第6話◆狐の神様
御札が破れ、魔法陣が展開される。
その魔法陣から現れたのは狐の耳と尻尾をした子供だったのだ。
和也はそんな狐神のことを笑い⋯⋯
「ほぅ⋯⋯其方が妾の封印を解いたのじゃな?」
耳と尻尾を持つ人外は俺に歩みより、嘲笑うかのような表情で話しかける。
俺はそんな彼女に見惚れるような目で凝視してしまっていた。
「其方の言動⋯しかと見せてもらったぞ?」
尻尾がある人外は御札を剥がした時から俺の言動を見ていたと言っている⋯⋯それが何を意味するかはわからないが。
「人間にしては見事な思考よ、賞してやるのじゃ!光栄に思うのじゃ、人間よ!」
人間を見下すような言葉を発する人外だったが⋯⋯俺に子供を見るような目で見られていることに気がつかない。
それにしても上から目線だな、こいつ⋯⋯
あの奇妙な御札から光り、ヘンテコな魔法陣からもの凄い妖怪か幽霊でも出てくると思えば、尻尾と耳を生やしたただの女の子かよ。
「どうしたのじゃ?人間よ、妾がそんなに恐ろしいか?それはそうじゃろう!何を隠そう妾は────」
「⋯⋯君って妖怪?」
俺は狐神の発言に食い気味で質問をすると、彼女は『妖怪』と同じにされた事に納得がいかないのか、機嫌を悪くしてしまう。
「あのような妖と一緒にするでない!この小童が!」
こわっぱ⋯⋯? それって年上が子供に対して使う言葉だったはずだが⋯⋯。
「小童って大人が子供に対して使う言葉だろ?見る限りお前より俺の方が年上だぞ?」
人外の容姿は限りなく子供に近い、小学生と間違われても仕方がないレベルだろこれ、耳と尻尾さえ生えて無ければ⋯⋯だけど。
「な、なな!!妾は童などではないわ!少なからずとも其方よりは何百倍と生きておる!───バカにするでない!」
「人間のような寿命が短い半端な種族などではない!」
「それと妾は『あやかし』ではないぞ!こー見えても神様なのじゃ!どうじゃ!凄いじゃろ!」
ムキになってぺちゃくちゃ喋ってくれたおかげでだいたいどういうやつかは分かるが⋯⋯
本当に色々喋る子供だなぁ、神様って存在するのか?迷信だと思うんだけど⋯⋯。
いや、妖怪らしきものが出てきた時点で神様もいる確率は高いか。
じゃあ本当に神様なのか?コイツは。
「其方、まるで妾のことを信用してはおらぬようじゃな。ならばよかろう、妾に葬られること⋯⋯光栄に思うのじゃ!」
狐神は手を大きく開き、俺に向けている。
その掌からは眩い赤い光を放つと共に俺を襲う────はずだった。
───身構えていた俺は体勢を戻し、警戒を解く。
「⋯⋯あれ?ほんのりと暖かいな。」
ほのかな炎が俺の寒く凍える部屋の温度を上げていく。
⋯⋯便利〜、コイツが居たら冬はラクチンだな。
「なんじゃと!?なぜ術を出せない!?」
焦りと困惑を見せて慌てる狐神だったが、俺はそれを暖かい目で見つめていた。
────まずい、体を作り出すのに妖力を全て使い果たしてしもうたやもしれぬ⋯⋯
原因を知った狐神は何かを呟き俺の方をゆっくりと見る、その様子をずっと見ていたため俺は笑いかけた。
「ホ、ホントじゃぞ!!妾にかかれば其方を葬るなぞ造作もない!」
焦りを見せているせいで俺はまるで怯える気配を見せない⋯⋯狐神はどうしようかと頭の中で思考を巡らせているようだ。
「────やっぱりただの妖怪じゃん」
そんな狐神を見てかわいいと思ってしまう自分がいた──そこで俺は更に怒らせ焦らせるために狐神を煽り始める。
「むぅ⋯本当じゃ、妾はあやかしではないと言っておるじゃろうて⋯」
予想外にも怒り慌てるどころかしょげて泣きそうになっていた。
コイツが神様かどうかは半信半疑だが⋯⋯まぁ信じるに値しそうだ。
「確かに君が普通じゃないことはわかった、さっき掌から炎がでてきたしな、本来ならもっと威力のある攻撃だったんだろ?」
狐神を少しだけフォローして、機嫌を少しでも上げよう。
俺だってこんな小さい子を泣かせたくはない、妖怪だったとしたら⋯⋯何かわかるかもしれない。
「そうじゃ!妾にかかれば其方を葬るなぞ容易いのじゃ!」
「じゃが先程、実体を作るのに妖力を全て失ってしまってのぅ⋯⋯今は術どころか妾の本来の姿になるのもままならん。」
────べらべらと喋ってくれるな、コイツはやはり神様ではなく馬鹿⋯⋯だけど頑張れば打ち解けられるかもしれない下手に殺されるよりは打ち解けた方がいい。
「じゃあその妖力⋯⋯とやらはどうやったら回復するんだ?」
妖力というのはあまり聞いたことがない、魔力ならRPGゲームなどで自然に回復していくというのは知っているが⋯⋯そもそも妖力と魔力の違いってなんだ?
「妾はこう見えても偽りのない神様なのじゃ⋯⋯そうじゃのう、あちらの世界に戻るが1番手っ取り早いのじゃが⋯⋯」
───アチラの世界?ということは、こことは違う別の世界があるのか?
じゃあこいつはなぜこの世界にいるんだ?
数多な疑問が頭を駆け巡る中、俺はそれよりもコイツと打ち解けるのが先と考え、その疑問は心の底に閉まっておくことにした。
⋯⋯まぁいい、話を聞いた後にたっぷり質問してやろう。
「⋯⋯もうひとつあったのう、お供え物というものさえあればある程度は回復するはずじゃ。」
う〜ん⋯⋯それになりえるものが家にあるかどうかだな、少し探ってみるか。
「お供え物っていうのは、神様や故人に贈るもののやつか?」
「先程も言うたじゃろう?妾は神じゃ、お供え物でも十分に妖力を回復できるはずじゃ」
────本当に神様なのかよ、正直疑り深いがこの感じだと嘘をついている感じはなさそうだな。
お供え物か⋯⋯何かあるか?
俺はお供え物の内容を考えていたが、その沈黙を破るように狐神の方で何かの音がなった──
────まさかとは思うが⋯⋯腹音だ。
「⋯⋯お前、腹減ってるのか?」
そんな何も悪気のない質問をしたのだが、狐神は何故かと頬を赤らめ大きな声で俺に命令する。
「だ、黙れ!───おい人間!今すぐ妾に食べ物を寄越すのじゃ!さもなくばこの世から葬り去ってやるぞ?」
恥ずかしさの上か、自分が力を出せない事を忘れている様子だったがそれを聞いて笑い、台所へと歩き出す。
「面白い奴だな、この家にろくなものは無いが食べるものぐらいならある、ついてきな。」
「よかろう!この世の食べ物も1度食して見たかったのじゃ!いい機会じゃのう!」
先程の機嫌の悪さはどこへ行ったのか、急に笑顔になり付いてくる⋯⋯本当に調子の良い奴だ。
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リビングへと到着し、俺はキッチンへ向かおうとした。
「ここに座って待っていてくれ、少し食べ物を探してくるから。」
俺はそういい、俺は子供用の椅子をテーブルの前に置くがそれを見た狐神が馬鹿にされたと勘違いし怒り出す。
「なんじゃお主!まだ妾のことを子供扱いしおるのか!けしからんやつじゃのう!そこに名折れ!」
俺はそんな彼女の命令を流すように返事をしてまともに相手はしようとしない。
神と言えど所詮は力を失ってる、そんな事に相手をしてたらキリがない。
「はいはい、ちょっと待っててね〜」
適当な返事をして、怒り心頭な狐神を尻目に冷蔵庫の中を模索する俺だが⋯⋯特にはねぇな。
「とびきり美味な物を出すのじゃ、神への贈り物は相応のものじゃなければならぬからの。」
そんな見栄を張ってる狐神を小耳で流しながらも、俺はとあるものが目に入った。
───そう、売店で買った稲荷寿司。
⋯⋯アイツ、見る限り狐⋯だよな?犬でも猫の耳の形ではないとは思うが。
そういえば狐の神様は『稲荷寿司』と『油揚げ』には弱いとネットで読んだことがあるな。
物は試し、腹を空かせてるようだし先にこれを食わせてやるか。
「────おまたせ〜こんな物しかないけど、食べてみろよ」
そういい『子供用の椅子』に座っている狐神に稲荷寿司を差し出す。
狐と思わしき少女はなんだこれという目をしながら、手に取り口の中に入れる。
「なんじゃこれは?妾のような上等な種族の舌はかなり肥えてお────」
そんなを事を吐きながらも、狐娘が稲荷寿司を口に入れた瞬間──彼女の目には光が差し込む。
⋯⋯そんなに美味しかったのか?
俺はバクバクとがっつきながら稲荷寿司を食べていく狐神を妹を見るような目で見つめ、ちょっとした言葉を口にした。
「どうだ?上等な種族様の期待には応えられたか?」
俺はそこで少し意地悪な発言をして見栄を張らせようと、彼女を少しからかってみることにした。
「ま⋯まぁまぁじゃのう、だが美味なものに変わりはないのじゃ、お主よ!気に入ったぞ!」
狐娘は見栄を張りながらも稲荷寿司の事は美味と答え、俺の気を晴らして安心させてくれた。
そして間髪入れずに狐娘は俺に対して衝撃な発言をしてきた──
────お主!妾の眷属にしてやろう!
第6話、読んでいただき誠にありがとうございます!
ついにメインヒロインが登場して本格的にストーリーが展開されてきました!
そこで狐神が最後に発言した単語
眷属とは要するに神の使者ですね。
それほど美味しかったのでしょう、飛び級レベルですね。
次回は和也と狐神の和解をえがく⋯⋯かもしれないです!