルド側としては実績の少ない者にそういった仕事を安心して任せられない。
それは相手側も同様で信用出来ない者が派遣されても困るからだ。
そういう理由で断念せざるをえなかったわけだが…。
今目の前で起こっている事を見てザック騎士団長が言っていた事が誇張でもなんでも無いと思い知った。
オークキングを相手に1人で相手が出来るなんて……。
確かにいかに天災級と言えど当たらなければいい。
そう言われればそうなのだがキングの動きは決して遅く無い。
加えてあの体格、攻撃範囲も広い。
それを躱し続けている時点で既に驚異的なのにましてや反撃出来ているなんて信じ難かった。
……喚装状態でこれなのですから解いたらスズさんの動きは見えませんね。
喚装によって身体能力以外に動体視力も向上している。
おかげでなんとかギリギリ目で追えている。
それほどにスズさんの動きは速かった。
そしてザック騎士団長が言っていた対人で勝てる者はいないと言う意味も理解出来た。
相手の攻撃は当たらず一方的に攻撃出来るなら確かに勝てる者はいない。
今の現状がまさにそうだ。
しかし、人で無いモノにはそれは当てはまらなかった。
人は強固では無い、だから身を守る手段が存在する。
武器を用いて防いだり強力な防具で身を固めたりするのがいい例だ。
生身でそれを備えている相手には相性が悪い。
現にスズさんの反撃はキングに傷を負わせる事が出来ていない。
「ぬっ⁉︎」
そう思った矢先、キングから苦悶の声が漏れた。
え? 効いた?
ゴォッ!
「ぐっ⁉︎」
また⁉︎
どうして急に⁉︎
スズさんは今まで同様に攻撃を躱して反撃しているように見えるだけなのに⁉︎
……え?
今まで背中越しだから分からなかったがスズさんの横顔……頬の辺りから赤いモノが?………っ⁉︎
頬だけじゃない!
よく見ると服も所々裂けてる⁉︎
ゴォッ!
スズさんがキングの拳をギリギリで躱して反撃をしたけど……今のはっ⁉︎
「ぎっ⁉︎ き、きさまぁ!」
「スズさん⁉︎ 大丈夫ですかっ⁉︎」
スズさんはキングが地面を抉った際に飛び散った地や石の礫を受けながら反撃を行っていた。
さっきのでさらにスズさんに裂傷の痕が増えた。
直撃を避ければ大丈夫なのかもしれないが無茶過ぎる!
飛び散った礫は小さいモノだけじゃない!
合図を待たず自分も参加した方がいいのかと思って声を上げたけどスズさんと視線が合う。
慌てるでもなく、とても静かな、当然の事だと言わんばかりの視線だった。
………落ち着け私。
いくらスズさんが凄くてもやっぱり相手は天災級。
無傷で終わらす方が無理がある。
それにいくら喚装で能力が上がったと言ってもあの中に飛び込んでいける自信は無い。
むしろスズさんの邪魔になる。
私に求められてるのは砲台としての一撃。
スズさんが隙を作ってくれるのを信じてその時を待つんだ。




